20日の衆院農林水産委員会に参考人として出席した、内閣府食品安全委員会プリオン専門調査会の山内一也東大名誉教授は、同委員会のBSE(牛海綿状脳症)対策の全頭検査緩和答申について「納得がいかないまま(検査)月齢見直しの審議を行わざるを得なかったことは残念」と述べました。専門委員が、答申内容を国会の場で発言したのは初めてです。
山内委員は「危険部位除去と全頭検査が相補って食肉の安全を確保している」と指摘。「この優れた安全対策が、貿易のさまたげという観点から見直しを迫られている」と批判しました。また、答申に盛り込まれた、全頭検査緩和を批判する意見について「(農水省など)リスク管理機関がどのように留意するか見守りたい」と訴えました。
日本共産党の高橋千鶴子衆議院議員は、今後諮問が予定されている米国産牛肉輸入再開にむけて、農水省が米国内の飼料規制をリスク評価の対象としないとしている問題や、データが少ない米国のリスク評価の可能性などを質問。山内委員は「専門調査会の審議では、米国でのBES汚染度、病原体の蓄積量、食肉の汚染度などとともに、飼料規制も入ってくる」と述べました。
米国式格付けと月齢とを結びつける問題点をめぐって、高橋議員は「米国ではさまざまな交配種があり、肉質も違うのにアメリカが示したサンプルのデータが、どの牛の種類でも成り立つのか」と質問。牛の月齢判別に関する検討会座長の沖谷明紘日本獣医畜産大学教授は、年間約3500万頭という「全部の母集団を完全に反映しているとは言えない。それは不可能だ」と答えました。
(2005年5月21日(土)「しんぶん赤旗」より転載)
――― 議事録 ――――
○高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
きょうは、両先生、お忙しい中を御出席いただきまして、本当にありがとうございます。
最初に沖谷先生に伺いたいと思うんです。
委員会やあるいは予算委員会の中でもこの格付の問題を質問してまいりました。直接検討会の先生にお伺いする機会をいただいて本当によかったなと思っているところなんですけれども、格付はその国固有のやり方であると思います。私は、これを月齢とリンクさせることには非常に無理があると。先ほど来、質問にもあるように、この月齢と格付をリンクさせるという考え方について特別な研究をされた学術論文などもいまだ世に出ていない、そういう中で初めての試みがされたわけです。
そこで、検討会にはアメリカが幾つかのサンプルを出して、月齢が明確にわかるものと、格付との比較をする中で、たとえばらつきがあっても間違いなく二十カ月齢以下となれるのがA40という形で結論を出された。ですから、そのこと自体は、要するに、その与えられたサンプルの中では確かに信憑性があったかもしれないと思うんですね。ただ、アメリカには交配種が圧倒的に多い。ですから、サンプルというのは本当はもっともっとさまざまな種類を実際は見なくちゃいけないだろう、肉質もさまざま違うだろう。まして、日本では全く違う種類でありますから、日本で格付をやっている方がそれを見ても、イコールそうだというふうにはできないものでありますよね。
この点を踏まえて、検討会ではどうしてこれを正確だと言えるのか、伺いたいと思います。
○沖谷参考人 我が国の場合は出生日はわかっておりますけれども、その格付というのは、肉のおいしさというのですか、かたさとか、そういうもので、肉の食品としての価値を決めるために格付をやっております。
その格付、かたさ、特にアメリカの場合はかたさなんですけれども、高齢の牛ほどかたくなる、これは世界全部共通なんですけれども、年齢のわからないものについては、マチュリティーを知ることによってかたさを推定するということで、完全に、ぴったり一対一の関係ではないですけれども、ある幅を持って相関があるということはもう既にわかっていて、それを使っているということで、全くそういう研究がないということじゃなくて、格付自身が、もともとそういう生理的なものの状況が年齢によって変わっていくということに基づいて格付というものがつくられているというふうに僕らは理解しております。
〔委員長退席、山田委員長代理着席〕
○高橋委員 ですから、アメリカが示した月齢がわかるサンプル三千数百ですよね。これだけで照らし合わせたら大丈夫だというふうに判断するのではなくて、さまざまな交配種がある、そういうことも踏まえて、なるほど、格付というものがどの種でも成り立つものだな、A40が成り立つものだなという判断が可能ですかと伺っております。
