国会質問

質問日:2007年 5月 22日 第166国会 厚生労働委員会

社会保険庁法案 ―参考人質疑

 社会保険庁の分割・民営化法案などの参考人質疑が二十二日の衆院厚生労働委員会で開かれ、安定運用を危うくし、世界の流れにも反しているとの指摘が相次ぎました。

 年金実務センター代表の公文昭夫氏は、推計で年間一千万人にのぼる未納者やワーキングプアの増大など「空洞化に歯止めをかけることが緊急課題。全額国庫負担とする最低保障年金の確立が必要だ」とのべました。

 分割・民営化は「憲法二五条の生存権を保障する国の責任と義務を投げ捨てるものだ」と指摘。制度の安定継続性は保たれなくなり、個人情報保護の漏えいなど問題を引き起こすとのべました。

 立正大学の渡部記安教授は、政府案と民主党案に共通している管理運営の細分化・民間委託について「世界の潮流に反する非効率的な政策であり導入すべきでない」と強調。社会保障全体の運営管理を国が包括的一元的に行うのが世界の流れだとのべました。

 社会保険労務士の井戸美枝氏は「徴収とサービス提供の一体的運営は不可欠。分離することは総合的なサービス提供につながらない」とのべました。

 日本共産党の高橋千鶴子議員は、空洞化防止のため雇用対策が重要だと指摘するとともに、事務費への保険料流用について政府が「極めて妥当」と正当化していることへの意見を求めました。

 保険料流用について渡部氏は「事務費に流用している国は世界にない。日本の常識は世界の非常識。世界の恥だ」と批判。公文氏は「安定した雇用とまともに生活できる賃金が確立されないといけない」とのべました。

(2007年5月23日(水)「しんぶん赤旗」より転載)

 

――― 議事録 ――――

○高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。

 本日は、六人の参考人の皆さん、貴重なお時間を割いて本委員会に出席をいただき、また非常に貴重な御意見を聞かせていただきました。まずは感謝を申し上げます。

 また、とりわけ、先ほど来、谷澤参考人の御意見、たくさんの相談者の方の怒りを代弁されて、もっともっと言いたいことがあるんだ、怒りを抑え切れないという思いでお話をされていらっしゃるんだと思って本当に伺っておりました。

 私は、やはり、これまで多くの方が一生懸命納めてきたのに年金記録がない、あるいは正しくない、このようなことは到底許されないことであると思いますし、また、この間の政府の答弁が極めて不誠実だと思っております。本日の御意見を参考に、特に先生は立証責任の転換ということもおっしゃいました。まさに加入者の利益を守るという立場に立った解決がどうしても求められていると思います。その点では、私からも政府に対して強く求めていきたいし、与党の皆さんにも、やはり知恵を出し合って解決策をやっていこうじゃないかということをぜひお呼びかけをさせていただきたい、このように思っております。

 最初に、質問は佐藤参考人にさせていただきます。

 有識者会議の座長として、政府案のポイントや、またそこに至る経緯についても詳しく説明をしていただきました。同時に、佐藤参考人は中央労働委員会の公益委員でもありますし、また、公務員制度改革についても発言されていることを私は拝見してまいりました。その中で強調されていることで、私は、公務員の憲法十五条に基づく全体の奉仕者性という問題、このことを、公務員制度改革についても逆に薄まっているのではないかという指摘を先生がされていることに非常に注目をさせていただいております。

 今回の年金機構問題については、分限処分の問題、いわゆる社会保険庁の数々の不祥事に関与した職員を漫然と新組織に移行させるべきではないということがまず前面に出ていることと、民間手法を取り入れた人事評価や効率性といった説明に力点が置かれております。

 しかし、同時に、公的年金制度を安定的に運営する新組織において、この憲法十五条に基づく全体の奉仕者性という点があいまいにされてよいのだろうか、問われなくてよいのだろうか。このことについて先生の見解を伺います。

○佐藤参考人 お答えさせていただきます。

 まず、公務に従事する公務員の皆さんが全体の奉仕者として公務を遂行する、これは憲法上の原則でございますから、それを前提にしまして、次に、現に扱っている職務の中で、例えば今回の年金の問題であれば、先ほど出ましたように、将来の国民の老後にかかわる問題で、広い意味で当然憲法二十五条ともかかわる、こういう構図をとっておりますね。これを担うときに、すぐ公務員の問題というふうに考える前に、どこが責任を持つかが私の注目点なんですね。これはまず国が責任を持つ、これがまず揺るがせない原則だ、これは一貫しているわけですね。今回の法案でもそれが維持されておりますので、この基本線はゆるがせにしたくない、こういうことです。

