病害虫防疫所の職員に要する経費などを一般財源化する、植物防疫法の一部を改正する法律案の採決が十七日の衆院農水委員会で行われ、自民、公明両党の賛成多数で可決されました。日本共産党、民主党、社民党は反対しました。
反対討論で日本共産党の高橋ちづ子議員は?経費を交付金の対象外にするのは、国防疫事業にたいする責任の後退?「三位一体改革」として削減される交付金は、所得譲与税で財源手当てされるというが、従来どおりの予算額が保障されるとは言えず植物防疫事業の不安定化をまねく――と述べました。
採決に先立ち、高橋氏は、リンゴの火傷(かしょう)病にかかわる検疫問題で、輸入拡大のためアメリカなどの要求にこたえ、安全性を後退させることがあってはならないと追求。火傷病は、リンゴ、梨などの果樹に重大な被害をもたらすアメリカ東部原産の風土病で世界各地に感染が拡大。日本では未発生です。
高橋氏は、ミカンの対米輸出では感染症除去のため厳しいチェックを受けていると指摘。「日本には厳しい条件をつきつけながら、リンゴを輸入しろとの横暴に屈してはならない」とのべ、必要な検疫措置をとるよう求めました。中川坦農水省消費・安全局長は「火傷病がはいることがないよう日米二カ国協議にあたる」と答えました。
高橋氏は、生産者の不安にこたえるため公聴会を開くべきだと要求。亀井善之農水相は「適切な説明をし理解を得るようにしたい」と答えました。
(2004年3月18日(木)「しんぶん赤旗」より転載)
――― 議事録 ――――
○高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
先ほど来お話にありましたが、リンゴの火傷病にかかわる問題について伺いたいと思います。
火傷病は、もともとはアメリカ合衆国東部にあった風土病と言われており、ニューヨーク近郊のハドソン川流域で初めて発見されて以来、北米全体はもとより、ニュージーランドやイギリス、エジプトなど世界各地で蔓延している病害であります。
御案内の先生方には恐縮ですが、ぜひ写真を見ていただきたいと思うんですが、一番心配されているのはリンゴですけれども、これは未熟なリンゴについたバクテリアの分泌物ということで、このようになっています。
遠くから見るとわかると思うんですが、木全体が枯れている様子、それからナシにもうつる。まさにやけどのような状態になるということで火傷病と言われているわけですが、葉っぱにも枝にも、全体に広がる、樹木全体に広がるということ、あるいは今お話ししたようにリンゴだけではなくナシや花などにも影響があるということで、これが侵入すればまさに全国的に重大な損害をもたらす病気だと認識しております。
平成十四年の五月に、米国産リンゴの火傷病にかかわる日本の植物検疫措置がSPS協定等と整合的でないとしてWTO紛争解決機関にパネルの設置を求めた件で、十五年十一月に上級委員会報告が公表され、同年十二月に確定しました。この勧告を本年六月三十日までに実施することで米国と合意をし、これを受けて三月四日、五日に日米技術協議が行われた。そのことが先ほどの質疑であったわけですけれども、もう少し内容を具体的にお話ししていただきたいと思うんです。何が問題となっているのか、お願いします。
〔委員長退席、小平委員長代理着席〕
○中川政府参考人 平成六年の八月に米国産リンゴの輸入の解禁をしたわけでありますけれども、その際に、検疫措置としまして、四つの要素といいますか、四つの条件を課したわけでございます。一つは無病園地の指定ということ、二つ目が五百メートルの緩衝地帯の設置、三つ目が年三回の園地検査、それから四点目としまして果実表面の塩素殺菌、こういう四つの要素でありますけれども、こういった複数の要素から構成をされます全体として一つの措置、これが日本がアメリカの輸入リンゴに対して課しております検疫措置ということでございます。
その中で、五百メートルの緩衝地帯の設置と年三回の園地検査につきまして、パネルで議論されました際に、パネルの委員が火傷病の専門家に意見を求めたわけであります。その意見を聴取したところ、これらの措置、今申し上げた五百メートルの緩衝措置なり年三回の園地検査でありますけれども、こういったものが過剰であるという一致した意見があったということで、これを踏まえまして、パネルあるいはその後の上級委員会でもって我が国の措置が全体として協定に違反をしておるという判断が下されたということでございます。
