豚肉の輸入差額関税制度を悪用した脱税で、税関が悪質事例について過去5回も検察当局に告発していたことが明らかになりました。衆院農林水産委員会で7日、日本共産党の高橋千鶴子議員に財務省が明らかにしたもの。
財務省によると、税関は1999年1回、2003年2回、2004年2回と過去5年間で5回も告発しています。摘発された企業は7社で、脱税額は最大で3億1000万円。ほとんどが1億円以上の高額脱税です。総額は、約7億4000万円にのぼります。
手口はいずれのケースでも、輸入申告の際にインボイス(仕入れ書)を偽造。基準価格より不正に高価格に申告することで課税を免れるという方法です。財務省の青山幸恭審議官は、「手口が悪質巧妙化している」と指摘。審査の徹底や事後の税務調査を的確に行うと述べました。
高橋氏は、こうした悪質な脱税が、食肉業界で日常化しているのではないかと指摘。輸入冷凍豚肉の八割以上が脱税がらみだという情報も寄せられていると述べました。年間約80万トン輸入され、税関に月約三千件申告されている輸入豚肉の厳正な検査を求めました。
法務省に対しても税関の告発に基づき東京地検特捜部で本格的な捜査をやるべきではないかとただしました。法務省の大林宏刑事局長は、「必要に応じ、税務当局と連携して適切に対処したい」と答えました。
(2005年4月8日(金)「しんぶん赤旗」より転載)
――― 議事録 ――――
○高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
きょうは、豚肉の輸入差額関税制度を悪用しての脱税疑惑問題について質問をさせていただきます。
昨年一月、食肉加工最大手の日本ハムの子会社、南日本ハムが冷凍豚肉を輸入する際、輸入価格を税関に虚偽申告をして関税を免れた疑いで強制捜査をされ、その後逮捕、現在係争中となっております。
皆様のお手元に資料を一枚、今言った輸入差額関税制度というのがどのようなものかイメージできるものを、農水省からいただいた資料をお配りしています。現在はこうなっているそうで、枝肉ベースでありますけれども、キロ三百九十三円という基準価格がありまして、それ以降は四・三%の税額でありますけれども、この基準価格より安い肉に関しては、その差額を関税として払うという制度になっております。ですから、今回のやり方は、例えば三百円の値段であれば百十円を払わなければいけない計算になるわけですけれども、四百円のものだというふうな形で実際の値段より高く申告をして、結局その差額の利益を得ていた、こういう仕組みになっているわけであります。
この差額関税制度を利用して二百二十五万円を脱税したというのが兵庫県警と神戸税関の発表でございます。当時の新聞各紙が一斉に報道しておりますが、〇一年六月から十一月だけを見ても、一億一千万円の脱税額に上ると報道がされております。
同社は、二〇〇二年十二月には、鹿児島県産豚肉使用と明示をしたレトルト食品などに米国産や他県産の豚肉を使用していた産地偽装問題で、農水省からJAS法違反での改善の指示をされております。また、同社のみならず日ハムグループがBSE対策の国産牛肉買い取り制度を利用した偽装事件で社会的に大きく問題とされたことは、もう周知の事実であるかと思います。
コンプライアンスということが叫ばれていながら、またもこうした問題が繰り返されていることに非常に腹立たしく感じております。
問題は、食肉業界のトップがこのような悪質な脱税をやっているということは、実は業界全体に広がっているのではないかという指摘があることであります。実際、東京税関が伊藤ハムの子会社の捜索に入ったということも既に一部で報道されております。昨年一月二十二日の産経新聞では「「裏ポーク」出回る」「業界では公然の秘密」このように報じられました。裏ポークが業界内では広く認識されていたことを関係者の話として紹介をされております。
このようなことを御承知でしょうか、大臣にまず伺います。
○島村国務大臣 お答えいたします。
豚肉の差額関税制度を悪用した脱税行為があったことについては私も承知しております。まことに遺憾である、こう考えております。
今後は、本制度を適正に運用するため、従来より関税法令を所管する財務省関税当局により取り締まりが行われているところでありますが、私どもは、私が就任以来、一切の利権その他の行為にかかわることについては厳しくこれを糾弾する、したがって、そういう誤解を受けることもできるだけ避けて、それで、この伝統ある役所の信頼をきちんと維持していくようにと、厳しく指示しているところでございまして、こういう行為に対して私は、皆さん厳しいでしょうが、殊さらに厳しく対応する人間だというふうに自負しております。
○高橋委員 厳しくということで大臣のきっぱりとした御答弁をいただきましたので、ありがとうございます。
ただ、私どものところにも告発文書が届いております。業界関係者及び日本ハム元社員らによると、日本に輸入されている冷凍豚肉の八〇%以上はこうした不正輸入であると指摘をしております。もし事実であれば、大変驚くべき数字であります。同時に、それを知りながら黙認してきた農水省の責任を厳しく指摘をしていられます。大臣には、最後に、この所管官庁としての所見をもう一度伺いたいと思います。
