禁止法・救済機関こそ/ハラスメントめぐり参考人
企業にパワハラ防止措置を義務付けることなどを盛り込んだ女性活躍推進法等の改定案の参考人質疑が16日、衆院厚生労働委員会で行われました。参考人からは、ハラスメントの禁止規定やセクハラ救済機関の創設を求める声が相次ぎました。
日本婦人団体連合会の長尾ゆり副会長は、日本政府が国連女性差別撤回委員会からセクハラ禁止法整備の勧告を受け、ILO(国際労働機関)が6月の総会でハラスメント禁止法の整備をうたう条約を採択しようとしていることを指摘。「きっぱりとしたハラスメント禁止法と制裁措置を策定することこそ必要だ」と述べました。
労働政策研究・研修機構の内藤忍副主任研究員は、セクハラ禁止規定とともに行政が早期に柔軟な救済命令を出せる仕組みを導入するよう主張。伊藤和子弁護士は、性的マイノリティー(少数者)に対するハラスメントが深刻化していることについても触れ、「法の隙間で保護されないことがあってはならない」と述べました。
日本共産党の高橋千鶴子議員は、男女間の賃金格差情報の公表義務付けについて質問。長尾氏は「女性が自立して働き、生きていくためには、男女の賃金がどうなっているかは非常に大事で、公表すべき問題だ」と答えました。また、ハラスメントの禁止と被害の救済について、長尾氏は「禁止の法制化はすぐにも可能で、独立した救済機関が必要」と述べました。
( しんぶん赤旗 2019年04月18日付より)
―議事録ー
○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
本日は、五人の参考人の皆さん、大変お忙しい中御出席いただき、貴重な御意見をいただきました。ありがとうございました。
早速質問に入らせていただきます。
初めに、女性活躍推進法の情報公表項目について、布山参考人と、後で長尾参考人にも伺いたいと思います。
この女性活躍推進法の情報を公表すべき項目について、今回は、職業生活に関する機会の提供、また職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備という二つのカテゴリーから一件ずつ公表するとされました。
これは前回の法律をつくる時点でも大分議論になったし、私自身も質問したことなんですけれども、男女の賃金格差について、企業の中では状況把握項目になっているんですけれども必須ではないということで、やはりこれは女性活躍にとって肝となる課題でありますので、公表すべきではないかと思いますが、布山参考人、いかがでしょうか。
○布山参考人 ありがとうございます。
この件に関しては、労働政策審議会の審議においても同様の意見をおっしゃる委員の方はいらっしゃいました。
そのとき、公益の委員の先生だったかと思うんですけれども、いわゆる男女の賃金の格差というものは、一番大きな要因が男女間の職階の違い、次いで勤続年数の違い、あとは学歴だとか年齢だということで、それを丸めた形で男女の賃金格差を出して比較するということは、非常にそこの解釈が難しい、そういうことになるというふうに考えていて、背景をしっかりと分析しないと正しい数値の見方にならないのではないかという、そんな御意見がありました。
私ども企業といたしましても、まさに同様の意見でございます。
そもそも、男女の賃金の差異にかかわらず、あと性別にかかわらず、社員お互いの賃金は知られておりませんし、社内でも特段公表しておりません。そういう状況の中で、社員も知らないデータを外部に対して公表するということについては非常に違和感を持っております。
とりわけ、先ほど来申し上げているように数字はそれだけがひとり歩きする危険がとても高いので、数字を見た方が背景も含めた正確な見方ができないと、これは無用なトラブルも起こしかねないと思っております。
賃金にかかわる数字は、そういう意味で、情報公表項目に含めるべきではないというふうに思っております。
○高橋(千)委員 今お答えがあったように、労政審の中でも布山参考人は、男女でざっくり賃金格差を出したところで何を見るのか、疑問と思うというふうな発言をされております。同時に、自社の従業員にも明らかにしない情報が多々あるというふうな御発言もされているんですけれども、ざっくりの格差であれば、それが自社の従業員にも明かせない情報なのかなという思いがいたします。
