名古屋市の大手食肉卸「フジチク」が62億円の巨額関税脱税で摘発されたのを受け、日本共産党の高橋千鶴子議員は17日の衆院農水委員会で再度差額関税制度を悪用した輸入豚肉の脱税問題を取り上げました。
高橋議員は「フジチク」摘発で、脱税で輸入された裏ポークが広範囲にわたっていることが裏付けられたと指摘しました。その上で、過去に豚肉関税脱税で摘発された業者の「一番もうけていたのは大手ハムメーカー」という証言を紹介、業界に蔓延している脱税の実態を告発。税関を管轄する財務省に対し「大手ハムメーカーも見逃さず、真相に迫るよう」求めました。
財務省の青山幸恭大臣官房審議官は「複雑に偽装するなど、脱税が悪質・巧妙化している」としたうえで、「名義会社のみにとどまらず、真の輸入業者がだれかをはじめ、実態の全容解明につとめている」と答えました。
高橋議員はさらに食肉業者を監督する農水省に対しては、「大手ハムメーカーが中心となった構造的な問題という認識があるか」と追求。農水省の白須敏朗生産局長は「許しがたい行為であるが、農水省には強制捜査権限がない」などと消極的な答弁を繰り返しました。
島村宜伸農水相は「不正行為は断固処断する。不正行為を見逃すとやり得になる。的確な情報があれば提供頂きたい。責任ある対応をしていきたい」と述べました。
(2005年5月18日(水)「しんぶん赤旗」より転載)
――― 議事録 ――――
○高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
初めに、四月七日の当委員会で取り上げました、輸入豚肉の差額関税制度について質問をいたします。
あの後、業界関係者等からお電話やメールなどをいただき、大変大きな反響がありました。先日は、大手食肉卸のフジチクが、六十二億八千万円、同制度を悪用した関税法違反で再逮捕されております。私が指摘したとおり、業界のかなり広範にわたって裏ポークが出回っていたことが改めて裏づけられたと言えるのではないでしょうか。
そこで、まず財務省、刑事局、農水省、それぞれに、その後の取り組みについて伺いたいと思います。
○青山政府参考人 お答え申し上げます。
四月七日、前回の本委員会におきまして申し上げましたとおりでございますが、豚肉の差額関税制度を悪用いたしました不正輸入に対しましては、まず、通関あるいは事後調査の各段階におきまして、厳重な審査あるいは調査を引き続き実施しているところでございます。また、そうした審査、調査の中で関税逋脱の嫌疑が発見されれば、関税法違反嫌疑事件といたしまして、その事実を解明するために徹底した犯則調査を実施しているわけでございまして、当該犯則調査に当たりましては、検察当局ともよく連絡し、協力しながら、事実の解明に努めているというところでございます。
さらに、前回も申し上げましたが、今国会で既に成立いたしました平成十七年度の関税改正におきましても、仮装または隠ぺいに対します重加算税制度の導入を盛り込んだところでございまして、財務省税関といたしましても、悪質事案に対します徹底した取り締まりの強化とあわせまして、引き続き本制度の厳正な執行に努めてまいりたい、かように考えております。
以上でございます。
○大林政府参考人 検察当局におきましては、従来から、税関当局と連携し、お尋ねのような事案に厳正に対処しておりますが、最近のものとしては、本年五月十二日、名古屋地方検察庁において、フジチクインターナショナル株式会社元代表取締役ら三名を関税法違反により逮捕し、現在、捜査中の事案がございます。逮捕事実の要旨は、被疑者ら三名は、ほか数名と共謀の上、平成十四年五月から同十五年九月までの間、豚肉を輸入するに際し、輸入豚肉の課税価格を実際より高く申告し、輸入豚肉に対する差額関税、合計約六十二億八千万円を免れたというものであると承知しております。
○白須政府参考人 四月七日以降とった措置というお尋ねでございます。
私どもとしましては、一つには、豚肉の輸入制度に関します関係団体への指導というふうなことでございまして、関係団体幹部への指導、関税法令遵守の指導をまずは徹底したということでございます。
さらには、指導文書の発出ということでございまして、この適正な手続ということの実施を周知徹底するということ、さらには、関税法令を初めとする関係法令違反についての要請というものも行ったわけでございます。また、さらには、関係団体以外への周知徹底というふうなことでございまして、必要なリーフレットというものも作成をいたしまして、これの配布というものも行っております。
また、さらには、食肉業界全体におけますコンプライアンス体制の確立、徹底というふうなことでございまして、これは五月中ということでございますので、まだ今ヒアリングを実施した、あるいはこれから実施するということもございます。また、さらには、説明会の開催ということも行っております。
また、四つ目としましては、やはり財務省との連携の強化ということでございまして、引き続き関税当局との連携を図っていくというふうなことをしっかりとやってまいりたいということでございます。
