政策と提案

石川島播磨重工業(株)での思想差別の調査及び是正指導に関する質問主意書

平成十八年十二月十三日提出

質問第二五五号

 提出者

 笠井 亮    高橋千鶴子

基本的人権を定める日本国憲法が公布されて六十年、労働者の思想信条の自由を定める労働基準法が公布されて五十九年を経た。しかし、労働現場における実態は今日なおこれらの規定とかけ離れている。

 このことは、関西電力・中部電力・東京電力やクラボウ事件、鈴木自動車の思想差別事件などをはじめとした幾つかの裁判や労働委員会の判断などが端的に示している。更に、重大なことは、裁判等で基本的人権の侵害に対する厳しい判断が下されても、今なお是正されることなく続けられ、動かぬ事実を突きつけられても人権侵害、思想差別・性差別が放置されている状況にあることである。こうした状況は、職場における自由と民主主義を侵害し、労働者の安全衛生が軽視されていることと裏腹の関係になっていると言わざるを得ない。

 わが国は労働基準法(第三条)において、労働者の人権侵害が行われ差別された場合においては、裁判所に訴えることなく救済・是正する制度を設け、労働基準監督機関と所属する労働基準監督官に一定の強力な権限を与えている。

 労働現場における思想信条の自由の確保、性による差別の一掃において、これらの監督機関が果たすべき役割はまことに大きい。

 石川島播磨重工業(株)は、一八五三(嘉永六)年に設立された石川島造船所を母体として、創業以来百五十年余にわたり操業してきた会社で、現在、船舶・艦艇・海洋構造物などの開発設計・製造販売をはじめ多くの産業分野の機械器具装置の製造販売、さらにロケットエンジンなど航空分野の機器の製造販売を行っている資本金六四九億円、子会社等約百五十社、従業員約二万三千人に及ぶ世界的にも知られた大企業であるとともに、平成十七年度までの十年間、防衛庁だけでも国民の税金である国の予算から五七七一億円にものぼる発注を受けており、社会的責任の大きい会社である。

 ところがこの石川島播磨重工業(株)は、長い年月にわたって会社の意に反する労働者に対しては悉く、憲法や労働基準法に反する思想差別を基本とした労務政策を採ってきたのである。

 このことは、今から四年前の二〇〇二年十一月十五日の衆議院厚生労働委員会において、日本共産党の小沢和秋議員(当時)によって、「ZC(ゼロ・コミュニスト)計画管理者名簿」という戦前の特高警察まがいの『共産党員の撲滅』を意図する計画と名簿の存在が明らかにされ、厚生労働大臣に厳正な調査が要求されている。更に、翌年の二〇〇三年四月十七日には、参議院の厚生労働委員会において、日本共産党の井上美代議員(当時)が改めて厳正な調査を要求している。

 このような国会での、石川島播磨重工業(株)の憲法や労働基準法に明確に反する「企業犯罪」の追及や裁判での前進に励まされ、労働者や退職者から差別の是正、受けた損害の回復を求める声と運動が急速に広がり、昨年(〇五年)の春までには五県の労働局七労働基準監督署に対して、実に百四十九名の労働者(退職者を含む)が、差別を受けた事実とその是正を求め、労働基準法・第百四条に基づく「申告」を行っている。このような多数の労働者が実名を名乗り、労働基準法・第三条に反する「思想差別」を会社が行ったとして、監督機関に申告を行ったということは、いまだかつて無かったことであろう。

 社会的正義を求める勇気ある労働者の運動が広がるなかで、ある日、突然に「内部告発」文書として『厳秘』や「マル秘」のハンコが打ってある資料が申告者らに提供されるに至った。

 会社の思想差別政策の存在を決定的に証明するこれらの「資料」は、申告者である労働者の側から既に、厚生労働省本省・労働基準局は勿論のこと、管轄の五県の労働局や七労働基準監督署に提供されているとのことである。

