国会質問

質問日:2019年 5月 21日 第198国会 厚生労働委員会

児童虐待防止法等改正案―参考人質疑

児童福祉司の増員要望

 衆院厚生労働委員会は21日、児童虐待防止法等改正案と野党案について参考人質疑を行いました。参考人からは、児童福祉司の増員や処遇改善などの要望が出されました。
 NPO法人CAPNAの萬屋育子理事長は、現場の最前線を担う児童福祉司の責任の重さを指摘。卒業したばかりの新人や経験年数2、3年の若年者でまわす現場の苦労を訴え、「入職して最初の1年間は研修にあてるべきだ」と提言しました。
 兵庫県明石市の泉房穂市長は、この4月から中核市として児童相談所を新設したこと、国基準の2倍、3倍の人員配置で取り組むことなどを紹介。「身近な自治体だからできる」として、妊娠届時からの面談など親への支援の重要性も強調しました。
 花島伸行弁護士は、仙台市のモデル事業などで子どもの意見表明を助けてきた経験から、子どもの意見表明権を保障するためには、大人が意見を聞くという責任を制度化して引き受けなければならないと指摘。一定の調査権限が与えられ、機動性・独立性・第三者性・専門性を兼ね備えた機関を設置することの重要性を強調しました。
 日本共産党の高橋千鶴子議員は、虐待を受けた子どもの気持ちを引き出す上で重要なことについて質問。花島氏は「ちゃんと向き合ってくれる大人もいるということ、信頼できる大人がいるということを示すことが出発点になる」と述べました。
( しんぶん赤旗 2019年05月22日付より)

―議事録ー

○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
 本日は、五人の参考人の皆さん、御出席いただきまして、貴重な御意見をいただきました。最初の陳述だけでなくて、皆さんのやりとりを聞いていて、一つ一つが大変参考になると思っております。そういう意味ではもっと時間が欲しいなと思っているところなんですけれども。
 ちょっと今の続きみたいになってしまうんですけれども、萬屋参考人と西尾参考人にまず伺いたいと思います。
 介入と支援の分離について、先ほど、萬屋参考人が少しお話しされたんですが、やはり児相の職員の視点から少し考えてみたいなと思うんです。
 事件があるたびに、児相が関与していたのにということが明らかになって、物すごく責任が問われるわけなんだけれども、しかし、現実は、ある程度の防弾をつけたりなどして、命の危険と闘いながら頑張っている職員の姿というものがありますし、本当に経験を積んで集団で取り組める体制というのをつくっていかなければならないということをいつも思っているわけなんです。
 親から見ると、児相が来たというのは、引き離される、そういう敵のような存在であって、だからこそ介入の仕事をなかなかやりたくないという意見も多いと思うんです。だけれども、だからこそ、どちらもうまく引き継いでいったりとか、どちらの経験も積んでいくとか、そうしたこともやはり必要なんじゃないかなと思うんですけれども、いかがでしょうか。

○萬屋参考人 介入と支援ということでいいますと、深刻な事態になった状況においては児童相談所がやはり保護するということを決断しなければならないというふうに思います。
 一時保護というのを、深刻な状況のときに介入して一時保護をするとなかなか帰すことができないんです。私は、早目に保護ということをしていました。まだ深刻な状況ではないうち、例えば、一回たたいて学校で通報があって顔にあざがついていた、こういう場合には、すぐ保護して、それから親を呼んで話合いをする。
 初期の状況では、親と話し合って、親に虐待をしない、暴力を振るわないことを約束させて帰すことができました。ただ、治療を必要とするほどの状況になってからの介入というのは大変難しいというふうに思っています。
 ですから、どの時点で一時保護を決断するのか、これは各児童相談所によって違いますけれども、虐待状況、暴力がそのおうちにあったら、早目に介入すべきだというふうに思っています。その方が後の支援につながるというふうに思っています。
 以上です。