○高橋委員 財務省に伺いますが、我々の情報の中では、横浜税関あるいは神戸税関なども捜査しているということですが、いかがですか。
○青山政府参考人 大変恐縮でございますけれども、個別の事案でございまして、お答えしかねますので、恐縮でございます。
○高橋委員 そういう情報があるということを紹介しておきたいと思います。
私どもに寄せられた意見の多くは、トカゲのしっぽ切りに終わらせるなということであります。実は、税関も含め、これまで何十年も黙認してきたじゃないか、こういう指摘もございます。これをしっかり受けとめられるかどうかということが本当に問われているのではないでしょうか。
赤旗新聞の取材で、大手食肉卸会社の指示で脱税をしていた関係者の証言が複数紹介されております。例えばこうであります。
差額関税では、一定価格より安い豚肉ほど高い関税がかかる。そこで、実際には安く買った豚肉を、一定価格に近い高い値段の豚肉だと虚偽の申請をして、例えばコンテナ一つで本来七百三十万円になる関税を二百五十万円だと申告、百コンテナを輸入したとすれば四億八千万円のもうけになる、もうけイコール脱税でございますが、こういうふうにリアルに証言しております。
輸入には実体のないダミー会社を使い、大手企業の名前は表に出さずに手続が済んでいる。だから、別の方は、わしらの脱税を利用して一番もうけていたのは大手ハムメーカーだと怒り、さらに、中堅ハムメーカーの幹部だったという別の方は、輸入して、複数のペーパーカンパニーを利用して豚肉の所有者をどんどん変えていく。名義を書きかえれば、ペーパーカンパニーはすぐ偽装倒産させる。こうして、だれが輸入元かわからなくなる。他社がやっていると、我が社もやらないと立ちおくれてしまうと言い、業界に脱税が蔓延していた実態を告白しております。
先般の質疑では悪質巧妙化しているという答弁もございました。関係者からこれだけの指摘があることを踏まえ、大手ハムメーカーも見逃さず、真相に迫る責任があると思いますが、もう一度税関に伺います。
○青山政府参考人 豚肉の差額関税制度を悪用いたしました関税の逋脱事件でございますが、議員御指摘のとおり、近年、取引を複雑に偽装するということで悪質巧妙化しているという認識でございます。このため、豚肉の不正輸入に係ります関税犯則嫌疑事件の調査に当たりましては、輸入申告の名義会社のみにとどまらず、真の輸入者がだれであるかということを初めといたしまして、不正輸入の実態の全容解明に努めているところでございます。
これとの関連でいいますと、海外におきます取引実態等を含めました関連資料の徹底した収集、分析等も行っているところでございます。こういう中で、関税法違反に対します関与の事実が明らかになれば、その違反行為に加担した者に対しましては厳正に対処してまいりたいというふうに考えてございます。
以上でございます。
○高橋委員 ありがとうございます。今お話にありましたように、真の輸入者がだれであるか、実態の解明にしっかりと取り組んでいただきたいと思います。
そこで、農水省に伺いたいんですけれども、四月二十五日に通達が出ました。リーフレットも出ました。「豚肉を輸入される皆さん 豚肉の輸入にあたっては、差額関税制度に基づき適正に手続きを行いましょう!」と、桜をバックにした、こんなほのぼのとしたリーフを配っている場合ではないと私は思います。
白須生産局長は、平成十五年七月二十二日、日本ハム・ソー工業協同組合から差額関税制度の見直しを要請されております。また、平成十六年六月十日、養豚FTA等対策協議会から財務省と日本食肉輸出入協会への、差額関税制度を悪用した関税法違反のやり方に関して、これをやめるようにとの、防止させるようにとの要請が出されておりますが、この要請書の作成に当たっては、生産局に相談の上出したということは承知しております。
ですから、これだけの情報を知り得る立場に置かれていた方として、一体どのようなことをこれまでやってきたのか、こういう裏ポークが出回っていることをいつ把握したのか。さっき紹介がありましたけれども、通達の中では関税当局と連携を図ってきたと書いてはあるわけですけれども、実際、一体どんな努力をしてきたのか、具体的に伺いたいと思います。
○白須政府参考人 委員からお話がございました、私ども農林水産省としての把握あるいは取り組み、対処ということでございます。
まず御理解を賜りたいのは、私ども農林水産省といたしましては、やはり捜査権限がない、強制捜査権限はないわけでございます。したがいまして、事実関係の把握には限界があるということでございます。
したがいまして、私どもとしては、うわさの域を出ない漠然とした情報ということではなくて、関係者からの内部告発に基づく個別具体的な情報、そういうものがございますれば、これはやはり関税当局に当然のことながらお伝えをするというふうなことでございまして、私どもとしては、そういう形で、関税当局によります取り締まりが徹底されるように、これまでもやってきたつもりでございますが、さらに関税当局との連携を図ってまいりたいというふうに考えている次第でございます。
○高橋委員 生産局として、関税当局に情報提供した案件が一件でもありますか。
