労働関連三法案を審議中の衆院厚生労働委員会で八日、日本共産党の高橋千鶴子議員は、「人間らしく暮らせる賃金」にするために、最低賃金を全国一律千円にという党提案を示し、抜本的に引き上げることを求めました。
高橋氏は、最賃審議会で最賃を決める際に、人間らしく働ける賃金ということより、企業の支払い能力が優先されていると指摘。全国一律最低賃金は世界の常識で、地域別最賃をとっているのは連邦国や発展途上国などILO(国際労働機関)が調査した百一カ国中、九カ国にすぎないとのべ、地域別最賃が地域格差を拡大しているのではないかと問いました。
柳沢伯夫厚労相は、「地域格差を縮めたいとは思うが、最賃でというのは困難。最賃を一律に抜本的にあげれば企業の経営が成り立たない」と答えました。
高橋氏は、地域別最賃が地域格差を固定化し、拡大しているとのべ、二〇〇四年と〇六年の地域別最賃を比べると、東京などは九円上がっているのに、低い県は四円にすぎず、最賃が高い地域と低い地域の差は百四円から百九円に広がっていると指摘しました。
労働運動総合研究所の試算では、時給を千円に引き上げた場合、賃金増加額は二兆円を超え、その半分が消費に回れば、二兆六千億円の地域経済への波及効果があり、中小企業を潤すことになるとのべました。
柳沢厚労相が「一般論としては同じ考え」としながらも「非現実的」と最賃引き上げに背を向けたことに、高橋氏は、「非現実的でかたづけるようでは、最賃問題での政府のスタンスが問われる」と批判しました。
(2007年6月9日(土)「しんぶん赤旗」より転載)
――― 議事録 ――――
○高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
きょうは私、十五分しか時間をいただいておりませんので、大変悔しい思いをしております。年金の問題も本当にこのままにはできないと思います。朝から本当にいろいろな問題が指摘をされていますけれども、やはり長い間にわたってこの年金記録の管理というのがいかにずさんだったかということと、そのことを本当に急ごしらえでほころびが、すればするほど、どんどんどんどん傷口が開いてきている、そういう状況になっているのではないか。それと同時に、二度の強行採決、この国会の運営がさらにこの傷口を開いている。私は、やはり国会の責任も本当に問われている、国民の不信感が国会に対する不信感にもつながっているということを指摘しなければならないと思います。
きょうは時間がないので、これ以上年金の問題を私は指摘しませんが、必ず政府側も整理をして、きちっとした時間をとって、与野党がみんなで議論をする、そういう場を設けていただきたい、このことをまず強く要望したいと思います。
そして同時に、労働三法についても全く審議が不十分であります。まだ時間が足りません。特に契約法については新法でありますので、各界から参考人も招致してしっかりと議論をするべきであります。(発言する者あり)審議そのものに入っていないという御意見もございます。私は、いずれにしても、そのための十分な審議を保障してくださるように、委員長と与党の皆さんに強く要望したいと思います。
したがって、きょうは、水曜日の続きをやりたいと思います。
六日の委員会では、私、最低賃金について質問したんですけれども、大臣の御認識が、現状がどれだけ大変かということから出発しているのかどうかということがやはり問われると思うんですね。現行六百七十三円では、過労死ラインと言われる三千時間を働かなければ二百万円を超えない、そういう状態であります。全国最下位の我が青森県や沖縄などでは六百十円ですから、三千二百七十八時間も働かなければ二百万円にもいかない、これでいいはずがないと思います。
御存じのように、我が党は全国一律千円の最低賃金を主張しておりますし、これについては、ナショナルセンターである連合や全労連なども基本的に一致した要求ではないかと思っております。本来、千円であっても、フルタイム労働者が平均二千時間働かなければ二百万円には届かないというのですから、極めて控え目な要求であるし、諸外国から見てもまだまだ格差があると思うんです。
ですから、私はそこに向けて抜本的な引き上げをやはりやるべきだと思っていますが、大臣、人間らしく暮らせる賃金ということで抜本的に引き上げるということを考えるべきと思いますが、いかがでしょうか。
○柳澤国務大臣 我が国の最低賃金の加重平均のレベルは、今委員が御指摘になったように六百七十三円という状況にあります。これで、先般委員は、一日八時間、週休二日をとって二十二日間働いた場合には十二万円をちょっと切るというようなレベルもお示しになられました。