やはり見える化を進めていくこと、それは、背景も含めて全体として進めていくことによって要因も見えていくだろうし、要因がもう固定、いわゆる職階だとか勤続年数でわかってしまっているんだからと言ってしまうと、じゃ、そこをどう解決していくのかというところにアプローチができないんじゃないかなと思っております。
そこで、長尾参考人に伺いたいと思うんですが、本来ならこの女活法というのは働き方改革の要請だったわけですよね。だけれども、同一労働同一賃金の指針においても男女の賃金格差というのは全くスルーされているわけです。そして、雇用管理というのは、もう既定のものとして乗り越えられない、格差があって当然だというふうになっているわけですよね。それではやはり更にその先には進めないのかなと思っておりますけれども、御意見を伺いたいと思います。
○長尾参考人 私は、女性活躍推進法は、要するに見える化を進めるためにつくられたのではないかと思っています。現状を公開する、公表する、そして企業がその現状をもとにどのような行動計画を立て、そしてそれをどう進め、それにどのように皆さんからの評価をいただくかというふうな点で、見える化、まずは現状の公表というのが鍵だと思います。
そして、公表すべき項目の鍵は、やはり男女の賃金格差ではないかと思います。
国連の女性差別撤廃条約は、結果の平等というのを求めています。女性の活躍についても、アドバルーンを上げるだけじゃなくて、じゃ、この法律がつくられ、そして施策が進められて、結果としてどうなったのかというのを見ることが必要。結果の平等をどう実現するか、その一番大きなわかりやすい指標としてあるのが男女の賃金格差ではないかと思います。
賃金が保障されなければ、年収が保障されなければ一人で生きていくということはできないわけです。女性が自立して働き生きていく、自分の人生を選んでいくためには、男女の賃金がどうなっているかというところは非常に大事な問題で、公表すべき問題だと思います。
そして、世界フォーラムのジェンダー平等指数においても、日本の経済的な指標では百四十九カ国中百十位でしたよね、昨年暮れにも。本当に大変な恥ずかしい状況なんですけれども、それはやはり、管理職の中での女性比率と、男女の賃金格差が大きいということが原因になっていると思います。それはまた一体のものですよね。管理職になかなか昇進できない、だから女性の賃金が低い。
そして、管理職になろうと思ったら総合職を選ばなければならないけれども、入社のときに総合職を選んでも、やはり転勤があり、長時間労働がつきまとう総合職は選べない、一般職に変えざるを得ない、そういうコース別管理の問題。
それから、女性が育児をしながら働き続けるということの困難さから、第一子を出産したら、ほぼ六割の女性がやめていくという状況。そして、また働き始めると、そのときはパートしかないというふうな状況、非正規が多いという状況。
そのような男女の賃金格差を見ていくと、その背景にあるコース別管理であるとか非正規雇用の問題であるとかが見えてくるんですよね。そして、子育てしながら働けない現状であるとか、それが見えてくる。
だから、やはり、一人一人の生きる条件の問題と、そして男女の差別がどうしてこのように広がってしまっているのか、なぜ解決できないのかという問題点を見つけていくという点でも、一番大事な指標として男女賃金格差の指標があるのではないかと思います。ですから、これは、本当に必須項目として入れていただきたいなと思っています。
そもそも、女性活躍推進法で、男女の賃金の差異については、取組の結果を図るための指標、まさに、本当に結果の平等が実現されているかどうかを図るための指標であって、一番大事なものではないかと思っています。
○高橋(千)委員 ありがとうございました。
賃金格差は縮小されていると言っているわけですから、経団連の方もぜひ見える化を進めていただければとお願いをしたいと思います。
二つ目なんですけれども、ILOにおいて、先ほど来議論がされている、仕事の世界における暴力とハラスメントの終えんに関する委員会が六月の総会で初の国際労働基準を採択するという予定で、今回の法案にその包括的なハラスメント禁止規定が盛り込まれることが期待されていたと思います。
そこで、内藤参考人と長尾参考人に伺いたいと思います。
