パートや契約社員などの有期労働に関する労働契約法改定案が衆院厚生労働委員会で25日、民主、自民、公明、生活、みんな各党の賛成多数で可決されました。非正規労働者の雇用と生活を左右する重要法案にもかかわらず、わずか3時間余の質疑で強行されました。
日本共産党は、労働者の使い捨てを許さないために期間の定めのない労働契約を原則とし、有期雇用契約の入り口と出口での規制強化などを盛り込んだ修正案を提案して、原案に反対。社民党は、原案と修正案に反対しました。
採決に先立つ討論で日本共産党の高橋ちづ子議員は「人間らしい働き方の実現を願う労働者の期待を踏みにじるもの」と批判。全労働者の4人に1人が有期労働者で、そのうち74%が年収200万円以下だとのべ、当事者の声も聞かず、ろくな審議もない採決強行は認められないと批判しました。
高橋氏は、有期労働を臨時的・一時的業務に限定するなどの「入り口規制」もなく、「人件費抑制という企業の都合で正規雇用の代替とされている現状を改善できない」と指摘。契約期間が5年を超えると無期雇用に転換させる仕組みも「従前と同一の労働条件」としているため処遇改善につながらず、クーリング期間(空白期間)をはさめば再契約が可能であり、「無期雇用転換制度を機能させずに有期労働契約を利用し続けられることになる」と強調しました。
均等待遇原則についても実効性に欠けると指摘しました。 国家戦略会議フロンティア部会で雇用契約は「有期が基本」と打ち出していることにもふれて、不安定な雇用を広げることは許されないと批判しました。
(しんぶん赤旗 2012年7月26日より)
――― 議事録 ――――
○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
初めに、有期雇用の法規制については、二〇〇七年のパート法改正や労働契約法の審議の中でも必要性が強く指摘されていたと思います。二〇一一年の統計で、役員を除く雇用者は四千九百十八万人、うち有期契約労働者は一千二百万人、つまり四人に一人が有期契約労働者となっております。これほど多くの国民に関係する法律である、そして、有期については初めての法案であるわけです。
それなのに、突然、きょう三時間二十分の審議で採決をということが提案されました。参考人質疑すら開かれない。まして、参議院では今、厚労分野が大きくかかわる一体改革特別委員会の集中審議が行われている中でのこの委員会の変則的な運営であります。到底認めることはできません。しかも、その内容は多くの労働者から待たれていたものとはほど遠いものとなったと言わなければならないと思います。
最初の質問は、まず、焦点となっていたいわゆる入り口規制が見送られたのはなぜでしょうか。
○小宮山国務大臣 労働政策審議会での今回の有期労働契約の見直しの議論の過程で、合理的な理由がない場合には有期労働契約を締結できないような仕組み、いわゆる入り口規制を導入するかどうかについても検討が行われました。
しかし、最終的には、このようなルールについては、有期労働契約を利用できる合理的な理由に当たるか否かをめぐる紛争が多発をするということや、雇用機会が減少するのではないかという懸念がありまして、措置を講ずべきとの結論に至らなかったものなので、この結論に基づいて法案を提出したということでございます。
○高橋(千)委員 政府としての意思というのが一体どこにあるのか。単に労政審の中で議論があったけれどもこうだったという答弁だったわけであります。
資料の一枚目を見ていただきたいと思うんですけれども、これは百六十八国会、〇七年十月に野党時代の民主党が提出した改正案でございます。第三十八条、有期労働契約の締結事由等とあります。これは可能な条件を列挙という形で、有期労働契約の締結事由を制限していたと思います。
〇七年十一月七日の本委員会で、細川律夫提出者は自民党の質問に対してこのように述べているんですね。「我が国におきましては、期間の定めをすることに十分な理由がなく、あるいは、継続的な雇用が予定されているにもかかわらず期間の定めがされたり、専ら使用者側の雇用調整を目的として短期の契約期間を定めて、いつでも労働者の方をいわば切れる状態にしておくことが広く見られる」、これが今のトラブルの原因だと答弁をされています。私は、これは正しい分析だと思うんですね。やはり使用者側の都合が優先されているんだ、だからこうして規制をするんだということが野党時代の民主党の提案だったんだと思うんですね。なぜそれが変わってしまうのか。
まず、認識が変わったのかということを伺いたいと思います。
○小宮山国務大臣 委員御指摘のとおり、平成十九年、二十年に民主党などが提出をいたしました労働契約法案、これはいわゆる入り口規制が盛り込まれていました。
