国会質問

質問日:2007年 12月 11日 第168国会 厚生労働委員会

臓器移植法案 ―参考人質疑

 衆院厚生労働委員会は11日、小委員会を開き、脳死した人の身体から臓器を移植する臓器移植法の改正に関して参考人質疑を行いました。

 日本共産党の高橋千鶴子議員は、救急医療や末期医療の不十分さを改善することが最優先で、「日本では臓器提供者(ドナー)や遺族へのケア、本人意思の尊重の環境整備など現行法でも不十分な点が多いのではないか」と指摘。また、小児が虐待で脳死した場合、臓器摘出から除外する基盤整備も遅れている、と質問しました。

 大阪厚生年金病院清野佳紀院長は、「日本では(脳死診断の場で虐待を)チェックするまで至っていない」と述べ、環境改善が必要だとの認識を示しました。

(2007年12月16日(日)「しんぶん赤旗」より転載)

 

――― 議事録 ――――

○高橋小委員 日本共産党の高橋千鶴子です。

 きょうは、七人の参考人の皆さんに本当に貴重な御意見をいただきました。ありがとうございました。時間の関係で全員の方には質問できないかと思いますけれども、御容赦いただきたいと思います。

 初めに、井手参考人に伺いたいと思うんですが、十八歳の娘さんを突然交通事故で失うというつらい体験を交えて、重要な発言を伺いました。井手さんが「脳死論議ふたたび」という雑誌に寄せた手記も拝見をいたしました。

 先ほどのお話の中にもあったように、頭が痛い、痛いと訴えた娘さん、酸素マスクを外して起き上がってしまったあの瞬間が生死の分かれ目であったのではないか、四日間確かに生きていたというお話と同時に、有数な、脳外科のスタッフも備えている救急基幹病院であったにもかかわらず、積極的な検査や治療がされなかったという指摘をされております。その中で、積極的に徹底した救命医療をせず死なせてしまった人を、助かるかもしれない人の資源にしてしまうことが、本当に国民の合意を得ることができるのかという指摘をされております。

 私は、救急医療の深刻な実態も今現実にある、そして、お話があったように、家族が正常な判断ができないその瞬間だということもある、ですから、やはり救命医療がまず最優先であるということを本当に改めて確認したいと思うし、同時に、救命の努力がこれによって後退するようなことがあってはならないとも思っているわけです。

 この点について、もう少し率直に御意見をいただきたいと思います。

○井手参考人 今現在の法律では、医療の現場では、ドナーカードを持っている人がいるということでばたばたすると思うんですね。ですけれども、今回の法案が、二案が通りますと、本人の意思確認がされませんので、ノーということを言わない限りは全部対象者になる、そういう事実を国民が知っているのか、それを私は一番心配しております。

 実際に、私たちのように交通事故の被害者が基幹病院に運ばれたときに、この次は、保険証にノーという記載がされているのかどうかが注目される点ですので、私たち遺族が保険証を持ってここに記載されているということを訴えていかない限りはその対象者になる、そういう怖さを感じております。でも、運ばれたときには、保険証は病院側に提出しているんですね。そこに万が一ノーとなければ、私たち、遺族たちは対象者になるわけです。ですので、そういう恐ろしさを国民が知っているのかどうかをやはりきちっと正確に伝えていただきたいと思います。

 美談として本当に毎日のようにテレビ、ラジオ等では訴えられていますが、反対に、私たちの家族の心臓が動いている最中に、それを開いてそこから心臓を取り出すような、そういう映像がきちっと伝わっているのでしょうか。そういうことは絶対ないと思っております。正確な情報をお互いに伝えてこそ、正しい判断が国民ができるのではないでしょうか。そういうふうに感じております。

○高橋小委員 どうもありがとうございました。

 今の井手参考人の発言を受けて、加藤参考人に関連して伺いたいと思います。

 本人の意思か、家族の同意かなどということが言われておりますけれども、子供でも大人でも自己決定権がございます。だからといって自殺は自己決定とはならないというように、それほど命は重いものであって、拒否がないからを、イコール本人の同意と考えるべきではない、このように私も思っております。

