高校の必修科目の未履修問題について、日本共産党の高橋千鶴子議員は三十一日の衆院教育基本法特別委員会で教育行政のあり方をただしました。高橋氏は問題の背景に政府・教育委員会が数値目標で受験競争をあおってきたことがあると指摘し、「行き過ぎた競争は考え直すべきだ」と批判しました。
高橋氏は未履修のある高校の99%が、教育委員会に虚偽の報告をしていたことを示し、「これほど全体的にやられていたということは構造的な問題だ」と指摘。兵庫、熊本など未履修問題が過去にもあったことにふれ「こうした事件が教訓になっていないならば、文科省の責任ではないか」と追及しました。
伊吹文明文科相は「先生のおしかりは甘受しなければならない」と答弁。文科省の銭谷真美初等中等教育局長は「(二〇〇三年の)学校週五日制で(教育課程が)窮屈になったのが原因という見方があるが、同時に必修単位を減らしており、そのことは直接にはあたらない」と弁明しました。
高橋氏は文科省が近年、学校に数値目標を導入・奨励している問題を指摘。広島県教育委員会が公立高校に「広島大学の合格者数二十名以上」などの合格者数の目標をもたせて、競争させている実例を示しました。
伊吹文科相は「高校教育が予備校化しているのはゆゆしき事態だ」と認めつつ「目標をつくって競争しなければ効率化や努力は生じない」と数値目標による競争に固執しました。
(2006年11月1日(水)「しんぶん赤旗」より転載)
――― 議事録 ――――
○高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
富山県の県立高校に端を発した未履修問題は全国に広がりました。この問題は、教育基本法の問題とは切り離せない中身をはらんでいると私は思います。
私ごとですが、息子も高校三年生で、辛うじて世界史は履修しておりました。しかし、今は、センター試験の願書も出し、最終調整に入る大変大事な時期に来ております。茨城の校長先生の自殺というショッキングな事件もありました。ただでさえ受験目前で精神的にもきついこの時期に大変な負担を生徒に押しつけることは絶対に避けるべきだと思います。
まず、端的に伺いますが、今現在でわかっている実態、数字を教えていただきたい。そして、世界史のほかにも、必修でありながら履修していない科目があるかと思いますが、お伺いいたします。
○銭谷政府参考人 高等学校の必履修科目の未履修の状況でございますけれども、けさの段階でわかっている状況をまず御報告いたします。
まず国立の学校につきましては、校数は十五校でございますが、未履修の子供はおりません。
続いて公立の学校でございますが、四千四十五校のうち二百八十九校で未履修の学校がございました。割合で七・一%でございます。生徒の数で申し上げますと、三年生の生徒数八十一万二千七百六十七人のうち、五・八%に当たる四万七千九十四人が公立学校では未履修でございました。
私立の学校につきましては、今鋭意さらに調査中でございますが、千三百四十八校の私立の学校のうち千百十校について調査が終わっております。その千百十校のうち百七十二校、一五・五%の学校で未履修がございました。この調査済みの私立の生徒数は、全体が三十四万六千三百三十二人のうち二十八万六千三百六十六人が調査済みでございますが、未履修の生徒は二万五千四百二十二人、八・九%でございました。
大変多くの子供が未履修という状況にあると認識をいたしております。
それから、どういう必履修科目が未履修であるかということでございますけれども、世界史が多いわけでございますけれども、例えば、必履修教科でございます家庭、保健、情報を履修していない事例もございました。それから、理科や公民科で、学習指導要領に定める科目選択がなされていないという事例もございました。
先ほど申し上げましたように、多くの事例は、地理歴史科におきまして、世界史を含んで二科目履修させるべきところを、世界史を履修していないという事例、それから、世界史、日本史、地理の中から一科目しか履修させていない事例、こういうものがほとんどでございました。
○高橋委員 今わかっている数字だけでも七万二千人を超える生徒が未履修になっている。しかも、世界史だけではない。まだ私学が調査中ということですので、実態はさらに広がるんだということでは、本当に深刻なお話だなと思っております。
資料の二枚目に、二十六日の時点で文科省が出されました数字を載せておきました。私がここで思うのは、不適切な事例が判明した学校が二百八十六校のうち、あらかじめ提出されていた教育課程と実際の履修が異なっていたのが二百八十四、つまり、虚偽の報告といいましょうか、それがほとんどだということになるわけですね。
そうすると、これほど全体的にやられていたということは、単純にそれぞれの現場の判断というふうには言えない。構造的な問題とは言えないだろうかということなんですね。文部科学省は承知していたでしょうか。
