生物テロや事故による感染症の発生・まん延防止策や、結核予防法の廃止・統合を盛り込んだ感染症予防法改正案が十日、衆院厚生労働委員会で採決され、賛成多数で可決されました。日本共産党の高橋千鶴子議員は「結核対策を後退させてはならない。意見を付して賛成する」と述べました。
高橋氏は、新型インフルエンザなどに対応するワクチン製造体制について質問し「非公務員化がすすむなかでも、国民の生命を守るため、国立感染症研究所は国立で存続すべきだ」と求めました。 柳沢伯夫厚労相は「国民の健康管理は国の責任で直接実施すべきだ。独立行政法人化などは適切ではない」とのべ、国立維持の姿勢を示しました。
高橋氏が、結核を診断できる医師が減っている事態を指摘したのにたいし、厚生労働省の外口崇健康局長は「人材確保と育成に取り組んでいく」と答弁しました。日本共産党など各党で共同提出した「結核予防法の廃止後も結核対策の充実を図るよう政府に求める」などを盛り込んだ付帯決議も、決議されました。
(2006年11月11日(土)「しんぶん赤旗」より転載)
――― 議事録 ――――
○高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
八日付のプレスリリースで、アメリカ産輸入牛肉のうち、スイフト社グリーリー工場からの七百六十箱中、米国農務省発行の衛生証明書に記載されていない胸腺一箱が混載されていたことが発表されました。
八日といえば、ちょうど私がこの場でBSE問題を質問していたときで、ケース・バイ・ケースという答弁もございました。既にそのケースが起こっていたのかということで、改めてちょっと怒りを感じております。
もともと、対日輸出プログラムをアメリカが遵守するということが前提での食品安全委員会のリスク評価でございました。そういうことから考えれば、胸腺が特定危険部位ではない、だからいいという問題ではありません。プログラム違反がまたも犯された、そのこと自体が問われるのではないでしょうか。
ちなみに、スイフト社は全米三位の巨大パッカーでありますが、グリーリー工場は、今回のような単純ミスばかりではなく、ことし三月にも香港への輸出禁止となっている牛の骨を出した、そういうことも重ねている工場であるということをしっかり踏まえなければならないと思います。
大臣に伺います。問題はプログラム違反であるということであります。リスク評価の前提であるプログラム遵守に責任を負うべきリスク管理機関としてどう対応するのか、伺います。
○柳澤国務大臣 今回の米国産牛肉の輸入に胸腺という部位のパックが一箱含まれていたという事案でございます。これは、今委員の御指摘になりますとおり、仮に適格品リストにこれが掲載されていれば対日輸出も可能な品目でございまして、その意味でも特定危険部位ではないということでございます。
しかし、それにしても、適格品リストに掲載されていないということであれば、それが入ってくるということは明らかにこのプログラムに反する事態でございまして、これに対してはそういうものとして我々は認識し、適切な措置をとろうということで対処しているところでございます。
○高橋委員 明らかにプログラム違反であるということをお認めになったと思います。
ジョハンズ米農務長官は、八月三日付の毎日新聞で、「日本車の一台に欠陥が見つかったからといって、米国はすべての日本車を締め出したりはしない」こういう言い方をして、もしまた問題があったときに全面禁輸を日本がするようなら、対日制裁も辞さないという警告を発しています。
こういう高圧的な態度、事が起こる前に前もって言っておく、縛りをかけておく、こういうアメリカの態度は本当に許せないと私は思うのであります。
農林水産調査室が、七月二十七日に輸入再開を決めてからの各界の反応という資料をまとめておりますが、その中で、例えばマックス・ボーカス上院財政委員会委員ですとかケント・コンラッド上院議員などがそれぞれ、自身のホームページで述べておりまして、「もし日本が八月三十一日までにその禁止措置を解除しなかった場合に、毎年三十一・四億ドルに相当する日本からの輸入品に関税を課すとの法律の共同提案者となった。」というコメントを述べております。ですから、八月三十一日までに解禁してよということを、そうしなければ三十一・四億ドルの関税ですよということが提案されていて、それがかなりの圧力になっていただろうということが推測されます。
