衆議院農林水産委員会で二十一日、農業委員会の必置面積の見直しや、地域農業改良普及センターの必置規制の廃止などを盛り込んだ農業委員会法と農業改良助長法の両「改正」案が自民、公明、民主、社民各党の賛成多数で可決されました。日本共産党は反対しました。
採決に先立つ質疑で高橋ちづ子議員は、一九九五年度と二○○二年度を比べると、地域農業改良普及センターが83%、改良普及員が88%も削減され、経営耕地面積や農業従事者数の減少を上回っていることを指摘。地域農業改良普及センターの必置規制が廃止されれば、地域農業にとって重要な「直接農業者に接して」という指導ができなくなるとのべました。
農林水産省の川村秀三郎経営局長は、「行財政改革の中でスリム化が行われ普及活動も統合で数が減少している」としつつも、「自主性を発揮して的確に展開できるように重点化、高度化して対応したい」と答えました。
高橋氏は、センターがさらに集約されると活動範囲が広くなって時間もかかり、現場が遠くなるため普及員の姿が見えなくなり、やがては普及員はいらないという悪循環になりかねないと追及。川村経営局長は「現場まで時間がかかるとはいえない。弾力的、機動的にすることも可能だ」と答えました。
(2004年4月30日(金)「しんぶん赤旗」より転載)
――― 議事録 ――――
○高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
初めに、農業改良助長法の一部改正について質問させていただきます。
先週の委員会の質疑の中で、経営局長が答弁でこのようにお話ししております。「普及員の特質というのは、」「改良助長法の中にも書いてございますけれども、「農業者に接して、」という文言がございます。まさにそこが特質でございまして、普及事業は人によって成り立っておりますし、また、現場、これによって成り立っておるわけでございます。」と述べております。仲野委員に対する答弁でございましたが、私がこだわっているのもここであります。
確かに、助長法の八条の二項にありました。「巡回指導、相談、農場展示、講習会の開催その他の手段により、直接農業者に接して、農業生産方式の合理化その他農業経営の改善又は農村生活の改善に関する科学的技術及び知識の普及指導を行うこと。」とあります。改正前の案文と比べますと、一言語句が抜けたものの、基本的にはこの部分は変わっていないかと思われます。
普及指導員という形で一元化された後の名称で使われておりますが、この役割は、今回の改正によっても基本的に変わっていないということを確認してよろしいですね。
〔小平委員長代理退席、委員長着席〕
○川村政府参考人 普及の職員につきましては、専門技術員と改良普及員を一本化して、新しい普及指導員という形での統一性を図ります。その機能は、今高橋委員から御指摘のありましたとおり、まさに、現場を重視して、現場のニーズに対応して農業技術の改善、普及を図っていくということだろうと思っておりまして、その点で、現場重視ということはこれまで以上に発揮をしていくべきものと考えております。
○高橋委員 ありがとうございます。
今回の改正では、地域農業改良普及センターの必置規制の廃止が挙げられているわけですが、私は、これで「直接農業者に接して、」という指導ができるのかということに問題意識を持っております。
まず伺いますが、都道府県では既に地域農業改良普及センターの統合などを進めてきていると思いますが、それがどのような状況になっているのか、また、普及関係職員の数がどうなっているのか、伺います。これらによる影響について、国として考えていることを伺いたいと思います。
○川村政府参考人 今お尋ねの件でございますが、確かに、近年、都道府県におきましては全般的に、行財政改革の流れもございまして、農業部門の行政組織についても例外なくスリム化が行われておるというのが実情でございまして、普及職員につきましても、おおむね同じような程度の職員数の減少等が行われております。それからまた、普及センターにつきましても、普及活動の効率化の視点、あるいは県の出先の組織体制の改編等がございましたので、これに伴って統合が行われまして、数が減少しているというのが実情だと思います。
こういう現状はあるわけでございますけれども、私ども、今回の制度改正で、都道府県がその自主性を発揮されまして、農業者の方々の要求される高度で多様なニーズに対応できる普及事業、そういうものがより的確に展開できますように、先ほど申し上げましたが、普及職員の一元化、それから普及センターの必置規制を廃止するということでより重点化、高度化ということでございます。これによりまして、スリム化することはしますけれども、精鋭化した体制の中で普及事業をより効率的に実施できるように、そういう取り組みをできるようにしていきたいということでございます。
○高橋委員 最近の地域農業改良普及センター、改良普及員の推移という農林水産省のデータがありますけれども、平成七年度を一〇〇とすると、十四年度は、センター数で八三、普及員数は八八に減っております。ただ、経営耕地面積なら八九、基幹的農業従事者だと九〇であります。つまり、農家戸数が減っているとかという議論などもよく言われるけれども、耕地面積や農業従事者数と比較しても、減り幅が大きいということが言えるのではないかと思うんです。
