全駅に可動柵設置を/ 障害者団体参考人/高橋氏質問
衆院国土交通委員会で31日に参考人質疑が開かれ、高齢者や障害者らの移動の円滑化を促進するバリアフリー法改定案に関連し、研究者や障害者団体代表らから意見を聞きました。
全日本視覚障害者協議会の山城完治代表理事は、視覚障害者の駅ホームからの転落事故は「毎年60~70件も起きており、異常事態だ」と陳述。転落事故の事例を詳しく報告し、「すべて可動柵がなければ防げない事故です。ぜひご理解を」と語り、全駅に可動柵を設置するよう求めました。転落者を救出した実体験も紹介しながら、可動柵がない駅の場合は転落防止と救出のための人員配置の必要性を強調しました。自動車事故防止のため、横断歩道は音響式信号機とエスコートゾーンの設置を基本とすることも訴えました。
日本共産党の高橋千鶴子議員は質疑で、同法が「国民の協力」を強調していることをあげて「国民の理解や協力は必要だが、国や行政の責任でやるべきことがあるのではないか」と指摘。障害者権利条約との関係で、「心のバリアフリー」について考え方を聞きました。
中央大学の秋山哲男教授は、欧米と比べ日本の障害者の移動に対する行政の支援は手薄で「国民にまかせている」と発言。NPO法人ちゅうぶの尾上浩二代表理事は、車椅子で狭いエレベーターに乗る苦労を紹介し「ハード(設備)面で足りない部分をソフトで補うのは無理がある」と語りました。
(「しんぶん赤旗」2020年4月1日付より)
ー議事録ー
○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
本日は、三人の参考人の皆さん、本委員会に参加をいただき、また貴重な御意見を賜りました。心からお礼を申し上げます。
まず、尾上参考人と山城参考人、当事者の立場として一言伺いたいことがあります。
今の新型コロナウイルス肺炎問題で、当事者として心配していること、あるいは要望など伺えればと思います。
○尾上参考人 全ての人がすごく不安になっているという状況の中で、どうしても、ウイルスというのは見えないものですから、その不安感が差別や排除につながってしまわないだろうか。かつて、無らい県運動という、ハンセン病の人たちを排除するといった歴史が残念ながらございました。
今回のこのコロナウイルスにしっかり対策をしていかなきゃいけないということとともに、いろいろな違いや多様性がある、その全ての人が、多様性が尊重される社会、ここを壊されることのないようにしっかり対策をしていただければと思います。
○山城参考人 私は、具体的になりますけれども、特に私たちの仲間で、あんま、はり、きゅうを開業している仲間が多いんですけれども、患者さんが激減しています。それで、個人営業ですから、雇用関係もないし、もうこれはもろにこの被害が及んでいるわけなんですよね。これに対する対策はないものかなと思っています。
それから、あんま、はり、きゅうでは、やはり、私たちの仲間で、訪問マッサージという、家庭に訪問してマッサージをするという仕事をやっている人だとか、それから、企業のヘルスキーパーといって、あんまなどをして健康を管理する、そういう仕事についている人も、仕事がなくなったり、それから、今休みなさいというふうに言われているとかいうことがたくさん出ています。
そういう対策をぜひ、視覚障害者ですから、特に自営業者は、文字の読み書きも困難で、どうしたものかなとみんな困っているわけなんですね。そういったところに対しても、きちっと対策がとられるようなことをお願いしたいなというふうに考えています。
以上です。
○高橋(千)委員 ありがとうございました。
今のはり、きゅうの問題なども、まさに大きな影響を受けているというのは当然だろうと思いますし、個人事業主という形で対応ができるはずですので、経済対策の中にしっかり盛り込んでいただければいいなと思いました。
また、尾上参考人の、あの無らい県運動を思い出すという指摘、本当にそうだと思うんですよね。あれだって、いわゆる感染症ということでの扱いが、本人や家族への差別、そして長年にわたる隔離政策につながっているわけですから。差別や排除、私はウイルスよりも恐ろしいのがこれらの人々の恐れなんじゃないかなというふうに今非常に感じておりますので、大事な指摘だなと思いました。ありがとうございました。
次に、お三方に伺いたいと思うんですが、障害者の権利条約、また障害者差別解消法に照らして御意見をいただきたいと思います。
今回の法改正のポイントは、心のバリアフリーであると思います。例えば、第四条の国の責務は、円滑な利用を確保する上で必要となる適正な配慮、「その他の移動等円滑化の実施に関する国民の協力を求めるよう努めなければならない。」国が国民の協力を求めるよう努めよと書いているわけです。また、第七条、国民の責務で、「必要な協力をするよう努めなければならない。」とある。