○銭谷政府参考人 ただいま先生からお話がございましたように、公立の高等学校の場合、教育委員会に届け出た教育課程表が実際に授業を行っているものと違っていたというケースがほとんどなわけでございます。ただ、文部科学省の方には公立学校の教育課程については届け出る仕組みにはなっておりませんで、公立学校の教育課程は、各学校が設置者である都道府県教育委員会に届け出るということになっておりますので、今回の問題につきましては、富山県の県立高校でこういうことが発端になりまして、私どもが報告を受けたのは、十月の二十四日でございました。
なお、過去におきまして、長崎県で平成十一年と十四年、熊本県におきまして平成十一年、それから広島県と兵庫県におきまして平成十三年度において、高等学校学習指導要領に定める必履修科目を履修させていなかったという事例がございました。これにつきましてはそれぞれ当該県において措置をしているわけでございますが、文部科学省でも、指導主事連絡会におきまして、当該事例を紹介して、必履修科目の履修について適正を期すように指導した経緯はございます。
○高橋委員 十月二十四日までは承知していなかった。しかし、今お話があったように、過去には事例があったということなんですね。過去に事例があったことを承知していながら、なぜこういうことがまた起きているのかということなんです。
例えば〇二年の兵庫の場合は、県立高校の三分の一に当たる五十九校で、地理歴史の授業のうち、選択受験ではない科目の受講をしていなかったということがわかっている。
三月十三日付の神戸新聞の記事にこんなことが載っております。高校を卒業したばかりの生徒のコメントですけれども、「二月中旬に理系の三クラスが体育館に集められ、一時間ほど世界史の授業を受けたという。教諭に教科書のコピーを渡され、小テストもあったといい、「間に合わせの授業をするくらいなら、もっと早く、きちんと教えてほしかった」と話している。」このように書いているので、私は本当にそうだと思うんです。
生徒のためだと言いながら、公文書詐称までし、身につかない授業でお茶を濁す。もっときちんと教えてよというのは当然の声ではないでしょうか。この事件が教訓になっていないとすれば、文部科学省の責任ではないでしょうか。大臣に伺います。
○伊吹国務大臣 ただいま政府参考人からお答えをいたしましたように、その事件があって、確かに指導したわけでございます。
しかし、ここで再三議論が繰り返されているように、高等学校への管理権というものは、基本的には文部科学省にないわけなんですよ。ですから、靴の上から足をかくようなことなんですが、教育委員会を通じて、各学校に調査をし、助言している。しかし、その教育委員会そのものが、学校の管理者である校長先生以下の報告に全くだまされていたという状況でございますから、私たちが、だまされるな、だまされるな、おかしいぞ、おかしいぞと毎日注意をすべきであったのかなと、今から思えば、先生のおしかりを私も甘受しなければならないと思っております。
○高橋委員 基本的に管理権はないとおっしゃいますが、現場では文部科学省の指導が教育委員会にいろいろな形で起こっているということは、やはり指摘をしておかなければならないと思うんです。
さっき紹介した同日付の神戸新聞には、県教委の高校教育課は文部科学省からも書きかえるよう指導を受け、要するにその後の処置のことですけれども、未履修の場合は単位数、成績とも空欄にするよう指示をすると。春休みに補習をしたり、前年までさかのぼって校長処分という重大な事態に至っているわけですね。ですから、それを受けて、今後どうそれを徹底していくのかということが問われていたわけですが、いろいろ指示はするけれども、問題が起きると常に現場の責任よ、それで本当にいいのかと思うんですね。
資料の一枚目に、この問題を受けて文科省が発出した通知がございます。「高等学校における必履修教科・科目の取扱いに関する実態把握について」というものですけれども、これは真ん中の段で、「不適切な事例が判明した場合には、当該校に対し学習指導要領に基づく適切な取扱いが行われるよう指導をお願いします。併せて、当該校の具体的な改善策についても同日までに別紙によりご報告くださるようお願いします。」これは、通知を発出した当日に、同日までに改善策を報告してほしいと。
ですから、三けたの補習時間が必要な学校などもあるわけですが、一方的に、みずからが改善策を出しなさい、こういう指示をされると、生徒に無理を押しつけざるを得ないということが当然起こってくるわけですね。私、現場が問題ないとは言っていません、これはもちろんありますけれども。
三枚目に宮城県の調査資料がございます。三年生が千四十八名、何々が足りないという具体的な資料が出ているんですが、この各校に送った資料を見ますと、まず、科目が、世界史だけではなくいろいろなものがあるだろうと、書くところがあって、そして、平成十五年からさかのぼって調査するということで表を出しています。私は、このころに問題の発端があったのかなということを、なぜここから始まっているのかなということを考えさせられました。