農林水産省の調べで、普及職員の活動実態調査、普及員の一人一カ月当たりの活動時間が、現地活動が五十二・二時間、三三・四%。活動準備に要する時間が五十五・七時間で三五・六%、残りは会議だとか実務などがいろいろあるわけですが、今でさえこうだ、三割にしかならない。行政の仕事がどんどん押してきてなかなか現場に行けないんだということは、今現在も言われているんですね。
それが、活動範囲が広がっていくとどうなるか。移動時間だけがどんどんかかって、ちっとも現場に行けないじゃないか。現場が遠ざかると、農家からすると、普及員の姿が見えないということになっていくわけですね。そういう指摘に対して、どうお考えになりますか。
○亀井国務大臣 近年の農業経営の高度化あるいは多様化、こういうことが進んでおるわけでありまして、普及センターについても、専門分野ごとの指導体制、あるいは、効率的にいろいろ行われる、統合、広域化が進められておるわけであります。近年、交通手段等も大分発達もしておるわけでありまして、普及センターの広域化、こういうものが現場までの距離を遠くしている、私は必ずしもこういうようには考えないわけであります。
今回のこの改正によりまして、普及センターの必置規制を廃止することによりまして、各都道府県の自主性、そういう中で、自県の農業振興に最も適した組織体制というものを弾力的に、機動的にすることが可能、このようにも思います。そういう面で、それぞれ地域ごとの環境保全型農業や担い手農家育成等の個別課題を専門的に担当するセンターあるいは広域的な産地育成を担当するセンター、こういうように、それぞれ、組織体制にとらわれずに、自由な組織体制というものができる、このように思います。
そういう面で、地域や農業者のニーズに対応した普及活動がなされる、このように思います。
○高橋委員 大臣は、先週の質疑の中で、農家と家族のようにつき合いながら、酒を酌み交わすなどして信頼関係も築き、すぐれた指導をしている普及員の活動を御自身も見て、十分承知をしているというふうに述べられたかと思うんです。
そこで、ぜひ紹介したいことがあるんですが、秋田県が行っている「平成十五年度 普及活動における第三者評価結果報告書」という冊子があります。本年度が本格的な第三者評価のスタート年でありまして、本年度というのは十五年度ですが、三つの普及センターを対象に、課題別にAからCの三段階で評価をしております。
ネギの安定生産による産地の維持・拡大、直売活動の充実強化、果樹経営の安定化に向けた樹種複合の推進、水田基盤整備後の新しい集落営農の構築など、さまざまなテーマがあり、総じてこの三つのセンターは高い評価を得ております。
このまとめの委員長のコメントの中で、現地視察などを通じて、特に心を打たれた点ということで、特記事項がありました。普及センターの重厚な指導のもとに集落営農組織をつくったある集落代表者の言に、
その人は、夜討ち朝駆けの普及員たちの情熱に敬意を表して「このような普及員を持っている秋田県も捨てたものじゃない」と真摯に訴えられた。この言に接して筆者は、普及という仕事は、今日の苛烈な状況の中においても、県という「公」を伴った固有名詞の活動として「公」への信頼を大きくし、良き地域、良き国づくりにつなげる道筋を付け得る立派な仕事なのだという確信を新たにした。同時にまた、そうした夜討ち朝駆けの「朝露の見える普及」の“情熱”がどこから、どうやって生まれるのか、大きな宿題も与えられた気がした。
と結んでおります。
私は、この第三者評価委員会が評価をした普及員の方に直接お会いしたんですけれども、その対象の集落には八十一回通ったそうです。もちろん夜討ち朝駆け、一人一人と丁寧に話し合いを続けて、意欲を引き出し、法人を一つの集落で複数つくったんです。本当に頭が下がりました。
この法人をつくったことによって、構成員の合意に基づき展開される形態であるために、水田と転作田の農業生産団地としての計画的な利活用ということでは、収益が確実に増大したこと、担い手機能を発揮して耕作放棄地の活用などが生まれたこと、そして、加工などの新たな可能性を開いたということなどを紹介されて、リーダーを集落の中でどう育てるか、これが普及員の大きな役割だというふうに述べているんです。
それで私は、改めて大臣に伺いたいと思うんですが、こういう普及員の活動、本当に貴重だと思われます。普及員の活動にセーブがかかってはならないと思います。また、この活動を保障する地域農業改良普及センターの機能は維持するべきだと思いますが、見解を伺います。
○亀井国務大臣 今お話しのような件、私も、規模は小さいわけでありますが、改良普及員の皆さん方とつき合いを持っておりまして、本当に献身的にいろいろな努力をされておりますことを承知いたしております。