国民の理解や協力を求めることは、協力というのが必要だとは思います。ただ、それを心の問題、国民の側の問題にしてよいのかというのは疑問が残ります。国や行政の責任でやるべきことがあるのではないか。
障害者の権利条約、第十八条「移動の自由」、第二十条「個人の移動を容易にすること」と明記されております。また、先ほど尾上参考人からも意見があったように、権利条約については、ことしの夏が日本審査、秋から来年にかけての間に必ず総括所見が出るというタイミングでもあります。
それぞれにかかわってきた立場から、心のバリアフリーについて伺いたいと思います。
○秋山参考人 秋山です。
心のバリアフリーと権利条約の関係についてということですが、二条にユニバーサルデザインと合理的配慮というところが出ておりまして、これをどうやって実践するかということで、私は、インクルーシブデザインで障害当事者に最初から入っていただいて、さまざまな設計とか実務をこなしていくという、これを今やっている最中でございます。
それと、長年なんですが、障害者のモビリティーの問題については、日本は国民にやや任せている部分があります。とにかく、鉄道ではなくて、もうちょっと、ドア・ツー・ドアのサービスは、欧米はほとんど行政が補助を出してやっているんですが、日本は残念ながらそこに至っていない。民間型の交通が何十年も続いていますので、そこのところが手薄になっているなという。いわゆる、アメリカでいうとパラトランジット、英国でいうとダイヤル・ア・ライドとか、スウェーデンだとファルトシャンストとか、さまざまなそういうサービスが日本はないに等しいので、今後どういう展開をするのかなというところで、まさに国民の協力と政府が頑張ってやる部分との接点のところで相変わらず国民にまだ依存しているけれども、それで大丈夫かという、そういう議論があります。
以上です。
○尾上参考人 まず、心のバリアフリーというのは、先ほどから繰り返し申しましたとおり、思いやりとかみんなで助けましょうというよりは、社会モデルの理解である、あるいは障害者差別をなくすということだ、このことをしっかりと進めていただきたいというのが一点ですけれども、更に申し上げますと、日本のバリアフリー、確かに、交通バリアフリー法以来のこの二十年間、進んできた部分はあります。でも、残念ながら、まだまだ質としては決して高いものではないというふうに思います。
例えば、十一人乗りの狭いエレベーターの前でたくさんの人が並んで、車椅子で乗るためには三回、四回待たなきゃいけない。では、これは国民意識で、みんなで変えましょうということだけでは解決しないと思うんですね。やはり、十一人乗りという小さなものではなくて、例えばIPCのガイドラインで示されている十七人乗りのエレベーターが最低基準になるような。
そもそもハードの足りない部分をソフトで補うというのはやはり無理があると思うんですね。ハードはハードとして整備をする、ハードの質を更に上げていく、それと同時に、社会モデルを広げるという意味で、心のバリアフリーというか、学校教育からちゃんと進めていくという、その二つが必要ではないかと思います。
○山城参考人 私は、心のバリアフリーとくくられるとあれなんですけれども、場合があると思います。
例えば、私、先ほど言いましたけれども、駅のホームから落ちたときの対応、これをやるには相当な力が要りますよね。しかも、これはやはり駅員さんの助けがないと、おちおちやれないですよね。こういうことはあると思います。やはり責任を持つところはきちっと責任を持つ。
そこも、バリアフリー法も含めて、落ちない駅ホームをつくっていくということはあると思いますけれども、そういうことと、それから、声をかけていただいて、どこか、今何か困っていますかというようなこととは違うと思うんですね。その違いというものをきちっと当事者を含めて議論していかないと、今、バリアフリー法がこれから発展するためには、先ほどちょっと言ったかもしれないけれども、人による対策を進める、これがこれからの安心、安全にかかっているなというところは私は強く思っています。
そういうことなので、ぜひそういうことを考慮していただきたいなというふうに思っています。
以上です。
○高橋(千)委員 ありがとうございました。それぞれに、具体的で、とてもわかりやすかったなと思っております。ハードの次はソフトというんだけれども、そのソフトの中身自体も、それこそ秋山参考人がおっしゃったように、国民任せではないのよという意味で、もっとできることがあるんじゃないかということを考えていきたいなと思っております。