○西尾参考人 御質問ありがとうございます。
 支援と介入のレベルについては、二つあると思います。一つは児童相談所内でこの機能分担をすること、もう一つは都道府県と区市町村の役割分担です。
 都道府県と区市町村の役割分担は先ほど申し上げたとおりです。
 児童相談所内で考えますと、東京都では、今、虐待対策班というのを所内につくっております。まさに虐待の初期対応だけを専門に行う班でございまして、十人弱の児童福祉司、児童心理司で構成しております。
 これは、効率面からいったら非常に効果がございます。ただ、先ほどどなたかおっしゃっていましたけれども、なかなか、虐待の初期対応ばかりやっていると、児童相談所のスキルとしてどうなのかという、そういった面もございます。
 例えば、私どもとしては、一年、二年、班で対応した後は、地域担当という、一般の児童福祉司の業務にローテーションをするとか、そういった工夫をしながらスキルアップを考えております。支援と介入の役割分担については、今のところ効果を上げております。ただ、これは、ベストは何なのか常に考え続けていかなければいけないテーマだと思っております。
 以上でございます。

○高橋(千)委員 ありがとうございます。引き続き考えていきたいなと思っておりますが、またほかのことも聞きたいものですから、次に行きたいと思います。
 花島参考人に伺います。
 仙台市のモデル事業にかかわった経験から、アドボケートの重要性についてイメージができるようにお話ししてくださったと思います。ありがとうございます。子どもの権利条約に照らしても意見表明権の尊重は不可欠と思うんですけれども、同時に、子供たちの本当の気持ちを引き出す、あるいは気持ちに気づくというんでしょうか、そのことは非常に困難なことでもあるかと思うんです。
 例えば、トラウマだとか親との支配関係ですとか、あるいは一時保護された状態のままでの環境でなかなか思うように物が言えないですとか、いろいろなことがあるのではないかなと思いますが、経験を踏まえて御意見をいただければと思います。

○花島参考人 ありがとうございます。
 どういう子供の像を想定するかによっていろいろあるとは思うんですけれども、私が接してきた子供たちから受ける印象は、大人がちゃんと向き合って、話を聞いてくれる人もいるんだということに驚いて、そこからぽつりぽつりと話してくれるという子供が圧倒的に多いと思います。
 どこかで声を上げても、それが受けとめられない結果、もう大人は助けてくれないものなんだという気持ちのまま、一時保護所に来た後も同じ気持ちだったという子はたくさんいますし、そこを、やはりチームで、信頼できる大人がいるんだということをチームで示すことが出発点になるんじゃないかなというふうに思います。
 そういう意味では、誰が聞きに行ってもいいんですけれども、とにかく裏切らない、遮らないで聞いてくれて、受けとめて一緒に考えてくれる大人たちがいるんだということをPRして事に当たるということが非常に大切じゃないかなというふうに思っております。

○高橋(千)委員 ありがとうございます。
 なるほどなと思って今聞いていました。先日、一時保護所を見せていただいたときに、やはり子供の顔色が非常に暗くて、多分、その子供から見ると、我々視察に行った議員なんというのは、どこのどいつで、自分のことをわかってくれるはずもないというか、そんなふうに思って見ているだろうなというのがすごく自分の中にあって、まずは信頼できる大人がいるということが最初の出発点だというのはとても大事な指摘だったかなと思っております。
 それで、もう一回花島参考人と、萬屋参考人に伺いたいと思うんですけれども、先ほど施設内の性トラブルの問題の指摘がございました。厚労省としては初めての調査ですので、これを受けて、実際にどういう子供たちがそういう事件を起こしているのか、事件というほどのものでもないのも含まれておるんですけれども、そこから対策を議論していくということで、丁寧にやっていると思うんですけれども。
 ただ、その中に、やはり親子の関係というのが反映されているんじゃないか。例えば、悪いことだと思わなかった、でも、それは両親のDVを見てきているからとか、そういうので当たり前にやってしまっているとか、いろいろなことが見えてくるのではないかと思うんですけれども、その点で、今起こっているいわゆる子供たち同士の暴力、それが、やはりその背景に親子の関係というのもあるんじゃないかと思うんですが、御意見を伺いたいと思います。

○花島参考人 ありがとうございます。
 私も、環境の中で身につけてきてしまった常識というものが子供にそういう行動をさせているんだという理解が非常に大事だと思います。そういう意味で、違った常識に触れるチャンスということなんだと思います。
 ただ、施設内の虐待ということでいうと、同じような経験をしている子供たちが、複数、すごく密度の高い空間で暮らしているということですので、やはり大人の目が届かなければ、その当たり前の感覚で不適切な行動になるということが起きるのはある意味当然のことです。
 もう一つ指摘したいのは、施設内の虐待で、乳児院の問題にまでさかのぼる必要があるというふうに思っています。声を上げられない、言葉が通じないゼロ歳児、一歳児の時期からどういうふうに権利を保障するのか、あるいは言葉が使えない子供の意見表明というものをどういうふうに大人が代弁していくのかということも、セットで考えていかないといけない。
 施設内虐待の問題は、そういう根深さが非常にあるというふうに思っております。

