2006年3月8日
日本共産党国会議員団
日本共産党女性委員会
政府は3月7日、男女雇用機会均等法(均等法)改正法案を閣議決定し、この通常国会で成立を図るとしています。
均等法の施行から20年、いまや職場で働く女性は2200万人を超え、全雇用労働者の4割を占めています。均等法は、採用から退職・定年にいたるまでの雇用における差別を禁止する法律として期待されました。しかし、現在でも多くの分野で男女間の格差や差別が横行しています。女性の賃金は、正社員でも男性の68%、管理職の女性比率も約1割にすぎません。仕事と子育ての両立支援も不十分であり、第1子の出産を機に、3人のうち2人が職場をやめています。また労働者派遣法など労働法制の相つぐ「規制緩和」のもとで、女性の多い事務職などの外注化や非正社員への置き換えがすすみ、若い女性のなかにもパートや派遣社員などの働き方が急速にひろがりました。すでに女性の半数以上が非正社員となり、賃金や労働条件で深刻な格差があらたに生まれています。
国連などからも繰り返し改善が求められているように、日本の男女平等への歩みはあまりにも遅すぎます。差別と格差を放置し、拡大させてきた大企業・財界と自民党の責任はきわめて重大です。
ところが提出された改正案は、妊娠・出産を理由とする不利益取扱い禁止などの改善はあるものの、焦点となっている「間接差別」の禁止では財界の要求に押し切られ、その範囲が極めて狭く限定されるなど、日本弁護士連合会や労働団体からもその実効性を危ぶむ声があがっています。
日本共産党は、これまでも残業時間の上限を年間120時間にする労働基準法の抜本的改正案や、パート・派遣社員の均等待遇をめざす「パート・有期労働者均等待遇法」「派遣労働者保護法」、全国一律最低賃金制などを提案し、ヨーロッパではあたり前になっている「人間らしい働き方のルール」の確立に全力をあげてきました。
今回提出された均等法「改正」の政府案に対して、差別の禁止及び差別是正を実効あるものとするため、以下のような修正を提案します。
(1)職業生活と家庭生活の調和を図ることを明記します
97年の均等法見直しで、第一条(目的)から削除された「職業生活と家庭生活との調和を図る」という文言をあらためて明記します。男女平等は、仕事と家庭が両立できる人間らしい働き方のうえにこそ実現できるものであり、均等法の目的、理念に位置づけます。
(2)「間接差別」の禁止は抜け道を許さない規定にします
○条件をつけずに「間接差別」の禁止を明記します。
「間接差別」とは、形式的には男女一律に適用される基準としながら、実際には男女の格差をもたらし、女性に不利益を与えることをいいます。現在の均等法が禁止している「女性であることを理由」とする差別が「直接差別」といわれるのと区別されています。女性にとって、より大きな困難のある全国転勤を基準にした「コース別雇用管理制度」が代表的な例です。均等法制定後に大企業を中心に導入され、法の網をくぐって男女差別を続ける温床となってきました。国連女性差別撤廃委員会は、日本政府にたいして、「間接差別」の禁止のための法整備をおこなうべきと、二度にわたって厳しい勧告をしています。
ところが政府案では、財界からの「間接差別」禁止に対する強い反対をうけて、募集・採用における身長・体重・体力要件、総合職の募集・採用における全国転勤要件、昇進における転勤経験要件の三つに限定した差別しか禁止をしていません。これでは、それ以外の差別は容認されることになりかねません。新たな差別のしくみが巧妙につくられた場合にも対応できなくなります。業務上の必要性など、企業側の抗弁をひろく認めていることも問題です。こうした「条件つきの禁止」では、「間接差別」を禁止したことにはなりません。条件をつけずに「間接差別」の禁止を明記します。
○差別の温床となっている「雇用管理区分」は廃止します。
現行均等法10条にもとづく指針が、雇用管理区分(職種、資格、雇用形態、就業形態)が異なれば待遇が違っても法違反ではないとしていることも差別の抜け道になっています。同じ区分のなかの差別は禁止されても、コース別雇用管理の「総合職」と「一般職」、パートと正社員などは異なる区分となり、差別是正の対象となっていません。こうした「雇用管理区分」は廃止します。
(3)妊娠・出産による不利益取り扱いをなくし、産休などの権利を保障します
