2006年2月22日 日本共産党
障害者自立支援法が4月1日から実施されます。全国の市町村で準備がすすめられていますが、「これまでどおりサービスは受けられるのか」「定率1割の利用料はとても払えない」など、障害者と家族のなかに不安が広がっています。
自立支援法は、2005年10月31日、特別国会において、与党の自民党・公明党が、日本共産党などの反対を押しきって可決、成立させたものです。身体・知的・精神の3障害にたいする福祉サービスの提供の一元化など関係者の声を反映した部分もあります。しかし、障害者福祉にも、“自己責任”と“競争原理”を徹底して、国の財政負担の削減をおしすすめようとする小泉「構造改革」のもとで、多くの問題点を抱える制度となっています。とりわけ重大な問題は、利用料は能力に応じて負担するという「応能負担」原則を、利用したサービス量に応じて負担するという「応益負担」へと転換したことです。
障害者が人間としてあたりまえの生活をするために必要な支援を、「益」とみなして負担を課すという「応益負担」は、憲法や福祉の理念に反します。障害が重い人ほど負担が重くなり、負担に耐えられない障害者はサービスを受けられなくなる事態が起きることは必至です。だからこそ、障害者・家族の反対運動が空前の規模で全国に広がったのです。
日本共産党は、国会論戦で、生存権侵害ともいうべきこの重大な問題点を徹底して追及し、障害者の運動と連携してたたかいました。
法案は成立しましたが、国や自治体には、憲法25条が保障する、障害者が人間らしく生きる権利をまもる責任があります。
日本共産党は、国にたいして「応益負担」を撤回するようひきつづきつよく要求します。同時に、重い利用料負担のためにサービスが受けられなくなる事態が起きないよう、負担減免策のいっそうの拡充や事業・施設運営、市町村支援などに十分な財政措置を講じるよう求めます。都道府県・市町村も、国に負担減免策の拡充などを求めるとともに、独自の負担軽減策をはじめ、一歩でも二歩でも可能な改善をはかるために全力をあげるべきです。
日本共産党は、以上の立場から、自立支援法の4月1日施行にむけて、国および自治体が、最低限、つぎの緊急措置を講じるよう要求するものです。
1、利用料が払えずサービスが受けられなくなる事態が起きないようにする
●福祉サービスの大幅負担増の軽減を
福祉サービスの利用料は、4月1日から定率1割負担になります。施設やグループホームの利用者は、食費と居住費(光熱水費など)も全額自己負担となり、耐え難いばかりの負担増が押し寄せます。通所施設の場合、現在、利用者の95%が無料ですが、平均で月1000円から1万9000円へと19倍もの値上げです。障害のある子どもの福祉サービスも、10月1日から措置制度が廃止されて契約方式に変更され、同様の重い負担が強いられます。家族が、「同一生計」とみなされるとこれまで以上の負担増になることも懸念されます。
政府は、低所得者にモ配慮するモなどとして、定率1割の自己負担について、所得に応じて4段階の「月額上限額」※を設けました。所得の低い人で資産要件(預貯金350万円以下)を満たす場合は、定率1割負担や食費などを減免するいくつかの軽減措置を講じます。
しかし、「月額上限額」にしても、障害基礎年金2級で月6万6000円というわずかな収入のうち、2割にものぼる負担を強いられるのです(低所得1の場合)。大幅な負担増になることに変わりありません。このままでは、重い負担のために必要なサービスを受けられなくなる深刻な事態が起きることは火を見るよりも明らかです。
国は負担上限額を引き下げるなど減免策をいっそう拡充すべきです。自治体も、国がおしつけた被害から障害者の人権をまもるために、可能な努力をはらって独自の負担軽減策を講じるべきです。
横浜市は、所得の低い障害者は自己負担を全額市が助成することを決めました。京都市も、国基準の負担額を半分にする独自の軽減措置を実施します。また福祉サービス、自立支援医療、補装具を重複して利用する場合、国制度ではそれぞれ別に上限額まで負担しなければなりませんが、利用したサービスの負担の合計に総合的な上限額を設定して負担軽減をおこなう措置も実施します。京都府や東京都も独自の軽減措置をおこないます。障害者団体のねばりづよい運動や日本共産党議員団の要求が反映したものです。
