国会質問

質問日:2005年 7月 8日 第162国会 厚生労働委員会

障害者自立支援法 -障害福祉労働者の実態問題

 日本共産党の高橋千鶴子議員は八日、衆院厚生労働委員会での障害者「自立支援」法案の審議で、障害者福祉には障害者を支えるマンパワー、労働者が重要な役割を果たすとのべ、政府の対応をただしました。尾辻秀久厚生労働相は障害者を支えるマンパワーの役割を「十分認識している」と答弁しました。

 高橋議員は、障害者の自立と社会参加にとって障害者を支えている人たちの献身的な貢献にふれたうえで、「障害福祉労働者の労働実態を調査したことはあるのか」と質問しました。厚労省の塩田幸雄・障害保健福祉部長は「今年三月時点で、サービスに従事している人の給与、退職金、常勤・非常勤などについて調査をして、現在とりまとめ中」と答弁しました。

 高橋議員は、本来ならば法案提出の時点で労働者がどうなるか示されるべきだと指摘。そのうえで、東京都の福祉人材センターの調査を紹介しました。それによると就業後一、二年で退職している人が二割で、在職中でも、転職・退職を考えている人が35・5%、年収については半数近くの人が二百五十万―三百五十万円です。高橋議員は、障害者福祉サービスの質の向上にとっても、労働者の賃金、労働条件の改善、研修の充実が求められると強調しました。

 また、地元の演説会で、作業所に通う二十一歳の青年から「月六千円の工賃が交通費で消えてしまう。さらに利用料をとるのはひどい」と訴えられた体験を紹介。「応益負担」導入の「自立支援」法案は「できる範囲で社会とかかわりたいと思っている障害者に、社会参加はしなくてもいいと言っている法案だ」とのべ、十三日の委員会採決に反対しました。

(2005年7月9日(土)「しんぶん赤旗」より転載)

 

――― 議事録 ――――

○高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。

 先日、五日でしたが、日比谷野外音楽堂に一万一千人の障害者、関係団体の皆さんが集まり、国会請願行動を終日展開されました。大変暑さの厳しい中でありました。また、これまでも何度も雨の中の集会、デモを続けられて、本当に命をかけて私たちはここに来ているという叫びを受けとめ、本当に私たち国会の責務ということを痛感させられました。

 私は、地域で演説会があったときに、障害者の皆さんが全国でこれほどまでも立ち上がっている、そのことを率直に受けとめたいという演説をしたことがあったんですが、そのときに駆け寄ってきた二十一歳の青年が、自分は作業所に通って月六千円の工賃をもらっているけれども、それが丸々交通費で消えてしまう、それを今応益負担ということで利用料も取るのか、余りにもひどいと訴えられました。

 工賃が少な過ぎる、そういう問題ももちろんあります。そもそも、そういう条件の中でも、何らかの形で自分のできる範囲で社会にかかわりたい、自立を目指したい、そういう形でこれまで障害者の皆さんは懸命に頑張ってこられました。今そういう皆さんに対して応益負担を押しつけるということは、社会にかかわりを始めた、一歩でも二歩でも前進を始めた皆さんに対して、もう一度引っ込め、社会参加はしなくてもいい、そう言っているような法案だと私は指摘をせざるを得ません。まさにこの応益負担こそ障害者団体の皆さんが真っ先にやめてほしいと言っている問題であり、私もそのことを重ねて指摘したいと思いますし、採決の時期ではない、このことを改めて指摘したいと思います。

 そこで、きょうは、障害者の自立と社会参加、このことにとって必要と思われる問題について幾つか質問させていただきます。

 初めに、マンパワーの問題であります。

 障害者の自立と社会参加を実現するためには、障害者を支える人々、マンパワーが本当に重要な役割を果たしております。この方たちの献身的な働きと貢献によって今日まで障害者の自立と社会参加が進められ、今日の施策が維持されていると言っても過言ではありません。この点では大臣も異論がないと思われますが、大臣の認識を伺いたいと思います。

    〔委員長退席、北川委員長代理着席〕

○尾辻国務大臣 障害者の自立と社会参加を実現するためには、障害者を支える質の高い効率的な障害福祉サービスを確保する必要がございます。そのためには、障害福祉の一線で日々働かれる方々の質の向上と、それからもう一つ、量の面でも充実を図ることが非常に重要な課題であると私どもも認識をいたしております。