政府案は、妊娠・出産による退職の強要や配置転換などの不利益取り扱いの禁止を盛り込みました。しかし、問題は、産前産後休業を取得した場合、休業中は「業績ゼロ」として評価が下がっても不利益取り扱いにはあたらないなど、禁止の範囲を狭めていることです。これでは、妊娠・出産による不利益、格差の拡大は改善されません。
妊娠・出産を社会的に保護し支えてこそ、女性が平等に働くことのできる条件がつくられます。欧州などでは、産前産後休業は有給休暇などと同様に、出勤したものとみなしている国が少なくありません。少なくとも産前産後休業は、人事評価やボーナス・退職金の算定でマイナスにならないようにします。また休業終了後は、原職または原職相当職への復帰を原則とします。
(4)セクシュアル・ハラスメント禁止を明記し、被害者への解雇・不利益取り扱いを禁止します
セクシュアル・ハラスメント対策は、1997年の見直しではじめて事業主の配慮義務規定が盛り込まれました。しかし、配慮義務では不十分という多くの批判のとおりに、いまでも深刻な実態は続いています。政府案が、事業主の配慮義務から措置義務に強化したのは、当然のことです。
さらに、セクシャル・ハラスメントは重大な人権侵害であり、働く権利を侵害するものであるという認識をひろげ、未然に防止をするためには、セクシュアル・ハラスメントの禁止の明記が必要です。被害の相談、申し出をおこなった労働者への解雇や不利益取り扱いも禁止します。
(5)一定規模以上の企業に積極的格差是正措置(ポジティブアクション)を義務づけます
国連は、女性差別撤廃条約にもとづいて、事実上の差別を改善するための「暫定的特別措置」をすすめることを各国に勧告し、募集・採用・昇進などで数的目標をもつことをふくめた具体的な目標にもとづく取り組みを求めています。
格差是正を確実に進めるためには、企業が積極的に格差是正に取り組む措置(ポジティブアクション)の作成・実施・報告を義務づけることが不可欠です。現行均等法は、企業の自主性にまかせ、相談などの援助を行うというものでしたが、今回の政府案も企業が取組みを開示するときに、国がホームページに掲載するなどの支援をおこなうにすぎません。
当面、規模が100人以上の企業に対して、男女労働者の雇用状況の分析のうえに、改善のための目標・計画の作成及びその実施と報告を義務づけます。
(6)差別是正の制度的保障をつくります
現在は、差別であるという証明は差別を受けた側が行わなければなりません。また、実効ある差別救済機関も罰則もないために、差別の是正がきわめて困難です。こうした弱点を改善し、救済・是正のための実効ある制度を設けます。
○企業側に立証責任、資料提出義務をもたせます。
労働者側が差別を立証するためには、企業側の資料があるかどうかが大きく影響しますが、それを手に入れることは大変困難であり、差別是正への大きな障害となっています。立証責任と資料提出義務を企業側にもたせ、格差の事実と差別被害の訴えに対して、事業主が合理的で適切なものであると証明できなければ差別とみなすようにします。
○権限のある救済機関を設置し、違反事業主への制裁措置を強化します。
中央、都道府県に独立した雇用平等委員会を設置し、気軽に相談できる窓口をひろく整備します。雇用平等委員会は、事業所への立ち入りや事業主への資料提出を求める権限をもち、差別是正措置を命ずることができるようにします。相談や差別被害の訴えは匿名ででき、申し出た人に対する解雇、不利益な取り扱いを禁止します。また、違反した事業主への制裁を強化します。現在は、違反事業主が厚生労働大臣の勧告に従わない場合に企業名を公表する規定があるのみで、しかもまったく機能を果たしていません。ヨーロッパ諸国では、損害賠償の規定や罰金等をふくむ罰則規定を定めています。雇用平等委員会の命令に従わないなど悪質な企業に対する罰則を強化します。
(7)坑内労働禁止等の解禁には反対します
財界の規制緩和要求にこたえて、女性の職域拡大を理由に、トンネル工事や鉱山などの坑内労働を女性に解禁する労働基準法見直しがあわせて盛り込まれたことは問題です。同様の理由で、女性の時間外・深夜・休日労働の禁止規定(「女子保護」規定)が1997年に撤廃されたことにより、過労や健康破壊などで働き続けられなくなる事態がひろがりました。安易な緩和・解禁は、母性を保護し女性の健康を守る観点から行うべきではなく、この項目は削除します。