衆院厚生労働委員会は二十五日、医療改悪法案についての参考人質疑を行いました。医師、患者団体代表、研究者らが意見陳述しました。
「厳しい労働環境のなかで、小児科の若手勤務医の半分以上が『病院をやめたい』といっている」(鴨下重彦・賛育会病院長)、「分娩(ぶんべん)取り扱い施設が相次いで分娩をやめているため、予約が集中して、限界以上の仕事をこなしている。三十六時間連続勤務が通常になっている」(奥田美加・横浜市大付属市民総合医療センター母子医療センター医師)など、医療現場の厳しい実態を訴える発言が相次ぎました。
山崎文昭・NPO法人日本がん患者団体協議会理事長は、「がんの死亡率が上がっている。国レベルでがん対策を行ってほしい」と要望。近藤克則・日本福祉大教授は「医療現場は、政府が医療費を抑えすぎた結果、ゆがみが顕在化している。個人の努力ではどうしようもない。日本は人口当たりの医師数は世界で六十三位で、先進国ではイギリスと並んで少ない」と指摘。改悪法案による医療費抑制、患者負担の増加は、医療現場を荒廃させ、“お金がない人は医療が受けられない”という「健康格差社会」を拡大すると批判しました。
日本共産党の高橋千鶴子議員は「患者の自己負担の増加は、医療費削減につながらないのではないか」と質問。近藤氏は「高齢者で月六万円という年金の人の自己負担を増やすのがプラスになるのか、考えてほしい」とのべました。
高橋氏は、がん対策に関連して、山崎氏に、国内未承認薬の使用など「混合診療」のあり方について質問。山崎氏は「混合診療は、あくまでも緊急避難的にやってほしいということ。本当に良い薬は早く出す(承認する)ようにし、悪いものは止める。国民のコンセンサスが大事だ」と答えました。
(2006年4月26日(水)「しんぶん赤旗」より転載)
――― 議事録 ――――
○高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
きょうは、六人の参考人の皆さん、お忙しいところ本委員会においでをいただきまして貴重な御意見を聞かせていただきました。本当にお礼を申し上げます。限られた時間ですので、本当はすべての皆さんに質問したいのですけれども、多分そこまでは行き渡らないだろうということを初めにおわびしておきたいと思います。
最初に、河内山参考人にお伺いをしたいと思うんですが、高齢者医療制度が都道府県を単位とする広域連合となる、このことについて評価をするというお話でありました。私は、財政が脆弱な市町村においてはやはり市町村単位では大変なんだという声が全国的にも多いということを踏まえての発言かと思っておりました。同時に、今回、保険者の再編ということが盛り込まれておりまして、高齢者医療制度においても、あるいは国保の問題においても、都道府県単位で均一の保険料、こうしたことを決めなければならないということになると思います。
しかし、当然市町村においてはかなりの格差がございまして、これを均一化を図るということによって、医療費の抑制ですとか、あるいは大幅な値上げを余儀なくされるということがどうしても持ち込まれるのではないかという危惧がございますけれども、その点について伺いたいと思います。
○河内山参考人 市町村ごとに運営をしております国民健康保険を例にとりますと、給付そして負担の格差というのは、同じ都道府県内でもありますことは事実でございます。
これは一体何に起因するのかということにつきましては、いろいろな専門の先生方が分析をされております。保険者の責めによるべきことというのは、ないわけではないと思います。というのは、例えば、全くもってヘルスの事業に取り組まないとか、あるいは、ほかに何か具体的事例があれば申し上げますが、さほど、そういうふうに保険者の責めによるべきものというよりは、ある地域は非常に高齢化が進んでおりますとか、あるいは、医療提供体制との関係でいいますと、受診をしやすい地域と受診をしづらい地域というようなことがございます。あるいは、医療に対する市民といいますか被保険者の意識も、これも非常にばらばらでございます。
例えば、高齢化が進んでいるからといって、では極端に医療費がかかるのかといったらそうでもないことは、もう全国津々浦々いろいろな事例がございます。今、市町村合併が進みましたので町の名前自体はなくなりましたけれども、山口県の東和町という、私の柳井のすぐ近くの周防大島という島の中の町がございまして、一時期全国で一番高齢化が進んだ、五〇%を超えるような高齢化の町がございまして、ここの方は意外に元気でありまして医療費はさほどかかっておりません。