 このために、今回御提案申し上げております新制度におきましては、市町村が策定をいたします障害福祉計画において必要なサービス量を適切に見込むということとともに、都道府県が策定をいたします障害福祉計画に基づきまして、都道府県において、ホームヘルパーやケアマネジメントに従事される方々などの資質の向上のための研修を行うことというふうにしておるところでございまして、今申し上げたようなことに取り組んでいただくことによって、福祉サービスに従事する方々の育成、確保に努めてまいりたいと存じております。

○高橋委員 大臣、今この方々の質の向上というところに一気に話が行ってしまって、そのために市町村が必要な計画をとるというお話でしたけれども、まず大前提として、一言で確認をしたいんですけれども、この方たちの果たしている役割、障害者の自立と社会参加にとってなくてはならない役割ということを十分お認めになりますか。

○尾辻国務大臣 マンパワーの大切なことは十分認識をいたしております。

○高橋委員 ありがとうございます。

 その上で、では、今回の大幅な改定に際して、障害福祉労働者の労働実態がどのような状態にあるのか調査をされたことがありますか、伺います。

○塩田政府参考人 障害福祉サービスを実施する事業者につきましては、支援費事業経営実態調査事業というのを、ことしの三月時点の支援費サービスを提供する指定事業者あるいは指定施設に係ります支援費サービスの費用等の調査を行っているところでございます。

 この調査の中で、事業者がサービスを提供するに当たって必要な経費を把握するということが必要になりますので、その一環で、サービスに従事する方の給与でありますとか退職金の状況でありますとか、あるいは常勤、非常勤の別でありますとか、そういったことについて現在調査をして取りまとめ中でございます。

○高橋委員 今、取りまとめ中ということでありました。本来ならば、この法案の大前提となるものでありますので、当然、実態調査がされて、それに応じて、必要なサービスがどうなるんだ、またそれを確保するために労働者にどう担保するんだということが示されるべきだった、そのことをまず指摘したいと思うんですね。

 東京都の福祉人材センターが、センターの紹介で福祉の職場に就職した人たちを対象に行った調査が発表されております。昨年九月から十二月にかけて実施をしたわけですけれども、それによると、就業後一、二年で退職して別の仕事についている方や、あるいは現在探している方などを合わせると、既に二割いらっしゃる。しかも、在職者の中でも、現在の職場で続けて働くと答えている方が四五・二%あるんですけれども、逆に、転職あるいは退職を考えている方が三五・五%いるということが指摘をされております。賃金の問題はもちろん、労働時間、勤務形態、忙しい割には給料が少ない、残業のない日がない、そうした意見が出されていることや、年収については半数近くの方が二百五十万から三百五十万未満で、二百万未満の方も七%もあり、正職員でも厳しい水準にあるということを紹介されています。

 この調査を担当した淑徳大総合福祉学部の下山教授が、利用者に十分なサービスを提供するためにも、労務管理を充実させ、仕事に意欲を持つ従事者が長く勤務できる魅力ある職場づくりに取り組む必要があると指摘をされていること、非常に重く受けとめる必要があるかなと思うんです。

 働く皆さんが、本当に、それぞれが持っている障害の程度に応じていろいろな気をかけながら支えていく、そういう難しい仕事をこなしているわけです。その方たちが、まともな給料とか、あるいは人間らしい労働時間、労働状態を求めれば、それがそのまま障害者にはね返ってくる、そういう構図ではなくて、しっかりとそこを、必要なものなんだと、支えるマンパワーは必要なんだという認識を今示されましたので、そういう立場での実態調査をし、サービスをしっかり提供していくということを検討されたいということ、ここはきょうは指摘にとどめたいと思います、次の質問がございますので。

 それで、障害者の施設整備の問題について、まだまだ足りないじゃないかということで指摘をしたいと思うんですが、二〇〇五年度でまず数字を伺いたいと思います。地方からの申請数が幾つで、採択件数が幾らなのか、身体、知的、精神別に数字で伺います。

