希望ある暮らしへ具体的対案を提示/子の貧困対策めぐり指摘/実態つかめる指標に/高橋氏
高橋千鶴子議員は12日の衆院内閣委員会で、子どもの貧困対策を拡充するために子どもを取り巻く状況を多面的に把握する指標づくりを求めました。
高橋氏は、12日に成立した改正子どもの貧困対策推進法で対象を「貧困の状況にある」から「全て」の子どもに変更したことを評価。その上で子どもの貧困対策大綱で設定された25の指標のうち約15が生保世帯、ひとり親、社会的援護など特別な状況下の子どもに限定されると指摘しました。欧州などでは屋外レジャー用品や修学旅行の参加費など一般家庭が持つものが欠如する「物質的剥奪」を指標にしていると紹介し、「経済的指標だけでなく健康や社会生活に関する指標が必要だ」と迫りました。宮腰光寛内閣府特命担当相は「指標の改善・充実に取り組みたい」と答弁しました。
高橋氏は、指標に就学援助率が入ってない背景に、就学援助制度の案内の毎学年配布率が都道府県ごとに大きな差があり、認定基準も市町村任せになっていると指摘。周知徹底について、文部科学省の中村裕之大臣政務官は「検討する」と答弁しました。
( しんぶん赤旗 2019年06月28日付より)
―議事録ー
○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。本日はよろしくお願いいたします。
子どもの貧困対策法は、二〇一三年、全会一致で成立をしました。当時、厚労委員会の所管でもあり、私も提出者の一人でしたけれども、当時は心から喜べませんでした。なぜなら、扶養義務が強化された生活保護法改悪とセットだったからです。しかも、この年、一般の低所得者に比べればまだ高いとして、過去最大規模の生活扶助基準の引下げもやられました。言ってみれば、貧困の連鎖を断ち切ろうと子供の貧困対策をうたったのに、一方では親の困窮度を高め、子供が自立しても今度は親の扶養という形で貧困の中にとめ置かれることになるからです。
でも、この五年間、牧原委員長が事務局長を務める子どもの貧困議連の一員として、子供食堂や若者塾や各地に広がっているさまざまな運動、行政の取組、あすのばの学生たちの発信を聞くなど、さまざまに学ばせていただきました。
だからこそ、今回、五年後の見直し改定で法律がバージョンアップされたことは素直に喜びたいと思います。また、さらに、貧困の大もとにある今言った生活保護制度や各種施策に波及していくことを強く望みたいと思います。
資料の1を見ていただきたいのですが、これが本日の午前に参議院の本会議で可決された子どもの貧困対策推進法の新旧表であります。第一条の目的規定が大きく変わりました。その意義についてどのように受けとめているのか、宮腰大臣に伺いたいと思います。特に、「貧困の状況にある子ども」とされていたものが「全ての子ども」になった、この点についてもぜひ含めて評価をお願いします。
○宮腰国務大臣 本日成立をいたしました子どもの貧困対策の推進に関する法律の改正案につきましては、超党派から成る子どもの貧困対策推進議員連盟を始め、各党各会派において精力的に御議論がなされ、子供の貧困対策を一層推進するための改正がなされたものと承知をいたしておりまして、関係の先生方に深く敬意を表したいというふうに考えております。
御指摘の目的規定の改正におきましては、子供の将来だけではなく現在に向けた対策であること、対象を貧困の状況にある子供だけではなく全ての子供とすること、貧困解消に向けて、児童の権利条約の精神にのっとり推進することなどが明記されたところであります。
このうち、子供の現在に向けた対策であることにつきましては、将来の貧困を防ぐこととなる重要な視点であると考えております。また、貧困の子供だけでなく、御指摘の全ての子供となった点につきましても、子供の貧困対策は、全ての子供に対する普遍的な政策も含めて将来の貧困の防止を目指すものであるとともに、我が国の将来を支える積極的な人材育成政策としての取組であるという観点から、非常に意義がある改正と認識しております。
政府といたしましても、今般の法改正の意義も踏まえ、全ての子供たちが夢と希望を持って成長していける社会の実現を目指し、引き続き、子供の貧困対策を総合的に推進してまいりたいと考えております。
○高橋(千)委員 ありがとうございます。
全ての子供が日本の将来を担っているわけですから、そうした立場で改正をしたということを非常に賛同したいと思います。
それで、子供の貧困対策大綱も、五年後の見直しに向け有識者会議で検討していると聞いております。