○沖谷参考人 仮定の話はちょっとできないんですけれども、今もらったサンプルデータの中ではいろいろな品種がまざっていることは事実であります。
アメリカの全部の、今存在している牛のそれを、母集団を完全に反映している、そういうことは保証はできませんけれども、また、そういうことはサンプリングの場合は不可能だということを認識して、あの報告書を検討して結論を出したということであります。
○高橋委員 当然、たくさんある品種の中でやはり不可能があるということがお話しされたかと思います。
もう一つですけれども、当然、アメリカのラインに乗せる上で、枝肉で判別をするわけですけれども、枝肉になる時点でもう頭は切り離されておりますよね。それから、部分肉をどんどん切り離していくわけで、日本に輸入されるのはほとんど部分肉である。
アメリカが屠畜処理をしているのは三千五百万トンであります。日本に入ってくるのは全体の、量で言うと三%、でも牛の数で言うと九割ですよね。つまり、それだけ細かい肉をいろいろな牛から集めて、パッキングされて日本に入ってくるという、アメリカ人が食べないショートプレートなども含めて、そういう日本の事情がある。逆に言えば、だから、アメリカは、それだけの牛を全頭検査するのはコストがかかって、輸出する分と同じ額くらいかかるということをおっしゃっているわけですけれども、それだけ細かくされるものに対して最後までA40がついてくるのか、その点についていかがでしょうか。
〔山田委員長代理退席、委員長着席〕
○沖谷参考人 日本に入ってくる牛肉についてはトレーサビリティーが確実にできるようになっております。国産の牛は当然もう義務なんですけれども、輸入する牛についても、JASの任意規格として生産履歴を追及するシステムができております。
私の個人的な希望なんですけれども、もしアメリカから入る場合においては、そのシステムを使っていただきたい。ランバートさんも会議の中でそういう発言をしておりまして、記録には残っております。
以上です。
○高橋委員 要するに、検討会で判断できたのは、多分そのサンプルの範囲内であって、最後までついてくるかどうかということまでは、先生は多分責任を負えないんだと思うんですよね。ですから、期待したいというお話があったと。ここで、やはり検討会がお墨つきをつけた、月齢はいいんだというふうにはならないということが確認できたのかなと思っております。
時間がありませんので、今度、山内先生にお伺いしたいと思います。
先生の御発言の中で、まず、フェールセーフの考え方が紹介されたことは私も大変同感であります。
私どもも、全頭検査万能論ということは、一度もそういう立場に立ったことはございません。幾つかの対策が組み合わさってこそ、安全、安心、リスクを限りなくゼロに近づける、そういうことが可能である取り組みが本当に必要、求められているのかなと思っております。
また、結論の部分に当たって先生方の意見が正確に反映させられなかったということについて、非常に率直な、残念であるという御意見をいただきました。
私は、やはりこのことで、科学者がお墨つきを与えたからもう線引きはできたんだというように利用される、こういうことがやはりあってはならないし、そのことによって科学者の良心がゆがめられる、このことに対して強く怒りを感じているものであります。
そこで、まず伺いますが、食品安全委員会が全国でリスクコミュニケーションを行って、多数の意見が出され、また文書でもたくさん寄せられました。その処理の状況を五月二日の報告書を見ますと、千二百五十ですよね、さまざまな角度がございます。それなのに、非常に一くくりにして調査会の回答を与えているものが多いなと思ったんですけれども、実際、この回答についてはどういう処理を行ったのか。つまり、だれがどうやってこの回答をつくったのか、委員の了解を得ているのか、具体的に伺います。
○山内参考人 まず、結論のところで、諮問に対して、月齢見直しの方でリスクが変わらないといったようなことは私たちは言っていなくて、そのことについてお答えしたいと思うんですが、リスクは上がる可能性があると言っているわけです。ただ、そのレベルは非常に低いであろう、そこまでしか私たちは言っていません。