山城参考人は、先ほどホームの転落事故のことをお話しされました。今も、駅員のいないホームなどのことをおっしゃったと思うんですね。
二〇〇六年のバリアフリー法審議の際に、参議院での参考人質疑で、山城参考人はそのときも出ていらっしゃいますけれども、「ホームは欄干のない橋である、全盲者の歩行は綱渡り」という表現をされて、やはり本当にその恐怖をあらわしていると思いましたし、全視協の会員の中でも転落したことのない人はほとんどいないということをおっしゃられたと思います。
私たち自身も、正直、見えていても怖いくらい、地下鉄のホームなどは狭くて大変だと思うんですね。そういう中で、ずっと可動柵を進めてきたなどというけれども、十四年たってもまだ転落事故は減っていないという状況であります。
なので、例えば情報の出し方にもっともっと工夫ができないのかなということ、それから、人の対応というのは絶対必要だと思いますけれども、要するに、ハードを圧倒的に進めつつも、今できることはもっと声を上げていく必要があるかなと思いますが、もう一言、お願いいたします。
○山城参考人 私が一番心配しているのは、先ほどちょっと言いましたけれども、駅遠隔操作システムというのがあって、JRは駅員がいないところをふやしているんですよね。もっと先ほど具体的に言えばよかったんですけれども、例えば、新幹線の切符を買いたいなというときだとか、こういうときは、今は本当に、駅遠隔操作システムじゃなくても、駒込はだめよ、巣鴨に行きなさいとかいうことになっているんですよね。
それとか、駅遠隔操作システムになっている十条の駅などのところを見ると、前あった有人改札がもうなくなって、外側に駅員がいる。辛うじて、私たちの運動で駅員は残しているんですけれども、前のところにはいないんです。だから、前のところにあるのは、何かどこかにボタンがあるから、これを押せということらしいんですけれども、そういう対応なんですね。だから、本当に当事者の声が聞かれていないなということを思うんですね。
そこら辺のところが、バリアフリー法を改正するというときに、もっともっと私たちの実態から積み上げていったバリアフリー法の改正にならないものなのかなといつも強く思っています。
以上です。
○高橋(千)委員 ありがとうございます。数値であらわせる、可動柵ができましたよとか、そういう実績だけではなく、今おっしゃった、当事者じゃなければわからない細かい点などをやはり常に反映させていく仕組みというのが必要なのかなというふうに今思いました。ありがとうございました。
尾上参考人にも伺いたいと思うんですが、先ほど陳述の中でありましたUDタクシーの問題。確かに改良もされている。ジャパンタクシー、動画でセットするところを見たんですけれども、極めて時間がかかって、正直気の毒だなと思ったんですね。ステップを全部出して固定するという作業を運転手さん一人でやるのも気の毒だし、それをじっと待っている利用者の方も大変気の毒である。
これを、もちろん改良というのはあるんですが、単に乗車拒否してはならないと書いただけではやはり解決しないんだろう。やはりもっと、そこに助手が要るとか、もっとできる、先ほど山城さんが何度も言っているように、人ですよね、そういう点での支援が必要じゃないかなと率直に思うんですけれども、御意見を伺いたいと思います。
○尾上参考人 UDタクシーの問題については、二つ、それぞれ問題があると思うんですね。
せっかく導入されても、そして、その導入の際に職員研修を義務づけているにもかかわらず、このビデオを見ておいてというぐらいで済ませているような会社もあるのが正直なところなので、それはそれでやはりちゃんとやってもらわなければいけない。その意味で、ちゃんと実際に研修を義務づけて、研修修了者の数をちゃんと報告する仕組みをやはり持っていく必要があると思います。
それと同時に、御指摘のとおり、今のUDタクシーは、ユーチューブなんかで見ますと、世界最速で乗降を手伝える人、運転手さんのビデオを見たら、それでもやはり三分半か四分ぐらいかかっていたかなと思うんですね。やはり、今のUDタクシーの構造自身が、スロープ板を複雑に組み合わせて、かつ中で回転をしなきゃいけないという、車両のレベルが低いと思います。
それはなぜかというと、やはり開発段階のときにどこまでちゃんと当事者の声が聞かれたか。先ほど山城参考人がおっしゃられたとおり、本当に、当事者の声を聞いてもらえればもっとよくなったはずなのにな、そういうふうに思います。
ぜひ今後、このUDタクシーの車両の改善ということ、そして、その車両の改善の前提に、国交省の認定要領を更に見直しをしていく、そのことを進めていっていただければなと思います。
○高橋(千)委員 大変参考になりました。ありがとうございました。
これで終わります。