日本政府が米国産牛肉輸入再開のための条件としている米国内の“BSE(牛海綿状脳症)安全対策”にたいし、日本政府にはほとんど査察体制がなく、月1回でも査察率はわずか3%程度。実効性はない――。19日の衆院農水委員会で、日本共産党の高橋千鶴子議員はそんな実態を明らかにしました。日本政府が急ぐ輸入再開の前提そのものが揺らいでいます。
■高橋議員が追及
政府は現在アメリカの圧力を受け、米国産牛肉の早期輸入再開をめざしています。そのために、内閣府の食品安全委員会に「生後二十カ月以下」「危険部位の除去」という条件をつけ、米国産牛肉と国産牛肉のリスクは「同等」かどうかの評価を求める諮問をしています。食品安全委員会の審議では、輸入条件の完全順守が大前提となってきました。しかし、その前提の実効性にはこれまでも強い疑問が指摘されており、政府は「査察の実施で実効性をあげる」(農水省の石原葵事務次官)などと言明してきました。 しかし、高橋議員によると、米国では、一日あたり一施設で約五千頭と畜されているのに、査察にあたる日本政府の人員体制は農水省動物検疫所の家畜防疫官二十三人と厚生労働省監視安全課の職員二人だけです。 米国産牛肉輸入を含む農水省の査察活動の来年度予算要求は約四千万円です。 動物検疫所の家畜防疫官は、米国産牛肉査察だけでなく、口蹄(こうてい)疫が発生した中国などからの輸入条件の査察も任務です。 しかも、米国内での日本向け米国産牛肉の処理施設は約三十施設。訪米して毎日査察すると年間約一万九百五十回の査察が必要になる計算です。 高橋議員は、「仮に十人が月一回米国に出向いて三十施設を査察しても査察回数は年三百六十回。査察率はせいぜい3・2%にすぎない」と指摘。航空運賃など旅費を考えるだけで予算オーバーになるような「人員と予算でまともな査察となり、担保できるのか」とただしました。
■政府「これから詰める」
農水省の中川坦消費・安全局長は、「(月齢判定の)枝肉格付けなどを常駐に近い形でみるわけではない」「頻度その他はこれから詰めるところ」と答弁。多くを「書類」の審査などに頼る意向を示しました。 岩永峯一農水相は「(再開は)食品安全委員会の答申を踏まえていく」と答えました。
(2005年10月20日(木)「しんぶん赤旗」より転載)
――― 議事録 ――――
○高橋委員 BSE問題ですけれども、食品安全委員会が二十四日にプリオン専門調査会の会合を開き、米国産牛肉輸入再開に当たってのリスク評価について結論部分が盛り込まれるという見通しであります。パブリックコメントなどもありますけれども、新聞各紙は年内輸入再開だと、そういうふうな記事を報道しているわけです。科学的な知見という言葉がこれまで、もう再三繰り返されてまいりましたが、玉虫色のまま決着することは絶対に避けるべきだと、私はまず指摘をしておきたいと思います。
そこで、まず諮問そのものの問題です。米国産牛肉については、米国の国内措置のみでは我が国と同等の安全性が確保されているということの確認が困難である、そのために上乗せ条件、いわゆるSRMを全月齢で除去、そして牛肉輸出証明プログラム、これを課した上でリスク評価を行うということであります。ですから、先ほど来話題になっている飼料規制などはそもそも対象としていないわけですよね。そこで、極めて限定的な答申にとどまらざるを得ないと思います。しかし、一たび出ると、科学者のお墨つきを得た、そういう言い方をされるというのは非常に問題だと。
そこで、食品安全委員会は、今後決定する結論にどう責任を果たしますか。上乗せ条件が果たして達成されたのか、あるいは安全委員会としての評価が正しかったのか。当然フォローアップされると思いますが、その点を伺います。
○齊藤政府参考人 お答えいたします。
米国、カナダの牛肉に関する評価、現在進めておるところでございますので、結論についてここで私の方からどうこう申し上げる、そういうものではございませんが、諮問をいただく条件としての管理措置の遵守ということ、これにつきましては、現地調査の実施を含めまして、リスク管理機関が責任を持って確認を行う、そういう前提で諮問をいただいているというふうに私どもとしては理解をしております。そういう前提のもとにプリオン専門調査会で現在評価が行われているというところでございます。
もちろん、その中で現在の時点における状況については議論が行われておるわけでございますが、輸入が再開された場合という仮定の御質問ということになろうかと思うんですが、そういう御質問に対してお答えするのは、結論が出ていないところで余り適切ではないというふうには思いますけれども、まず、食品安全委員会が答申を出した場合の一般論ということで申し上げますと、食品安全委員会としては、リスク評価機関としてそのリスク評価結果をリスク管理機関に通知するだけではなくて、そのリスク評価結果に基づいて講ぜられる施策の実施状況を定期的に監視する、こういう任務が与えられており、これを行うということになっておるわけでございますので、これにつきましては、そういう責務は食品安全委員会としてきちんと果たしていくというつもりでございます。