これを見ると、米国の議員らが在米加藤大使を何度も議会に呼びつけて、注文をつけていたということが記されております。私は、期限を区切った制裁という議会の圧力がやはり七月二十七日の再々開の決定にも影響したのかなと思わざるを得ません。
改めて、きっぱりとした態度がとれるのかということ、前もって、これから起きても全面禁輸なしよなどということに対しても、きちんと態度がとれるのかということをまず伺います。
それから、ならし期間はあと三カ月でありますが、具体的に、日本向け処理がされているもとでの査察計画について伺います。
○藤崎政府参考人 お答えいたします。
七月二十七日の輸入手続再開に際しましては、再開後六ヶ月間を対日輸出プログラムの実施状況の検証期間と位置づけております。これまで日本側におきましても、全箱確認等の措置を通じて、対日輸出プログラムの検証を行ってきているところでございます。
しかしながら、今回のような事例が発生したことを踏まえまして、厚生労働省及び農林水産省では、当該施設から出荷された貨物につきまして輸入手続を保留するとともに、米国側に対し、詳細な調査と再発防止措置の実施を求めたところであります。今後、米国側から再発防止措置を含む最終的な調査報告書が提出された後、当該施設について現地調査を実施し、改善状況について確認することといたしております。
また、近く、対日輸出実績が多い施設を中心に現地査察を実施することとしており、輸入時の全箱確認や検疫所における検査とあわせまして、対日輸出プログラムが遵守されているかについて、農林水産省と連携しながら、適切に検証してまいりたいと考えております。
いずれにしましても、国民の食の安全を守る立場から、適切に対処してまいりたいと考えております。
○高橋委員 今詳細な調査をいただくというお話がありましたけれども、先般、八日の委員会でも私、指摘をしましたとおり、現状はまだならし期間である、しかも、まだ本当に対日の処理がしっかりやられているかどうかを見た段階ではないということをしっかり踏まえていただいて、先ほど私がアメリカの対応についてお話をしましたけれども、圧力に屈するのではない、きっぱりとした態度で対応していくということでよろしいでしょうねと、大臣に一言確認します。
〔吉野委員長代理退席、委員長着席〕
○柳澤国務大臣 私どもは、国際的な約束事に基づいて、冷静に、また的確に対応するということを旨として今後にも臨んでまいりたい、このように思っています。
○高橋委員 この問題はまた次の機会に譲ります。今のお答えでしっかりとお願いいたします。
次に、新型インフルエンザの問題で、これも八日の委員会にお伺いをしたわけですが、先ほど松本委員の質問の中で、インフルエンザワクチンの問題を少し紹介いただいたと思っております。
それで具体的に伺いたいと思うんですけれども、国内において国立感染研の指導のもとに四つのメーカーが製造に当たっている、インフルエンザワクチンの製造の大体八割方を占めている大手の株式会社なども仲間に加わっているわけですけれども、いわゆる知的財産権との兼ね合いでどのようになっているのかを伺います。
また、新型インフルエンザワクチンについては、欧米の一部のベンチャー企業に特許が押さえられて、緊急対応時の障害となるのではないかという指摘が各界から出されているところです。これに対してWHOが仲介となって調整が進んでいるという話も聞いております。実際、どうなっているのか、伺います。
○高橋政府参考人 お答え申し上げます。
まず第一点目の、現在準備を進めておりますプレパンデミックワクチンに関する製造に関しての知的財産権のお話ございましたが、このワクチンに関する知的財産権、これは日本側のだれかが特許とかそういったものを持っているわけではございません。これは現在の製造プロセス、ちょっと詳細を申し上げますと、採取をした後、弱毒化をして、それから各国に配付をされているわけですが、その弱毒化をしていくプロセスの中で特殊な技法を用いて弱毒化をするわけですが、その技法についてアメリカの企業の特許が設定されているというものでございます。これについては、特許が設定されていますからそこに当然知的財産権はあるわけであり、今回の製造関連でもそれについてのシェアが当然生じるということでございます。
