国会質問

質問日:2006年 4月 6日 第164国会 本会議

健康保険法案・医療法案 代表質問

小泉内閣が今国会での重要法案の一つと位置付ける医療改悪法案が、6日の衆院本会議で審議入りしました。高齢者への容赦ない負担増、医療費の総額抑制と療養病床の削減、保険のきかない医療の拡大など公的医療制度の土台を崩す内容の改悪案です。

本会議で質問にたった日本共産党の高橋千鶴子議員は「高齢者や重い病気に苦しむ患者に負担を強いることは、いっそう大きな苦痛を押しつける」と批判、「『所得の格差』が『命の格差』につながるような社会はあってはならない」と、法案の撤回を求めました。

小泉純一郎首相は「必要な医療まで妨げられるものではない」と負担増を合理化しました。

改悪案では、現在38万床ある療養病床について、介護型病床の全廃などにより6年間で23万床を削減します。高橋氏は、特別養護老人ホームの待機者は38万人を超えていることなどをあげ、「病床が削減されれば、入院患者の行く先がなくなる。患者の追い出しそのものではないか」と追及しました。

川崎厚労相は「医療の必要性の低い方は、老人保健施設、ケアハウスに移行することで『社会的入院』を解決する」と述べるだけでした。

現在例外的に保険のきかない医療を認めている「特定療養費制度」をなくし、再編する問題について、高橋氏は「保険を適用しない分野を拡大する懸念がある」とのべ、お金のない人が十分な治療が受けられないという「『治療の格差』をつくりだす」と批判しました。

(2006年4月7日(金)「しんぶん赤旗」より転載)

 