日本共産党としては、ハラスメント禁止規定と救済機関をやはりセットで法定すべきだと考えています。ハラスメントの定義及び対象の範囲はILO基準に合わせるということで、雇用関係にない従業者に対して、政府はいろいろ言うんですけれども、それは、措置義務と努力義務ということで適切に分けることで対応可能ではないか。あわせて独立した救済機関としての行政委員会の設置が必要ではないか。これは二つが相互に関係し合う問題だと思っておりますが、御意見を伺いたいと思います。
○内藤参考人 御質問ありがとうございます。
禁止規定と救済機関ということでしたでしょうか。何回も繰り返しになりますが、禁止規定は導入して、救済機関は具体的にはここでは申し上げませんでしたが、今の行政救済の検証をもとに、どのような救済の改善があり得るか検討していって、その上で、当事者の求めているのがハラスメントの認定である、調査をして認定であるということを踏まえて、どのような救済機関があり得るか。今おっしゃっていただいたパリ条約に基づく独立した人権救済機関、このようなものが本来的には望ましいというふうに私も思っております。
○長尾参考人 私も、禁止規定は、先ほどの意見陳述でも申し上げたとおり、本当にすぐにも必要なものであると思いますし、ILOでは、昨年のILO総会から本当に丁寧に議論が行われ、そして各国政府の意見も聴取しながら今改善を進めているところですから、本当に、目の前にお手本があるという状況だろうと思います。
これをもとに、たたき台にして日本の法整備を進めていけば、それほど困難な課題、例えば指針の中で中長期的に考えていくなどと言われていますけれども、そういう中長期的な時間が必要な問題ではなく、今まさにヨーロッパの法制そしてILO条約をお手本にすれば日本で禁止の法制化はすぐにも可能だと思っています。
救済機関は、独立した救済機関が必要だということです。
○高橋(千)委員 ありがとうございます。
次に、伊藤参考人に伺いたいと思います。
最初の意見陳述でもお話しされて、先ほど大西委員からも質問があった件ですけれども、三月二十八日の名古屋地裁岡崎支部での、娘さんに対する準強制性交罪事件で父親に無罪判決が言い渡された件についてです。
同意はなかったということが認定されながらも、抵抗できなかったわけではない、だから無罪だというのであればもう何でも許される、本当に衝撃を受けました。
先ほど、二〇一七年の刑法の改正のお話があったんですけれども、百十年ぶりの改正だったということで、一気に現実に沿うところまでは届かなかったということで、新たな見直しが求められているのかなと思うんです。
ただ、同時に、こうした刑法の限界の問題と、セクハラ罪はないなどと発言させてしまう今の社会というのは、やはり根っこは一つではないかというふうに思っておるんですけれども、御意見を伺いたいと思います。
○伊藤参考人 女性に対する暴力をなくしていくという課題においてセクハラというのは非常に重要なことなわけなんですけれども、やはり政府が率先して、例えばカナダであるとかフランスという国では、首相、大統領といった人が、率先して女性に対する暴力をなくすというメッセージを発信して、取組を進めていくというようなことをされていらっしゃいます。
それに比べますと、日本ではセクハラ罪はないというような発言が政府の非常に高い立場の方からもあったりするということで、そういう状況が社会の全体の中に行き渡ってしまうと、それがどうしても裁判所にも影響してしまう。そして、それが検察庁、警察に行き届いて、結局、抵抗力の弱い女性や子供が犠牲になるというようなことがあると思います。
これは本当に、国会議員の先生方そして政府の関係者の方々から意識を変えていただきたいということと、それから裁判所、裁判官に対するジェンダー教育ということも非常に重要だというふうに認識をしております。
○高橋(千)委員 裁判所に対するジェンダー教育という、大変いい指摘かなと思います。政府の閣僚や官僚に対しても、我々の国会の中でも本当にしっかりとやっていく必要があるのかなと思っております。
課題がたくさんあると思いましたし、またたくさん聞きたいことがありましたけれども、きょうの機会をまた次の議論に生かしていきたいと思います。
本当にありがとうございました。