2009年4月21日 日本共産党国会議員団
いま農地法等の「改正」案が国会で審議されています。農地法の目的まで見直し、農地の貸借を全面自由化し、企業の農業参入に大きく道を開く、1952年農地法制定以来の大転換です。
日本共産党は、法案が、家族経営中心の農業を解体し、食料の自給率向上や環境の保全などに重大な障害を持ち込むものとして、強く反対し、廃案を求めます。あわせて、農地の荒廃をくいとめ、全面的な活用が可能となる農政の実現にむけて国民的な運動を呼びかけます。
“農地は耕作者のもの”という原則を放棄して農地は守れない
「改正」案の最大の問題は、農地法の根幹である“農地は耕作者のもの”という原則(耕作者主義)を解体するところにあります。みずから農作業に従事する者にのみ農地に関する権利を認めるこの原則は、農家が安心して営農に取り組める基盤となり、農外企業による農地の投機や買い占め、農地の他用途転用にたいする防波堤の役割を果たしてきました。戦後民主主義の原点の1つである農地改革を具体化し、農業と農村社会の安定の土台となってきたものです。
「改正」案は、第一条の目的から、「耕作者の農地の取得を促進し、その権利を保護し、・・地位の安定・・を図る」を外し、「農地を効率的に利用する者・・の権利の取得の促進」に置き換えています。「耕作者」という文言をいっさい削除し、「耕作者」の権利を重視する法制度から、「効率的な利用」が図れれば農外企業でも誰でもいいという考え方への転換です。
今日、農地には食料生産の基盤であるともに環境や国土の保全、住民の暮らしや就業の場の確保、伝統や文化を育む地域の共有財産としての役割も求められています。そうした多面的な役割を担ううえでも、もっともふさわしいのが耕作者主義の原則です。「改正」案は、そうした時代の要請に逆行するものといわなければなりません。
「所有権」の自由化に連動するのは必至
政府は、今回自由化するのは農地の「貸借」に限り、「所有権」については従来の規制を維持するといいます。確かに、農地の権利移転の要件を定めた第3条には「農作業に常時従事する者」以外には許可しないという規定を残しています。しかし、その根拠となる第一条の理念を放棄して、個別条項でいつまでも維持できるのでしょうか。第一条で「農地は耕作者みずから所有がもっとも適当」とする規程を削除したことも、「誰が所有してもいい」という議論になるのは必至です。貸付農地(小作地)の所有を制限する規定を廃止することも、地主的な農地所有や貸出目的による農地取得も自由となりかねません。「改正」案は、農地の「利用権」にとどまらず、「所有権」の自由化に道を開くものとみないわけにはいきません。
“適正利用の監視”で農地は守れるか
「改正」案では、「必要な機械を保有し」「農作業に従事する人の数」を確保すれば、外資系を含めてどんな企業でも、「貸借」を許可することにならざるをえません。そうした企業は、当面の農業経営は維持しても、利益がでなければ、容易に撤退を選択するか、農地利用を放棄するのは予測できます。政府は、「貸借」は、「適正利用」に反すれば貸借解除する旨の契約を結んだ企業などに限定する、といいます。しかし、貸し手と借り手の双方が貸借の継続を望めば、そうした契約が「不適正利用」の実効ある歯止めにはなりえません。そして、「適正利用」に反する事態が大規模に発生すれば、その解決に多大な時間とコストが必要になるでしょう。
今回、農業委員会に、農地の利用状況を調査し、「適正」かどうかを判断し、必要な措置をとる役割を与えています。しかし、近年、大規模な市町村合併や委員定数の大幅削減、予算の削減などで農業委員会を弱体化させてきたのも政府です。その現状をそのままに、“入り口”を開放し、「違反したら事後に是正させる」などといっても“絵に画いた餅”になるのは必至です。
農業生産法人への企業参加もいっそう容易に
「改正」案は、農外企業の農業生産法人を活用した農地進出の窓口も一段と広げています。農業生産法人の制度は、「みずから農作業に従事する」性格が保たれる法人に限って農地取得の道を開いたもので、今日その大半は、農家の共同組織として地域農業で重要な役割をはたしています。ところが近年、「耕作者主義」を貫くために厳格に定められた法人の要件が、財界の要求でたびたび緩和されてきました。関連企業が構成員になる場合、運営・方針などの議決権を1企業10%以下、合計でも4分の1以下に広げられてきたのもその1つです。今回はそれをさらに、1企業10%以下の制限を外し、特定の関連企業の場合には議決権を50%未満まで認めるとしています。農業生産法人にたいする農外企業の実質的な支配をいっそう容易にするものです。
借地農業の実態や関係者の要求とも矛盾
「改正」案は、標準小作料の制度を廃止しています。農業委員会が地域の実態に即して定める標準小作料は、借地料の目安として借り手・貸し手の双方から高く評価されてきました。その廃止は、農外企業がより高い借地料で農地を集めることを可能にします。賃貸借期間の制限も、「20年以下」から「50年以下」に延長しています。所有権に限りなく近い期間です。いずれも、企業参入自由化と一体で財界が要求してきたもので、「利用」重視といいながら、農地を借りて営まれている農業の実態や関係者の要求とは矛盾するといわなければなりません。
企業参入で地域農業は活性化し、耕作放棄地はなくなるか
政府は、耕作放棄の広がりを強調し、「意欲」ある担い手に農地利用を広げれば、解消できるかのようにいいます。しかし、耕作放棄が広がる最大の原因は、輸入自由化や価格暴落の野放し、減反の押しつけなど農家経営を成り立たなくしてきた歴代自民党政府の農政ではありませんか。農地制度に原因を転嫁するのは、無責任な議論です。大多数の農家の「意欲」を奪ってきた農政をそのままにして耕作放棄の解消はありえません。