 その次、例えば、そこで働いている人のお立場の問題が一つあります。今度新しい機構に身分が移る、採用されるかどうかという問題もございますので。もう一つ、国民のために年金をやっているんですね。国民の皆さんのお金をお預かりして管理しているんですね。これがきちっと今までできていればいいんですよ。それがきちっとできなかったものですから、これをできるようにという国民の皆様の観点、それからそこで働いている皆さんの問題、両方をにらみながら、そこにバランスをとっていくといいますか、揺るがせない一線をきちっと押さえていく、こういう設定の仕方なんですね。

 そうしたところ、やはり従来の、言葉は悪いんですけれども、安住した組織の中でこれはお任せできないというのが国民の皆さんのかなり強いお考えだと思うんですね。だから、基本を維持した上で、国が責任等はきちっと持った上で、運用の仕方については少し創意工夫を凝らせるものをつくっていきたい、そういうことであればそういう制度改正には賛成できる、こういうことでございます。

○高橋委員 基本を維持した上でというお言葉でありましたけれども、この間の質疑を通じて、そのことが、本当に国民のための年金ということできちっとできる組織になるんだということは、そうではないなということを私は率直に感じているということを申し上げさせていただきたいと思います。

 次に、紀陸参考人に伺いたいと思うんです。

 年金受給者の実態調査などにおいても、今や、第一号被保険者のうち、自営業者よりも、パートやアルバイト、派遣労働者など雇用保険からも漏れている労働者の割合の方が多くなっているという実態がございます。

 こうした年金の空洞化対策は避けて通れないと思っておりますが、経団連としてどのように取り組んでいくのか、ぜひ伺いたいと思います。

○紀陸参考人 ただいまの御質問に対してお答えいたします。

 今現在、短時間労働者の方々の厚生年金適用の問題、今法案が準備をされているかというふうに思っておりますけれども、この問題は非常に複雑な背景があるかというふうに存じます。パートの方々、一号の方もあるいは三号の方もおられますけれども、その個々人の方々の厚生年金の適用に対するニーズがさまざま違うだろう。もう一つは、一号の方でなくても、事業主の立場、いわば雇用者の方々、事業者の方々のコスト負担への問題というのも考えていかなければいけない。今回の、今考えられておりますパートの法案では、この両方のお立場を、いわば激変緩和の措置を入れて、一つの改革に取り組もうとしている。

 これからまたいろいろ論議が行われるかと思いますし、この問題は、今当面ということだけではなくて、先行きのことも考えて検討していかなければならない問題だと思っておりますけれども、今現在は、今申し上げたようなさまざまな状況を勘案して、今一歩ステップを踏み出そうとしている、そういうような現状にあるのではないかというふうに理解をいたしております。

○高橋委員 ありがとうございました。

 今の問いに関連して、公文参考人にも伺いたいと思います。国民の年金への関心は最も高く、安心できる制度の構築や信頼の回復が求められておりますけれども、雇用の流動化、不安定化による空洞化というのが一層進むのではないかという懸念がございますが、どのようにお考えでしょうか。

○公文参考人 委員御指摘のとおり、結論から申し上げますと、今の雇用、賃金の実態を考えると、先ほど来お話が出ている年金制度の空洞化問題はますます加速するのではないかというふうに思わざるを得ません。

 先ほど報告の中でも申し上げましたけれども、ワーキングプアと言われている人たちがもう既に九百八十万人という数字まで出されておりまして、これはもう皆さん御承知のとおり、年収二百万円以下の収入しかないという生活実態の人たちになっているわけです。この人たちは厚生年金に入っている方も一部あるかと思いますが、厚生年金に入れないという、非正規労働者全体の中でも相当数を占めると思いますが、その方々は当然国民年金に移らざるを得ない。

 ただ、国民年金ということになりますと、当然、先ほど来私も報告を申し上げました未納者、つまり滞納せざるを得ないという状況の方々がどんどんふえているという現実がありますから、滞納者ということになるんじゃないかなというふうに思うんです。これは制度の空洞化で、年金を滞納される方々の財源を、結局現役の労働者の厚生年金加入者あるいは共済の加入者、そして国民年金に加入して保険料を実際に払っている皆さん方で将来にわたっても負担していかなければいけないという財源構成の問題もあります。

