日本共産党の高橋千鶴子議員は17日、衆院厚生労働委員会の質疑で、生活が苦しくて国民健康保険料が払えない人から、機械的に保険証をとりあげ、資格証明書を発行するやり方をやめるよう求めました。
国保料を滞納し、資格証明書が発行されているのは、2005年6月時点で約32万世帯。これらの世帯は、窓口でいったん医療費を全額(10割)払わなければなりません。
医療改悪法案では、いままで資格証明書の発行対象から除外されていた75歳以上の高齢者も対象に含めました。保険料を現金で納める月額1万5,000円未満の年金生活者を想定しており、機械的に適用されれば、深刻な事態になる恐れがあります。
高橋氏は、「保険料を払えないために、命を落としている方がいる」と実例を示しながら、機械的な国保証取り上げの是正を強く求めました。川崎二郎厚労相は「適切な運用が行われるよう、留意していきたい」と答えました。
(2006年5月18日(木)「しんぶん赤旗」より転載)
――― 議事録 ――――
○高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
まだ本委員会での議論が十分尽くされたとは到底言えるものではありません。私は、この間の議論を通して、患者さんにとっては、所得のあるなしで受けられる医療の格差が拡大する、地域による格差、そして病院にも格差をもたらすものだということを痛感いたしました。医療制度改革が国民皆保険制度を堅持するものだと言っておきながら、本法案はこれに逆行するものであることを強く指摘したいと思います。
初めに総理に伺いたいのは、国民健康保険制度の問題です。約二千五百万世帯を擁する国保制度は、言うまでもなく国民皆保険制度の土台であります。しかし、その土台が今大きく崩れようとしています。
四月六日の本会議で私が質問をさせていただきました。国保税の滞納者が四百七十万世帯に達し、そのうち約三十二万世帯には資格書、いわゆる窓口で全額現金で払わなければ治療が受けられない、実質保険証取り上げということが起こっている、そしてそのために命を落とす事態も生まれていることを指摘いたしました。総理はそのときに、負担能力があるにもかかわらず保険料を納めていない方の未納分は他の被保険者の負担となり、被保険者間の公平が損なわれることから、資格証明書制度は必要なものと答弁をされました。
では、伺います。資格書を交付されている方たち、これらはすべて負担能力があるにもかかわらず保険料を納めていない、いわゆる悪質な滞納者だとお考えですか。
○岸田委員長 川崎厚生労働大臣。
○高橋委員 総理に聞いています。総理です。総理でなければだめです。(発言する者あり)
○岸田委員長 まず大臣にお願いします。
○高橋委員 総理でなければだめです。これは絶対総理でなければだめです。(発言する者あり)
○岸田委員長 静粛にお願いいたします。
小泉内閣総理大臣。
○小泉内閣総理大臣 それは、私が答弁するよりも厚生大臣の答弁の方が、よく詳しく御承知ですので、厚生大臣が先に答弁された方がいいと思って、先にと私が言ったんです。私が答弁しろというんだったら、厚生大臣の答弁をかわりに私がするんですけれども、専門的な分野におきましては、詳しい厚労大臣の方が丁寧でしょう。
私は、総理大臣として全体を総括しております。そういう面において、必要な全体の問題については答弁いたしますけれども、より詳しく個別の問題については、厚生大臣の答弁の方が適切な場合があると思うんです。あるいは、政府参考人の答弁の方がいい場合があるのです。しかし、あえて……(発言する者あり)
○岸田委員長 静粛にお願いを申し上げます。
○小泉内閣総理大臣 総理大臣に答弁しなさいということでありますので、答弁いたしますが、資格証明書は、保険料を納付することができない特別の事情があると認められる場合は交付対象となっておらず、負担能力があるにもかかわらず保険料を納めていない方に交付しているものと私は承知しております。
○高橋委員 私は、総理に大臣の答えるべきことをかわりに言ってほしいと言ったのではないのです。三十二万世帯が悪質なのかと聞いた。