それで伺いますけれども、こうした問題が繰り返される背景に何があると思うのか、お願いします。
○銭谷政府参考人 私どもは、高等学校の教育課程は、校長が学習指導要領に基づきまして編成するものでございますので、校長においてきちんと指導要領を遵守して編成していただかなければならないと考えております。
この点、各学校におきまして、やはり教育課程の編成に当たりまして、それぞれ事情はあろうかと思いますが、例えば受験に有利な教育課程の編成ということを考えたり、そういった意味で、ある意味では規律、規範意識に欠けていたということがあるのではないかと思っております。
今、平成十五年度というお話を先生されました。近年、学校週五日制を始めているわけでございますが、そのことによって教育課程の編成が窮屈になったというようなところから受験に有利な科目をとったという見方もあるわけでございますが、実は、現在の学習指導要領は、必修科目の単位数につきましては、従来に比べまして三十八単位から三十一単位と総単位数は減をしているわけでございまして、この必修単位数をきちんと履修した上で、各学校が創意工夫を生かした、それぞれの学校の実態に合った教育課程が編成できるような仕組みになっているわけでございますので、私ども、そのことは直接には当たらないのではないかと思っております。
いずれにいたしましても、きちんと法令を遵守して教育課程を編成するということをやはり教育委員会、学校は考えていただきたいというふうに思っているところでございます。
○高橋委員 そのことは当たらないと、私、何もしゃべっていませんから。文科省がどう考えるかというのを聞きましたので、多分言いたいことがわかっておっしゃっているのかなと今聞いておりました。
今お答えがありましたように、平成十五年度は新学習指導要領が実施された年で、いわゆるゆとり教育で完全週五日制が実施をされています。この十年間、文科省は大学入試の多様化と言い出して、入試の軽量化が進みました。英語と数学だけの入試という私学も珍しくなくなりました。同時に、授業時間数が減っても受験システムはそのままである、そういうことはあるわけです。
ですから、文部科学行政の中でこうした問題が起こっているということは一定認めていただいて、その上で、やはり場当たり的な対応になってはならないということを思うんです。この点はまだ調査が進んでいますので、委員会ではぜひ集中審議をしていただきたいということを委員長に求めておきたいと思います。
続けますが、資料の後に続けて書いております広島県の教育委員会の資料でございます。
学校名を一々読みませんが、「学力向上対策の目標」ということで、広島大学の合格者数二十名以上を含めて国公立大学の合格率二五%以上を目標とするとか、次の学校は、十一名以上を含めて三五%以上を目標とするとか、その次の学校は、十五名以上を含めて国公立大学は九十名以上という形で、大学の合格者数何人そして何%ということで、すべての重点校に対して具体的な数値目標を掲げているわけですね。
教育委員会の審議録を拝見しますと、難関校を受験する拠点校というのがあって、その次に重点校というのがある。それ以外のところは、では、学力が保証できるんだろうかという意見が教育委員会の中でほっと出ている。私は、その指摘にはっとさせられることがありました。
総理が、この間、切磋琢磨という言葉をよくおっしゃいまして、学校間が競い合うということが大事だということを言いますけれども、私は、これが直接今の問題に関係するとは言いません、ただ、今言っている競争競争ということがここになっていくのではないのかなというおそれを感じるわけです。
十月二十九日の朝日新聞の「声」の欄に、岩手県の主婦の投書がありました。高校三年の息子が世界史を受けていないことが判明した。その数カ月前、県立高校の入試制度がまた変わって、おれたちは実験材料じゃないんだぞ、普通な、暴動が起きてもおかしくないんだぞ、おれは怒りたいよと言っていたと。この主婦は、大学や社会が求める人材、競争力だけを重視することが問題ありではないだろうか。今回の問題、つまり未履修の問題、やっていなかったものをただやれではなく、なぜそのようなことが起こってしまったのか、十分な議論と今後の対応を望みたいとあります。
くるくる変わる行政に翻弄されるのはいつも子供たちです。ここへの反省なしに、学校評価や学力テスト、選別の仕組み、上からの統制、これを強めても解決には至らないということを私は言っておきたいんですが、その点、一言感想をいただけますか。
○伊吹国務大臣 やはり高校教育の目的というのは、高等学校から社会に出た場合、あるいは、いずれ大学から社会に出た場合に、基本的に大切な知識をつけ、人格を陶冶するために高校を出る。ところが、それが、今先生がおっしゃったように、予備校化しているというんですか、これは私は非常にゆゆしい問題だと思います。それは、先生の御指摘、当たっていると思います。