○塩田政府参考人 平成十七年度の障害福祉施設整備の補助金に関します全国の地方自治体からの申請の件数ですけれども、身体障害者関係施設が百二件、知的障害者関係施設が二百九十二件、精神障害者関係施設が八十九件、合計四百八十三件となっております。

 これに対しまして、現時点で国が採択した件数でありますが、身体障害者関係施設が二十七件、知的障害者関係施設が九十三件、精神障害者関係施設が六十三件、合計百八十三件でございます。

○高橋委員 これを申請に対して採択された割合で見ますと、身体が二六%、知的が三二%、精神が七一%ということで、非常に驚く数字ではないかと思うんですね。二年前は身体障害、知的障害ともに一〇〇%採択をされていた、そのことと比べても驚く後退であります。

 しかも、これは、今割合で私お話ししましたけれども、件数としても非常に少ない。全体が少なくなっている。そういうことはまずお認めになりますよね。単純な確認です。

    〔北川委員長代理退席、委員長着席〕

○塩田政府参考人 障害者関係の施設整備費の補助金は大変重要な役割を果たしておりますが、ここ数年、補正予算がないとかいろいろな事情で額の確保が非常に厳しくなっているところであります。そういった中で、ほかの分野の補助金は交付金化しましたが、私どもは、地方自治体の障害者関係の施設整備がおくれておりますので、何とか地方自治体を応援できる予算の確保に今後とも努めていく必要があると考えております。

○高橋委員 財政のこと、当然おっしゃると思うんですけれども、今、努めてまいりたいと少しおっしゃいました。地方の要望に今現時点ではこたえられていない、そういう中で本当にこれをしっかりこたえて進めていくつもりがあるのか、もう一度確認をしたいと思います。

○塩田政府参考人 障害者の分野は、高齢者等に比べて、特に市町村での地域生活の受け皿である施設の整備がおくれていると思いますので、障害者自立支援法案の目的である地域生活を実現する上でも、地方自治体でのハードの整備というのは必要不可欠でありますので、最大限、最優先課題として予算の確保に努力したいと思います。

○高橋委員 最大限、最優先課題とおっしゃいましたので、そこはしっかり確認をさせていただきたいと思います。

 その上で、今ちょっとお話に出ました地域の問題になるんですけれども、厚生労働省の精神病床等に関する検討会が昨年八月に全国の精神病床の調査を行い、入院患者のうち、受け入れ条件が整えば退院可能な患者を約七万人といたしました。早期治療、早期退院、社会復帰を目指すことは当然のことであります。これを今後十年かけて解消するということを打ち出したわけで、言いかえれば、七万人を地域で支えていくということなんですね。

 問題は、それが本当に支え切れていくのかということなんですが、自立支援法では、精神障害者を少なくとも毎年七千人地域で受け入れ、社会参加を実現する、そういう支援体制の整備、当然織り込み済みだと思いますが、どのようにやっていきますか。

○塩田政府参考人 約七万人と言われる社会的入院をされている精神障害を持つ方々が地域で暮らせるようにするということが、大きな政策課題になっているところであります。

 そのためには、三つの観点の対応が必要だと思っております。一つは国民の意識を変えていただくということがまずあると思いますが、もう一つは、医療の質を上げていただいて、病院から退院を促進するような医療内容にしていただきたいということでございます。三つ目が地域の受け皿をつくるということでございます。

 そういう意味で、今度の自立支援法案では新たに、精神障害者に対する福祉サービスについて、市町村がほかの障害等を含めて精神障害者も含めた福祉サービスに関する計画をつくっていただく、かつ、ほかの障害者に対する福祉サービスを精神障害者に対しても同じように提供できる仕組みをつくっていただく。そういう意味で、市町村に対する応援の仕組みを一つつくったと思います。

 それから、受け皿の整備については、先ほど来御指摘がある、予算を確保することが大前提になると思いますので、そういったことにも、先ほど御答弁申し上げましたが、七万人の方が計画的に地域復帰できるように最大限努力したいと考えております。

○高橋委員 そうすると、今のお話で三つのポイントがあった。地域の受け皿の確保という点では、国としても責任を果たしていくということで確認をしてよろしいですね。

 その上で、やはりそうはいっても、地域が計画をするわけですから、その計画を積み上げていったら、足りて七万人まで本当にいくのかなと。いろいろな事情があるわけです、今現在も。そういう中で、では、その進捗状況を国として毎年公表するのか、それが著しくおくれていた場合などはどのように担保していくのか、考えを伺いたいと思います。