 脳死移植の先進国と言われるアメリカでも、臓器不足が深刻だと言われ、例えば、ある論文によると、臓器不足から、生体移植や、ABO血液型不適合で従来移植忌避とされた場合でも腎臓移植が行われたり、肝炎感染などの臓器のハイリスク移植も行われていると聞いております。

 問題は、提供臓器をふやすために、心停止後の臓器提供という方法で、日本で想定されている心停止後の臓器摘出ではなくて、生命維持装置の停止を前提として心臓死を促された臓器提供が進んでいるという指摘もございます。従来の心臓死や脳死の定義では対象とならなかった臓器の提供がふえているということにも危惧を感じています。延命治療の中止が移植臓器を得るためというふうなことになれば、本末転倒だとも思います。

 そういう立場から御意見を伺いたいと思いますが、いかがでしょうか。

○加藤参考人 どこからお答えすればいいのか、ちょっと難しいところなんですが、おっしゃられるように、ドナー不足だから拡大するということでこの法律は改正されてはならないということがまず第一であります。人の死をどうするかという問題でございます。

 さらに、今の自己決定ということを、今現在、社会的に脳死が死、そういうふうに認知、認められていない以上、そこを崩すことはできないし、A案の中に、拒否すればいいではないかと、それが何か自己決定のように言われておりますけれども、あるということを証明するのは、確認することは、ある意味、比較的容易ですが、ないということを確認、立証するということは非常に難しいことです。拒否の意思表示をしている、それがないんだということを立証するということは、確認することは非常に難しい。その意味でも、A案はもう自己決定を放棄しているというふうに私ども思います。

 その前提として、やはり、社会的なコンセンサス、脳死が死であるということについてもっともっと十分議論すべきではないか、アンケートがいろいろなところで矛盾を生じているのもそれが原因ではないか、ドナー不足のためだけで法律は改正されてはならないというふうに思います。

○高橋小委員 どうもありがとうございました。

 そこで、野村参考人に伺いたいと思うんですが、御自身が移植を受けて新しい命を授かったという、これもまた本当に貴重な体験をお話しされたと思います。ウイデンティティーという表現ですね、これも貴重な提言かと思っております。

 先生のペーパーで、牧師さんから率直に相談をされたときに、だれかに命のプレゼントを残せるなんてと言われた、あるいは、息子さんの望みによって臓器提供をして、それが唯一の慰めとなったという老夫婦との出会いがあったということ、それも本当に救いになったとおっしゃっているのも非常に共感できるところであります。

 ただ一方では、必ずしもそうではない現状もたくさんあるというのは、もう先生十分御存じでお話しされていると思います。十一月十六日の毎日新聞の「記者の目」の欄に、やはり米国の中でも提供が正しいことだったのか悩む人が多いんだという指摘をされて、全米五十八カ所にある臓器調達機関、OPOの中に専門のスタッフがいてドナー家族をフォローしている、しかし、日本にはそういう体制がないということも指摘をされております。

 この点について、どのようにお考えか。

○野村参考人 おっしゃるとおりだと思います。

 後のことでおっしゃられたのは、僕はその情報をちょっと把握していませんので、ぴったり合うかどうか、僕自身の経験と記憶から申しますと、日本では、移植コーディネーターと会ったときに、何かオールラウンドで何でもやるのでびっくりしちゃったんです、寺岡先生にちゃんと伺わないと現在はわからないですけれども、ちょっと前まで。

 アメリカの場合ですと、ドナーの方につくコーディネーターとレシピエントにつくコーディネーターは全く別で、出会う場所は手術室の中です。ドナーの方のコーディネーターは、ドナー家族の約束をきっちり守るために、それがちゃんと移植されたかどうか確認のために手術室まで行って、それを報告します。それから、今度、レシピエント、受ける側のコーディネーターは、同じ理由で患者のために一緒にいる。それぐらいにそれぞれの立場をしっかり守っているというのが、それはアメリカの文化であるのかもしれませんけれども、確かにそういった面とつながってきているんじゃないか。