しかし、先生の御指摘と私が意見を異にするところは、目標をつくって競争して切磋琢磨しなければ、効率化だとか努力だとかというのは人間社会には生じないということなんですよ。その目標の設定が、結局、妙なことを生むから目標を設定するのをやめた方がいいとか、競争原理がだめだということになると、ちょっと私は意見が違うんです。
○高橋委員 少なくとも、今の予備校化の問題、ゆゆしいことだという御発言がありましたので、私は、それは、本当によくぞ言ってくださったと思います。
競争の問題については、やはり行き過ぎた競争はいけないということなんです。ここまでやっていいのかということは、やはり考えるべきじゃないかということを指摘させていただきたい。
さて、世論は教育基本法の改正を望んでいるでしょうか。
昨日、NHKの世論調査がテレビで報道されておりました。数字は、三九%が賛成で、反対が一一%となっていますが、ただし、どちらとも言えないが四一%。改正案の成立時期についてどう思うか。これは賛成と答えた人だけれども、今の国会で成立させるべきだは三割で、今の国会にこだわらず時間をかけて審議をすべきだ、これが六九%に上っておりました。
私は、これほど国民も、賛成も含めて十分時間をかけろと言っている。ここはしっかりと見ていただく必要があるのではないかと思います。(発言する者あり)それぞれの立場がございます。
平成十五年から七回、教育改革をめぐってのタウンミーティングなどがやられておりますが、どういう目的でやられていますか。一言、内閣府、お願いします。
○谷口政府参考人 お答えをいたします。
タウンミーティングは、ただいま先生御指摘の課題もさようでございますが、閣僚等が内閣の重要課題につきまして国民と意見を交わし、国民に直接語りかけることで政策に対する国民の理解を深めて、さらに国民と内閣との対話を促進するということを目的として行われているところでございます。
教育改革のタウンミーティングも複数回開催をされているところでございまして、教育改革にかかわるさまざまな問題につきまして、国民への説明と意見交換を行いまして、国民の理解を深めるということで、そういう目的のもとに開催をされてきているものでございます。
○高橋委員 私の地元、青森県の八戸でも九月二日にタウンミーティングが開催されております。そこでちょっと気になることがございました。
委員長のお許しを得て、大臣にこの資料を差し上げたいと思います。申しわけありません。実は公文書なものですから。これは、九月二日がタウンミーティングで、直前、八月三十日に、三八教育事務所からある中学校の校長あてに出された文書でございます。
「タウンミーティングの質問のお願い」「当日に、2の質問をお願いします。」「質問者のお名前をお知らせくださいますよう、よろしくお願いいたします。」三つの質問項目案があるんですね。例えば、「時代に対応すべく、教育の根本となる教育基本法は見直すべきだと思います」とか「教育の原点はやはり家庭教育だと思います。」こんなふうに書かれております。
次に、九月一日に、県教育庁の教育政策課から同じように校長先生あてに「「タウンミーティング」に係る依頼発言について」という文書が出されまして、「発言者を選んでいただき誠にありがとうございます。」とありまして、内閣府から以下のとおり注意がありましたとなって、棒読みは避けてくださいとか、お願いされてとかいうのは言わないでください、こんなことまで書かれてあるんですね、事細かに。
そこで内閣府に伺いますが、発言の依頼と、それから、質問の中身を県に依頼したのかどうか、伺います。
○森山委員長 ちょっと発言者、お待ちください。
時間、とめてください。
〔速記中止〕
○森山委員長 速記を起こしてください。
高橋先生、今お出しになった文書は、急でございましたし、理事も承知しておりませんでしたので、今、この質問をなさるのはちょっとおやめになっていただいて。
○高橋委員 了解をしました。
この資料については、委員会で調査して報告してほしいという趣旨で質問しようと思いましたので、理事会でいろいろ御相談しなかったのは、実はそういう理由であります。引き続いてそのことについてちゃんと内閣府と文科省からも委員会に御報告をいただきたいと思いますので、それが私の質問の趣旨でございますので、よろしくお願いいたします。
○伊吹国務大臣 内閣府、文科省等から調査をいただきたいということですが、今委員長が制止をされなかったので、先生から資料をいただいて、私は委員長にそのままお渡しいたしました。
ですから、理事会でこの書類の提出その他について御協議の上、理事会の御決定があれば、私たちは理事会の決定に従わせていただきます。
○高橋委員 では、理事会の審議をお願いいたします。
これで終わります。