――― 議事録 ――――

○高橋千鶴子君 私は、日本共産党を代表して、健康保険法等の一部改正案及び医療法等の一部改正案について、総理及び厚生労働大臣に質問します。(拍手)
 小泉内閣の五年間、年金や医療などの連続改悪で、負担増と給付減が繰り返されてきました。その上、四月から、障害者自立支援法や介護保険の負担増が始まっています。この社会保障の切り捨てが、老後や病気などへの国民の力を削り取り、経済格差を押し広げてきました。
 今日、長時間労働は一層深刻となり、非正規雇用が三割にも達し、生活保護も百万世帯を超えています。その中で、国民の間には、深刻な健康被害が広がり、社会保障に対する強い不安や不満が広がっています。本法案による負担のさらなる押しつけがこの格差を一層広げることは明らかです。
 とりわけ、国民皆保険の土台である国民健康保険の事態は深刻です。保険料の滞納が四百七十万世帯に達し、保険証の取り上げはこの五年間で三・三倍に拡大しています。正規の保険証がないために病院にも行けず、そのために命を落とすなど、悲惨な事件も報じられています。国民医療の現実がここに象徴されていると考えます。この深刻な事態についてどう認識をするのか、見解をお聞きします。
 本法案の特徴の一つは、高齢者などへの情け容赦ない負担増と医療の切り捨てにあります。もう一つは、医療給付費の削減を医療費適正化計画に定めて強行し、混合診療など保険のきかない医療を拡大しようとすることであります。
 そこで、第一に、患者負担の拡大について伺います。
 本法案によれば、ことし十月から、七十歳以上の現役並み所得者の窓口負担は二割から三割になります。療養病床に入院する七十歳以上の食費、居住費も、保険の適用が外され、自己負担となります。この負担増は、二〇〇八年四月からは六十五歳以上に対象が拡大され、一カ月の入院費は十三万円を超えてしまいます。さらに、医療費が高額になったときの高額療養費制度も、限度額が引き上げられます。人工透析患者に対しては、一定所得以上の負担を月額一万円から二万円にふやそうというものです。
 医療費の削減を理由に、高齢者や重い病気に苦しむ患者に負担を強いることは、一層大きな苦痛を押しつけると思いませんか。
 二〇〇八年四月から導入される高齢者医療制度は、現在家族に扶養され、保険料がかからない二百四十万人の高齢者も含めて、七十五歳以上のすべてを対象にし、年間平均で七万四千円の保険料を徴収するというものです。介護保険料と合計すると、月額一万円を超える額が年金から天引きされます。
 有病率が高く、病院に通う機会の多いお年寄りに対して、いわばねらい撃ち的に負担の拡大を押しつけることは許せません。医療機関への敷居を高くすれば、国民の健康を破壊するだけではないでしょうか。お答えください。
 次に、医療費適正化計画や療養病床削減などについてです。
 経済財政諮問会議は、GDPの伸び率と高齢化を加味した基準で医療費を管理し、医療給付費の総額抑制を求めました。本法案では、医療費適正化計画を策定して目安指標を定めるとしています。どちらも医療費抑制がねらいですが、この目安とは一体どのような内容を持つものですか。具体的数値などを示して、適正化計画に盛り込むことになるのでしょうか。
 都道府県の医療費適正化計画では、国の基本方針に沿って生活習慣病や在院日数などの数値目標を定め、この目標が達成できなかったり全国平均を下回った場合には、都道府県の責任を求める内容になっています。生活習慣病を減少するために、国民の健康の悪化の原因を取り除き、健康診断や保健指導を引き上げ、疾病の早期発見、早期治療体制を整備するなどは、本来、国の責任で行われるべき施策ではありませんか。答弁を求めます。
 平均在院日数の削減については、全国平均の在院日数と最も短い県との差を半分に縮小するという目標を立てます。国は、この目標達成度を評価して、診療報酬の特例を都道府県が設けることができるとしています。この特例が、患者を病院から追い出し、医療機関に病床転換を強要するなど、事実上、懲罰的な設定とはなりませんか。
 政府は、医療の必要度が低いといって、現在三十八万床ある療養病床を、今後六年間でその六割、二十三万床を削減するとしています。しかし、それでは、長期入院患者に必要な医療的管理や容体の急変に適切に対応する病床の確保ができなくなりはしませんか。
 施設から在宅へが国の方針です。ところが、在宅医療の体制や地域での介護の体制はどうでしょうか。例えば、特別養護老人ホームが足りなくて待機者が三十八万人を超えるなど、地域の受け皿は全く不足しています。病床が削減されれば、入院患者の行き先がなくなります。これは、患者の追い出しそのものではありませんか。お答えください。
 そもそも、日本の医療費水準は、国際的に見て決して高くはありません。一人当たりの医療費はOECD加盟国中九番目、総医療費をGDP比較で見ると、七・九%で十七番目です。医療費の削減どころか、経済力に見合った医療の充実こそ果たすべきだと考えますが、いかがでしょうか。
 最後に、保険のきかない医療を拡大することについてです。
 日本経団連は、医療の給付費の増加を抑えるため、保険外サービスと保険サービスの併用を進めるべきであると主張し、大企業の保険料負担を軽減したいという強い要求を露骨にしています。
 昨年の厚生労働省の医療制度改革試案には、外来受診一回当たり五百円から千円までを保険の対象から外すという保険免責制度が盛り込まれました。リハビリなど定期的に通院が必要な患者にとっては負担が大きくなり、風邪や腹痛ぐらいでは病院に行くのを我慢することになるのは避けられないと思います。本改正案には入りませんでしたが、政府文書に書き入れたこと自体が極めて重大です。保険免責制度の導入はすべきでないと考えますが、明確な答弁を求めます。
 現在は、差額ベッド代などの徴収を例外的に認めています。この特定療養費制度を、保険に適用するための評価を行う療養費と、将来の保険の適用を前提とせず患者が選択できる療養費とに再編しますが、これまで例外的であった差額ベッド代など以外にも、高度医療技術や生活療養などの名目で、保険を適用しない分野を拡大する懸念があります。
 そうなれば、新しい医療技術や新薬の利用、手厚い治療などはお金のある人だけが受けられ、そうでない人は十分な治療が受けられないという治療の格差をつくり出すことになります。所得の格差が命の格差につながるような社会は、あってはならないと考えますが、いかがでしょうか。
 憲法二十五条の精神に照らし、医療での国の責任と負担を大幅に拡充し、すべての人が安心してかかれる医療制度を築くべきです。
 本改正案はこの道を大きく踏み外すものであり、撤回を強く求めて、私の質問を終わります。(拍手)

