2022年12月13日 日本共産党の提言
今年は鉄道150年です。新橋―横浜から始まった日本の鉄道は、国民生活の向上、経済、産業そして文化の発展に大きく寄与してきました。ところが、この記念すべき年に、鉄道路線の大規模な廃止など、全国鉄道網をズタズタにしてしまうような動きが起きています。
国土交通省の「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」は、地方路線の廃止や地元負担増にむけたJRと関係自治体との「協議会」を国が主導して設置し、3年で「結論」を得るなどとする「提言」を7月に出しました。国交省は、これに基づく法案を通常国会に提出する準備をしています。
「JR各社は、都市部や新幹線、関連事業の収益によって不採算部門を含めた鉄道ネットワークを維持する」という国鉄の分割・民営化時の原則が維持できなくなったことを理由にしています。分割・民営から35年が経過し、その基本方針である「民間まかせ」では全国鉄道網は維持できないことを認めたのです。それにもかかわらず分割・民営の総括もせず、鉄路廃止をどんどんすすめ、全国鉄道網をズタズタにしてしまう、地方経済、地域社会のいっそうの地盤沈下を政府主導ですすめてしまう、こんな道を進んでいいのかが問われています。「民間まかせ」を見直し、国が責任を果たす改革をすすめ、全国鉄道網を維持・活性化し、未来に引き継ぐことこそ、国の取るべき道ではないでしょうか。
1、鉄路廃止のレールを 敷いてはならない
(1)政府が先頭にたって鉄路を 廃止し、全国鉄道網をズタズタ にすることは許されない
【国鉄民営化時を上回る廃線となる危険】
「提言」では、「輸送密度1000人未満、ピーク時の1時間あたり輸送人員500人未満」の線区(2019年度実績で61路線100区間)で、JRと沿線自治体の「協議」の場の設置が義務付けられます。
国交省は「廃止ありき、存続ありきという前提を置かずに議論」などとしています。しかし、斉藤国交大臣は「かなりの部分は鉄道として残ると思う。半分以上は残すことになるのではないか」(中国新聞インタビュー)と述べています。半分程度(50区間程度)は廃線になる危険があるということです。国鉄民営化を前後して廃線になったのは45路線ですから、それに匹敵するか、それ以上の大規模な廃線になる恐れがあるのです。
しかも、今度は、いわゆる「ローカル線」だけでなく、羽越本線の酒田―羽後本荘、山陰本線の城崎温泉―鳥取などの区間も「協議」対象になります。全国鉄道網がズタズタになり、旅客だけでなく貨物輸送・物流にも大きな打撃になりかねません。
【「廃線か、負担増」を地方に迫り、地域の公共交通を失いかねない恐れ】
政府・国交省が押し付ける「協議」では、「廃線にしたくなければ地元負担を増やせ」と、利用者・住民には料金値上げ、関係自治体にはJRの「赤字」を埋めるための「財政負担」を求めることになります。対象となる自治体の多くは財政力も小さく、過疎や地域経済の疲弊に苦しんでおり、”廃線か、財政破綻か”の「悪魔の選択」を迫られることになってしまいます。この間、地方では鉄路を維持するために、官民力をあわせたさまざまな努力がされてきましたが、こうした努力も無に帰しかねません。
その一方で、「提言」が「国の支援策」としているのは、鉄路存続の場合でも、BRT(バス専用道などを使用するバス)や路線バス転換の場合でも、「新たな投資」や「追加的な投資」への支援のみで、まともな経営支援は行いません。地方からは”慢性的な人手不足などから、鉄路廃止後の代替交通を自治体や地元交通業者のみの負担で運行することは持続可能性に大きな課題があり、地域の公共交通そのものを失いかねない”という危惧も表明されています。
整備新幹線の並行在来線の存続も地方に押しつけてきましたが、北海道新幹線の並行在来線は廃線に追い込まれようとしています。「民間まかせ」とともに、「地方まかせ」でも、全国鉄道網を維持することはできないことも明らかです。
【コロナ危機に便乗した鉄路廃止・地元負担押しつけは政治的にも道義的にも許されない】
「提言」は、「コロナ以前の利用者まで回復することが見通せず、事業構造の変化が必要」としていますが、JR各社の現在の赤字はコロナ危機が主たる要因です。2022年度は東日本、東海、西日本が大幅な黒字転換となるなど、収益は大きく回復する傾向にあります。「コロナ後の回復」がどの程度になるか見通せない現状で、地方に廃線や、値上げと自治体負担を求めることは、コロナ危機に便乗した地方切り捨てと言わざるを得ません。