したがって、さまざまな要因で保険料は格差があり、医療費支払いの方も格差があるわけでございまして、差があるというのは、本人たちの努力、保険者の努力不足というんじゃなくて、社会的なさまざまな要因によってそうなっているわけでございますので、それを徐々にならして同じような負担で同じようなサービスが受けられるということにする方が、私は、保険の本来の意味合いからしたら正しいのではないかと。余りにも小さいところで保険者として本当に基盤が全くない保険者よりは、保険の基盤が安定している方が保険として望ましい、そういう意味で広域化は望ましいと申し上げたいというふうに思います。
○高橋委員 徐々にならしてということでありましたけれども、確かに、そういう一定の不均一な措置もしながらという制度が盛り込まれておりますが、やはり心配しているのは、それが被保険者への大幅な負担増といいますか、そうしたことにつながらなければいいなということを危惧しておりました。そのことでは多分同じ立場ではないかなと思われますけれども、もし意見があったらまたお聞かせいただければと思います。
あわせて、ヘルスの問題なんですけれども、今回、生活習慣病対策としての特定健診については保険者に義務づけることになったわけですが、その他の保健指導については健康増進法によってまた市町村が負うことになるかと思います。また、四月から導入された介護予防、これについてもやはり市町村にその実施が委託されると思いますけれども、これらを実効あるものにする上で市町村の課題は何かということ、私は、やはり、ここにかかわる保健師さんですとか、マンパワーの確保というのが非常に大事ではないかなと思っているんですけれども、その点での御意見をお聞かせいただきたいと思います。
○河内山参考人 いわゆるヘルスの事業というのは、先ほども言いましたけれども、市民の意識が非常に大きな影響を与えると思いますが、と同時に、御指摘のように、どういうふうな実施体制で行うのか、どの程度行うのかということが非常に大事だというふうに思います。
マンパワーの確保の問題ももちろん一つの大きな課題であると思いますが、これは、今は公的な機関だけではなくて民間の企業も含めまして、健康を保持し健康を増進するためにさまざまなプログラムを開発して成功の事例をおさめたところもございます。したがいまして、単にマンパワーを確保すれば物事ができるというよりは、非常にこれは科学的なものだというふうに考えております。
科学的だというのは、どういうふうにやればヘルスの実効性が上がってくるのかというのは、これは市町村にとりましてはやはりノウハウが非常に大事だ。今まで、市町村が行いますヘルスの事業は、やっているんですが、ややもしますと次のようなことが生じます。というのは、何の問題でもそうですが、よく理解をされて、健康に非常に関心があって、日ごろから生活習慣も改善をしようという意欲のある方が市町村が行うヘルスの事業には参加をされる。本当に来ていただきたいハイリスクの方々はなかなか集まられない。
したがいまして、今後、市町村が行うヘルスの事業を実効性あらしめようと思いましたら、診断が非常に最初の段階で大事です。健診が大事ですね。それと同時に、ハイリスクの方々をどういうふうにして選んで、ハイリスクの方々に適切なプロモーションというか実行すべき課題というものを認識してもらって、それを今度は検証して、さらに実行してもらう、こういうプログラムというのが非常に大事だと思います。
そういう意味では、マンパワーの確保と同時にそういうノウハウの導入というのが市町村にとって大事でありますし、それはこれまでも国民健康保険の分野ではヘルスアップ事業等で取り組んでまいりましたし、今後も私どもも取り組もうと今思っておりますけれども、全国各地でそういう実践的なことをやって、さらに実効あらしめることが非常に大事だというふうに考えております。
○高橋委員 保健、健康指導の民間企業の活用といいますか外注の問題についてはまた少し意見が分かれるところでございますので、ひとつこれは参考にさせていただきたいと思っております。
次に、山崎参考人に伺いたいと思うんですけれども、がん対策に対して基本法をぜひという非常に熱意あるお訴えをいただきました。短い時間で本当は語り尽くせないことがたくさんあったと思うんですけれども、がん患者の皆さんが抱えている思いや課題というのが非常に伝わってきたかなと思っております。三人に一人はがんで亡くなるということで、だれもが関心を持っている課題でありますし、私も父をがんで亡くしておりますので、この問題では本当に皆さんと力を合わせて成果を上げていきたいと思っております。
それで、きょうは、こういう機会ですのでぜひ伺いたいのは混合診療の問題であります。
現行制度では、国内未承認薬が国内で承認されるまでに時間がかかり、欧米で承認されているのに、全額自己負担でないと使えない、そういう声が上がっているとして、規制改革・民間開放推進会議が混合診療の全面解禁を要求し、二〇〇四年の十二月十五日に、当時の尾辻厚労大臣と行革担当大臣で、いわゆる「混合診療」問題に係る基本的合意が取り交わされました。この合意に基づいて、今回の保険外併用療養費、この中にほぼ混合診療すべてに対応する内容が盛り込まれているということを厚労省から私は説明を受けております。