○内閣総理大臣(小泉純一郎君) 高橋議員に答弁いたします。
 国民健康保険の資格証明書についてですが、国民健康保険は住民の相互扶助により成り立つ社会保険制度であり、すべての被保険者に公平に保険料を負担していただくことが制度の存立の前提であります。低所得等の事情のある被保険者の方々について保険料を軽減するなどの措置を講じておりますが、負担能力があるにもかかわらず保険料を納めていない方の未納分は他の被保険者の負担となり、被保険者間の公平が損なわれることから、資格証明書制度は必要なものと考えております。
 なお、資格証明書の交付を受けた被保険者の医療費は、保険者から償還されるものであり、医療の機会を奪うものではないと考えております。
 患者負担の拡大についてですが、高齢化に伴う医療費の増加が見込まれる中、給付は厚く、負担は軽くというわけにはいきません。今般の改革においては、負担の均衡の観点から、現役並みの所得を有する高齢者の患者負担については現役世代と同じ三割負担とするなどの見直しを行う一方、低所得者については自己負担限度額を据え置くなど十分な配慮を行うこととしており、必要な医療まで妨げられるものではないと考えております。
 医療費の国際比較についてですが、制度や社会的背景の違いなどもあり、単純に国際比較することは困難ですが、我が国の総医療費の対GDP比は、現時点においてさほど高水準にあるとは言えないものの、国民一人当たりの医療費は主要先進国の中で比較的高水準にあり、今後、急速な高齢化の進展に伴い、一人当たり医療費の高い高齢者がふえていくことによって、医療費の増大やこれに伴う財政支出の増大が見込まれるものと考えております。
 したがって、国民皆保険制度を堅持し、将来にわたり持続可能なものとしていくためには、医療費適正化を総合的に推進していく必要があると考えております。
 特定療養費制度についてですが、今回の見直しは、保険の対象外の先進的な医療や海外で承認されている医薬品を早期に少ない負担で利用したいとの国民の要請にこたえるため、安全面に配慮をしつつ、全額自己負担であったものの一部を保険給付の対象とするものであり、国民が安心して医療を受けることができる公的医療保険制度を損なうものではないと考えております。
 残余の質問については、関係大臣から答弁させます。(拍手)

○国務大臣(川崎二郎君) 高橋議員から五点、御質問がございました。お答え申し上げます。
 医療費適正化計画についてお尋ねがございました。
 国及び都道府県が作成する医療費適正化計画においては、生活習慣病の予防や長期入院の是正等の中長期対策に関する政策目標が達成された場合の効果を踏まえ、その結果として医療費の見通しを記載することとしております。
 一方で、目安となる指標については、中長期の医療費適正化対策の効果をもとにして、公的保険給付の見直し等を積み上げた効果を織り込んだ形で、将来の医療給付費の規模の見通しを示したものであります。
 この見通しについては、実績と突き合わせて医療費適正化方策の効果を検証し、施策の見直しの必要性について検討する際の目安であり、一律の機械的、事後的な調整を行うものではありません。
 生活習慣病対策についてお尋ねがございました。
 生活習慣病対策については、これまでも健康フロンティア戦略等を推進してまいりましたが、今回の医療制度改革においても、医療保険者による効果的、効率的な健診、保健指導を徹底するなど、本格的な生活習慣病予防の取り組みを推進していくこととしております。
 具体的な施策の推進に当たっては、地域の特性を踏まえた取り組みが重要であることを踏まえ、都道府県、市町村、医療保険者等の関係者と十分に連携協力し、糖尿病等の有病者、予備群の減少に向けた取り組みを進めてまいります。
 都道府県ごとの診療報酬の特例についてお尋ねがございました。
 この特例は、都道府県における医療費適正化の目標を達成するために必要な場合に設けることができることとしておりますが、その際にはあらかじめ都道府県知事と協議することとしており、地域の実情も踏まえつつ、適切な医療を提供する観点から見て合理的であると認められる範囲内において設定することになると考えております。
 療養病床の見直しについてお尋ねがございました。
 福祉施設が不足する中で、病院が高齢者介護の受け皿となってきた、いわゆる社会的入院の問題は、介護保険施行時にも大きな論点となりましたが、解決しないまま今日に至っている長年の懸案であります。
 介護保険制度の施行から六年を経て、介護基盤の整備も進んできた中で、療養病床は医療の必要性の高い患者を受け入れるものに限定して、より手厚い職員配置により対応することで必要かつ適切な医療を十分提供できるものと考えており、医療の必要性の低い方々への対応としては、療養病床を老人保健施設やケアハウスなど生活環境を重視した施設等へ移行することにより、いわゆる社会的入院問題の解決を図るものであります。
 こうした移行が円滑に進むよう、都道府県等とも連携を図りつつ、転換支援のための助成等を行うことにより、介護サービス基盤の計画的な整備に努めてまいります。
 最後に、保険免責制についてお尋ねがございました。
 昨年十月に公表した厚生労働省試案においては、国民的議論に供するため、保険免責制を含む各方面からのさまざまな提案について提示したところであります。
 しかしながら、保険免責制についてはさまざまな議論があり、今回の法案に盛り込まないこととしたところであり、現時点においては保険免責制の導入については考えておりません。(拍手)

▲ このページの先頭にもどる

高橋ちづ子のムービーチャンネルへ
街宣予定
お便り紹介
お問い合わせ
旧ウェブサイト
日本共産党中央委員会
しんぶん赤旗
© 2003 - 2024 CHIDUKO TAKAHASHI