そういう面で、いろいろ組織が変わるわけでありますが、普及員の組織、これを十二分にいろいろ活用し、そして、必置規制、これはそれぞれ都道府県での対応、組織体制というものがあるわけでありますが、そういうものを十二分に生かされて、また、その機能を発揮し、農業者の信頼にこたえる努力をぜひしていただきたい、このように思います。
○高橋委員 自治体の裁量、自主性といえば大変聞こえがよいんですけれども、これまでスリム化を図ってきた背景にも自治体の財政ということがあるわけですから、本当に基本的な機能を維持できるように、やはり国の体制というのも求めるべきじゃないかなと思っているんです。
それで、スリム化、重点化の問題なんですけれども、普及手当は上限撤廃するし、一元化もするということですよね。普及事業の在り方に関する検討会報告書骨子、平成十五年三月、「農業改良普及事業改革の基本方向について」によれば、普及職員に求められる機能として、高度、先進的な専門的な技術を指導する機能、スペシャリスト、あるいはスペシャリストや関係機関等との連携のもとに推進する地域農業のコーディネート機能、いわゆるアドバイザーだと。要するに、スペシャリストとアドバイザーにだけ交付金の対象職員を限定しろというふうに言っているわけですね。
私は、ここから考えられることは、今現場で頑張っている普及員でも、普及手当がどうなるかということもある。活動範囲が広くなり、行政実務はふえるけれども、なかなか成果が上がらない。そういう中で、本当に難しい、今でも二割に達しない合格率ですよね、これに本当にパスしてまで、次も頑張ろうという意欲がわくだろうか。結局は、一元化ということで、全体の普及員数が縮小されていくだろう。
そうなったときに、一方で出てくるのが弾力化という問題ですよね。そうすると、一方ではこれまで以上の手当を出して、民間人から人材を採用して、農業試験場を中心とした高度な専門研究分野はやられるだろう。しかし、そこで生かされるのは本当に経営革新を目指す一握りの認定農業者であって、大部分の地域農業が置き去りにされないかという不安があるんです。その点、いかがですか。
○川村政府参考人 まず、普及職員の一元化の問題でございますが、今回、一元化をいたしまして、受験資格としまして実務経験を課す、こういうことを考えております。そして、都道府県に職員として採用された後に実務経験を積んだ後、試験を受けていただく、こういう形のシステムを考えているところでございます。
これまで、やはり、今もいろいろな事例で申されましたように、普及職員、さすがに技術に裏づけをされまして、農家の方々の信頼を得るということが非常に現場を変えていく、その熱意ももちろん必要でございますし、現場の課題の解決能力、もちろんそういうものも必要でございますけれども、今、一般的に言いまして足りないものというのは、非常に技術の内容が高度化しているけれども、それに本当に対応できているのかという疑問、それから、もう少し、行政の中に埋没をしてしまわないで、やはり技術をベースにして地域のいろいろな課題を中核となって、いろいろな関係機関もありますので、そういう方々を結集し、あるいは連携することによって地域の課題を一体となって解決していくという、その二つの機能、それをやっていくべきだということでございます。
これまで、どちらかというと、非常に現場から離れたり、いろいろな行政的な事務にも時間を割かれたという実態もございますので、むしろ、技術的な集団としてより特化をしていって、そして、限られた人数ではございますけれども、やはり技術に裏づけされた農家、現場指導というもの、それから、その地域の中核となったオーガナイズとコーディネートというものをやっていくという機能に変えていくということで、そういうことによって、スリム化等が行われますけれども、かえって普及の存在意義が高まっていくのではないかというふうに考えているところであります。
○高橋委員 今おっしゃられた、現場から離れたり、あるいは行政実務に埋没したり、こうなってきた原因がどこにあるのかということだと思うんですね。それは、個人的にいろいろな努力が足りない人がいるかもわかりませんよ。それは私、全体のことはわかりません。しかし、そうせざるを得なかった、センターの交付金制度がいろいろ変わったり、センターが統合されたりして、現場から離れざるを得なくなったというような背景がある中で、スペシャリストとアドバイザーでそれをどう変えていくのかということですよね。
既にもう平成八年度から、普及指導対象農家数というのは、重点指導では、二十八万一千戸あったのが、平成十四年から二十三万八千戸、一般と合わせた合計数が二百十万八千戸から百五十七万四千、二五%減っているということで、対象農家をどんどん絞らざるを得なくなっていくということになると思うんですね。
私、さっき、後段の部分でお答えがなかったので、大臣にもう一回聞きたいんです。こういう、スペシャリスト、アドバイザーと絞っていく、重点対象農家も絞っていく、そういう中で地域農業が大部分置き去りにされるのではないかということに対して、大臣のお考え。大臣に聞いています。
○川村政府参考人 答弁がちょっと漏れていたということで。