まして、農外企業の参入で地域農業が活性化するなどというのは幻想です。全国農業会議所が行った農外法人・企業の調査(08年8月)によれば、黒字の法人は11%にすぎず、63%が赤字です。08年9月の農水省調査では、農業に進出した31企業・法人がすでに撤退しています。オムロンやユニクロといった有数の企業が、最先端の農業経営ともてはやされながら数年であえなく撤退したのも、農業の厳しさと企業経営の無責任さを物語るものです。
地域に密着した土建業や食品会社などで、雇用対策や原材料の確保のために農業に進出し、住民の雇用、就業の場の確保などに一定の役割をはたしている例があるのも確かです。しかし、もうけ第一の株式会社が農業に進出するとすれば、耕作放棄地は敬遠し、平場の優良農地に集中し、そこで営農する認定農業者などと競合する形になるのが一般的でしょう。実際にも、企業参入の多くは、施設園芸など「もうけの見込める分野」であり、環境保全の役割が大きいのに収益性の低い水田や畑作では少ないのが現状です。地域の共同の財産として将来にわたっての利用が求められる農地を、目先の利潤追求が第一の農外企業に無制限に“解放”すれば、農業の活性化どころか、農地利用や農村社会に重大な混乱と障害を持ち込むものになるでしょう。
参入意志が真剣ならば道は開けている
財界などは、農外からの参入規制の厳しいことが農業衰退の原因とさかんにいいます。新規参入にとって、資金や技術、住宅の確保などの負担が重いのも確かですが、最大の障害は、現役の農家でさえ続けられない劣悪な経営条件にこそあります。それらを除くために政治や社会が力を尽くすのは当然です。しかし、農地取得に関していえば、個人に求められるのは「みずから農作業に従事する」ことです。農業への参入意欲が真剣なものならば、当然に満たせる条件です。
企業についても、農業生産法人に参加するか、特定法人貸付事業(耕作放棄地の多い地域で自治体とリース契約する)という形ですでにかなり道は開けています。後者の場合、役員の1人が農作業に従事すればよく、個人の参入条件と比べても緩やかです。にもかかわらず、いっそうの規制緩和を迫るのは、農業の振興などより、農業と農地を対象にしたビジネス機会の拡大や農地にたいする大企業支配の自由化にねらいがあるとみないわけにはいきません。
「改正」案は、そうした財界の意向にそったものにほかなりません。
農地の有効利用は大多数の農家経営が成り立ってこそ
食料自給率の回復がまったなしのわが国で、耕作放棄地の解消や農地の有効利用が不可欠であることはいうまでもありません。国土や環境の保全にとっても欠かせません。「改正」案に盛り込まれた農地転用の規制や違法転用への罰則の強化、遊休農地対策の強化などは、そのために必要とされる面もあります。さらに、農業者の高齢化が極端に進むなかで、農外からの新規参入者の確保・定着に社会全体が真剣に取り組むのは当然です。そのなかで、自治体や農協などとともに地域に密着した食品企業などの協力・共同を強めるのも必要でしょう。
国政にいま求められるのは、条件不利地を含めて大小多様な農家が、そこで暮らし続け、安心して農業にはげめる条件を抜本的に整えることです。それと地域の努力が結びついてこそ耕作放棄の解消もすすむのであり、農地をもつ人は「適正に利用する責務」があるなどとするだけでは、問題の解決にはなりません。
日本共産党は、その立場から昨年、農業を国の基幹的生産部門に位置づけ、食料自給率50%回復を国政の最優先にする農政への転換、価格保障や所得補償の抜本的な充実、輸入自由化ストップなどを柱とする総合的な農業政策「農業再生プラン」を発表しています。その実現をめざしながら、当面する農地問題、農業の担い手対策について、以下の提案をするものです。
●日本農業の担い手は、現在も、将来も、みずから耕作に従事する人と地域に基盤をもつその共同組織を基本にする。農村社会や文化、国土や環境の保全という観点からも、現在の農家戸数を減らさず、できるだけ維持することに努める。
●集落営農や農業生産法人、農作業の受委託組織、NPO法人、農協などさまざまな形で生産や作業を担っている組織も家族経営を補い、共存する組織として支援する。地域に密着し、地場農産物を販売し、または原材料とし、住民の雇用、地域経済の振興にもつながる食品企業なども家族経営を補完する農業の担い手として位置づける。
●農地に関する権利(所有権、貸借権など)は、「耕作者主義」の原則を堅持し、農業生産法人の構成員・役員・事業などの要件は、現行以上に緩和しない。特定法人貸付事業については、地域に基盤を置いた企業に限定し、県外からの参入申請は認めない。
●農地転用の規制を強めるために、病院・学校等の用地だけでなく公共事業用地の多くを転用許可の対象に加える。国土開発政策の一環として制度化された転用許可の例外規定を抜本的に見直す。
●定年後のいきがいや市民農園など小規模な農地取得の希望が広がっている地域に限定して、農地取得の下限面積(現在は原則50アール)制限を「利用権」に限って緩和できるようにする。
●都会に移転した人や相続により不在村地主となった人の遊休農地・耕作放棄地について、現状より容易に利用権を設定できる制度や事業、農地保有合理化法人による買い取り制度を創設する。
●農地の権利移転や転用、利用状況などについて、農業委員会が適格な判断や監視、必要な指導が可能になるよう、関係予算や体制を抜本的に強化する。