介護保険では、利用料負担を独自に軽減している自治体は全国で600近くあります。障害者の制度でも、こうした経験を全国の自治体で生かすべきです。
※生活保護世帯はゼロ円、「低所得1」(市町村民税非課税世帯で年収80万円以下)は月額15,000円、「低所得2」(市町村民税非課税世帯で年収300万円以下)は月額24,600円、「一般」(市町村民税課税世帯)は月額37,200円
●医療費の自己負担増を食いとめるために
患者・障害者の命綱である公費負担医療制度も4月1日からしくみが大きく変わり、負担が大幅に増加します。身体障害者が対象の更生医療(18歳以上)、障害をもつ子どもと放置すれば将来障害を残すような疾患をもつ子どものための育成医療(18歳未満)、統合失調症やうつ病などの精神通院医療が、すべて原則定率1割の「応益負担」になります。入院の場合は、食費負担もくわわります。重い医療費負担のために治療を中断して、症状の悪化や命にかかわる事態が起きかねません。
政府は、負担軽減策として、所得の低い人や継続的に相当の医療費負担が生じる人(「重度かつ継続」の場合)、育成医療の所得の「中間層」には、月額の負担上限額を設けました。しかし、腎臓病の人工透析患者でも、市町村民税非課税世帯の場合、一カ月入院すると今まで無料だった人の負担が2万円余にもなるのです。“低所得者に配慮”などと、とうていいえるものではありません。しかも、一定所得以上の人は、自立支援医療の対象からもはずされ、一般の医療保険になるために負担が激増します。
患者・障害者が安心して医療が受けられるように、国は負担軽減策の対象範囲を拡大し、負担上限額をさらに引き下げるべきです。
政府の当初案では、「重度かつ継続」の対象者は精神の場合、統合失調症、躁うつ病、難治性てんかんだけでした。それが、患者・障害者団体の運動と日本共産党国会議員団などの追及によって、対象となる疾患の範囲が大幅に拡大されました。育成・更生医療についても、国の基準を実態にあわせてさらに拡充することを急ぐべきです。
現在、47都道府県で障害者・児の医療費助成制度が実施されていますが、一部の自治体で「見直し」の動きがでていることは重大です。東京都は精神通院医療の無料継続を決め、山梨県は更生医療の独自負担軽減措置を実施します。全国の自治体でも、現行助成制度を後退させるのではなく、存続・拡充をはかることこそ必要です。
高額療養費の限度額をこえる分を、本人が窓口負担として、一度たてかえる必要をなくす措置(受領委任払い制度)が一部の自治体で実施されています。この制度を各地に広げることも切実な課題です。
2、実態にみあった障害認定と支給決定をすすめる
自立支援法では、サービスの利用方法も大きく変わります(10月1日実施)。福祉サービスを利用したい場合は、介護保険と同じように、「障害程度区分」(6段階)の認定審査を受けなければなりません。
厚生労働省のモデル調査では、「障害程度区分」の認定にさいして、コンピューター処理による第一次判定の結果が、市町村審査会の二次判定で変更された事例が50.4%にものぼりました。
市町村は、障害をもつ人の生活状況や支援ニーズを正しく把握するために、積極的な聞き取り調査や専門性をもったスタッフの配置など、十分な調査、認定審査会の体制をととのえる必要があります。人口規模の小さい町村などには、都道府県の支援が不可欠です。
障害者・家族から、「障害程度区分」によって支給されるサービス量に制限が加えられるのではないかと大きな不安の声があがっています。自立支援法では、介護保険のように「障害程度区分」ごとにサービス量の「上限」が決められているわけではなく、「障害程度区分」は支給決定をおこなう際の「勘案事項の一つ」です。
市町村は、長時間介助などを必要とする障害者にたいして、十分にサービスを保障すべきです。国庫負担基準をもとに、必要なサービス利用を制限するようなことはあってはなりません。国は、「障害程度区分」に応じたサービス費の国庫負担基準の設定にあたって、十分に実態に見合ったものとすべきです。