 これらの資料を一瞥するならば、労働基準監督官ならずとも、労働問題に専門的な知識がなくても会社の行って来た差別政策がどういうものであったかは、「瞬時」とまでは言わなくても、数分も資料を見るならば誰でも、そのひどさが判るものである。例えばこの『厳秘』文書には、当時三十九歳の労働者M氏が実名で差別評価の「基準」とされている。そのM氏は、当時まだ三十九歳であるにもかかわらず、二十一年先の六十歳の定年まで、「まだ働いてもいない『未知の労働の結果』まで」、既に全て「評価されている」のである。会社の意に沿ぐわなかったとしても、そのこととは全く関係なく、本来「個人の自由であるべき」考え方や思想を持っていることを理由にして、二十一年先までの「昇進・昇格」の差別計画を決めていたのである。このような差別政策を、「世界に名の知れた大企業・石川島播磨重工業(株)」が、我が国社会の中で平然と長期にわたり行ってきたのである。

 石川島播磨重工業(株)は前述のように、政府との契約・受注関係を抜きにしては安定的な会社存続の保証はないと言っても過言ではない。

 だからこそ石川島播磨重工業(株)は、例え『談合だ』、『違法な天下りの受入れ企業だ』等々の批判と誹りを受けようとも、国民に対して全く口をつぐみ、『時の過ぎ去るのをジッと待つのみ』という体質で生き長らえてきたとも言える。表向きに「CSR(企業の社会的責任)」だとか、「コンプライアンス(法令順守義務)」を言いつつ、今なお基本的な人権思想さえ企業内に定着させていない、前近代的企業の姿を国民の前に表しているのである。

 百四十九名という「空前の規模」の労働基準法・第三条に関する「申告」が行われて、既に一年九ヶ月が経過している。今、問われていることは、労働基準法に基づく監督権限を有する厚生労働省の、行政上の適切かつ厳正な措置が改めて強く求められるところである。

 よって、今日までいかなる調査を行い、差別是正のためにいつ、どのような行政指導を行うつもりでいるのか、国会法第七十四条に基づき、以下の通り質問する。

一 一九八七年四月から二〇〇六年十一月まで、全国の労働基準監督署に労働基準法・第三条違反として、相談並びに申告された件数、更に告訴・告発された件数はそれぞれ何件だったのか。

二 「思想信条による差別」として、申告を受けて、『是正勧告書(甲・乙)』や『指導票』を交付した件数、また、「司法捜査」を行った件数、並びに「起訴」に至った件数はどれだけか。

三 企業が、従業員の思想信条を「調査」し、「管理すること」、しかも労働者本人に『断り無く』行うことは、労働者のプライバシーの、重大な侵害であるが、わが国においては、このようなことは、何ら、法令に抵触しないという判断でいるのかどうか、お答え願いたい。

四 前述のように、申告者ら百四十九名は、昨年(〇五年)の春頃までに、「申告」を行うとともに、自ら持っている資料及び情報を隠すことなく、それぞれの監督機関に提出・提供もしてきた。

 申告者らの監督機関への協力は極めて評価すべきであろう。

 そこで聞くが、五局七署への申告後、実に一年九ヶ月が経過したが、差別政策を起案・作成し、全国の事業所へ、その実施と履行を業務上「強制した」本社への調査はどのように行われたのか、答弁できる範囲はあると思うが、説明して戴きたい。

五 石川島播磨重工業(株)の差別政策は、それぞれの事業所でバラバラに実施されたのではない。本社が基準を示し、本社の指揮の下に行われたものである。従って、この調査を行う場合、それぞれの事業所を管轄する労働基準監督署に任せるべきではない。労働基準法・第九十九条第四項に基づき、本省が指導的な役割を果たさなければ、「本社(人事部)主導の企業犯罪」の調査の実を挙げることは不可能であることは、容易に察せられることである。

 本件の場合、申告者らは繰り返し「本省の積極的な役割の発揮」を要請していると言うが、どのように措置されたのか、明確な説明を求めたい。

 右質問する。

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