○塩田政府参考人 全国的な数値の把握は三年に一度の患者調査ということになると思いますけれども、いろいろな形で施策の進捗状況についてはフォローしていく努力をしたいと思います。

○高橋委員 具体的に今の問題についてですよ、総合的にじゃなくて。よろしいですね。公表していく。いいですね。

○塩田政府参考人 何らかの形で、社会復帰がどう進んでいるかについては把握し、公表したいと考えております。

○高橋委員 公表した上で、それがどうなっていくかということの責任が今問われてくると思うんですね。

 それで、少し話を具体的に進めたいと思うんですが、宮城県が、施設の解体を宣言し、障害者を地域へという取り組みを進めております。国が描くイメージというのがそこにあるのかなと思っておるんですね。私は、障害者の皆さんが地域で普通にみんなと一緒にかかわりながら暮らしたい、それをかなえるものであれば、それは大いに結構なことだと思っています。ただ同時に、さまざまな事情でそれがかなわない、施設を必要とする人もまた多いということがまず一つあります。ただ、支援の仕組みが整わないまま地域に行って、それがどうなっているかということが一つあるわけですね。

 解体宣言をした後で、宮城県の知的障害者更生施設が、現行の、まだ応益負担が始まる前の支援費制度のもとにおける利用者の平均的負担状況を試算している数字があるんですけれども、障害基礎年金一級の方で、年九十九万三千百円のうち、施設利用が月四万九千八百円、年間五十九万七千六百円かかる。国保税を引かれる、生活に最低限必要なものを引かれるとすると、どうしても十三万何がしの赤字が出る。これは医療費などは全然入れておりません。ですから、貯金がなければ施設サービスはもう受けられないということが現時点で指摘をされています。これは二級であるともっと下がるので、もっと負担がふえる。

 だけれども、これがグループホームに置きかえると、地域に出ていったんだけれども家賃が五万、六万という状況で、それに必要な経費、光熱費、さまざまなものを総合すると毎月毎月赤字で、持ち出しなんですね。だから、貯金がない人は絶対できない、それはもう絶対無理でしょうという話になっているし、これ以上は負担できないでしょうという中で、この試算をした方たちは、七、八年後には生活保護にせざるを得ないのかなと、少しむなしさも感じる、こういう指摘までしています。

 ですから、先ほど来随分問題になっている医療費の問題もありますし、地域へというのはいいことだけれども、負担だけがふえて地域に出されるということはとてもとてもできないわけですよね。そこを、あとは市町村で考えなさいと言われてもできない。そのことについてどう受けとめますか、それとも実態をどのように把握されていますか。

○塩田政府参考人 障害を持つ方が施設から地域へということ、方向性は全く正しいと思いますけれども、地域で暮らすためにはいろいろな条件の整備が必要だという御指摘もそのとおりだと思います。

 住まいといったハードの受け皿も必要ですし、サポートをする人のソフトの受け皿も必要ですし、午前中もかなり御指摘がある所得保障の確立ということも大事だと思いますし、あるいは就労の場を地域でつくるということも大事だと思います。いろいろなものを一つ一つ積み上げていって条件整備をしていくというのが国の責任であり、都道府県の責任であり、最も身近な自治体である市町村の責任も大変重いので、市町村をどうバックアップするかというのが非常に大事だと考えております。

○高橋委員 今最初に、もう時間が来ましたのであとは指摘にとどめますけれども、地域にというのは正しいと思うがという言い方をされましたけれども、国がそういう方向なわけでしょう。国が、地域でやりましょう、そして自治体でやりましょうと言っているわけですよね。だけれども、先ほど来言われているように、負担は大変、地域格差は大きい。そういう中で、裁量的経費だとなったら地方自治体で整備が進まないということが十分あり得るし、計画が絵にかいたもちになるか、あるいは十分な計画が持てない、そういうことになりかねないわけです。

 そのことをしっかり受けとめて、今、国の責任という言葉もありましたので、財政支援のあり方を、時限的、集中的にこのときやるべきだということをぜひ検討されたい、このことを要望して、終わりたいと思います。ありがとうございました。

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