一方で、政府はJR東海とともに、リニア新幹線建設を「国家プロジェクト」などと推進していますが、2045年の東海道新幹線の利用者数はコロナ前より1・5~1・8倍になるという「需要見通し」は再検討もしていません。コロナ危機のもとで広がった「オンライン会議」や「テレワーク」の影響は、地方路線よりリニアや新幹線の方がはるかに大きいはずです。東京―大阪間を約1時間半短縮するために新幹線の4倍もの電力を消費するとされるエネルギー浪費型のリニア新幹線は中止し、地域公共交通への支援を強めるべきです。
(2)いま鉄路の廃止をすすめて いいのか――地方再生、気候 危機への政治の姿勢が問われる
交通権・移動する権利を保障することは国の責務であり、鉄道網はその重要な分野です。同時に、現在ある全国鉄道網を維持・活性化し、未来に引き継ぐことは、それだけにとどまらず、これから日本社会がどのような方向にすすむのか、国の基本姿勢にかかわる重要な課題です。
第一に、鉄道は、地方再生への大切な基盤です。
鉄道は、通勤・通学、通院、買い物をはじめ生活に必要な移動手段です。また観光や地域の産業振興にとっても大事な基盤です。「採算性」や「市場原理」をふりかざし、地方の公共サービス、公的施設を縮小・廃止してきたことが、人口減少・若い世代の流出を激化させるという悪循環をつくってきました。鉄道廃止はその典型です。地域の「地盤沈下」をもたらし、地方再生の大切な基盤を放棄してしまうことになります。
鉄路を維持・活性化させることは、地方再生を本気で追求する政治の責任を果たすことであり、地方の疲弊・衰退を国が先導してすすめ、大都市と地方の格差を拡大させ、地方を住みにくくしてきた政治を反省する大きな一歩になります。
第二に、全国鉄道網は、脱炭素社会をめざすために失ってはならない共有の財産です。
単位輸送量あたりのCO2排出量は、旅客輸送で、鉄道は、乗用車の13%、航空機の17%、バスの30%、貨物輸送では、鉄道は、自家用貨物車の1・5%、営業用貨物車の8・0%、船舶の44%と、圧倒的な優位にあります。EUでは「グリーン・ニューディール」など、脱炭素社会に向けたとりくみに、鉄道の利用拡大が大きく位置づけられています。
鉄道から自動車・トラックへの転換は、気候危機打開、脱炭素社会に向けた逆行です。全国鉄道網の維持・活性化を脱炭素社会に向けた重要な柱に位置づけ、気動車のハイブリッド化や蓄電池車など、鉄道事業の省エネ化、低排出化を進めることとあわせて、鉄道利用を拡大することが求められます。
2、全国鉄道網の維持・ 活性化に国が責任 を果たすために――日本共産党の提案
政府・国交省は、JRに移行した路線は維持するという、国鉄分割・民営化の制度設計が維持不能になり、国民への約束が果たせなくなったことを認めました。そうであれば、分割・民営の35年間を総括し、全国鉄道網とJRをどうするか、国はどのような責任を果たすべきか、国民的な議論と検討が不可欠です。
全国知事会も、国交省・検討会の「提言」を受けて、「分割・民営化が地方に与えた影響、分割方法の妥当性、国鉄改革の精神等を改めて検証し……基幹的線区以外の線区も含めた全国的な鉄道ネットワークを維持・活性化するための方向性について示すこと」を国に求めています。
ところが、政府・国交省は、分割・民営の総括も、全国鉄道網の今後についての議論さえせず、地方の赤字路線だけ切り出して、地元自治体とJRとの「協議」を義務づけることに終始しています。破たんした「民間まかせ」から、全国鉄道網を維持・活性化させるために、国が何をするのか、どのように責任を果たすのかを示すことが求められています。日本共産党は、この立場から、以下の緊急対策と中長期的な対策を提案します。そして、全国鉄道網を維持・活性化させるために、鉄道事業者や自治体関係者を含め、幅広いみなさんに国民的な討論をよびかけます。
(1)全国鉄道網を維持・活性化する ための緊急の対策を
地方路線の廃止を止めることは緊急の課題になっています。
【北海道、四国、九州は、もともと分割に経営上の無理があり、国が路線維持のために必要な財政支援を行う】
北海道、四国、九州の3社は、分割・民営化の時点で赤字になることがわかりきっていました(九州は不動産事業等で黒字化しているが鉄道事業は赤字)。経営安定基金を積んで、その運用益で赤字を補塡(ほてん)する仕組みにしましたが、この運用益だけでは鉄道事業を維持できなくなっています。三島会社(JR北海道、四国、九州)の鉄道事業の経営難は分割方針の破綻であり、国が路線存続に責任を持つのは当然です。