 これは、僕なんかの考えでは、絶対に両方を一人の人がやってはいけないんだと思います。お医者さんにしても、摘出するのと移植する人が一緒というのは大変誤解を受けるし、何かのときには勘違いということがないとも限りません。

 それから、提供過程の問題ですが、私自身はハーレムの教会に住み込んで三年間ほど生活をしました。簡単に申します。誤解をしないでください。人種差別ではありません。僕の友達を思い出しながら言っております。黒人の間では臓器提供の数がずっと少ないんです。白人の間で。そして、黒人で、ナースで、臓器提供を受けた人が一生懸命、黒人のために、自分たちのためにといって、彼女とさんざん話した結果、ポイントが三つあるということがわかりました。

 一つは、アメリカの場合、臓器提供の数と教育程度の高さが見事に並行しているんです。やはり臓器提供、献血にしてもそうですが、人間、本能的に献血しようとは思わないわけです。そのことに意味を感じ、理解をしということがありますから、ちゃんと教育程度が高くないとということが一つあります。

 それから、もう一つには、医療に対する不信感が黒人の間の方がずっと多いんです。私の生活からいいますと、もちろん、子供のワクチンですとかいろいろな検査は無料でやってくれるんですね。ところが、そのためには、はがきが来ます、それが読めないといけないんです。そうすると、来ているじゃないの、これだよ、これを持って行きなよと言って、何回僕がクリニックに御一緒したことか。

 そんなことで、だけれども、白人の子たちはみんな元気なのにどうして黒人の子たちはこうなんだと、医療不信が起こります。ですから、本当に医療に対する信頼と感謝がないと、やはり臓器提供というものに結びついていないというふうに思います。

 それからもう一つは、宗教的なことであえて言えば、クリスチャンだからみんな提供するわけではない。むしろ黒人の友達の多くは、クリスチャンだから提供しない。先ほどもどなたかがおっしゃったのと同じことで、キリスト教の方では、仏教徒は違いますが、あの世で目が見えるか見えないかじゃないですが、彼らは復活ということを素朴に素直に信じております。そうしたときに、復活したときに臓器が足りないとまずいんじゃないか。向こうでは今でも火葬よりも土葬を好むあれがありますから、ある意味では日本以上に強くそのことを持っております。

 ですから、キーになるのは、本当に彼らの教育程度が高くならないとその問題は解決しない。その点では、日本でも、医療不信の問題、それから宗教的な感情、それから教育の問題というので、ある意味で皮肉にもアメリカの少数民族の場合とパラレルな面が現状ではあるかと思っております。

○高橋小委員 ありがとうございました。

 先ほど来、子供の虐待との関連も指摘をされているところですけれども、清野参考人に伺いたいと思います。

 小児科学会が、脳死小児から被虐待児を排除する方策に関する提言を二〇〇四年に先生も一緒でまとめられておりますけれども、その中で、小児脳死症例に対しては常に被虐待を想像することが重要であるという指摘をされております。過去五年間で、受傷後六十日以上経過して虐待を認定できた症例が九例もある、こういう指摘もされて、やはり院内虐待委員会の機能している病院で始めるべきである、要するに、条件整備がまず先であるということをおっしゃっているかと思いますが、この点でぜひ補足をお願いしたいと思います。

○清野参考人 これは、虐待、被虐待児を脳死から除外している先進国の各国でも常にこういう監視チームは既にありまして、必ず脳死診断の場に来てそれをチェックするようになっています。ただ、残念ながら、日本の場合はそこまでに至っていない。

 それから、そういう施設は我々の調査した中で一二%ぐらいしかないということで、そのチームがあることは必須のものと考えます。

○高橋小委員 ありがとうございます。

 それで、先ほどのお話にちょっと戻りたいと思うんですけれども、ドナー家族をフォローするという点での日本の体制がないということを先ほど指摘させていただきましたけれども、そうした問題も含めて、やはり現行の制度の中でも、一〇〇%意思を生かしますということにはならない、つまり、環境整備がまだまだ足りないことが現実にあると思うんですね。そして、今、法律をA案にしろB案にしろ改正しただけでも、多分一〇〇%意思を尊重しますというふうにはならないのではないかと思っています。