資料の2は現在の大綱に記載をした指標です。これは二十五あります。それで、ざっと皆さんも見ていただきたいと思うんですが、左上から、例えば、生活保護世帯に属する子供の進学率、高校中退率、大学進学率、次は児童養護施設の子供、一人親家庭の子供、右には生活保護世帯の子供となっていって、二十五ある指標のうち大体十五くらいが生保、一人親、児童養護施設の子供、つまり貧困の子供の典型例といった対象になっているわけです。
それ自体をきちっと捉えることはもちろん必要なことです。ですが、やはりその対象が極めて狭いという気がいたします。そもそも、子供の貧困とは何かという定義がこの法律にはございません。そういう中で、指標がどういう姿をあらわしていくかということはとても問われていくわけです。
大臣は今、全ての子供とおっしゃってくださいました。とすれば、この指標も当然不足をしている、全ての子供に合った形に見直していく必要があると思いますが、いかがでしょうか。
○宮腰国務大臣 現在の二十五の指標は、子供の貧困対策に関する大綱策定時に、子どもの貧困対策に関する検討会における有識者の御意見等も踏まえて、子供の貧困対策を総合的に推進するに当たり、関係施策の実施状況や対策の効果を検証、評価することを目的に設定されたものであります。
貧困の実態は見えにくく捉えづらいと言われておりまして、生活保護世帯、一人親世帯、児童養護施設の子供以外にも、さまざまな事情が重なって困り事を抱える子供がいることにつきましては子供の貧困対策に関する有識者会議でも御指摘をいただいておりまして、貧困の状況は多様であると認識いたしております。
いずれにせよ、子供の貧困に関するさまざまな状況を踏まえた上で施策を推進することができるよう、新たな大綱の作成に向けて議論を行っている有識者会議の御意見、御議論も踏まえつつ、指標の改善充実に取り組んでまいりたいと考えております。
○高橋(千)委員 改善を行うということでありました。
最初の子どもの貧困対策法をつくったときは、やはり貧困の見える化ということがすごく大事なテーマでしたので、こうした指標になったというのも納得できるものがあるわけですね。ただ、それは、ある意味、今わかっている指標を一定きちっと整理したにすぎないというか、やはり、じゃ、どういうものをこれから調べていくのかという視点が今は問われているんだろうと思います。
それで、資料の3を見ていただきたいと思います。
これは、「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワークが出版した「子どもの貧困ハンドブック」で学んだものでありますけれども、資料の出典は、ユニセフのイノチェンティ研究所、阿部彩さんや竹沢純子さんらの「イノチェンティ レポートカード11 先進国における子どもの幸福度」という指標であります。
子供の剥奪率国際調査という考え方で、日本は、この左の表を見ていただくとわかるように、七・八で二十八カ国中十八位であります。これはどういうふうに見るかといいますと、右の点線の中にあるんですけれども、「各国における子ども(一〜十二歳)のうち、次の八品目のうち二つ以上が欠如している子どもたちの割合を示している。」と。例えば、年齢と知識水準に適した本、教科書ではなくてという意味です。屋外レジャー用品、自転車を持っているかとか、屋内ゲームとか、修学旅行や学校行事の参加費があるのかとか、宿題をするのに十分な広さと照明があるのかとか、インターネットへの接続ができているのか、洋服があるのか、こうしたことが列挙されているわけですね。これをやはり参考にする必要があると思うんです。
それで、EUやOECD諸国においては、やはり物質的剥奪という指標を、今言ったような指標を使って、普通の家庭ならあるものがない、それがどのくらいないかということであらわす。このことは有識者会議の中でも指標にすべきという意見があって、ただ、そのまま日本に当てはめるのはどうかということでとどまったというふうに理解をしています。でも、それは日本版の指標をつくればいいと思うんです。そのための実態調査、何を持っているのか、どういう状態が当たり前なのかということを、調査を踏まえてつくっていけばいいと思うんです。
そういう意味で、経済的困窮度を示す指標だけではなくて、健康だとか社会的生活においてどうなのかといった指標が必要と思います。いかがでしょうか。
○小野田政府参考人 お答えいたします。
物質的剥奪指標につきましては、その国で典型的に保持、享受するものとされている財・サービスの欠如を示す指標と承知してございます。所得だけでははかれない生活の質を把握する試みとして、欧州を中心に作成、公表されているものでございますが、社会的、文化的背景が大きく異なることから、EUなどで設定されている剥奪指標の項目をそのまま日本に適用することは難しく、中期的に検討していくべき課題であると考えてございます。