私どもは、現行の最低賃金の引き上げを目指して、この生計費につきまして、生活保護の施策との整合性をとるということで、これについて整合性をとること等によってその水準の引き上げを図ってまいりたい、このように考えているところでございます。
○高橋委員 引き上げを目指してとおっしゃいましたが、抜本的なという立場に立っていただきたいということなのであります。
そこで、これまで公労使の審議会で目安ということをやってきたわけですけれども、やはり今回の法案にも書き込まれた企業の支払い能力ということが入っているために、人間らしく暮らせる賃金ということよりも、どうしても企業の論理といいますか、支払い能力というところにどうも引っ張られるということが大きな問題である、ここは指摘をしておきたいと思うんです。
そこで、全国一律最低賃金というのはもはや世界の常識になっている。地域別最賃をとっているのは世界九カ国でありますが、それはアメリカのような連邦国とか途上国であって、日本のように小さな島国で四十七都道府県に細分されているというところはやはりないのではないか。私はそこにあらかじめAからDランクということを持ち込んでやること自体が結局は地域格差の拡大につながると思うんですね。
ですから、私がまず聞きたいのは、大臣は、最低賃金によって地域格差を縮める、これをやはり縮小すべきだという立場に立ちますか。
○柳澤国務大臣 これは非常に難しい問題だと思いますね。要は、私も地域格差を縮めたい、縮めるべきだという立場でありますけれども、それを最低賃金ということでもって実現できるかということだと、やはりなかなかそれは困難ではないかというふうに思います。やはり、現実はどうかというと、地域によって生計費が異なるというのは事実でございまして、それを反映して、各企業における賃金の水準も区々になっているということでございます。
そういう際に、最低賃金だけを地域ごとに決めるということをやめてしまって、全国一律、しかも、高橋委員のように抜本的に大幅に引き上げるというようなことをやった場合には、やはり経営が成り立たないということも我々は心配をしなければいけない、こういうように思います。
したがって、私どもは、今回御提案させていただいていることでございますが、やはり地域別の賃金というものを考えて、そして、その最低賃金を地方の最賃審議会で決めていただくということを基本として、しかも全体として引き上げの方向を実現したい、このように考えているということでございます。
○高橋委員 地域格差を縮めたいとは思っておられる、ただ、それが単純に最低賃金とは難しいよというふうなお話だったのかなと思うんですけれども、私は、確かに地域の生計費が、今、物価が違うと言われれば、数字で見るとそうだと思うんです、ただ、それをそういうものだとして、今回、地域別最賃は、これまでもあったにもかかわらず、わざわざ法定化をしたということが、逆にそれを固定化、あるいは拡大することになっちゃうんだ、それが、地域で低いんだから低いままだという形で悪循環になるのではないかということを考えているのであります。
資料をお配りしました。平成十六年、これは私も総務委員会で質問したことなんですが、一円くらいの最賃引き上げがようやっとあったという年でありますが、この三年間の変化を見ますと、Dランクに位置している青森や沖縄などは三年間でようやっと四円なんですね。Aランクは、東京などでは九円、あるいは二けたの引き上げ、これもまだわずかとはいえ、引き上げをされている。そうすると、一番高いところと一番低いところの差、平成十六年度でいう東京と青森が百四円だったのが、十八年度になると百九円というように、差がどんどん開いていくわけですね。最初から、目安の段階でAからDだよと言われて、だからこの程度よというふうにやるので、どんどん高いところと低いところの差が開いていく。ですから、低いところをもっとぐっと上げて、仮にそこで、地域でもう少し上乗せできるんだよということがあるのであればそれはいいけれども、やはりそこはきちんと縮めるという立場に立つべきではないかと思うんですね。
四枚目に、連合総研が昨年の四月にアンケートをとった、勤労者の仕事と暮らしについてのアンケートの表をつけておきました。五年間で収入の差が拡大したと答えた方たちのうち、地方経済の低迷などにより地域間の収入格差が拡大した、五七・六%。やはり、ここに一番問題意識を持っているんだということがあると思うんですね。
そこに差があるんだからしようがないよという立場には立たないということが大事なのではないかと思うんですが、いかがでしょうか。