そこで、患者の皆さんが、もう一般的に欧米では使われているものがあるのに、なぜ国内では使えないのだろうかとか、あるいは、混合診療が認められていないためにすべてが自由診療になってしまって、全額自己負担は本当に大変だとか、そういう切実な声があるということは十分承知をしているところなんです。
ただ、同時に、それで本当に混合診療一路に進んでいいのかというと、やはり保険でかかれる医療、これを拡充していくことが本来は大事なのではないか。安全、安心は確保されるのだろうか、あるいは、結果としてお金のある人しか高度医療や最新医療を受けられなくなるのではないか、こうした心配があるわけですけれども、ぜひ山崎さんの率直な御意見を伺いたいと思います。
○山崎参考人 御質問をありがとうございます。
今の質問に対して二つお話しさせていただきたいと思います。
一つは、まず、当時、いわゆる混合診療ということで、先ほどお話があったように、厚生労働省とお話がつきましたが、その中で、お金の問題だけではなく、厚生労働省の方でも、欧米で承認された薬に関しては半年以内に審査をして、国内で必要かどうか、もし必要だったらそれを製薬企業にフィードバックして、少しでも早く治験をするようにというシステムもできました。これは自分たちは大変評価をしております。そういうプラスの面があった、そういうことが一つ。
もう一つは、混合診療、欧米で承認されている、日本で使えない、それを使うと、これまで一割負担または三割負担だったのが、全額自費になるのはおかしい、これは自分たちが主張しておりました。この主張などの根本というのは、あくまでも緊急避難的にやっていただきたいということで、基本的には日本のフリーアクセス、均一料金、それでよい医療を受けたい、これは自分たちも堅持したいと思っています。
そこで、今治験の検討会というものが厚生労働省の中で行われていますけれども、本当にいいものはできるだけ早く出すようにする、もし害があったら、それをすぐとめる、そういう基本的なものをしっかりやっていただければ混合診療云々という問題というのはそう大きな問題じゃないと思っているんです。
自分たちも、あくまでも、たとえがんの患者さんでもいつかはがんで亡くなることがあります、しかし、薬害で亡くなるというのも認めているわけじゃありません。がんで一年闘病できる方が薬害で半年で亡くなってしまうのは、それは本末転倒なので、あくまでも科学的根拠にのっとって、薬はリスクもあります、ベネフィットもありますから、そういうことをてんびんにかけてしっかり審査していただきたいね、それが基本的だと思っていますので、あくまでも混合診療どうのこうのという問題はそれに付随する緊急避難的なお話だと考えております。
基本的なことをしっかりと国民を代表する皆様の間で審議していただいて、国民のコンセンサスをとり、結論を出していただきたいなと思っております。
○高橋委員 非常に貴重な意見をありがとうございました。
だんだん時間がなくなってきましたので、奥田さんにもぜひ一つだけ伺いたいと思います。
本当に想像を絶する実態というか、過酷な勤務の一端をお聞かせいただいたと思います。貴重な時間を割いて本委員会に御出席いただいて、本当にこれを受けとめて、私たちの責任を果たしていきたいと思っております。
奥田さんの提案は、やはり集約をし、また分娩に係る医師をふやすことであるという提案でありました。
私は、その前段として、集約するにも医師がいないような地域にも住んでおりますので、なかなか課題は多いのではありますけれども、しかし、まずそれを図っていく上で、報告の中にも出ていたかなと思っているんですが、今非常にハイリスクの妊婦を抱えているということが分娩の現場でも起きているのではないかなと思うんですね。そこがやはりもう周辺の産院では対応し切れなくて集中してくるという実態が紹介されたのかなと思うんですけれども、その点でできることがあるのではないか。
つまり、妊婦のときのもっと健診の充実ですとか、民間の産婦人科といわゆる初期段階でのデータを共有するですとかの連携の問題とか、あるいは思春期の教室などということを保健師さんがやっておりますけれども、そういう今ハイリスクの妊婦ができてくるその背景には、若いうちの未熟な出産でありますとか、あるいは働き方の問題ですとか、そういうさまざまな要因がございます。そうしたことをあわせて連携がとれるということも一つの方策ではないのかなと思っているんですが、御意見を伺いたいと思います。
○奥田参考人 御質問ありがとうございます。