そこで、この輸入差額関税制度は、国内の畜産農家を守るために、七一年、豚肉の輸入自由化の際に導入されたものでありますが、食肉業界はこの撤廃を求めております。平成十五年七月二十二日、日本ハム・ソーセージ工業協同組合名で、白須生産局長あて、差額関税制度の廃止を求めております。日本の畜産農家を守るための制度の撤廃を求める一方で、この制度を利用して悪質な脱税行為を繰り返す、全く許しがたいことだと思います。
この制度は申告制度であり、輸入者が契約仕入れ書を添付して申告をすれば輸入がされる。ですから、それが仕入れ書にあるとおりの額で、本当にそうだったのかとか正しく申告されたかどうかというのは、事後の税務調査しかないというのが実情でございます。輸入豚肉は年間八十万トン輸入されており、月約三千件の申告と聞きます。実際に税関を通るのは豚肉だけではございませんので、膨大な量だ、事後調査が追いつかないのが実際ではないか、大手を振って脱税が行われる事態となっているのではないか、このように思われます。
税関としては、既に過去五回告発をしております。その告発内容と対策を明かしていただきたいと思います。
○青山政府参考人 お答え申し上げます。
御指摘のとおりでございますが、豚肉に係ります関税逋脱事件でございますが、平成十一年以降、五件の事件を告発しているところでございます。十一年に一件、十五年に二件、十六年に二件というところでございます。
これらの事件でございますけれども、カナダ、韓国等輸出国は異なるわけでございますけれども、いずれも、輸入申告の際に、その課税価格を明らかにいたしますインボイスといっております仕入れ書、これを偽装するということをやった上で、不正に高価な申告を行っておるということで差額関税を免れたものというやり方でございます。偽りその他の不正な行為ということになるものですから、関税法百十条で、私どもといたしましても関税逋脱犯ということで告発しているというところでございます。
お尋ねの、ではこれからどういうふうな対策を講じていくのかという議論でございますけれども、豚肉の差額関税を悪用したような逋脱事件というものにつきましては、今後とも、取引を非常に複雑に偽装するということで、悪質巧妙化しているというふうに認識しているところでございます。
そういうところで、税関といたしましてどうするかというところでございますが、まずは通関時点におきます審査、検査の徹底というのが一つでございます。二番目は、通関後におきます、先生がおっしゃられましたような事後調査でございますが、これを適正に、的確に行うというところでございまして、契約書類等、輸入者のところに立ち入っていろいろ調べさせていただくというところでございますが、しかも、これで逋脱犯ということで立件すべきはきちっと立件するというやり方をとろうということで従来からやってきているところでございます。
こういう事案に対しまして、これまでも海外におきます取引実態あるいは取引の関連の資料の徹底した収集、分析に努めておりまして、厳正な処理を行っているというところでございます。
なお、今国会におきまして、三月末でございますが、十七年度関税改正の中におきまして、隠蔽または仮装に対します重加算税制度の導入を盛り込んでおります。私ども財務省、税関といたしましても、悪質事案に対しまして徹底した取り締まりの強化とあわせまして、引き続き適正な関税の賦課徴収に努めてまいりたい、かように考えております。
以上でございます。
○高橋委員 申告に当たってインボイスを偽装している悪質巧妙なものであるということが明らかにされた、また新たな手続に沿って今後の対策に対してもやっていくという決意が述べられたかと思われます。非常にありがたいと思います。
ただ問題は、毎年のように脱税行為が繰り返されて、一向にそれが是正されていないという問題であります。
先ほどお話しした膨大な量だということも確かにあるわけですけれども、問題は、今言ったように、八割がそうだよという指摘がある。ゆゆしき事態でありまして、そうなると個々の企業の問題ではないだろう。ですから、個々の企業が、海外の会社等、いろいろな経路をたどってくるわけですが、その間にいろいろなダミー会社を使っているんじゃないかとか、さまざまな指摘があるわけです。
つまり、相手があることですので、一社では、単独ではできないわけですよね。だから、総合的なやり方を当然しているわけだという意味で、そういう抜本的に広範な調査が必要だ、そして、二度とこのような脱税行為は繰り返されない、そういう立場で臨むべきだと思いますが、もう一度伺いたいと思います。
○青山政府参考人 お答え申し上げます。
先ほどの繰り返しになるようでございますが、税関当局といたしましても、御指摘のような事態に対しましては、海外におきます取引実態あるいは取引関連の資料の収集等々、あわせまして事後調査部門の増員措置等を図ります。そのような中できちっとやっていくということを従来からやっておりますが、これらの話を含めまして、先ほど申し上げましたように、重加算税制度の導入というのをこの十月から実施いたします。これにつきましても適正、的確にやっていきたいというふうに思っております。
以上でございます。
○高橋委員 よろしくお願いいたします。