現在、新たな大綱の策定に向け有識者会議において御議論をいただいてございまして、指標については、今後、委員御指摘のように、健康面や社会生活等の観点からも御議論をいただく予定としてございます。
政府といたしましては、同会議での御議論も踏まえつつ、指標の改善充実に向けて取り組んでまいります。
○高橋(千)委員 聞いていて気がついていると思いますけれども、そのまま当てはめろとは一言も言っておりませんので、日本版の指標が必要だということであります。
内閣府も、平成二十九年に三月三十一日付で、見直しに当たっての方向性という中で、経済状況のみならず、教育や生育環境などの子供たちを取り巻く状況を多面的に把握するべきだということを指摘していまして、高校中退率を生保世帯だけでなく一般の子供も見るべきだということですとか、朝食を食べていないとか、相談相手がいないとか、あるいは一人親家庭の就労状況がどうなのかとか、そうしたことも提案をされておりますので、ぜひ、日本版の指標をつくって、より多面的にわかるようにしていただきたいと思います。
それで、先ほど示した大綱の指標、ちょっともう一回戻るんですけれども、戻りますと、左の下の段に、就学援助に対して、周知状況というのがあります。何でこれは二つ並んでいるかといいますと、上の方は毎年度、つまり、ことしだめでも来年、事情があってという場合もあるわけですよね、毎年度周知しているという割合が今七五・三%である。入学時だけ書類を配付していますというのが七三・一%。
でも、一〇〇%じゃないのかなというふうに思うのと、そもそも就学援助率がないということに気がつくと思うんです。
それはなぜかというと、やはり就学援助の基準、具体的には、準要保護世帯については市町村に任せているために、かなりアンバラがある。必ずしも、援助率が高いことイコール貧困な世帯というふうには見えない。むしろ、基準を広目にして、よく支援している自治体ほど就学援助率が高いというふうになってしまうこともあって、単純比較ができないことが背景にあると思うんですね。
それで、資料の4を見ていただきたいんですけれども、これは都道府県格差というのが出ております。
これは、済みません、北から南と並べていなくて、順位で並べているので大変申しわけないんですけれども、一番右端を見ますと、就学援助の案内を毎学年に配付をしていますというのが、広島は一〇〇%だけれども、一番下の佐賀は二五%と、ここまで差があるわけなんです。そうすると、なかなか、そもそも権利を行使していない人がかなりいるじゃないかということがあって、比べられないという問題になりますよね。
それから、その隣にFということで、認定に生活保護基準利用という指標がありまして、これも、滋賀の一〇〇%に対し、一番下は和歌山の一六・一%と、かなり差があるわけです。
この生活保護基準利用というのは、文科省のポータルサイトに詳しく出ておりますけれども、生活保護基準に一定の係数を掛けるというやつで、一・一倍から一・五倍強まであるけれども、それを見ますと、一番多いのは一・三倍だと思っております。
それで、これを見ますと、このまま周知状況だけを指標にしていても実態は見えてこないわけです。大綱に基づいて就学援助ポータルサイトを設けたことは大変評価します。だったら、これで貧困の指標として使えるように、周知はもう義務化しちゃって、そして、要保護基準を最大公約数に合わせるとか、何らかの工夫をして、この就学援助の率が見えるようにするべきだと思いますが、いかがでしょうか。
○中村大臣政務官 お答え申し上げます。
経済的な理由により就学が困難な児童生徒に対して就学援助がなされるためには、児童生徒の保護者が制度を認知するということが重要であることから、子供の貧困に関する指標として、市町村における制度の周知状況が指標となっているところであります。
この制度の認知状況の差が大きいということを先生御指摘でありますけれども、文部科学省としても制度が周知されることが重要だと考えておりまして、教育委員会への、担当者会議などを通じて、こうした周知を徹底するように、お願いというか、啓蒙しているところでありますけれども、少しずつ改善は図られているものの、まだ地域ごとに差があるという実情だというふうに思っております。
今後も積極的に周知の充実を図ってまいりますけれども、一律に国が指示をして一〇〇%というふうには、なかなか必ずしもすぐにはできないのではないかというふうに思っているところであります。
以上です。
○高橋(千)委員 もう一歩踏み込めないでしょうか。
