衆院厚生労働委員会は十六日、国立高度専門医療センターの独立行政法人化について参考人質疑を行いました。国立がんセンターの垣添忠生名誉総長など四人が意見を述べ、日本の貧困な医療の実態を告発しました。
垣添氏は、国立高度専門医療センターの独法化が公務員の「定数削減ありき」ですすめられたとし、「ほとんど議論もなく決められたことは大変に残念だった」と指摘しました。
帝京大学の大村昭人名誉教授は、欧米と比べ日本の医療体制は「発展途上国並みだ」と強調。独法化議論が先行していることを、「家が火事なのに、リフォームを検討しているような印象を受ける」と批判しました。
全日本国立医療労働組合の岸田光子・国立成育医療センター支部長は、医療現場でマンパワーが不足している実態を紹介。「(医療従事者は)燃え尽きる寸前で医療現場を支えている」と訴え、「必要な予算の保障がない独法化は納得できない」と語りました。
日本共産党の高橋千鶴子議員が、医療体制の拡充が結果として医療費削減にもつながるのではないかと質問したのに対し、垣添、大村両氏はともに同意しました。
また、がん健診を例に「公費をきちんと投入することが、健診率の目標を達成する上で一番大きい」(垣添氏)、「理想的な案はあっても財政的裏付けがなく実効性が上がらない。(国の健診目標は)今の医療抑制では無理なことをやれというに等しい」(大村氏)と語りました。
(2008年5月17日(土)「しんぶん赤旗」より転載)
――― 議事録 ――――
○高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
きょうは、四人の参考人の皆さん、本当にお忙しい中、本委員会に出席をいただきまして、貴重な御意見を伺うことができました。ありがとうございました。
時間が限られていますので、早速質問をさせていただきたいと思います。
初めに垣添参考人に伺いますけれども、やはり私、ナショナルセンターに期待される役割ということが、例えば医療の均てん化、そしてネットワークの核となる、そうしたことが期待されると思うんですけれども、国立がんセンターにおいて設置をされているがん対策情報センター、そして同時に、地域の拠点病院の相談支援センター、こうしたものの役割がどうなっているのか、そして、現状も踏まえてお話ししていただけたらと思います。
〔委員長退席、吉野委員長代理着席〕
○垣添参考人 国立がんセンターのがん対策情報センターというのは、ここ数年来、がんの患者さんや家族あるいは広く国民から、がんになったときに最も欲しい情報、自分のがんはどうなのか、あるいは家族のがんはどうなのかということに対して、正確で信頼に足る情報が十分でないという声を受けて、国立がんセンターの中にがん対策情報センターができたということであります。
先ほどちょっと意見陳述のときに申し上げましたように、これは、オール・ジャパンを考慮して情報提供をするとか、あるいは、がんの診療を進めていく上で必要な人材を育成するための研修を進めるとか、がん登録とかそういうことの研修とか、いろいろなことをやっております。
がん対策情報センターが提供する情報というのは、どこの医療機関でも使えるような、あるいはがんの患者さんや家族、広く国民が使えるような一般的な情報を提供する。その際に、医療従事者だけで考えますと理解に苦しむような情報も出てくる可能性がありますので、がんの患者さんや家族も委員の中に加わっていただいて、この情報を本当に提供していいかどうかということを議論した上で提供するということをやっているわけです。
ですから、がん対策情報センターは一般的な情報を提供する、それに対して、地域がん診療連携拠点病院の相談支援センターでは、個々の患者さんや家族あるいは県民とかそういう方々の悩みや相談に応じるということで、一応の頭の中でのすみ分けはそのようにされています。ただし、やはり国立がんセンターに直接相談をかけてこられる方もおられますし、それから相談支援センターで受けた相談だけで十分でないという御意見もいろいろあります。
まだ制度として十分定着していないところがありますけれども、目指すべきところはそういう方向で、日本全体をカバーして情報に関するネットワークをつくっていくという上での核がこのがん対策情報センターであり、それを個別に受けるのが地域がん診療連携拠点病院の相談支援センターである、そのように考えております。
○高橋委員 ありがとうございました。
この情報のネットワークといいますかこうした機能が、がん対策基本法も成立をして、まさにこれから本当に浸透していくし、つくっていくんだというやさきの今の独法化の問題であったのではないか、先ほどの垣添参考人の意見陳述の中にもそうしたニュアンスが含まれていたのかなと思っております。
先生が、雑誌「新医療」二〇〇七年一月号のインタビューの中で、日本の医療に対するナショナルセンターが果たしてきた意義について何の議論もなく独法化が決定されたことに強い憤りを覚えます、このように述べていらっしゃいます。また、その前段のところで、これは単なる数合わせではなかったのか、こういう指摘もあったわけですけれども、そこら辺について一言伺えればと思います。
○垣添参考人 これも冒頭の意見陳述のところでちょっと抑制をかけながら申し上げましたけれども、やはり、国家公務員の定数を削減するというような大方針、あるいは小さい政府を設けるといった大方針に抵抗することはなかなか難しかったわけでありますが、そのときに、ナショナルセンター六つの正規の職員を合わせると五千六百人で、厚生労働省に求められた定数削減数にちょうどぴったりだということで、本当にほとんど議論もなく独法化が決められたというふうに聞いております。
やはり、それまでに各ナショナルセンターが国民の健康を担う上で果たしてきた役割というのは非常に大きなものがあるというふうに考えますので、大変残念であった。ただ、事がここに至っては、独法化するときには、では最善の独法は何かということを考えざるを得ないということであります。
○高橋委員 ありがとうございました。大変言いにくいことだと思いますが、失礼いたしました、ありがとうございます。