○高橋委員 今、五百メートルの緩衝地帯の問題と年三回の検査ということでありましたので、これまで日本が主張してきた四点全体が否定されたわけではないというふうに確認してよろしいかと思います。
それで、SPS協定上、WTO加盟国は、人、動物または植物の生命または健康を保護するために必要な衛生植物検疫措置をとることができるとされておりますが、貿易に対する悪影響を最小限とするためのルールとして、国際的な調和だということで、国際基準や指針あるいは勧告がある場合には原則としてそれに基づいた措置をとることとされています。
ただ、科学的に正当な理由がある場合は、国際基準等よりも厳しい措置を導入することができることを定めていると思います。この科学的に正当な理由とは、例えば、食習慣の違い等により日本人のある食品の摂取量がほかの国とは大いに異なる、自然環境や地理的条件が違う、そうしたことで有害動植物あるいは病気の分布状況が異なる場合などがあるということが当然考慮されていいわけですよね。この点について日本は主張してきたのかどうか、当然だと思いますが、一応確認いたします。
○中川政府参考人 パネルの審議の際に、日本は、日本が主張しているいろいろな論文なども根拠に示しながら、日本がアメリカ側に要求している措置の正当性というものについては最大限努力をして主張してきたところでございます。
ただ、結果としては、残念ながら、そういった日本の主張について十分な配慮が払われない結果になったということでございます。
○高橋委員 その残念な結果をどう今後打開していくかという問題ですよね。
植物防疫所調査研究報告、植防研報と言うそうですが、第三十八号補冊、平成十四年に出されておりますが、火傷病菌のリンゴ成熟果実内汚染に関する野外調査、アメリカとの共同試験を行ったということでのレポートが出されております。
いわゆる五百メートルの緩衝地帯の問題が正当性があるかという点で、自然発生源と人口的に細菌をつけた園とで比較をして、どの程度分布が見られるかという実験をされて、結果としては明確な結果は得られなかったということなんですけれども、そのレポートの中で、今回実験をやった地域はことしは特に雨量が平均の半分ということで、例年とは違う乾燥状態が続いているということですね。それで、ナシはあるんですけれども、リンゴでの火傷病の発生記録はなく、環境的にも園地の乾燥が激しく、本試験に適した園地とは言いがたいという指摘をして、火傷病の伝染源からどれぐらいの距離を置くとリンゴの果実が火傷病菌に汚染されることがないかを実証するためには、火傷病の多発する地域の複数の園地で反復して試験を実施する必要がある、こういう指摘もされております。
ですから、日本としても、こうした多発している地域などを複数見て試験研究などをする、そして科学的なデータを得られるという努力が当然求められると思うんですが、その点についてはいかがでしょうか。
○中川政府参考人 パネルの審議の過程でできるだけいろいろな情報を集めて、それに基づいて日本が主張をしていくということは当然やるべきことだというふうに思っております。ただ、パネル及び上級委員会の判断が既に示されたということでありますし、アメリカとの間で六月の三十日という期限を切って実施をするということについて約束をしたわけであります。
これから大事なことは、やはり一定の、SPSの協定に整合した形というその中で、アメリカ側からリンゴを輸入するに当たって火傷病が日本に侵入することがないように、そういった措置をこれから二国間の協議の中で実現していくということが大変大事だというふうに思っております。
○高橋委員 では、例えばミカンなどの場合、かんきつ潰瘍病の防除のために、輸出するに当たっては厳しいアメリカのチェックを受けていると思いますけれども、どのようになっておりますか。
○中川政府参考人 お答え申し上げます。
米国は、かんきつ潰瘍病の侵入を防止するための緩衝地帯として四百メートルという条件を課しております。
○高橋委員 今四百メートルというお答えがありました。温州ミカンについても、これは一つの園地でしかアメリカ向けの輸出をしていないということを聞いておりますけれども、やはり病害虫の侵入を禁止するという立場で、アメリカは日本に対して厳しい措置を求めているわけですよね。これはミカンが四百だからリンゴは四百という単純な議論ではなくて、当然、アメリカに対しても、日本はそういう厳しい主張をできるはずだ。