○青木政府参考人 最低賃金の額の決定については、これは法律上、三つの要素で決めてくださいということになっているわけであります。生計費、お話にありました通常の事業の支払い能力、それから類似労働者の賃金ということになっているわけであります。お触れになりました目安にいたしましても、具体的な額の決定に当たっては、そういったことを勘案して、ああなっているわけであります。そういう意味では、地域の実態等を反映しているということだろうと思います。
お話ありましたような点については、地域経済の振興でありますとか地域産業の振興でありますとか、そういったことを通じて地域の経済力を上げていくということが大変大切だというふうに思っております。私どもとしては、底上げ戦略ということで、日本全体の底上げを図っていくということで一方では対処をしようということで考えているわけでございます。
最低賃金の決定については、そういう意味では、今回も基本的な要素というものは引き続き維持をして、これは世界的にもそういったものを勘案して決定されているということだろうというふうに思っておりますので、引き続き維持しているということでございます。
○高橋委員 いろいろ説明されましたが、地域格差をこの政府の目安が拡大しているんじゃないかということに対してはお答えがなかった。もうしようがないんだという立場に立っているということですね。これは、本当に私は問題だと思います。ここは強く指摘をしたいと思うんですね。
続けて、さっき大臣が答弁された、中小企業への影響ということもありました。私は、マイナスの話ばかりをしないで、プラスの見方というのもきちんと見るべきだ、そう思うんです。
二枚目の資料につけておきました。時間がございませんので、詳しい解説はやりません。労働総研がことしの二月に発表した、例えば、これは千円にしろと言っているのではなく、私たちが要望している千円で試算をした場合ですね。
今、千円未満のパート労働者が幾らいるか、一般労働者が幾らいるかということから始まって、最賃を千円に引き上げたらどうなるかということを合計していくと、二兆何がしの賃金増加額になるんだ、それを産業別に割り振っていったときに、二兆何がしの賃金増加額のうち、半分は消費に回るだろう、消費に回るということは、地域にお金がおりるんだ、地域経済を循環させるんだ、それは結局、中小企業を潤すことに返ってくるじゃないかということで、二兆六千億円の経済波及効果があるという試算をされて、これは新聞各紙も報道をいたしました。当然これは産業連関表などを使っているわけですから、一般的にそういうことをやる人には、十分常識的な範囲なわけですね。
ですから、地域の中小企業の労働者の賃金を引き上げるということは地域の経済を潤すことにもなる、そういう考えは当然持てますね、大臣に伺います。
○柳澤国務大臣 私どもも、一般論としては委員と同じような考え方をとっております。特に、今、日本経済全体を見ても、消費というものが、例えば輸出あるいは設備投資というものに比べてもうちょっと強くなった方がいいな、こういうように考えるわけですね。そういう考え方から、やはり何といっても圧倒的に多い雇用者所得というものが上がっていくということがその背景をなすべきものだろう、こういうことは、当然私どもも考えているわけでございます。
しかし、現実の問題として、私どもが最低賃金を引き上げるということは、そうなかなか一般的な経済のマクロ的な論理だけではいかなくて、現実にそれぞれの企業の労働コストを引き上げるということにつながることがあるわけですから、その労働コストを一体どこで吸収できるか。それは消費がいずれ上がってくるから吸収しろよと、なかなかそこまでは、マクロ経済の話とミクロの話とは説得的に連関づけられないということもありまして、私どもは、一般論としては委員が言われるとおりだし、また、この労働総研が発表されたこともわからないわけではありません。
しかし、現実には、私どもは、中小企業を中心として、この労働コスト増によって事業経営が圧迫されるということが起こることを考えますと、かえって雇用が失われる面があって、こうしたことについては、やや理論的で、あえて言えば非現実的だと言わざるを得ないと考えております。
○櫻田委員長 既に持ち時間が経過しておりますので、高橋千鶴子君の質疑は終了させていただきたいと思います。
○高橋委員 非常に非現実的だということで終わられてしまうと、やはりそれは政府のスタンスが問われるんですよ。
きょうは青年たちの実態もお話ししたかったんですが、そういう、引き上げると言いながら、本当に現実を全く見ていない、そういう立場に立っていないということが本当に責められるべきではないか。引き続いてこのことを審議したいと思いますので、きょうはとりあえず終わります。