とくに、JR北海道は大規模な廃線と大きな自治体負担を関係自治体に迫っています。国は経営安定基金の運用益を増やす「追加支援」を行いましたが、きわめて不十分です。JR北海道の全線を維持するための財政支援を行うべきです。
また、気候危機打開のためにも、鉄道による貨物輸送を「市場まかせ」のままにすることはできません。国交省は「トラック輸送から環境負荷が小さい鉄道に転換させる」モーダルシフトを推進しており、この点からも国がJR貨物に対する必要な支援を行うべきです。
【巨額の内部留保をもち、黒字回復が見込まれるJR本州3社の鉄道路線を維持する】
JR東日本、東海、西日本の本州3社は、コロナ危機で赤字に転落しましたが、行動制限がない2022年度には黒字回復することが見込まれています。しかも、3社ともに巨額の内部留保を抱えています。「不採算路線を含めて維持する」とした民営化時のルール=約束を果たせなくなったという条件はありません。当面、すべての路線を維持するのは当然です。
【鉄路廃止を届け出制から許可制に戻す】
政府は、鉄道事業法を変え、鉄道廃止の手続きを認可制から事前届け出制に規制緩和しました。国は何の責任もとらず、住民や自治体関係者の声も無視した鉄道路線の廃止を可能にしてしまいました。28道府県知事連名の「未来につながる鉄道ネットワークを創造する緊急提言」(2022年5月)でも「鉄道事業法における鉄道廃止手続きの見直し」が要望されています。この規制緩和は撤回すべきです。
(2)全国鉄道網を将来にわたって 維持し活性化させるための 三つの提案
今後の鉄道のあり方については、破綻した「民間まかせ」にかわる持続可能なシステムへの転換が必要です。
1、JRを完全民営から”国有民営”に改革する――国が線路・駅などの鉄道インフラを保有・管理し、運行はJRが行う上下分離方式に
全国鉄道網を維持・活性化し、未来に引き継ぐためには、「民間まかせ」「地方まかせ」を根本から改め、国が責任を果たすことが不可欠です。完全民営のJRの鉄道網を国有民営に改革します。国が鉄道インフラを保有・管理することで、鉄道事業を安定させ、運行は、現行のJRが引き続き行います。
35年が経過し、株式の売却、関連事業とその資産などJR各社の経営や資産の状況は異なっていることもあり、上下分離で国の関与と責任を明確にすることが、もっとも合理的な道になっていると考えます。整備新幹線は、国の鉄道建設・運輸施設整備支援機構が建設・保有し、JRに貸し付ける形態なので実質的に上下分離がすでに導入されており、全国鉄道網の維持・活性化の方式として十分活用できます。
国が線路や駅などのインフラを保有・管理する上下分離は、欧州の鉄道事業では当たり前の形態で、完全民営は日本だけと言っても過言ではありません。欧州では、自動車や航空機など他の交通機関との公正な競争条件としても道路や空港と同じように線路や駅というインフラは国が責任をもつという考え方も重視されています。
2、全国鉄道網を維持する財政的な基盤を確保する――公共交通基金を設立し、地方路線・バスなどの地方交通への支援を行う
全国鉄道網を維持・活性化するためには、国が財政確保のシステムをつくることが必要です。「公共交通基金」を創設し、運行を担うJRの地方路線とともに、地方民鉄やバスを維持するも含め、地方の公共交通を支援します。
財源は、ガソリン税をはじめ自動車関連税、航空関連税などの一部を充てるとともに、新幹線や大都市部などでの利益の一部を地方の公共交通維持に還流させ、交通の面でも生じている大都市と地方の大きな格差と不均衡を是正します。
3、鉄道の災害復旧制度をつくり、速やかに復旧できるようにする
災害で不通になった道路や橋が復旧されないことなど考えられませんが、鉄道は災害による廃線が相次いでいます。災害で不通となった鉄道を廃線に追い込んだり、復旧に手を付けずに放置することは、被災地の復興を妨害し、災害による地域の疲弊を加速させることになります。
国が「災害復旧基金」を創設し、被災した鉄道の復旧に速やかに着手できるようにします。地方民鉄、第三セクター鉄道を含む、すべての鉄道事業者を対象に赤字路線等の災害復旧に必要な資金を提供します。「基金」には、すべての鉄道事業者が経営規模・実態に応じて拠出するとともに、国が出資します。