 現行法の中でも解決しなければならない課題がいろいろあると思いますが、その点について寺岡参考人にお話を伺いたいと思います。

○寺岡参考人 お答えします。

 私は、現在の臓器移植法の中で十分に重視されていない項目が二つあると思います。それは、第二条の一項、本人の生前の意思が尊重されていないということ、それから、附則第二条の一項、三年をめどにして見直しをする、この二つが非常に残念なことながら立ちおくれているということだろうと思います。

 それから、先ほど、ドナー御遺族のケアが十分に行き届いていないという点を何度も述べられましたが、そういうシステムは確かにまだ日本では十分に機能しておりません。しかしながら、必ずや、現在のコーディネーターに関しましても、先ほど野村先生がおっしゃいましたけれども、現在では、レシピエントコーディネーターも各施設で整い、ドナーコーディネーター、いわゆるネットワークのコーディネーター、それから各都道府県に一名ずつおります都道府県コーディネーターは、主にドナーの方のコーディネーターに専念しております。

 私が知る限りにおきまして、提供されました御遺族には、ドナーが提供された臓器がどういうふうに今患者さんに移植されて機能しているかという御報告は必ず行っております。これは毎年行っております。そしてまた、ある移植者の方々、これはかなりの方々がサンクスレターという手紙を書きまして、これは無記名でございます、そのお手紙を御遺族のところにお届けするようにしております。私も何度か同行して、御遺族のお宅をお訪ねしたことがございます。

 したがって、システムとしてはまだ日本では不備かもしれませんが、そういったコーディネーターを中心としたドナー御遺族へのケアというものは、それが十分かどうかという問題に関しましては異論があるかもしれませんが、かなり行われていることは事実です。

 それから、もう一点だけ簡単に述べさせていただきます。

 確かに、そういったドナーの提供するかどうかというふうな意思決定をされる状況というのは、悲嘆のどん底でありまして、これは大変なストレスであるでしょうし、非常にこれは葛藤があるかと思います。

 しかしながら、一つデータを示します。これまでの脳死下での臓器提供の事例のうち、ほとんどは御家族の申し出なんです。これは事実でございます。四件だけが、主治医の先生側が、脳死になられました、あとはこういった方法とこういった選択肢とこういった選択肢がございますがどうでしょうかというふうにお尋ねしたことに関して御家族が答えられている、それ以外はほとんどが御家族の方から提供を申し出ておられます。これは一つ非常に大きな重い事実です。ですから、もちろん、そういった葛藤、悲しみ、苦しみを乗り越えて、御家族がそういう意思決定に到達して申し出ておられるということが事実でございます。

 こういった意思決定に関して、余り軽はずみにそれを、冒涜と言うと言い過ぎかもしれませんが、軽んじるような御発言はなさるべきではなかろうと私は存じます。

○高橋小委員 ありがとうございました。

 さまざまな取り組みをされているということもわかりました。

 ただ、最初にお話しされたように、まだまだ条件整備が整っていないということも事実かと思います。

 あと一分でお答えをお願いしたいと思うんですけれども、清野参考人に、先ほど、常に監視チームがあるところは一二%というお話で、虐待委員会といいますか、そういう体制にはまだまだなっていないということがあったわけでございます。それがまず、現状はまさにそうであって、その背景にさらに小児医療体制そのものが非常に今深刻な実態にあるということもございます。

 ことしの三月に、厚生科学研究で、小児集中治療部設置のための指針というのが出されております。先進諸国に比較しても施設数、病床数ともに著しく少ない、スタッフも足りない、重症小児専用のICUの充実が求められるという指摘もされておりますけれども、この点で、一言だけお願いいたします。

○吉野小委員長 清野参考人、簡潔にお願いします。

○清野参考人 先生のおっしゃるとおり、我が国でそういうふうな小児の集中治療室というのは極めて少ないので、早急な整備が急がれます。

 特に、A案に関して、整備ができないからちょっと困ると言っているのは、やはりこれはやっても小児の救急の現場で結局のところ移植はふえないと思うんですよ。それが一番非常な混乱を起こす原因だと思っています。

○高橋小委員 終わります。ありがとうございました。

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