入り口規制は有期労働契約のあり方を考える上で重要な論点だと今も思っています。
ただ、今、さきに答弁をさせていただいたように、平成二十二年からの労働政策審議会の審議でもこれは大きな論点の一つだったんですが、法案に盛り込むという結論には至らなかった。
こうした経緯に基づきまして、これは労働者の雇用の安定、一歩でも、いつも一歩でもで済みませんが、今のような国会の状況の中で一歩でも進めることが必要だということで、公労使で一致して取りまとめられました今回の法案を提出しているということです。
○高橋(千)委員 公労使で取りまとめられた見解だということをどんな問題でもよくおっしゃるんですが、この委員会で、その労政審の座長である諏訪先生がいらっしゃって、国会が決めたことであればという答弁をされて、まさにそれを覆すことを御自身がおっしゃったわけですね。ですから、なぜ政府の意思がそこにないのだということを重ねて言わなければならないんです。
一歩前進ということを大臣はしょっちゅうおっしゃるんですけれども、しかし、一部の出口規制、これも非常に抜け穴なんですけれども、そこだけやって入り口規制がないと、結局、出口の手前で雇いどめが起こってしまうとか、やはり法の中抜けが起こってしまうんですね。だから全体として規制が必要だということが指摘をされてきたのではないかということを改めて言わなければならないと思います。
本法案、三つポイントがあるんですけれども、その一つが期間の定めのない労働契約への転換だと思います。
有期労働契約が五年を超えて反復更新された場合は、労働者の申し込みにより、無期労働契約に転換させる仕組みというものがあるわけですけれども、その五年の根拠をお願いします。
○西村副大臣 無期転換ルールの要件を通算契約期間が五年を超える場合と今回いたしたわけですけれども、その理由につきましては、まず一つは、有期労働契約の反復更新による濫用を防止する必要がある、その一方で、有期労働契約が雇用機会の確保や需給変動への対応に一定の役割を果たしていることなどとのバランスを慎重に考慮した上で、労働政策審議会でも、公労使一致の建議として、五年で合意がされたことによるものでございます。
○高橋(千)委員 ほとんど答えにはなっていないんですが。
五年ではとても長いというのもあるんですが、同時に、では、五年だからといって、さっき三百六十万人という数字がありましたけれども、その方たちが無期に転換できるという単純なものでもないということも既に明らかになっていると思うんです。
期間の定めのない労働契約に転換されるとしても、その条文では「別段の定めがある部分を除く。」として、要するに、特段なければ従前と同一の労働条件となります。これでは、無期だけれども待遇は今までと変わらない、昇給なしとか、新たな階層が生まれることになるんです。
先ほど古屋委員が同じ質問をされたんですけれども、西村副大臣の答弁を聞いていますと、正社員化推進へのステップだとおっしゃいました。つまり、明らかにこれは、正社員と有期労働者と、その間に、無期だけれども正社員のような待遇ではない新たな階層が生まれることになりませんか。そのことを確認したいのと、こんなやり方は削除すべきです。いかがですか。
○西村副大臣 委員が先ほど御指摘されたとおり、有期労働契約が五年を超えて反復更新された場合に無期労働契約に転換する権利を設定するに際しまして、期間の定め以外の労働条件を確定する必要がありますことから、別段の定めがある場合を除き、従前と同一の労働条件というふうに法文上規定いたしました。
有期労働契約の雇用が不安定であって、雇いどめを恐れて年休取得などの権利を十分に行使することができないといった課題を解消することが、まずこの改正案での課題、目的として大変重要であると思っています。
今回の改正では、無期転換によって雇用不安をなくし、労働者としての権利行使も容易にして、安心して働き続けることができるようにするというものであり、これは大臣が答弁しておりますとおり、まず第一歩、前に進めるということでありまして、正社員化へのステップにもつながってくるものだと考えております。
公労使の議論では、こうした考えのもと検討がなされまして、無期転換後の労働条件は、別段の定めがある場合を除き、従前と同一の労働条件にするという無期転換ルールが合意されたものであるということにつきましても御理解をいただきたいと思います。
○高橋(千)委員 新たな階層が生まれるということをお認めになったと思います。非常に重大かなと思います。
さらに、六カ月以上のクーリング期間があれば、雇用期間がリセットされて、何度でも有期契約ができることになってしまいます。これも無期労働契約への転換を規定した趣旨からいって矛盾しませんか。これも削除すべきだと思いますが、大臣、どうですか。