○高橋委員 一般論でよろしいです。リスク評価機関として通知をするだけではなく、その後の状況についてもちゃんと定期的にチェックをしていく、その上で勧告などの権限があるということですよね。確認してよろしいかと思います。
そこで、リスク管理機関に伺いたいと思いますけれども、リスク管理機関の責任について、六日の石原事務次官の会見で、実効性が疑問視されている米国のBSE対策について、査察の実施で実効性を上げると述べられました。
両省に具体的に伺いたいと思いますが、査察とは何を具体的に見るのか。その実施期間、予算、人員あるいは頻度、例えば月一回なのか、週一回なのか、あるいは日数とか、これを簡潔にお答えください。
○中川政府参考人 先ほどもちょっとお答え申し上げましたけれども、今回輸入再開が行われる場合に導入をされます輸出プログラムの実効性確保、この担保措置は、まず第一義的にはアメリカの国内の制度として違反に対するさまざまなペナルティーの措置が備わっている、そういう制度であるということをまず申し上げた上で、さらに、日本側としましても、みずから米国内での遵守状況を直接確認していくということは、食の安全、安心を確保する上で大事なことだというふうに考えているわけでございます。
具体的にどうかということでありますけれども、これはまだ今詳細は検討中でございますから余り細部にわたっては申し上げられませんが、食肉処理場等に日本から農林水産省と厚生労働省の専門家を派遣いたしまして、定期的にこういった食肉処理場等で具体的な輸出証明プログラム、輸出プログラムに記載されていることが確実に実行されているかどうかということをチェックする、それが査察の具体的な中身でございます。
○松本政府参考人 米国産牛肉の輸入再開に当たりましては、食品安全委員会による科学的なリスク評価の結論を得るとともに、輸出証明プログラムの米国との合意が必要となりますほか、輸入再開後におきましては、定期的に米国側の輸出証明プログラムの実施状況を確認するため輸出国側に対しまして査察を行うこととしています。
この査察につきましては、我が国から担当官を輸出国に派遣し、輸出国側の措置が確実に機能し、仮に問題が発生した場合でも適切な改善が図られるシステムとなっているか否かを現場にて確認することとしております。
具体的な査察の内容といたしましては、現在想定され得る事項といたしまして、米国政府による対日輸出施設の監督状況、日本向け輸出証明プログラムに規定する品質管理プログラムの文書化の状況、特定危険部位の除去の実施状況、二十カ月齢以下の月齢証明等についての遵守状況などの確認であります。
いずれにしましても、査察につきましては、農林水産省と連携し、食品安全委員会のリスク評価の前提とされた条件が徹底されるよう、適切に対処してまいりたいと考えております。
○高橋委員 中川局長、今詳細は検討中で、今お話しされたのが具体的な中身だとおっしゃいましたけれども、昨年の十月二十三日に日米の共同記者発表といいましょうか、されて、この問題が提起をされたわけですよね、輸入再開になった場合の。ということで、当時委員会でこの問題の中身について随分質問がありました。これを担保する月齢証明プログラムなどが本当にできているかどうかを担保するために査察をしますと言ったのが昨年の十月ですから、当然そういう予算措置あるいは来年度の予算要求がなければ。まさか幾ら何でも今の態勢で同じことができるはずはないわけです。それはまさか全く新しい方たちを、何とか検査所をつくるとかではないわけでしょう。少なくとも、例えば動物検疫所ですか、受け入れるという見通しはあるわけでしょう。もう少し答えられるはずです。お願いします。
○中川政府参考人 諸外国のいろいろな状況を動物検疫所の方の職員が行って調査をするということは、これまでも行ってきているところでございます。アメリカとの牛肉の輸入再開がいつかということは別でありますが、仮に今年度であったとしても、今年度は今年度としての一定の予算措置がございますので、そういったものを活用して査察をすることは可能でございます。また、これは来年度の要求におきましては、こういった海外の状況を調査する、そういった予算項目につきまして増額要求もいたしているところでございます。先生から具体的にということでありますけれども、細部について、頻度その他についてはまだこれから詰めるところはありますけれども、査察のねらいは、きちっとアメリカであるいはカナダでこういったプログラムが実行されているかどうかということを見るのがねらいでありますから、その目的が達成されるように、きちっと対応していきたいというふうに思います。
○高橋委員 それでは、職員に説明を受けた範囲を使って、私の方で具体的なイメージについて少し考えてみたいと思います。