 それだけではなくて、私はやはり一番深刻に考えなきゃいけないと思っているのは、二百万円前後の収入しかないというワーキングプアの皆さん方にとっては、将来にわたって年金額が極めて低率な年金額にしかならないという問題が起きてくる。

 これも委員の皆さん方は御承知のとおり、日本の年金制度というのは何で年金額が決まるかといえば、厚生年金の場合も公務員の共済年金の場合も、加入した期間と、それからその間にもらっていた賃金が幾らかによって年金額が決定されるわけですから、まず大前提としては、安定した雇用と、それからまともに生活ができる賃金、これは最賃制の確立も含めてきちっとしたものとしてセットされないと、日本の年金制度というのは単に制度いじりをやっているだけではよくならない。特にそういう意味では、財界の皆さん方にはその点をきちっと押さえていただいて、積極的な雇用、賃金の安定についても御努力を願う必要があるのではないかというふうに思います。

○高橋委員 ありがとうございました。

 次に、渡部参考人に伺いたいと思うんですが、個々の社会保障担当官庁が個別徴収する日本の制度が諸外国から見て大変おくれており、非効率であるという指摘をされているかと思います。また、各国の詳しいデータを比較されながら、社会保障庁の提案をされているということ、大変興味深く伺いました。

 私、多分その前提には、国民が強制加入であるということに納得し、また、拠出責任を果たしていく上での基盤整備というのがまだ我が国は非常におくれているのではないかというふうに考えているのであります。そのために、まず国が果たすべき役割は何か、あるいは担うべき負担はどこまでと考えたらよろしいのか、伺いたいと思います。

○渡部参考人 渡部記安でございます。お答えいたします。

 やはり、先ほどもお話ししましたように、このような分散化制度を採用しておるのは今や日本とルーマニアだけでございまして、いかに我が国の社会保障政策が世界の非合理か、日本の常識は世界の非常識でございまして、非常に嘆かわしい状態である。とにかくほとんどすべての先進国が徴収に関しては中央一元化、国税庁方式をやっておる。ただし、運営管理自体は社会保障庁ですべての社会保障政策を一元的に統括しておる。この英知の結集をなぜ日本は導入しないのかということを痛切に感じます。

 そして、財源の問題ですが、これは年金論だったら幾らでもお話しいたしますが、これは国民年金を中心に言われるんだと思いますが、私もお話ししましたように、要するに、社会保障制度の原理原則であります、ILOなんかも指摘します社会的連帯性と所得再分配機能、これを原則にかんがみますと、我が国の国民年金制度なんというのは世界のどこにもない非常識であります。豊かな人も貧しい人も同じ負担をして同じ給付をもらう、世界の非常識であります。だからこそ、未納者が多いんですよ。だから、単に、もちろん社会保険庁の職員の非効率性もありますが、国民年金というそのもの自体の非効率性にかんがみて、これを抜本的な税金財源の最低保障年金と自営業者も含む所得比例年金制度の一元化に制度を改革すべきであります。

 そして、もちろん、その場合も、私も社会保険庁の非効率性を無視するわけではありません。報告では一々指摘はしておりませんが、世界的に見ても非常に非効率とか、幾つかの発言の中で、例えば、世界的潮流に完全に背反する非効率な政策とか、非効率と執務規律の乱れというのは、記帳漏れとかそういうものを当然含んでおりまして、しかし、個々の現象に対する批判ではなくて、では組織をどのように改革すべきかということが大事でありまして、単に長官を民間に変えるというような瑣末なことでは抜本改革はできないんですよ。経営陣と執行体制を分ける。経営会議にも経営者代表と働く者の代表を入れる。そうしたら、経営者の代表だって、当然、きちんと徴収記録を保持するなんということは重要ですからチェックが入ります。そして、権限を与えた内部監査、外部監査体制をきちんとしますと、これでまたチェック・アンド・バランスがきくわけです。

 ただ、日本で私はずっと感じておることが一つありまして、外国では政府を批判する学者というのが非常に尊敬もされるわけですが、日本ではえてして行政の隠れみの的な学者がいろいろな顧問とか審議会の委員をされて、結局国民の声を抹消してしまっておるということが多いのではないでしょうか。だから、内部監査とか外部監査には、私も学者としてじくじたる点もございまして、そういうものには学者は入れない方がいいと思います。