しかしながら、あの報告書自体を出したときに、マスコミも原則容認ということで、あとはレールの上をどんどん走っていっているのが現状であろうというふうに思います。その非常に低いレベルのリスクの増加が人の健康にどういう影響を及ぼすのか、これは私たちはよくわからない、科学的にはまだはっきりは言い切れないという立場です。
それから、リスクコミュニケーションに関しまして、これは、まずどういう手順でということに関しては、私も詳しいことはわかりませんが、あれは事務局の方で全部整理したんだと思います、非常に膨大な回答に対して。そして、回答案が一応座長の承認のもとにという形で我々のところに回ってきて、そして、各委員がまたコメントを述べております。私も重要と思われる点に関してはコメントを出して、そういったところは採用されております。ただ、すべてに関してどうなっているかというのはちょっとわかりません。
○高橋委員 委員の方に意見の回答が回ってはいるけれども、多分すべてに対して了解という形ではないのではないかなと今のお話を聞いて思いました。
その点でも、やはり話し合いの、せっかく国民の意見を踏まえて安全委員会はやるというスタンスで来たわけですから、その点についても、私はこの回答を読んでいてそう思いますので、非常に残念だなと思っております。
そこで次に、いよいよ今度アメリカ産牛肉が輸入されるとすれば、日本の牛肉と比べてリスクが同等であるかということが食品安全委員会に諮問されるということが考えられるわけですけれども、そのときに、アメリカからのデータが余りにも少ないのではないかということが大変言われています。
また、農水省は、飼料規制についてはアメリカのリスク評価の対象としないということも委員会で明言をしております。この点についての見解を伺いたいと思います。
○山内参考人 アメリカの場合のリスク評価を行うときに、先ほど申し上げましたが、私たち、定性的評価の方式は前の諮問のところでつくっております。これは十分に利用できると私は考えています。
そうなりますと、定性的評価では、生体牛における蓄積度それから食肉への汚染度、この二つの立場から評価をすることになります。そうしますと、飼料規制や何か、そういう項目について評価するしないというのを、これは私たちが決めることですし、当然あの評価の方式の中には入ってくるはずです。
○高橋委員 ありがとうございます。
項目に入ってくるはずですということで、非常に困難かと思いますけれども、リスク評価に関してまた、食品安全委員会の、時期を決めたということではない慎重な審議を求めたいなと思っております。
それで、山内先生は、二〇〇一年の日本でのBSE発生以来、調査検討委員会などずっとかかわっていらっしゃったと思うんですけれども、いわゆるルートの解明、これについてはいまだされていないと思うんですね。その後もBSEの発生がありますし、死亡牛からも発生があるということで、貴重なデータの蓄積は得られていると思うんですね。私は、これはあいまいにするべきではないと思うんです。その点が、最近とにかく二十カ月齢のところに集中していますので、一体どうなっているのかなということと、ルートの解明をしていくことや、まだ不十分だと言われている飼料規制などをしっかりやっていっていわゆる清浄国へのプロセスというのが見えてくるだろう、そのことについて、つまり日本が清浄国を宣言するまでのプロセス、これがどういう見通しがあるかということの先生の見解をぜひ伺いたいと思います。私は、それまでは今の体制を維持するべきだという意見を持っているんですけれども、ぜひその点で見解を伺いたいと思います。
○山内参考人 ルートの解明は非常に重要な点でして、前に一回報告書を出しましたが、今度新たに、研究班という形で、農林水産省が中心になって発足します。実はきょうの夜、第一回目の会合を開きます。そこで新しく出てきたBSE例なども含めての検討を行ってまいります。
次に、えさの問題。これは本当に重要だと思うんですが、今度の諮問の審議の段階でも、輸入配合飼料に関しては今まで全く実態をつかんでいなかった。国内対策というのは、私は、これはかなりしっかりしたものができてきていると思いますが、世界的なBSE汚染がある現在、やはり輸入飼料に関してもしっかり対策を講じていかなければ、それは清浄国という道はなかなか難しいんではないか、そういうふうに認識しております。
○高橋委員 時間が来たので終わります。ありがとうございました。