どちらからお答えすればいいのか、まず地域の問題ですけれども、私は確かに首都圏に勤めておりますので、集約化しろ集約化しろといっても、地域で集約化してしまうと非常に距離が長くなってしまう、そこをどうやって解決していくかというのは、私のような若輩者にはちょっと荷が重いところでございます。
それでも、先日、東北地方の女性の医師とお話をしたんですけれども、月に十回当直をしている、またちょっと今大きな学会をしておりますけれども、その学会に何とか出席をするためにゴールデンウイークはすべて勤務であるというような話をちょうど聞いてまいりました。でも、それを聞いても別に全然私は驚かないんですね、産科医師はそんなものだというふうに思っておりますので。ただ、それを解決するにはどうしたらいいのかというのは、先生方に本当に考えていただきたいと思っております。
それから、ハイリスク妊婦の方なんですけれども、ハイリスクと最初から認識をして、我々どもの周産期センターにお送りいただいているという症例はまだいいんですね。ですけれども、分娩というのは、先ほども申し上げたように、全く何の問題もない、合併症もなく経過も順調だった方に突然何かが起こってしまうというようなことも、それもやはりハイリスクであり、予測できないものである。やはりそれをすべて解決するには、どれにもすべて余裕を持って対応ができるというような周産期センターの分娩をふやしていくということに尽きると考えております。
そうしますと、産婦さんのニーズですとか、例えば近いところに分娩施設がないですとか、もっと自然に分娩を、病院でも結構自然にはやっているんですけれども、助産所でお産をしたいとかというニーズの問題も出てきますが、そのようなニーズに対しても、何か突発的なことが起こったときにすぐに受け入れてあげられる体制、そのためには、我々どもに余裕を持っておかなければいけなくて、でも、病院側は空床があるとか余裕のある人員とかということにどうしても首を縦に振っていただけないのが現状ですので、そういうことを解決していただけたらというふうに考えております。
○高橋委員 ありがとうございました。
もう少し伺いたいんですが、時間がないので、残りの時間を近藤先生に伺いたいと思います。
非常に短い時間で簡潔に説明いただきましてありがとうございました。
一つに、まず「医療費抑制という目標は妥当か?」ということで、厚労省の推計は常に過大であったということが提起をされました。
先生の説明の中にも出てくるように、やはり自己負担の増加が、結果としてはコスト削減につながらないのではないか、あるいは受診抑制が強まるのではないか、そうした指摘などもされていたところでありますが、私は、多分そういう背景で今日まで推移してきて、今後も、厚労省は、二〇二五年に五十六兆円になり、そのうち後期高齢者は二十五兆円という試算をしておりますが、やはりこういう、いいだけ抑制が進んできて、そこまで急には伸びないだろう、もっと緩やかに伸びるのではないかというふうに思っておりますが、その点、伺いたいと思います。
○近藤参考人 今後どうなるかという予測については、これはだれにもわからないもので、どういう政策をとるのかということによって変わってくるんだと思います。
ぜひ先生方に御検討いただきたいのは、どのような政策にも言うならば光と影があって、自己負担がゼロの時代に一割にするとかいうのはプラスの面が大きかったんだろうと私も思います。しかし、高齢者の国民年金満額もらっている人でも月六万円という人たちの自己負担をふやすということが一体どうなるのかという、副作用の面もぜひ御勘案いただきたい。
こういうことを言いますと、いや、高額療養費制度があるだろう、だから低所得者はそれで救われるんだというふうにお答えになる方が多いんですが、ぜひ、現場を見ていただくと、日本には差額制度、ベッドの差額がいまだにあります。首都圏でいいますと、大体一カ月、恐らく先生方の御両親を入れてもいいかなと思われるような良質の病院になりますと、月に二十万を下りません。
それで、言うならばいい病院だと長生きする、安い病院だと早く死ぬというのが、もう関係者の間でうわさになっておりまして、極端に言うと、早く死ぬ病院はどこですか、うちには貯金が二百万しかないんです、そんなやりとりすら現場の中では起きているんです。そういうこともぜひお知りいただいて、今回とる政策判断が、プラスの面が大きいのか、マイナスを大きくするのか、その辺はぜひ慎重に御検討いただきたいと思います。
○高橋委員 もう少し伺いたいことがあったんですが、残念ながら時間ですので終わります。
先生が指摘された健康格差という問題が、これからの医療費抑制政策の中でさらに拡大するのではないか、私もそのような危惧を持っておりまして、そういう点で、今後も政府に対して指摘をしていきたいと思います。ありがとうございました。