○白須政府参考人 昨年情報提供を行いましたのは、七月に食肉の卸売業者関係の方から具体的な業者名を挙げました情報提供がございまして、したがいまして、関税当局に対しましてその情報内容をお伝えしたということでございます。
ただいま委員から、過去に一件かというふうなお尋ねがございましたが、一昨年以前につきましては具体的な件数については不明でございますが、私どもとしては、関税当局による取り締まりが徹底されますように、今後とも関税当局との連携を図ってまいりたいというふうに考えている次第でございます。
○高橋委員 正直言って、その程度のものではないだろうと思うんですよね。
それで、やはり認識を伺いたいと思うんです。四月二十五日の通達の二番目に、「食肉の購買に当たっては、関税法を始めとする関係法令に違反し、又はそのおそれのある取引に係る食肉を購買することのないよう、慎重に対応すること。」おそれのある食肉を購買するな、これはまるで人ごとですよね。購買という形をとりながら、実際には脱税に大きくかかわっていたのではないか、そのことが指摘をされているのに、買うなと、そういう話なのかということですね。
おそれのある食肉を買うなという通達を書いている農水省として、大手ハムメーカーが中心となったこれは構造的な問題だという問題意識がございますか。
○白須政府参考人 いずれにいたしましても、ただいま委員からもお話がございました、こういった豚肉の差額関税制度をめぐります不正、これは大変許しがたい行為であるというふうに私どもも認識をいたしているわけでございます。
ただ、先ほども申し上げたわけでございますが、私ども農林水産省としては、捜査権限、強制捜査権というものはないわけでございます。したがいまして、そういった意味からいきますと、やはり事実関係の把握にはどうしても限界があるということは申し上げざるを得ないというふうなことでございます。
したがいまして、私どもとしては、ただいま委員からもお話がございましたような形で、それぞれ食肉の関係の業界の団体のコンプライアンス体制の取り組み状況、そういったことについても、しっかりと、直接お呼びをしてヒアリングをする、あるいは説明会をする、あるいは、関係法令の遵守の徹底を図る、さらには、関係団体以外の事業者に対しても関係法令遵守のためのそういった説明会あるいはリーフレットといったようなことをやっているわけでございます。
こういうこととあわせまして、関税当局への情報提供ということ、あるいはまた関税当局との情報交換というふうな形で、より密接な連携の強化を図ってまいりたいというふうに考えている次第でございます。
○高橋委員 大臣に伺います。同じ認識ですかということです。大手ハムメーカーが中心となった構造的な問題だという問題意識があるのか。それから、この差額関税制度そのものをどうするのかということが非常に問われております。ざる法だ、抜け道があることがわかっていて、そのままでいいのかということも言われています。
ただ、本来の趣旨は、やはり国内の生産者を守るという本来の趣旨がございます。それを本当なら貫かなければならない。そうであれば、もっと厳しい制度にしなければならない。インボイスに書かれたことが本当かどうかを後で調べなきゃわからないような制度じゃだめなんだ。厳しい証明をつけるだとか、そういう対策を含めて制度の改善が必要だと思いますが、大臣の見解を伺います。
○島村国務大臣 私は、さきの農林大臣のときもそうですが、不正行為は断固処断する、一切の妥協をしないということを姿勢として貫いてきているわけでありまして、かつては林野の問題もございました。最近では、牛肉、豚肉、いろいろな問題が出てきておりますが、通常、今までそういうことの対象にならないであろうとされたところも厳しく処断されていることはお認め願えると思います。
ただ、委員が先ほどおっしゃったように、いろいろ情報が入るということでございますが、ぜひとも、そういう本当に事実と思えるような情報がある場合には、どうぞ我々に御提供願って、私たちは責任ある対応をしていきたい、こう思うのが基本であります。
そういう意味では、この豚肉の差額関税制度は、安価な豚肉の大量輸入によります国内需給の混乱を防止しなきゃいけないということを目的としたものでありまして、これまで国内の需給及び価格の安定に寄与してきたところであります。しかし、この差額関税制度を悪用した脱税行為によって不当に安い豚肉が輸入されるような事例については、これは制度の趣旨に照らして許しがたい反社会的行為でありますから、今後とも、関税当局との一層の連携強化を図りながら厳正に対処していきたい、こう考えます。
いずれにいたしましても、こういう不正行為を見逃していますと、やり得ということになります。私は、悪いやつほどよく眠るということに反発を感じて政治家になった人間でありますから、これからもその初志を変えないつもりでありますので、もしそういう的確な情報と思われるものがあれば、遠慮なくお申し出をいただきたいとお願いする次第であります。
○高橋委員 ありがとうございます。情報提供はさせていただきますので、厳しい対応をよろしくお願いしたいと思います。