3、市町村の地域生活支援事業へ財政支援の強化を
福祉サービスは、ホームヘルプサービスなどの「介護給付事業」、就労支援などの「訓練等給付事業」、市町村が主体的に実施する「地域生活支援事業」の3つの体系になります。市町村(一部都道府県)の「地域生活支援事業」は、ガイドヘルパー、手話通訳派遣事業、地域活動支援センターなどが対象です。地域の実態に合わせた自治体の積極的なとりくみが求められます。
問題は財源です。「介護給付」、「訓練等給付」は「義務的経費」(国が義務的に定率の負担を負う経費)となりましたが、「地域生活支援事業」は、「裁量的経費」(自治体が予算不足の際に国の追加義務はない)のままです。しかも、政府の06年度予算案では、地域生活支援事業への補助金はわずか200億円しか計上されていません。これでは、一自治体あたりの財源配分はごくわずかで、財政力の違いによる市町村格差が拡大しかねません。国は予算を大幅にふやし、市町村にたいして十分な財政支援をおこなうべきです。
「地域生活支援事業」の利用料は、市町村が独自に条例等で定めることになっています。現行どおり、無料または「応能負担」による低廉な利用料とすべきです。
全国で6000を超える小規模作業所にたいする支援が、きわめて不十分であることも大きな問題です。29年間続いてきた小規模作業所国庫補助金が、06年度予算案で廃止されようとしています。新制度の「地域活動支援センター」が移行先として想定されているものの、国庫補助基準はきわめて低劣です。これでは、いまでも実態とかけ離れた劣悪な補助水準が、さらに大幅に後退する事態になることは明らかです。
障害者の自立と社会参加に大きな役割を果たしている小規模作業所が、安定して運営がおこなえるよう、国は、小規模作業所が義務的経費の諸事業に移行できるようにすべきです。すぐに移行できない小規模作業所には、十分な財政措置を講じるべきです。
都道府県・市町村も、最低限、現行の補助水準を維持するよう十分な予算措置を講じることが必要です。
4、国・自治体の責任で基盤整備を緊急にすすめる
地域で、障害者が利用できるサービスを提供する基盤が圧倒的に不足しています。新制度が発足しても、精神障害者のグループホームをはじめ希望するサービスが受けられない事態が起きることは明らかです。ところが、深刻な現状を打開するためには大幅な予算増が求められているにもかかわらず、国は06年度予算案で基盤整備費を削減しています。
障害者に「応益負担」を導入して大幅な負担増をおしつけながら、サービス不足は放置したままというのでは、二重三重に国の責任が問われます。政府は予算を大幅にふやし、「特別計画」をつくり、基盤整備を緊急にすすめるべきです。
自治体の責任も重要です。都道府県・市町村は、地域でのサービスの必要量を見込んだ「障害福祉計画」を06年度中に策定することが義務づけられています。障害者の参画で、地域の障害者の生活実態と利用意向などを十分に反映した「障害福祉計画」をつくり、積極的に推進をはかることが必要です。
財源は十分に確保できる
政府は、「応益負担」導入の理由を、「増大する福祉サービス費用を皆で支えてもらうため」、つまり、「お金がないから」などと説明しています。しかし、障害福祉予算は8131億円(06年度予算案)で国家予算の1%程度にすぎません。国際的にみても、国内総生産(GDP)にしめる障害関係支出の割合は、日本はドイツの5分の1、スウェーデンの8分の1ときわめて低い水準です。公共事業費などのムダを見直し、そのごく一部をまわすだけで、「応益負担」(約700億円の負担増)など導入せずに、障害者福祉を大幅に充実できます。自治体も、こうした立場で予算のあり方を見直すことが必要です。
日本共産党は、障害者自立支援法における負担軽減など、当面の改善策を実現するために全力をあげます。同時に、憲法第25条や国際障害者年の理念でもある、障害者の人権保障、自立と社会参加の実現をめざして、「応益負担」の撤廃、本格的な所得保障の確立、難病をはじめすべての障害を対象とした「総合的障害者福祉法」(仮称)の制定をはじめ障害者施策・制度の抜本的な拡充をめざし、障害者・家族のみなさんと力をあわせて全力をつくします。