何かBSEと同じなんですよね。アメリカは日本に対しては厳しい条件を言うけれども、自分たちのはとにかく入れろと。基本的に、日本にとってリンゴというのは別に欲しいものではありませんよね。「ふじ」の産地の青森県にとっても何の必要もないものを、アメリカの強い要求に屈してはならないと思うんですね。その点ではもう一度伺いたいと思いますけれども、どうですか。
○中川政府参考人 これは、現在行っております日米間の協議におきまして私ども一番大事な点は、二国間の合意を得るに当たって、その措置によってアメリカからのリンゴの輸入に伴って火傷病が国内に入るということがあってはいけないというふうに思っております。
したがいまして、そこを十分担保できるような形で二国間の合意を得るようにできるだけの努力をしたいというふうに思います。
〔小平委員長代理退席、委員長着席〕
○高橋委員 その努力の中身なんですけれども、アメリカ植物病理学会が刊行した「プラントディジーズ」によれば、二十一世紀における火傷病対策が進展してきているとるる紹介した後で、しかし、「火傷病は防除の難しい病害のままである」と指摘をして、ストレプトマイシンを現在散布しているんですが、それがまだ完全ではないこと、それから、ストレプトマイシンの耐性火傷病菌も広い範囲でもう発達してきていて、「これに対する防除剤はない」という指摘をしております。
ですから、ナシ類果物産業に対する火傷病の引き続く脅威は、世界じゅうで起こっている最近の流行からも明らかと指摘をしていることや、二〇〇〇年のミシガン南西部における火傷病流行では四千二百万ドル、約五十億円の損失だった、二百四十ヘクタール以上のリンゴ果樹の除去を行った、米国では、火傷病における年間損失、その防除費は毎年一億ドル以上という指摘もされております。
そういう実態がアメリカでは認識をされているわけですが、日本ではこのことをどう受けとめているのか。日本における植物検疫の予算は、輸入検疫で九十三億円、国内防疫と合わせて百三億円ということでありますが、万が一この侵入を許した場合の損失などを想定していらっしゃるでしょうか、伺います。
○中川政府参考人 火傷病を禁止対象の病害に指定をしたのは一九九六年でありますけれども、その際に、この火傷病に対します危険度評価というものを我が国でも実施をいたしております。その際に、病害虫の危険度評価というものは、その病害虫の性質ですとか、あるいは宿主になります植物、あるいは日本の自然環境への適応性、いろいろなものを考慮して評価をしたわけであります。
万一火傷病が日本に侵入をした場合の根絶防除のための経費につきまして具体的に試算をするということはなかなか難しいわけでありますが、火傷病に類似をしたナシの枝枯れ細菌病というのがございます。これは北海道のごく限られた地域に発生をしたことがありますが、その際に、防除のために一億四千万ほどの防除費用がかかったという例がございます。火傷病は、このナシの枝枯れ細菌病に比べましても、さらに影響が大きいというふうなことが想定をされますので、そういった防除費用についても、今申し上げた数字よりはさらに大きな数字になるというふうに思います。
○高橋委員 今、影響の大きいというお話がありましたけれども、そういうことを踏まえて、ぜひ大臣に伺いたいと思います。
まず、輸入検疫体制の抜本強化、これは、先ほど津島委員の質問の中でも出されておりましたので、ぜひ強く要望しておきます。
二つ目に、海外への派遣。試験研究体制が日本にないわけですから、日本に発生していないわけですから、当然そうした体制をやっていく必要があると思いますが、いかがか。
それから三つ目に、国内防除の問題ですね。先ほど来、病害虫防除員の都道府県の配置の問題が言われておりますけれども、平成十年から十四年の間に千二百人削減されております。国の発生予察事業を初めとした防除事業に関する交付金は四十七億円ですが、四十七億円は全体で、かかっているうち二割しか国は交付金の手当てをしていません。あとはもともと都道府県の持ち出しであります。防除事業を一生懸命やろうとすれば、当然持ち出しがふえるという格好にもなります。そういう意味でも、国内防除の体制はもっと強化が求められると思いますが、見解を伺います。
○亀井国務大臣 先ほど来、それぞれお話しいただきますとおり、植物防疫の重要性は大変大きなものがあるわけであります。そういう中で、でき得る限りの体制、こういう面で、重要な検疫、防疫の問題に十分意を尽くしてまいりたい、このように考えております。
