平成十六年六月十日提出
提出者
高橋千鶴子 山口富男
衆議院議長 河野洋平殿
少子化社会の進行が、我が国の国民生活の貧困さを背景に進んでいる。産みたくても産めない社会を真に克服することが急務の課題である。欧州各国では、女性の就業率が高く、男女平等が整っている国ほど、女性の出生率が高いとの傾向が指摘されているところである。子育てへの国の財政的負担も日本と比べて格段の高い水準となっている。すべての子どもに、全面発達を保障し、男女が生きいきと仕事と育児の両立ができる社会の実現のために政府はあらゆるとりくみを進めるべきである。とりわけ、小泉首相自身が、強調してきた保育所待機児童の解消と学童保育の充実は緊急課題であると考える。以下、具体的に保育や学童保育について質問する。
一、保育所の待機児童をなくす問題について
1、 小泉内閣のもと、「仕事と子育ての両立」をうたって二〇〇二(平成)十四年度より三ヶ年計画で待機児童ゼロ作戦として、毎年、五万人の受け入れ児童を増やすとしてきた。今年度終了のこの待機児童ゼロ作戦について、その到達はどのようになっているか。また、その評価についてどのようにお考えか。四月時点の到達でお答えいただきたい。
2、 保育所の待機児童は、二〇〇三年十月時点で前年同期比で、減少するどころか、約千人増えて、四万四千二百八十五人と過去最多の待機児童数となっている。しかもこれは、二〇〇一(平成)十三年度から、待機児童の規定を変えて、一時的に無認可保育所に入所しながら待機している児童や、近くの保育所を希望していても、そこが定員が充足していた場合、通常の交通手段で家から二、三十分ほどの登園が可能な保育所があれば待機児童とみなさないなどなど、待機児童をカウントする際の定義を厳しく絞ったものである。しかし、その新しい定義によったとしても待機児童ゼロ作戦直前の二〇〇一年度とくらべ待機児童は七千人以上も増加している。さらに、従来どおりの定義による待機児童のカウントでみれば、二〇〇三年十月の待機児童は六万七千七百九十五人で、前年度と比べて五千六百三十一人の増加、また、一九九五(平成七)年と比べると二万四千百五十人も増加している。このような待機児童の増加の実態についてどのように分析されているのか。潜在的保育ニーズの把握、分析が実態とかけ離れているのではないか。
3、 しかも、保育所数について、公営と民営を比較すると、全体数は二万二千二百六十八ヶ所(直近の公開データ―の二〇〇三年四月)で前年度から五十四ヶ所の増加に過ぎない。公営だけで見ればむしろ百六十三ヶ所の減となっている。国をあげて待機児童ゼロ作戦を行うと強調していながら、公営保育所の個所数は、現状維持ならまだしも、実際は、公営保育所が民営の個所数の増加の努力をほとんどかき消すほどに減っていることについて、内閣はその責任を果たしているといえるのか。
4、 機児童ゼロ作戦は、実効性ある計画として、定員増や計画延長して、待機児童を解消するために、公営、民営保育所増加への 国としての財政確保を確実に行うべきと考えるが、どうか。
二、学童保育への国の施策について。
1、 放課後の子どもを安全・安心に育てる施策の不備が深刻だ。学童保育は、働く親を持つ子どもたちが家庭の代わりとして毎日生活する施設である。九七年の児童福祉法改正時に、独自の制度・施策として位置付けたものである。学童保育の役割についてどのように考えているか。
2、 国学童保育連絡協議会の調べでは、二〇〇三年五月現在で、全国二千三百二十市町村に一万三千七百九十七ヶ所の学童がある。法制化後の五年間に、毎年千ヶ所ほど、計四千二百ヶ所の増加となっている。入所児童も五十四万人で、この間二十万人増となっているなど、現在すでに「新エンゼルプラン」の目標値、二〇〇四年度の一万一五〇〇ヶ所を上回っている。ところが、多くの地域で学童保育が求められるなか、施設が不足し、その結果、いわゆる待機児童が発生している。潜在的なニーズを把握するうえでも国としていわゆる待機児童について調査すべきではないか。施設の大規模化が全国的に急増しており、深刻な問題となっている。政府として学童保育の適正規模についてどのように考えているのか。大規模をどう考えているのか。また、必要に応じて、小学校区に適正規模の学童保育を複数設置することも必要だと考えるがどうか。
3、 また、「次世代育成支援対策推進法」では市町村に行動計画の策定を義務づけている。学童保育についての計画について、その数値が集計されると思うが、市町村が積み上げた数値は、当然、国の目標として、新しい「新エンゼルプラン」の目標値は、この市町村の積算を根拠に、引きあげられるべきと考えるが、その検討状況についてお聞きしたい。