それは、払えないために命を落としている方がいらっしゃいます。これは、昨年十二月に地方紙各紙が、国保停止で十一人死亡と報じました。その後の調査などで、二十一人を超えているということが判明しています。ことし一月二十五日、石川県加賀市で五十五歳の女性が子宮がんで亡くなりました。国保税を滞納していたため、保険証がなかったんです。この方は、滞納していたために窓口に短期保険証が据え置かれていた。ですから、お金を払いに行かなければ保険証がもらえないという状態になっていた。こういう事態がこの間、各紙に報道されていました。
そういう事態を受けとめて、それでも悪質だと思うのかどうか、総理の見解を伺いたかったのです。もう一度伺います。
○小泉内閣総理大臣 悪質かどうかというのは、私は、具体的にどういうものか、今この場でその事実というものを現実によく把握しておりませんからわかりませんが、やはり、負担能力があるにもかかわらず負担しないというのは、これは好ましいことではないと思っております。
○高橋委員 能力があるかどうかはさておき、私が言ったように、命を落とすような事態は起こってはならない。(発言する者あり)そうじゃありません。私が聞いているのは、そういう事態が起こっていることを踏まえて聞いているんです。
つまり、そういう方たちは、特別な事情があると考慮されるべきだ、そのことはお認めになりますね。
○小泉内閣総理大臣 特別な事情があって負担能力がないという方に対しては、それなりの対応はしているということでございます。
○高橋委員 それなりの対応が実はされていないということで、私は、今度は大臣に伺いたいと思っているんです。
たくさん実例はございますが、例えば、私の地元の青森県で、生活と健康を守る会が、毎年、実態実例集をつくっております。
四十三歳の妻が余命六カ月と宣告されているのに、三カ月間の短期保険証。この方は、妻が肝硬変とがんを患い入院しております。自営業で仕事が激変し、七歳から十歳の子供が四人いらっしゃいます。医療費の負担そのものが高額なために、国保料を一年滞納したら資格書だと言われた。役場に特別な事情を届けに行ったら、三カ月有効の短期保険証を交付された。小さい子供たちを残していかなければならない寂しさと、保険証やお金の心配でゆっくり治療に専念できずにいる妻を見るのがつらく、せめて正規の保険証にしていただけたらと思っています。
こうした話がたくさんあります。つまり、若い方であれば、生活保護を申請しても働けと言われます。自営業者は借金があるので受けられません。さらにサラ金などから借りて国保を払っている状況であります。ですから、事情のある方でもいろいろなことがあります。そうしたことを本当に踏まえて機械的に資格書を出さない、そうした措置を現場でできるような対応をしていただけるでしょうか。大臣に伺います。
○川崎国務大臣 総理からもお答え申し上げましたように、低所得者等の事情のある被保険者の方々について、保険料を軽減するほか、保険料を納付することができない特別の事情がある場合には、資格証明書を交付しないなどの措置を講じております。したがって、今後とも資格証明書の発行事務について、各市町村において行っておりますけれども、適切な運用が行われるよう留意してまいりたいと考えております。
○高橋委員 具体的に通知なり、徹底した対処をお願いしたいと思います。
そこで、今回新たに創設される高齢者医療制度の中でも、大体二割の方が、年金からの天引きではなく保険料を直接納付するということになる。同様に、同様にというのは国保と同様に、一年以上滞納した場合、資格書が交付されることになりました。その方たちは、月一万五千円以下の年金の方たちというのが想定されております。
私は、そこまで低い方からまで保険料を取らなくてもいいだろうと思います。また、少ない年金から天引きするのもひど過ぎます。今回の措置によって、さらに深刻な事態が生まれないだろうか。毎日新聞に、二月でしたけれども、「老人は早く死ねと言われているようで悔しい。」、こういう投書が寄せられていました。このことを本当にしっかりと受けとめていただきたいと思います。
大臣は、二〇二五年には、団塊の世代が後期高齢者になり、二千万人にもなる、医療費がふえるのは確実だと言い続けてきました。その根拠があいまいだということはこの間の議論でも既に指摘をされてきたとおりです。問題は、現役世代と高齢世代の不公平感を是正するのだという命題によって、患者も医療機関も自治体も、大変な負担を求められるということであります。