また、いろいろ外国の情報を得るとか、関係府省とも十分連携をとり、その対応をしっかりやってまいりたい、このように考えております。
○高橋委員 少し具体的じゃなかったなと思うんですが、火傷病の問題について、大臣、生産者の皆さんが大変不安に思っております。各県から、青森県だけじゃなく長野県なども含めて、意見書も上がっております。ですから、それをどう受けとめるかということがまず一つ。
それから、そういう生産者の皆さんの不安にこたえるためには、きちんと国の決意あるいはこうやっていくんだということを説明もし、意見もいただく、そういう公聴会あるいはそれに匹敵するような機会を設けていただきたいと思いますが、伺います。
○亀井国務大臣 今、米国との二国間の協議、またWTOの紛争処理手続に基づくパネル、上級委員会におきます審議の経緯、結果等、適時適切に公表してきたところでもございます。
しかし、先般のWTOの勧告を踏まえまして、火傷病の植物検疫措置の見直しの具体的な内容につきましては、米国との協議が継続中でありまして、その内容は確定していないわけでありますが、この見直しに当たりましても、従来から生産者を初め関係者への説明や質疑の場を設けるなど、新しい措置の内容及びその技術的な根拠に基づきまして十分説明を行い、そして理解を得るように努めてまいりたい。さらにはまた、適当な時期に生産者への適切な説明も行い、関係者の理解を十分得るような努力をしてまいりたい、このように考えております。
○高橋委員 関係者の理解を得るように説明をしていくとおっしゃっていただいたと思うので、そこは確認をしたいと思います。
最後になりますが、確かに、植物検疫の分野では、検疫の件数もふえ、人員も増員をされて、大変な努力をされているのは承知をしています。
ただ、一方では、着実に輸入品目がふえております。平成七年の七千品目から比べると、平成十四年は八千品目にもなっている。七〇年代から我が国で発見された病害虫は二十三種だったのが、もう四十二種にもなっている。さっきのウリミバエの話でも、二十二年間にわたって二百四億円、それだけのお金を割いてしまった。そもそも入らなければもっとよかったわけでありまして、輸入大国の日本が安全や安心よりもいわゆる国際貿易を優先させる、そういう国際基準にどうしても合わせてきた、このことがやはり問われていると思うんですね。
この問題では、やはりそういう立場に立って、しっかり反省するところは反省もして、アメリカにはきっちりと物を言っていくということを確認したいんですが、大臣の決意、お願いいたします。
○亀井国務大臣 特に、火傷病の侵入を防ぐためには十分な措置が確保されるということが重要でありますし、その最大限の努力をしてまいりたい。
また、あわせて、植物検疫の問題、いろいろ防疫員の拡充の問題等々踏まえて、国民の食の安全、安心、こういう視点に立つことが重要なことでありますし、そういう面で最大限の努力をしてまいりたい、このように考えております。
○高橋委員 これで終わります。ありがとうございました。
植物防疫法一部改正案に対する反対討論
○高橋委員 日本共産党を代表して、植物防疫法の一部を改正する法律案について反対の討論を行います。
反対の第一の理由は、都道府県の病害虫防除所の職員等の設置費を交付金の対象外にすることは、国の防除事業に対する責任の後退であるからです。都道府県の植物防疫所の業務のうち、国の指定する発生予察事業は全国的、統一的な基準のもとに行われ、食料の安定供給や農業振興の上で極めて重要な部分であります。引き続き国の責任ある関与が重要です。そのためには、その関係経費のみならず、必要な職員等設置費についても現状どおり交付金として措置すべきであり、一般財源化することは適切ではありません。
反対の第二は、三位一体改革の中で、交付金は当面所得譲与税の一部として手当てされるといいますが、従来どおりの水準の予算額が保障され得るとは言えないからであります。すなわち、全体の所得譲与税は、廃止される補助負担金に比べ大幅に削減されており、しかも人口割で配分されるので、植物防除と関係の深い農村県ほど少なくなります。また、地方交付税全体が大幅に削減されるもとでは、都道府県財政が一層逼迫しております。こうした中での今回の法改正は、植物防除事業、とりわけ発生予察事業にかかわる職員等の予算確保と事業そのものの一層の不安定化を招かざるを得ないものです。
以上を申し上げまして、反対討論といたします。