4、 前述の「協議会」資料では、数年前までは、小学校低学年の児童が学校で過ごす時間は年間千三百時間程度に対して、学童保育で過ごす時間は千二百時間程度であったが、最近では、学校の土曜日休業や学童保育の保育時間が延びていることからそれが逆転して、学童保育で過ごす時間は、千六百時間となっている。
学校ですごす時間以上に、長い時間を児童が過ごすという大事な役割を果たしている学童保育で、児童の安全と安心感のある生活を保障する条件整備は緊要の課題である。安全確保には適切な規模と施設整備、指導員の体制などが必要であると考える。
(1)学童保育の適正な規模はどの程度と考えているか。
(2)子どもたちが毎日、安全で健全に学童保育で生活を送るためには、指導員が安心して仕事のできる条件が必要であることはいうまでもない。坂口厚生労働大臣は、国会答弁において、「放課後児童クラブにおける指導員と児童の関係は児童の健全育成の観点から重要でありまして、指導員にはできる限り継続的に勤めていただけるように、自治体において配慮していただくことが重要である」(二〇〇三年六月二十七日参議院本会議)と述べ、継続的な雇用の必要性を認められている。しかし、国の補助金の算定の単価積算では、児童二十人から三十五人の場合で、一人目の指導員については百三十四万、二人目についてはアルバイト換算で百二十万しかみていない。これでは指導員に意欲はあっても、継続的な雇用は困難である。指導員は、常勤配置を前提に補助金の算定もそれにふさわしく改善すべきと考えるがどうか。
(3)二〇〇三年の実態調査では、平均床面積は、トイレ・台所・部屋を含めて、一人あたり二・七三平方メートルにすぎず、保育所の最低基準(「定員三十一人から四十五人」では、一人あたり七・二平方メートルが補助基準)を大きく下回る事態である。
国として施設の設置基準を持っていないのは、現在の学童保育の役割からしてあまりにも無責任である。施設の規模などについての基準を検討すべきと考えるがどうか。
(4)現在、施設基準を持っている自治体は全体でどの程度あるか。都道府県ごとに明らかにされたい。また、その自治体の基準で平均的にどのような項目でどのような基準が示されているか。
5、 現在の学童保育への国の補助金の単価積算は、児童二十名から三十五名で、一ヶ所あたりの人件費含む運営経費を三百一万六千円としている。土日祝日開設加算(非常勤二名、三十九日分加算で四十三万九千円)を加えても三百四十五万五千円にすぎない。長時間開設加算や障害者加算についても実態とかけ離れたものである。しかも、その半分は父母負担として、国の実際の補助金はその三分の一、全体の六分の一の五十七万六千円余にすぎない。しかし、実際の経費は、ある名古屋市の例では、市がプレハブで無償の場所を提供してるケースでも児童二十八人の規模で九百五十六万円となっている。単価の低さと補助率の低さなどで、国は、実際の経費のわずか六%しか補助していないのである。
しかも、二〇〇三年五月時点で一万三千六百九十八ヶ所の施設があり、この間の伸び率を換算して、すでに一万五千ヶ所ほどの学童保育が存在していると推測できるが、本年度の補助対象数は、一万二千四百ヶ所しか予算化していない。
このような事態では、国が学童保育に力を入れているとは到底いえるものではない。この改善をしなければ、放課後の子どもの安全に配慮した学童保育とはならない。大幅な補助単価の改善、予算の増額を行うべきと考えるが、いかがか。
とりわけ、本年度について、すべての施設を補助対象とするべきと考えるが、どうか。
6、 文部科学省の「地域子ども教室事業」や市町村の教育委員会などで、すべての児童の安全な遊び場づくり・居場所づくりがすすめられている。昨今、児童が地域で安全に遊べる環境をつくることは急務である。しかし、川崎市や品川区などでこの遊び場・居場所づくりをはじめることが、学童保育の廃止につながるケースがでている。
この遊び場・居場所づくりは、厚生労働省が推進してきた児童館と同じ目的・役割を持つものである。かつて厚生労働省も「留守家庭対策は児童館で行う」としてきた考えを一九九一年に改め、学童保育の固有の必要性を認めて一九九七年に法制化を行った。また、児童館の中で学童保育を実施する場合には「専用室」と「専任指導員」が必要だとしている。学童保育の法制化の主旨は、すべての児童の遊び場作りに解消できない固有の施設・制度が必要だということであると考えるがどうか。
働く親を持つ子どもたちが、毎日生活する施設である学童保育と、登録すれば誰もがいつでも自由に利用できる遊び場づくりとおのずから目的・役割と、その目的を達成するために必要な条件(働く親を持つ子どもたちには家庭に代わって生活するために必要な受け入れ体制、専用室、専任指導員の配置と子どもへの関わりが必要)が大きく異なっている。子どもたちの状況に合わせたきめ細かな対応するために、学童保育と全児童対象の遊び場・居場所づくり双方ともに充実させつつ、連携を図る必要があると考えるがどうか。
右、質問する。