 以上です。

○高橋委員 ありがとうございました。大変共感できる発言だったと思います。

 あわせてもう一問だけ伺いたいと思うんですけれども、行政事務費への流用化厳禁ということも提起されていると思うんですけれども、最近の政府答弁は、特例措置を恒久化することにおいて、受益と負担の明確化だということや、外国でもよくあることだというふうに答えておりますが、その点についてぜひ。

○渡部参考人 渡部記安でございます。お答えします。

 世界で責任準備金を行政事務費に浪費している先進諸国があれば、ぜひ政府の方にその国を指摘いただきたいと思います。全くありません。

 アメリカ初めスウェーデン、どこでも、責任準備金は年金給付支給以外には使用してはならない。そして、もちろん高齢化を予測しまして、若干、余裕資金を持つ国はございます。アメリカの法律を読んでください。その場合も、株式や債券、金融市場に投資してはならない、連邦債にのみ投資せよ、それに違反すれば塀の向こうに入るという体制になっております。そのように非常に厳しい規律をきちんと制定し、それを遵守しておるのが他の諸国。発展途上国の政府幹部なんかも、実に情熱を持って、社会保障政策の確立、発展に情熱を燃やしておるのですが、日本だけが、責任準備金を浪費するとか非常に緩み切った社会保険庁の執務規律。

 こういうのは世界の恥で、本当に、例えばISSAのような国際会議で、正式に特定の国を批判するようなことはない国際会議におきましても、あるドイツの学者は、日本は五年分以上の責任準備金を保有して、それを非効率に金融市場に投下しておるというようなことを公然と批判するわけですね。いかに恥ずかしい状況であるかということを私は申し述べたいと思います。

 以上です。

○高橋委員 ありがとうございました。

 最後に、公文参考人に伺いたいと思います。

 今の渡部参考人の発言とも関連すると思いますが、日本の年金給付水準は諸外国と比較して遜色ないといまだに言われているようでありますが、どのように考えるでしょうか。例えば、基礎年金国庫負担二分の一の早期実現など国会が公約したことを一刻も早く実現するなど、国が果たす責任はまだあると思いますが、いかがでしょうか。また、企業負担についても、お考えがあればお聞かせください。

○公文参考人 日本の年金は世界の年金に比べて全く遜色がないということを聞いて、本当に久しい年月が流れておりますが、相も変わらず同じようなことを言っているということで、まさに噴飯物だと思うんですが、年金水準ということで、年金の金額が幾らかという表面的なことだけで比較をしても、正しい国際比較にはならないだろうというふうに思います。

 例えばの話なんですけれども、今、世界各国の国際比較というのはいろいろな文書で出ていますが、例えば、働いている人たちの賃金に対する比率として年金は幾らかというと、イギリスの場合で三六・一%、それからスウェーデンが五七・九%、日本は四一・七%ということで、ほとんど差はないわけですから、遜色がないといえばそういうことになるんですけれども、ところが、イギリス、スウェーデンの場合というのは、御承知のとおり全受給者の平均である。日本の場合は、それに対して、厚生年金の水準を国際比較として出しているわけですから、金額的には遜色がないということになるだろうと思います。

 ただ、問題は年金の全体像だと、先ほど谷澤先生あるいは渡部先生あたりからもお話が出ていましたように、例えば年金の場合の受給資格期間は、先生も御承知のとおり、イギリス、スウェーデンなんかでは居住三年以上ということになっているが、日本では二十五年以上、とにかく世界最長で、それを払うというのが大変ということがあるとか、あるいは、既に世界二十五カ国以上で全額国庫負担の最低保障年金、つまり税方式での最低保障制度というのが確立されていますけれども、ここはもう保険料を全く取らないわけですから、そういうさまざまな諸制度の中身を比較することによって、遜色があるかないかということを当然考えるべきだろう。

 それから、最後に一言、今企業の負担の問題が出ていましたが、フランス、イタリアは、今でもそうですけれども、保険料の負担割合というのが、常に強い立場の経営者側が労働者の三倍から四倍の保険料を負担しているというのが常識でして、こういったことも、国といわゆる日本の経済を動かしている大企業を中心にした財界の皆さんの社会的責任をもっと強く持っていただくことが、日本の社会保障のよしあしを決める一つのバロメーターになるかなというふうに思います。

○高橋委員 ありがとうございました。

 時間の関係ですべての皆さんにお伺いできませんで、済みませんでした。ありがとうございました。

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