やはり、一律に指示をしてという、そんな強い意味ではないと思いますよ。せめて、制度があることを知らせる。入学準備には、さまざまな書類が来たり、学校説明会がございます。そのときに、こういう資料があるんだということが、一枚入っている、それが大きな意味があると思いますし、それから、やはり事情が変わって、今までは就学援助に興味を持っていなかったけれども、必要になる方だって途中で出てくるわけですよね。そういうときに、やはりチャンスがまたちゃんと知らされているということも大事だと思いますので、もう一歩検討していただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
○中村大臣政務官 委員の御指摘はごもっともな面が非常にあると思っております。
修学支援制度は、これは生徒の進路選択にも資するように、十分に知ってもらうことが重要だというふうに思っておりまして、具体的には、中学校三年生を対象とした高等学校等就学支援金や高校生等奨学給付金に関するリーフレットを配付しているところでありますし、高等学校においては、高等教育の修学支援という新しい制度について、進路指導を行う教師への説明等を充実させるなど、制度の周知に取り組んでいるところでありまして、あくまでも、修学支援について、自治体ごとに判断されて行うという面がありますので、今後、そうしたことを念頭に入れながら検討をさせていただきたいと思います。
○高橋(千)委員 ぜひ積極的にお願いしたいと思います。
最後に、大臣にぜひまた伺いたいと思うんですけれども、大綱の見直しに向けて協議をしてきた有識者会議の指摘事項には、子供の貧困に対する社会の理解の促進として、自己責任論ではないんだ、社会全体の問題として受けとめるという指摘があって、これは大変重要だと思います。大事なことは、子供たち自身が家にお金がないから進学なんて言い出せないと諦めたり、お母さんがそれは自分のせいだと思ってしまうのは違うんだということをしっかりと発信していかなきゃいけないと思うんですね。
先日、夫のDV、子供に対しては虐待の被害から逃れて施設に入っている女性たちから話を聞く機会がありました。一人の方は、施設に勧められて自尊感情回復プログラムを受けている。これは非常に効果を上げていて、最初は全く前向きでなくても、とにかく受けさせるということが大事だよということを教えていただきました。そして、もう一人の方は、やはり子供に対してもっと学校教育の中で権利を教えてほしいということを言われました。これは、自分のせいではないんだということをちゃんと教育の中で知っていくこと、それから、今言った制度のことをしっかりと知っていくこと、それが本当に大事ではないかなと思っております。
実は、虐待のときも文科省に同じような質問をしたんですけれども、改めて、今回、この子どもの貧困対策法にも、児童の権利条約にのっとりというふうに書いたわけなんです。今回も、子供の自尊感情を育てる教育、自分自身で進路を学び取れるように各種制度を教えていくことを教育の早い段階で教えてほしいと思いますが、いかがでしょうか。
○中村大臣政務官 では、私からお答え申し上げます。
児童生徒が家庭の経済状況のいかんにかかわらず進路選択を含めてみずからの将来を切り開いていくためには、児童生徒が自分のよさや可能性に気づき、学びに向かっていくことが重要と考えておりまして、このために、新しい学習指導要領においては、一人一人の児童生徒が自分のよさや可能性を認識できる自己肯定感を育むことを重視しているところであります。
具体的には、児童生徒が学ぶことの意義を実感しながら主体的に学べるよう授業を改善することや、児童生徒のよい点や進学の状況を積極的に評価することなどを通じて、学校教育のさまざまな場面で児童生徒の自己肯定感の育成を図ることとしているところであります。
また、修学支援の制度の子供さんたちへの周知についても、具体的な生徒の進路選択に資するように、その内容を十分に知ってもらうことが重要と考えておりまして、学校段階に応じた周知に努めてきているところであります。
先ほども答弁しましたけれども、中学校三年生を対象とした高等学校等就学支援金や高校生等奨学給付金に関するリーフレットを配付したり、また、大学等に進学するに当たっては、進路指導を行う教師への説明等を充実させ、進路指導の中でしっかりと子供たちにそういった制度があることを周知をしていく、そういったことに努めているところです。
今後とも、児童生徒が自分の人生に可能性を持って肯定的な形で進路選択ができるように努めてまいります。
以上です。
○高橋(千)委員 終わります。ありがとうございました。
―資料ー