それから第二点目のお尋ねの、何かWHOが仲介に入って事が進んでいるというようなお話ございましたが、その点については私どもは承知をいたしておりません。
○高橋委員 今、承知をしていませんというのはちょっと意外な答弁でございました。各種論文や新聞にも書かれているので、当然問題意識を持っていると思うんですね。緊急対応のとき、国民の命、世界的な人命がかかっているときに、いわゆる知的財産権が障害となっておくれたり緩められたりということがあってはならない。この点で問題意識を持っているということでは確認をさせていただいてよろしいのかどうか。
それを踏まえて、大臣に私はぜひ伺いたいのですけれども、ちょっと時間がないのでそれを踏まえて答えていただきたい。国内においても今プレパンデミックワクチンをつくっているわけですが、国の責任が非常に重要であるだろう。この中心となっている国立感染研においては、この間さまざまな国立系の研究機関が独法化あるいは非公務員化が進む中でも、国立感染研として機能を果たしてきたわけですが、ここが国立であり続けるということが非常に大事である、そして、やはり国の責任でしっかりとワクチンの製造やインフルエンザ対策というものをやっていく必要があると思いますが、その点について大臣の見解を伺いたいと思います。
○高橋政府参考人 先ほどは承知していないというふうに申し上げましたが、私、質問趣旨をちょっと取り違えて、大変失礼いたしました。
プロセスとしては、新型インフルエンザワクチン、現在プレパンデミックでございますが、それをまず発生国のある患者さんから採取をいたします。これは……(高橋委員「説明は要りません、時間がないですから」と呼ぶ)現在、WHOの規約の中では、WHOのフレームの中で、WHOの依頼を受けた人間がとってきて、それをWHOがその協力機関でありますアメリカのCDC、アメリカあるいはイギリスの研究所で弱毒化をいたします。WHOの研究協力機関は各国で十一ございますが、その研究機関の間ではとられた後の、弱毒化をされたウイルス株については相互に利用が自由になっております。
そういった意味では、各国ともそこに対して自由にアクセスをできるということでございまして、日本の感染研はそこから譲り受けてきて、後に日本の国内メーカーに渡すというシステムでございまして、そういったシステムになっていることで、各国とも、日本から見ればきちんと自由にその利用ができるという状態になっております。
○柳澤国務大臣 国立感染症研究所につきましては、感染症の流行時の疫学調査であるとか海外との情報交換などといった国民の健康管理に直結した業務を行っているところでございまして、これはまさしく国の責任において直接実施すべき業務である、このように考えております。したがいまして、感染症対策を担う中心的な機関として、本省との一層の連携のもとで機能強化が強く要請されているところでございます。よって、このような健康危機管理に当たる業務を行う研究機関でありますところから、独立行政法人化というようなことは適切ではないと考えております。
○高橋委員 ありがとうございました。ちょっと今、ワクチンの問題についてはもう少し整理したいところですが、時間がないので、先ほど私が言った趣旨はしっかりと伝わったかなと思いますので、次に進みたいと思います。
結核の問題についてであります。
感染症に統合されることで、入院勧告が決定される前に保健所長が応急入院を決めることができる、その間、七十二時間、三日間ということで限られるわけですね。これまでは大体協議会の開催に合わせて二週間くらいの猶予で公費負担の部分も遡及できていた結核予防法と比べて、混乱がないのかが心配をされます。これは昨年の十月の厚生科学審議会感染症分科会においても問題となり、例えば、大阪市は毎週協議会を開いているけれども、大体毎回百件ぐらいずつある、それが発生するたびに云々ということになったら、まず物理的に不可能という指摘がございました。実際、七十二時間以内に協議会を開くというのが可能なのか、伺います。
○外口政府参考人 御指摘の七十二時間というのは、これは緊急措置でありますので、人権を制約する面もあり、必要最小限度の期間とすることが必要であることから、他の法令等を参考にして七十二時間を限度としたものであります。
