衆議院議員吉井英勝君外一名提出ITER(国際熱核融合実験炉)の六ヶ所村誘致に関する質問に対する答弁書
平成十六年二月二十四日 内閣総理大臣 小 泉 純 一 郎
一について
国際熱核融合実験炉(以下「ITER」という。)により核融合エネルギーの科学的及び技術的実現可能性の実証を行う計画(以下「ITER計画」という。)については、その取組方等に関して原子力委員会、総合科学技術会議等の審議を踏まえつつ、「国際熱核融合実験炉(ITER)計画について」(平成十四年五月三十一日閣議了解)に基づき政府間協議に臨んでいるところである。ITER計画を実施するために必要となる協定(以下「協定」という。)については、我が国、中国、欧州連合(以下「EU」という。)、韓国、ロシア及び米国の間で協議中であるが、我が国が当該協定を締結するに当たっては、国会の承認が必要と考えており、国会において御指摘の点も含め御審議いただくことになるものと考えている。
二について
ITERの建設地に係る協議においては、現在建設候補地となっている青森県六ヶ所村とカダラッシュのみを対象として、特定の評価項目を設定した上で評価を行うことはされておらず、ITERの建設及び運営の全般にわたって、建設地としての適性に関し種々の観点から意見交換が行われている。ただし、ITERの建設候補地としてかつて提案されていたクラリントン及びバンデヨスも含めた四候補地の評価については、平成十四年九月から十二月までの間、当時の参加国である我が国、カナダ、EU及びロシアが共同で実施しており、技術的側面、社会文化的側面、安全規制の側面等に関し、それぞれ定められた基準を満たすかどうかという観点から評価を行った。その結果、すべての候補地が当該基準を満たすと評価されている。
三について
ITER自体の建設費については、ITERの工学設計活動の結果を基に、ITER自体をすべて我が国内で製作すると仮定した場合、約五千億円と見込んでおり、政府が行うこととされている建設地整備に係る費用及び協定によって設立されるITER計画を実施するための国際機関(以下「ITER機構」という。)の運営経費も含めた建設段階のITER計画に係る経費は約六千五百億円と見込んでいる。
運転期間中の維持管理費については、ITERの工学設計活動において、ITER機構の人件費も含め年間約三百億円、そのうち動力費としての電気料金は年間約四十四億円と見込んでいる。
なお、毎年度の我が国の財政負担及び計画期間全体を通じた我が国の財政負担については、我が国、中国、EU、韓国、ロシア及び米国の間で協議中である。
用地取得費については、青森県がすべて負担することとし、その費用は約八十四億円と見込まれていると承知している。
研究者等関係者の住宅、家族の教育施設その他の生活施設等の整備については、青森県が青森県等の関係地方公共団体又は民間団体による既存の施設の活用等により対応すると表明しているが、具体的な計画が確定していない現段階において所要額の試算は行われていない。
これらのほか、青森県はITERの建設候補地として六ヶ所村を提案することを決定するに当たり、電力確保のための支援等を行うことを表明しているところであり、政府として、関係地方公共団体に対し以上に加えいかなる措置を要請するかについては、今後の状況も踏まえ、必要に応じて検討することになると考えている。
政府としては、政府間協議に参加するための費用等として、平成十四年度及び平成十五年度に、それぞれ約千三百万円を計上しているところである。
四について
昨年十二月二十日に開催された閣僚級会議の結果、両候補地に関して更なる検討を行うとともに核融合研究に関するより幅広い推進方策を探求するとされたところであり、これらについて、現在、我が国、中国、EU、韓国、ロシア及び米国の間で検討が行われているところである。
五について