○萬屋参考人 私は、退職後に、愛知県内の三つの養護施設にかかわっています。その中で、施設内の暴力、性暴力をなくするための取組をしています。
 確かに、家庭環境はあります。けれども、実際に、性暴力、暴力の加害者、被害者になっている子供たちは、乳児院から養護施設に来て、引取りの見通しもないままいる子供たちです。その中で、加害者の子供、思春期以降の中学生、高校生が加害者になることが多いんですけれども、その加害者も、かつては被害児だったということが往々に見られます。これは、児童福祉施設の職員なら、繰り返されている、それから、児童養護施設のあしき伝統、風土だとまで言われています。多いのは、男の子同士の性器なめとかというような現象です。
 これは本当に痛ましいことですけれども、虐待から保護してきた子供たちですから、施設の中が安心、安全でなければ保護そのものがどうなのかということになります。保護してきた子供たちを私は加害者にも被害者にもしてはならないと思いますし、何かあったら言ってきてくださいと言っても、ほとんどの子供たちは言わないです。加害をしていても、被害に遭っていても、言わない。被害に遭っていて、大人に変に言いつけるともっとひどい目に遭うということを経験的に知っています。
 ですから、私が入っている養護施設では、毎月子供たちから聞き取りをしています。暴力をしていないか、されていないか、見ていないか、聞いていないかということについて、毎月聞き取りをして、その聞き取りの内容に応じて、外部を入れた安全委員会というのを構成して、その中で審議して対応しているということです。とても丁寧な取組が必要です。
 以上です。

○高橋(千)委員 ありがとうございました。
 お二人から、乳児院のときからというキーワードが出てまいりまして、非常に重要な指摘だなと思ってどんどん続けて聞いていきたくなるんですが、時間がとにかくないものですから、ちょっと残念に思っておりますが。
 先に泉参考人に伺いたいと思うんですけれども、先ほど、明石市の取組として、人に対しても、そして予算をつけるということでも本気で取り組んできた、そのことが、結局、子供に対して特化しているように見えるけれども、市全体を上昇させる大きな力になっているというお話があったと思います。非常にありがとうございました。
 その上できょう伺いたいのは、親に対する支援ということなんですけれども、虐待問題においても親をどう支援していくのかということがなかなか置き去りにされて、やはり本当は大事なことなんだろうと思うんですね。死亡事例でいうとゼロ歳児が多い、だけれども、虐待全体でいうとやはり小学生くらいの世代が一番多いわけなんです。そうすると、やはり親の貧困ですとか若年の夫婦ですとか孤立ということがさまざまあると思うんですけれども、親への支援についてどんなことができるかというのでぜひ御意見を伺いたいと思います。

○泉参考人 御質問ありがとうございます。
 まさにおっしゃるとおりで、子供を支援するというのは、親も支援する面が強いと思います。親が心に余裕ができ、経済的にも余裕ができ、そして子供に向き合えると思います。
 明石市では、例えば、まさに妊娠届のときに一時間ほど時間をかけてお話を聞きます。そして、子供のリスク状況を確認し、保健師がマンツーマンになってフォローします。電話がかかってきて、夜に寝られません、大変ですと電話があれば、保健師が家庭訪問して、子供をおぶって、その間、お母さんに寝ていただくということもやっております。そうすることによって、虐待のリスクが減っていくと思います。
 大切なことは、早い段階からかかわり、親も含めて、たたく前にまず支援する、親に対して懲らしめるだけではだめで、そういう場面も必要かもしれませんが、できるだけ早く親の支援もやっていくということが重要だと思います。
 また、明石市では、離婚の際には、明石市がコーディネートをして、別れ離れになったお父さんとの面会交流を市の職員が立ち会ってやっておりますし、養育費についても立てかえを始めております。そうすると、親御さんが自分から払い出します。
 そういったこともやる中で、まさに親を総合的に支援することによって、子供のリスクを減らす考えでございます。

○高橋(千)委員 ありがとうございました。
 後半の話もまた引き続き聞きたいなと思ったんですけれども、時間になりました。また次の機会にやりたいと思います。
 大変ありがとうございました。

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