きょうは法務省の刑事局長にもおいでをいただいておりますので、あわせて、この問題について、当然、税関が告発をすれば地検としても捜査をされていると思われますけれども、どのような対応をされてきたのか、また、関心をこの問題についてお持ちなのか伺いたいと思います。
○大林政府参考人 いわゆる関税逋脱事案につきましては、今委員御指摘のとおり、税関当局の告発が訴訟条件とされているものと承知しておりますけれども、あくまで一般論として申し上げれば、検察当局におきましては、この種事案につきましても、必要に応じ税関当局と連携し、適切に対処しているものと承知しております。
○高橋委員 地検に関しては、多分これ以上のことは捜査上のどうのということで話が進まないかなと思われますけれども、要望をしておきたいと思います。
告発がされれば当然対応される、税関の方では告発するまでに当然調べをしているので起訴が当然なものだ、そういう態度で臨まれていると思いますし、厳しくこの問題については対応していただきたい。
同時に、先ほど来お話ししているように、構造的なものなんだ、大手の関係会社全体に、業界全体にわたるものなんだという指摘がある。そして、同時にそれが、関係会社だけではないだろう、当然政官の問題があるだろう、そうしたことも雑誌などにも指摘をされております。そういう点では、そういう意味での関係をしっかりと捜査をしていただきたい。これはその後の捜査がいずれ進むでしょうから、十分にお願いをしていきたいと思っております。
そこで、先ほど大臣は、まことに遺憾であるとおっしゃいましたし、取り締まりがされているということも十分承知をされている、またその後に対して厳しく対応するということをお話しされたと思うんですが、今の農水省の立場というのは、当然所管官庁でありますので指導する立場にあるかと思うんですね。
さっき紹介したように、平成十五年、二〇〇三年には差額関税廃止を生産局長に対して申し入れをしている。ただ、同時に、養豚協会、生産者の側の要望もございますので、生産者の側は二〇〇四年の六月十日に財務大臣や日本食肉輸出入協会に対して、この差額関税制度の悪用防止の申し入れを、強く望むというふうな申し入れをしております。これに対しては、農水省は口頭で指導はしたという話は漏れ聞こえておりますが。
要するに、生産者の側と業者の側、それぞれの側から要望を受ける立場に農水省はいる。そして、例えば三月一日の食肉通信などを見ますと、養豚協会の協議会が二月二十一日に開かれて、農水省も全農も食肉輸出入協会も、ハム・ソーセージ工業協同組合も、そして消費者の側から日生協なども参加をして意見交換をされている。そういう場がこれまでも随分あったと思うんですね。この場でも、日本ハム・ソーセージ工業協同組合は、差額関税の廃止を行政に求めておりますということを意見交換の場で述べていらっしゃる。
ですから、そういう両方の側から、意見を求められるというんでしょうか、協力を求められる側にいて、またその意見を交換する場にもいる農水省がどんな態度をとってきたのかということが本当に問われるわけですね。ですから、もちろん知らないということは当然ないわけでございますし、毅然として臨むということは、そういう点で、まず農水省の中でどのようなやりとりが実際されてきているのか、例えば要望を受けてどういうやりとりをしてきたのかという調査、そして関係業者に対してはコンプライアンスの徹底という意味での指導、両方求められておりますが、大臣、どのように臨むのか、もう一度伺います。
○島村国務大臣 御指摘の豚肉の差額関税制度の問題ですが、安価な豚肉の大量輸入による国内需給の混乱を防止することを目的としたものであることは御高承のとおりです。国内の需給及び価格の安定に寄与してきたところでもあります。
しかし、不正輸入の再発を防止し、本制度を円滑に運営するため、食肉関係企業に対し関税法令などの遵守の徹底を厳正に指導してまいりたい、こう考えております。
また、関税当局による取り締まりが徹底されるよう、関税法令違反の疑いがある事案については、速やかに関税当局へ情報提供を行うなど連携強化に努めておるところであります。
いずれにいたしましても、何かこういう不正行為をやり得というような環境に置くことは、かえってこういう犯罪行為を誘発しますので、厳正な態度でこれに臨んで、やはりこういうことが起きないように、むしろ、やったら大変な損をこうむるということを知っていただくことも必要だということを省内で訓示をしているところであります。
○高橋委員 訓示をしておるではなくて、直接に、担当している部局がどのようにされているのか調査も必要だと思いますが、いかがですか。
○島村国務大臣 当然であります。
○高橋委員 ありがとうございます。
食の安全、安心の問題で、安心という言葉が欠けたのではないかということをせんだって基本計画の問題で質問をしたわけでありますけれども、この間、さまざまな形で、安心という言葉はなかなか言いがたいものだということで、なくてもいいんじゃないかということが業界からも出てくる。そのことに、気持ちは変わっていないよと言うけれども、やはりこういう問題が起きると不安になるということが問われてくるわけです。本当に監督官庁の姿勢が問われる。
今お話しいただいた毅然とした態度を今後も貫いていただくように注目をし、お願いをして終わりたいと思います。ありがとうございました。