まさにコーディネートの中では、農家を区別することなく、その地域におられます農家全般を対象にしていくということで、決して差別をするといったものではございません。ただ、高度化の方は対象がかなり絞られてくるというふうに思います。
○亀井国務大臣 普及事業、これは、地域の実情に合わせて各地方自治団体、県の創意工夫、これでやれるようにするわけでもあります。現在では、担い手あるいは先進農家にとっては一般的な普及員の指導では物足りない、こういう状況にもあるわけでありますし、一方、兼業農家には新たな作物の導入などに余り関心がないというところもございます。
そういう面で、普及事業、今回このような形で各都道府県、この中での組織体制等々工夫をし、そして農業者を支援する、そういうことができるように支援をしてまいりたい、こう思っております。
○高橋委員 時間がなくなったので、最後に一つだけ、農業委員のことを聞けなくなってしまったので、一つだけ聞きます。
都市農業の問題で、市街化区域内の農地を必置基準面積から除くということで、先般の参考人質疑で、対象外となる農業委員会が、東京、愛知、大阪等都市部を中心に二十三市区町村くらいだというお答えでありました。ただ、現在でも基準面積以下で農業委員会を置いている市町村が八七%もあるから、必要なところは置くんだということのお答えだったと思うんです。
ただ、今これがさらに引き上げられる、大幅に引き上げられる、そうすると交付金の算定基準も変えられるんだということで、非常に懸念がされているわけですね。二倍から三倍という声も聞かれていますが、どうなのか。東京都の農業会議は、四月六日に、「都市農業軽視の農業委員会法改正を糾弾する」という声明まで出しています。そういう現場の声に対して、審議を終わってから、大変な引き上げだったよということが後でわかったら困るわけですよね。
どう現場の理解を得るのか、その点だけ伺って、終わります。
○川村政府参考人 必置基準面積の引き上げでございますけれども、これは、今後の市町村合併に伴います農業委員会の区域の拡大の見通し、それから規模別の業務量等を勘案して、具体的な数値を精査いたしまして、政令で定めることにしております。
なお、任意設置になりまして設置された場合は、一切交付金等の算定においても差を設けることなく、ほかのものと区別することなく交付金の対象とするということでございますので、これはちょっと現場での誤解があると思います。これはまた再度周知徹底をしたいと思っております。
○高橋委員 ありがとうございました。
農業委員会法改正案に対する反対討論
○高橋委員 私は、日本共産党を代表し、農業委員会等に関する法律の一部改正案について反対討論を行います。
反対の第一の理由は、農業委員会の必置基準面積の算定から生産緑地以外の市街化区域内農地面積を除外すること、これは、三大都市圏の市街化区域を抱えている自治体から農業委員会を廃止することを促進することになり、その結果、都市農業の振興に障害をもたらすことになるという点であります。
第二の理由は、農業委員会の法令業務以外の任意業務について、農地に関する業務及び農業経営の合理化に関する業務に重点化することは、農業委員会の本来の発展方向ではなく、政府の農業構造改革路線の推進部隊に農業委員会を据えることになり、認めることはできないという点であります。
また、選挙委員の下限定数の条例への委任は、農業委員会における選挙委員の役割を低下させ、今後の農業委員の公選制の廃止に道を開くものであり、賛成することはできません。
以上、反対理由を述べて討論とします。
農業改良助長法改正案に対する反対討論
○高橋委員 私は、日本共産党を代表して、農業改良助長法の一部を改正する法律案に反対の立場で討論を行います。
反対理由の第一は、地域農業改良普及センターの必置規制を廃止することです。
農林水産省は、協同農業普及事業交付金を今後三年間でさらに二割削減することを約束しており、必置規制をなくせば、財政悪化に苦しむ都道府県が普及センターの廃止縮小を図ることは避けられません。普及センターは、普及職員の活動の拠点として、これ以上の機能低下は避けなければならず、必置規制は維持すべきです。
第二に、普及職員の一元化に伴い、協同農業普及事業の性格が変更を迫られることです。
法改正による普及職員の一元化に伴い、農林水産省は運営指針の見直しを行い、普及指導員が担う協同農業普及事業の内容について、普及事業の在り方に関する検討会報告に沿った見直しを行うとしています。これにより、国の交付金対象となる協同農業普及事業の対象となる活動は、先進的な経営体への高度な技術革新の支援となり、多様な就農者等の技術レベルの底上げのために支援等は、協同農業普及事業から除外されることになります。また、業務内容の縮小とともに、交付金の二割削減に伴い、普及職員の人員削減も避けられません。
今回の改正は、国が責任を持つ協同農業普及事業の内容を大幅に縮小、後退させ、現に地域農業を支えている大半の生産者をその対象から除外するものであり、地域農業を衰退させるものであります。
以上、反対理由を述べて、討論とします。