○小宮山国務大臣 仮にクーリング期間を認めないことにすると、五年で離職をした労働者が再度同じ企業で働くことが事実上困難になりまして、同一の企業での再雇用を希望する労働者の就職選択の幅が狭められてしまう、このような問題を防ぐためにもクーリング期間を認める必要があると考えています。
なお、無期転換ルールを導入する諸外国でも一定の条件でクーリングを認めるのが一般的で、例えば、フランスは原則、契約期間の二分の一、オランダが三カ月、ドイツでは判例で三年となっているというように承知をしています。
○高橋(千)委員 フランスやドイツの、全体の、均等待遇ですとか規制ができているところと、そこの部分だけ比較をして言ってはならないと思いますし、これは、今ちょっと、就職選択のニーズがあるからというお話をしましたけれども、使用者側はもっと短くていいと言っているわけですよね。そういう中で出てきた議論なんだということをやはりちゃんとお認めにならないとだめなんだと思うんです。絶えず、都合のいいときだけ、雇用者のニーズがあるかのように言われているということは、非常に見過ごしできないと思うんですね。
そして、資料の二枚目を見ていただきたいんですけれども、クーリング期間の算定に係る規定。六カ月、六カ月とよく言うんですが、必ずしもその間が六カ月であるとは限らないわけで、その前の契約期間が一年未満であれば、その二分の一を、今言ったフランスに似ているわけですけれども、クーリング期間とするということになっているわけです。
そうすると、上の方は、三カ月、三カ月、三カ月で、間があくのはたった一カ月なので、これはもうリセットはしない。しかし、下の方は、二カ月と三カ月の間に二カ月のクーリング期間が、これは二分の一を超えているのでリセットできるということになっちゃうわけですね。
そうすると、本当に細切れの契約をつないでいって、ちょうどよくクーリング期間を置けば、どんどん長く雇い入れることができることになりませんか。
○西村副大臣 クーリング期間についてでございますけれども、これは、短過ぎる場合には無期転換ルールの導入の効果を減殺させる一方で、長過ぎる場合には労働者の雇用機会の確保等の観点から問題となってまいります。
このため、両者のバランスと労働政策審議会の建議に沿って、契約期間が一年未満の場合には、その二分の一に相当する期間をクーリング期間とさせていただいたところでございます。
○高橋(千)委員 ですから、結果として、細切れの不安定雇用が、五年と言わず、続いていくということになりませんか。
○金子政府参考人 お示しいただいた非常に短期間でのクーリングにつきましては、法律の基本的な考え方は、一年を超えるケースでは六カ月というふうに設定をしておりますが、一年に満たないようなケースについて六カ月という設定をいたしますと、さすがにバランスを欠くことになるだろうということで、これにつきましては二分の一ということで想定をして、法律案を策定させていただいたものでございます。
いずれにいたしましても、クーリング期間、両面があるわけでございます。引き続きそこで働きたいという御希望をお持ちの労働者の方の雇用機会を狭めるということも問題であるわけでございますので、こうしたルールにつきましては適正な運用がなされるよう、いろいろな形で周知をし、要請をしていきたいというふうに考えております。
○高橋(千)委員 今の答弁は、結局、バランスを欠くなどということを言ったんですけれども、細切れの雇用があるのが当然だという発想から出ているんですね。とてもこういうのは認められないと思います。
先ほど来、ちょっとニーズ論の話が出ていて、私、ちょっと言い忘れましたけれども、やはり民法六百二十七条で、労働者は解約の申し入れができる、つまり、期間の期限がなくても解約の申し入れができるというふうになっているわけなんです。だから、有期をわざわざ望んでいるのではなくて、それしかないという選択の中で、無期が当たり前のルールにしていくこと、そのことによって、ニーズだってきちんと応えていく仕組みはあるんだということを指摘していかなければならないと思います。
それで、二つ目のポイントですけれども、提案理由の説明では、第十九条を、判例法理として裁判上確定している雇いどめ法理を法律に規定して、明確にしたと言っています。本当にそうでしょうか。
資料の三枚目を見ていただきたいんですけれども、先ほど来言っている労政審の建議に、ここだけは忠実ではないわけですね。有期が無期と実質的に異ならない状態である、期間終了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる、そういう書きぶりになっているかと思います。これは、判例法理として、一九七〇年の東芝柳町工場事件最高裁判決、八一年の日立メディコ事件最高裁判決などがあると思うんですが、右側の政府案では、契約期間満了後に遅滞なく有期労働契約の締結を申し込んだ場合、こういう書きぶりになっているわけなんです。