ITERの工学設計活動の成果に照らし、ITERの目的を達成できるよう適切に設計すれば、主半径が約五メートルから約八メートルまでの範囲の場合、一般的に主半径が短くなるに従い、建設コストは低減すると考えられる。また、これまでの研究の成果を踏まえると、プラズマの形状を相似形とし、主半径が約五メートルから約八メートルまでの範囲にある場合、一般的に主半径が短くなるに伴い、エネルギー増倍率及び中性子負荷は低くなり、燃焼時間は短くなるが、プラズマ密度は高くできると考えられる。ただし、ITERの建設コスト並びにプラズマ密度、エネルギー増倍率、燃焼時間及び中性子負荷については、プラズマ主半径のみで定まるものではなく、他の様々な条件によって変わり得ることから、主半径の変化に対応したそれぞれの具体的な数値をお示しすることは困難である。
なお、ITERの設計変更に伴い、主半径は約八・一メートルから六・二メートルに、ITER自体の建設費の見込みは約一兆円から約五千億円に、エネルギー増倍率の目標は無限大から十以上に、燃焼時間の目標は約千秒から約三百秒以上五百秒以下に、平均中性子負荷は約一メガワット毎平方メートルから〇・五メガワット毎平方メートル以上にそれぞれ変更され、プラズマ密度は、典型的な運転条件では、設計変更にかかわらず、約百エクサ毎立方メートルとされている。
原子力委員会は、設計変更後のITERについて検討し、平成十年十二月四日にITERが第三段階核融合研究開発基本計画(平成四年六月九日原子力委員会決定)にいう実験炉の要件を満たすことを確認している。さらに、総合科学技術会議においては、平成十四年五月二十九日に、ITER計画が国家的に重要な研究開発であることにかんがみ、政府全体でこれを推進することが適当であるとしており、政府としては、これを基に、同年五月三十一日に「国際熱核融合実験炉(ITER)計画について」を閣議了解している。
六について
日本学術会議において平成十一年九月から平成十二年四月までの間、核科学総合研究連絡委員会及び物理学研究連絡委員会が合同でITER計画について検討を行ったが、日本学術会議として報告書を取りまとめて発表するまでには至らなかった。
七について
我が国において、トリチウムの生物に与える影響に関する研究は、広島大学原爆放射能医学研究所(現広島大学原爆放射線医科学研究所)を始めいくつかの大学等で行われている。それらの研究成果にもかんがみ、トリチウムによる公衆及び従事者の放射線障害の防止については、国際的な基準を踏まえて設計等を行うことにより、適切に行えると考えている。
また、ITERの安全確保については、「ITERの安全確保について」(平成十三年八月六日原子力安全委員会決定)において、「安全を確保することは技術的に可能と判断できる」との見解が示されているところである。
御指摘のITER安全規制検討会における「報告書」は、原子力安全委員会の「ITERの安全確保について」や「ITERの安全規制のあり方について」(平成十四年六月三日原子力安全委員会決定)等を踏まえ、ITERの安全性の特徴を踏まえた安全確保の基本方針と安全性の確保の基本的な手続等について取りまとめたものである。
ITERが我が国に誘致された場合には、この報告書及び原子力安全委員会決定の考え方に沿って、公衆及び従事者に放射線障害を及ぼすおそれがないよう詳細に評価を行い、安全が確保されるよう万全を期してまいりたい。
八について
核融合エネルギーの実用化に必要な材料の開発のため、ITERより強度の強い中性子を照射する計画のための設備については、国際エネルギー機関において、我が国、EU、ロシア及び米国の専門家の協力により概念設計及び要素技術確証が行われているところであるが、工学設計活動を行う段階にまでは至っていない。
九について
ITER計画については、「国際熱核融合実験炉(ITER)計画について」(平成十四年五月二十九日総合科学技術会議決定)において、「他の科学技術上の重要政策に影響を及ぼすことがないよう、既存の施策の重点化、効率化を図り、原子力分野の予算の範囲内で確保すること」及び「国内の核融合研究については、重点化、効率化を図りつつ、ITER計画と有機的に連携する体制を構築すること」とされており、これを基に、平成十四年五月三十一日に「国際熱核融合実験炉(ITER)計画について」を閣議了解し、この方針に沿って適切に対応することとしている。