その一つとして、都道府県は、生活習慣病対策や長期入院の是正など、中長期的な対策を柱とする医療費適正化計画の策定が義務づけられます。医療保険者には、四十歳以上の被保険者を対象とする糖尿病などの予防に着目した健診、特定健診及び保健指導の実施を義務づけ、実施及び成果に関する目標の達成状況を毎年評価し、各保険者の後期高齢者支援金をプラマイ一〇%加算、減算するとしています。
こうした仕組みは、都道府県に対し、例えば医療費適正化計画の中で特例で診療報酬に差をつけるということも可能にいたします。また、医療保険者に対しては、今言ったように、支援金の加算、減算という形で実効率を上げるためのインセンティブが仕組まれているわけですが、そうなると、伺いたいのは、被保険者に対してはどうでしょうか。まさかと思いますが、生活習慣病は自己責任だからという理屈で、健診、保健指導に対して従わないために病気になった者へのペナルティーなどがあり得るのか、考えていらっしゃるのか。これは大臣に伺います。
○川崎国務大臣 生活習慣病を予防するため、医療保険者に効果的、効率的な健診、保健指導の実施を義務づけ、国民がみずから生活習慣を改善する仕組みを設けることとしております。
今、御質問いただきましたのは、健診、保健指導を受けなかったから、それで三割負担に上乗せして自己負担があるのか、こういう御質問だったと思いますけれども、そんなことは一切考えておりません。
○高橋委員 確かに今大臣、そんなことありませんとおっしゃいました。当然あってはならないんです。私も、まさか、考えがたいことだなと思いました。
ただ、こうした議論は別に初めて私がしたわけではございません。連休中に発表された厚生労働科学研究、医療費分析による保健医療の効率評価に関する実証研究というものがございます。この研究は、国保加入者約五万人を九年間追跡し、禁煙、肥満、運動不足の三つについて、いずれも該当する者の医療費は、いずれも該当しない者の医療費と比べて四三・七%も増加をした、しかも年を追うごとに増加しているとの結果を出しております。
このことで、主任研究者の辻氏は提言を述べております。すなわち、生活習慣などのリスクに応じて、予防の実践程度に応じて医療保険の負担と給付を設定することにより、健康づくり、疾病予防を進めることが国民に動機づけられるであろう。例えば既に民間の生命保険、医療保険では導入されているように、喫煙の有無や肥満度などに応じて保険料を設定することは可能である。あるいは、適切な予防医学サービスを受けているかどうかで医療費の自己負担率を変えることも可能である。そう言い切っております。この方は筋トレで介護予防の提唱者でありますので、大変よく御存じだと思います。話題を呼んだ方であります。
この間、メタボリックシンドロームなどの基準が定かではない、あいまいではないかということが言われてきました。エビデンスがないということも言われてきました。この方は、グループの研究でありますけれども、厚生労働科学研究の中で、エビデンスを得られたとして、そして明確なエビデンスが得られたら、これを自己責任でもいいじゃないかとまで言っているんです。
それを明確に否定していただけますか。
○川崎国務大臣 先ほどお答え申し上げましたように、保健指導を行わなかったから、その人の負担をふやしたり、違う措置を行う、そのようなことは一切考えておりません。国民の皆さん方に、できるだけ自分の健康、将来のことを考えて、自分の健康管理をしてほしい、こういうねらいでございますので、どうぞ御理解を賜りますようお願い申し上げます。
○高橋委員 そのことを今後も変えずに徹底していただきたいと思っております。
突き詰めていけば、やはりこういうことになるのではないか。国は直接の責任は自治体に押しつけながら、そして医療費を減らそうとする。国民の健康向上と医療費適正化の一挙両得のようなプランを装いながら、しかし実際には弱者を必要な医療から追い出すだけである。それが今度の医療改革の中身ではないか。
総理がよく言う医療構造改革、自立自助、自己責任、この言葉が、行き過ぎた自己責任論で生存権の否定につながってはならない。このことを強く指摘して、残念ですが、時間が来ましたので終わりたいと思います。