そうすると、普通の労働者は、法律を熟知しているわけではないですので、雇いどめされて、自分の身に降りかかって初めて、組合に出会ったり、弁護士さんにたどり着いて、法律を知って、こういう権利があるんだといったころにはもう遅滞なくではないんだ、こういうことになっちゃうわけですね。
本当に皆さんがこの法理に基づいてというのであれば、それを具現化した労政審の建議に沿った書きぶりにするべきではないでしょうか。
○金子政府参考人 雇いどめ法理の法制化という点につきましては、これは審議会の中でもいろいろ議論がございましたが、審議会の一致した認識といたしまして、これまで形成されてまいりました判例法理を忠実に成文法化するという考え方のもとに法案を作成したものでございます。
違いがあるという点につきましては、制定法化をするに当たりましては、判例でございますと、いわば裁判の提起のようなものがあって裁判の判決が出るわけでございますが、一般的な形をした場合には、そういったことで、一定の成文法化した際にはそれに合わせた形で書く必要があるということで、内容につきましては忠実に判例法理を制定法化したものということで御理解を賜りたいと思います。
○高橋(千)委員 断じて認められません、今の答弁は。
通告もしているのに、しかも局長を呼んでいませんよ。念のために出るのを認めるというふうに言って、副大臣を指名しているのに出てきて、それで時間を稼ぐような答弁。答えになっていません。断じて認められません。忠実な書きぶりとはとても言えないと指摘をしたいと思います。
多分、副大臣に質問しても同じ答弁になると思いますので、我々は、断じて認められない、修正すべきだと指摘をしたいと思います。
三つ目のポイントは、本当は均等待遇でなければならなかったわけです。これも明記されませんでした。第二十条、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止について、何が不合理と考えられるのか、立証責任はどうなるのか、伺います。
○西村副大臣 お答えいたします。
有期契約労働者の労働条件が不合理であると認められるか否かにつきましては、無期契約労働者と有期契約労働者の労働条件の違いについて、職務の内容や配置の変更の範囲などを考慮して判断されることになります。
このため、職務や長期的な人材活用と直接関係しないこと、その使用者のもとで働くこと自体によって生ずるような性格の処遇、例えば通勤手当などについては、有期契約労働者と無期契約労働者との間で支給するか不支給とするかの差を設けることは、特段の理由がない限り、合理的とは認められがたいというふうに考えております。
また、裁判上の立証については、一方の当事者が全ての責任を負担するものではなく、双方が主張、立証を尽くした結果が評価されることになると考えております。
○高橋(千)委員 これも非常に実際には狭められることになるだろうと思います。
資料の一枚目に戻りますと、やはり野党時代の民主党は、この問題、第三十九条で差別的取り扱いの禁止ということで書いているわけです。しかも、賃金その他の労働条件についてと明確に書いている。やはり、ここがきちんと書かれていなければ本当の均等待遇の趣旨は生かされないわけですよ。合理的な理由がある場合でなければ、通常の労働者と差別的取り扱いをしてはならない。合理的な理由がある場合でなければというふうに改めるべきだと思います。
もう時間になりましたので、大臣に、最後、政府の国家戦略会議フロンティア分科会が七月六日に報告書を出しました。企業内人材の新陳代謝を促す柔軟な雇用ルールを整備するといって、定年制の廃止とかさまざまある中で、有期を基本とした雇用契約とすべきであると、ここまで踏み込んだ表現をされているわけですよね。
本当に、有期契約のあり方、これまで議論してきて、一歩前進などといったことももう本当にひっくり返ってしまうような議論であると、私は認められないと思いますが、大臣、同じなんですか。一言でお願いします。
○小宮山国務大臣 御指摘の報告書は、国家戦略会議のフロンティア分科会、これは各界を代表する有識者からの御提言を取りまとめたもので、これが政府の方針に直ちになるわけではありません。二〇五〇年の日本のあるべき姿、これの問題提起だと考えています。
厚生労働省としては、今の有期契約労働者が置かれた状況から今回の法案を提出しておりますので、まずは、この成立後、円滑な施行に万全を期したいと思っています。
○高橋(千)委員 ぜひ続きをやらせていただきたいと思います。
終わります。