動物検疫所、今は鳥インフルエンザだとかさまざまな問題を抱えておりますので、現時点でも大変忙しいかと思っております。そこで大体二十三人の方が四千万円の予算を使えるだろうという説明をいただきました。これを、今、アメリカが指定する月齢証明プログラムにかなった工場をまず見るとすると、大体三十くらいじゃないかと言われております。仮に十人が月一回出向いたとしても、三十カ所ですから年間三百六十回になるわけです。それを見ただけでも、四千万ではきかないだろう。運賃から何から入れても四十万くらいかなと、低く見積もっても四千八百万になるわけですよ。だけれども、御存じのように、アメリカの工場というのは三百六十五日フル稼働しておりますので、その中の三・二%を見たにすぎなくなるだろう。計算すればそうなります。
それで、査察で一体何を、どこを見るのか。担保できるのかということが問われます。
私も先日、農水の委員会のアメリカの視察に参加をいたしましたが、私たちが見せていただいたカーギル社の工場は、総合すると一日で日本に輸出するだけの屠畜をさばいている工場ですけれども、そこでA40が幾らあるかといったら、全体の七、八%だと言われました。一ラインに二人の格付員。食肉検査官は別にいるんですね、獣医さんも別にいる、だけれども、格付ができるのは二人だけなんだ。それでも、一人で一日に二百頭見るんです。それを、日本の、アメリカの食肉格付とは全然経験もない方が行って、それを見るのかと。でも、それ以外の、SRMの除去云々も含めて、可能なのか。ちょっと想像できませんね。いかがですか。
○中川政府参考人 まず、査察の目的でありますけれども、これは、輸出証明プログラムにきちっと書かれているその中身が確実に実行されているかどうかということを担保するために行くわけでありまして、日本から行く専門家が一つ一つの枝肉をその格付のところでもって見る、そして常駐あるいは常駐に近い形で見るというものではありません。システムそのものとしては、アメリカの輸出証明プログラムというものできちっとできている。そのシステムが動いているかどうかということを見に行くのが査察の意味であります。そういう意味でいけば、頻度をそんなに高めなくても、そこのところのチェック機能というのは働くものだというふうに思います。
先生がおっしゃった具体的な数字について、私、今云々する準備はできておりませんけれども、査察の意味というものを考えれば、それはおのずと、頻度であったり、あるいは具体的な査察の内容であったりというものは、工夫次第でできるのではないかというふうに思います。
○高橋委員 結局、そうなると、アメリカが計画をする、それはちゃんとできているという前提の上で、ちょっと漏れがないかなという程度の、全幅の信頼をアメリカに置いた上での査察でしかないわけですよ。ですから、昨年の局長の答弁がいかがなものだったかと思うし、石原事務次官が記者会見で実効性を上げると言ったけれども、それを実効性とは言わないだろうと指摘せざるを得ません。
言いませんでしたけれども、厚生労働省、さっき詳しく説明いただきましたけれども、これを担当する方が二人と聞いております。厚生労働省と農水省が力を合わせても、とてもとても無理だろうということはもうはっきりすると思うんですね。そこで、改めて、そういう中で、上乗せ条件のもとで評価をし再開してしまうことはいかがなものかというところに、やはり結論を求めざるを得ないと思うんです。
たたき台の修正二次案、十月に発表されたものでは、米国では現在も交差汚染が完全には防止されていないとか、二十カ月以下の牛の汚染は米国、カナダの方が日本より数倍高いとか、屠畜前検査がアメリカは十秒、日本は八十秒、そういう時間の比較を見ても、大規模な屠畜場では異常牛が見逃される危険があるなど、るる指摘をされておりながらも、しかし、可能性は非常に低いということがさりげなく言葉として盛り込まれていて、そこが結論になるのかなという危険性を感じています。
けさの毎日新聞などでは、アメリカの不備なところと日本の不備なところを比べれば、アメリカの一勝七敗ではないかという指摘がありましたが、なるほど、確かにそうだなと思うんです。実際にこれまで指摘したことですよ、私がじゃなくて食品安全委員会の科学者の皆さんが指摘したことが、そういう実態だと。
だとすれば、やはりそれは、一たん再開しちゃってからとりあえず査察しますよではなくて、きちんとした対応がとれることを確認してから再開すべきだと思います。大臣、お願いします。
○岩永国務大臣 今、食品安全委員会でその部分については本当に慎重に、今度で九回目ですか、大変な御議論をいただいて、そして私どものところへその答申の結果が来るわけでございますので、それを踏まえていく、こういうことになろうか、このように思いますので、今それの審議中でございますので、ひとつ、科学的知見に基づく、私どもの気持ちというのは一切揺らいでおりませんので、御了解いただきたいと思います。
○高橋委員 時間が来ましたので、徹底した対応をお願いして、終わります。