では、実際に各自治体で円滑にこれが運用できるかということでございますけれども、例えば今大阪の例を挙げられましたけれども、結核患者数が多い地域では、委員の招集を前提とした協議会の開催が場合によっては困難となることも想定されます。このため、客観的な検査結果により結核の診断が可能ないわゆる定型的な事例等については、結核患者の人権を尊重しつつ、当該協議会の開催方法を簡素化する方向で検討したいと考えております。
○高橋委員 簡素化する方向とおっしゃいました。もちろんそれはいろいろな工夫はできるかと思うんですが、それにしても保健所が過重負担にならないように、このことはぜひ要望しておきたいと思うんです。
そこで、そうはいっても、患者本人の責任ではなく、例えば今月もそうでしたが、三連休だったというような場合にやはり協議会が開けずに、七十二時間を超えてしまった場合、それは患者負担をさせるべきではないと思いますが、その点、確認したいと思います。
○外口政府参考人 例外的な場合についてどういった運用が可能かということにつきましても、十分検討させていただきたいと思います。
○高橋委員 ちょっと今、検討では納得がいきません。患者の責任ではないのですからそれは負担をさせるべきではないと、もう一度お願いいたします。
○外口政府参考人 簡素化も含めて実際に七十二時間でできるような方策、それがもちろん最も進めなければいけないことでございますけれども、そういったことを中心にしながら、患者さんに負担がかからないようにという方向でいろいろ考えていきたいと思います。
○高橋委員 ありがとうございます。もちろん大前提はあるけれども、できなかった場合ということを伺っていったので、患者さんに負担がかからないようにということで確認をさせていただきました。
それで、実質、結核を見分ける医師が少なくなっているというのも現場の声であります。そういう問題意識があるのかどうか、まず一つです。
それから、私自身も直接相談を受けたことがございますが、結核とがんの診断を誤って抗がん剤を投与されてしまったというケースもございました。がんでなくてよかったじゃないかと医師が開き直った、非常に悔しい思いをしたことがあります。そういう点でも、必要な医師や看護師、技師などをしっかり確保して、初期の段階できちんと診断をするということが決定的な対策になると思うんですが、その点について大臣の見解を伺いたいと思います。
○外口政府参考人 我が国におきましては、結核の罹患率の低下に伴い、医師が結核患者を診察する機会が少なくなっており、医療従事者に対する結核の研修の重要性は一層高まっていると考えております。
先ほど、がんと結核との誤診の例を例に挙げられましたけれども、実際、胸のレントゲンを見ても、教科書に出ているのは定型例なわけでございます。ただ、実際には、結核の患者さんの陰影というのは非常に多種多様でございまして、やはり数多くの写真で勉強することが必要です。影を見たらがんを思えということと同様に、影を見たら結核を思えということも実際言われるわけです。
そういったことも踏まえまして、医師に対する研修としては、財団法人結核予防会において、これまで毎年、結核の臨床及び結核対策に必要な知識の習得を目的として、それぞれの目的に応じて複数の研修コースが実施されてきております。また、診療放射線技師、保健師、看護師、臨床検査技師等に対しても、同研究所によりまして複数の研修コースが実施されてきております。厚生労働省においては、必要な国庫補助を行っているところであります。
厚生労働省としては、引き続きこれらの研修を支援するとともに、学会等関係機関と連携を図りながら、今後とも結核の診療に携わる医療従事者の人材の確保と育成に取り組んでまいりたいと思います。
○高橋委員 ありがとうございました。時間になりました。
私たち、今回、本法案については賛成とすることにいたしました。ただ、今述べたように、大臣が最初に述べてくれた、後退をさせないということを本当にしっかりやっていただきたいことと、必要な人材の確保というのは感染症全般にわたって求められている課題だと思いますので、その点を強く要望し、意見を付しつつ賛成としたいということで終わりたいと思います。