そこで、もう一言、垣添参考人と、そして同じ趣旨で大村参考人にも質問させていただきたいと思うんです。
垣添参考人は、先ほど紹介した雑誌の中でも、例えば、人手の確保を思い切ってふやして先端医療の開発に力を入れることや、検診などを保険に組み入れる、そうした形で、もっと公費をふやすことによって結果としては医療費削減は可能なんだという議論をされているかと思うんですけれども、この辺について御紹介をいただきたいのと、大村参考人もまさにそういう趣旨で医療立国などを提案されていると思いますので、一言御意見を伺えればと思います。
○垣添参考人 高橋先生の御質問のとおりだと私も思っております。
やはり、例えば国立がんセンターの機能を果たしていく上で、あるいはがん検診一つ考えていく上でも、公費をきちんと投入していくということが目標を達成する上で一番大きい。例えば、今がん検診、日本では国が行っている検診は五つありますけれども、その市町村での平均の受診率は二〇%を切っているわけです。がんの検診というのは、健康な一定の年齢の人たちに検診を提供して、がんが体の中にあっても早く見つけて、それを治療的に介入すれば、がんになっても本当は一週間か十日で元気になって社会復帰できる、がんになっても死なないというのが目標でありますが、先ほど来の議論の中で、国民に十分それが浸透していないということがありました。
それは私どもの努力が不十分だということもあろうかと思いますが、しかし、その検診の原点に返れば、特に市町村財政が非常に悪い状況で、がん対策推進基本計画に挙げられている五〇%を達成するのは非常に難しい。企業検診を入れてもせいぜい三〇%になかなかいかないでしょうから、これを二〇%上乗せする上にはやはり公費の投入というのはどうしても避けて通れない部分ではないかと私は考えております。
○大村参考人 いい質問をありがとうございます。まさに垣添参考人のおっしゃったとおりだと思います。
特に、がん対策という点では非常にいろいろな理想的な案が机の上に出されておるけれども、実質的な、財政的な裏づけがないために、今言ったように実効が上がっていない。垣添参考人は二〇%とおっしゃっていますが、この中には恐らく企業検診が入ったり、地方自治体によっていろいろな発表の仕方がございまして、既にほかの病気にかかっている人たちを全部分子に入れて膨らませている、厳密に評価すると一〇%いっていないという数字があちこちで出されております。ですから、これはもうやはり国として公費を投じざるを得ないだろうと。
それと同時に、また、今の診療抑制で地方自治体の非常に財政悪化の状態では、これは無理なことをやれと言っているのと等しいわけで、やる気があるならば、そこは決して避けて通れないということで、次はその財源をどう確保するかという議論まで真剣に考えないと、理想論だけ机の上にのせていただいて議論するのは非常にむなしい感じがいたします。
○高橋委員 ありがとうございました。大変参考になりました。
そこで、次に和地参考人に伺いたいと思います。
大変興味深い御意見だったと思います。医療を通じて社会に貢献しますというテルモの企業理念にあるように、私たちのだれもが医療機器に対して恩恵を受けているわけで、国内でのそうした医療機器の開発というのがもっと進むことも望ましいことではないかと思っております。
参考人は、ナショナルセンターの今後のあり方についての有識者会議の委員でもありました。昨年五月の第一回の会合で、当時の辻厚生労働事務次官が、当時の安倍内閣のイノベーション戦略の一丁目一番地に医薬品、医療機器が掲げられているというふうに強調されたわけですね。きょう参考人がおっしゃった、NCに期待しているということと政府の考え方が響き合っていたのかなと思っているわけです。
ただ、一方、同じ席上で製薬業界代表の委員からは、企業は基本的に自分だけが先に走りたいわけです、常に抜け駆けが我々のキーワードですと大変正直なことをおっしゃっておりますね。実は、外部資金や共同研究というときに、先ほど利益相反の話もありましたけれども、企業間の激しい競争の中でNCがどこを選択していくのかという点では、公正中立性を保っていくバランス感覚というのは非常に難しく問われるわけですけれども、その点について御意見を伺いたいと思います。
○和地参考人 今最後に先生がおっしゃったバランス感覚というのが非常に大事だと思うんですね。これはほかの産業とはちょっと違って、医療というのはやはり国民にとって非常にベーシックな産業であるわけですから、私は、その辺のバランス感覚というのは不可欠だろうというふうに思います。
当社の例を挙げて申しわけないんですが、当社の場合には、医療を通じて社会に貢献するという企業理念を八十数年間ずっと続けてきましたし、今でもそれは絶対に捨てちゃいけないというふうに思っています。ただ、社会に貢献するというのを継続的にやるには企業業績を上げていかなきゃいけないわけなので、そういう点では、高い経営力、あるいは高い業績を保ち続ける、この二つのことを同時にやっていくというのがテルモの考え方ですし、これは私に言わせると医療の考え方に通ずるんではなかろうかというふうに思っております。
私は、ナショナルセンターの独立法人化に賛成な一つの考え方としては、もうちょっと自由度を持っていただいた方がいいんではなかろうか、人的な問題とかあるいは活動の自由度とか、こういうことをもっと広げることによって、ある意味での国際競争力も高まってくるんではなかろうかというふうに思います。
現状で一生懸命やっていらっしゃるのはよくわかるんですが、やはり企業との連携によって、物の考え方とかその辺のディスカッションができるというふうに思いますし、あるいは人的な交流も可能になるということですし、あるいは、東大病院でもやりましたけれども、外国から人を招いてくるというようなことによって大きなイノベーションを起こしていくという時代ではなかろうか、そういう意味で、私は独立法人化に対して賛成をしております。
ただ、では民間にしたらどうかということです。民営化にしたらどうかということに対しては、私はやや疑念を持っておりまして、それはやはり国益に沿った医療の開発というのはあるはずなので、それは必ずしも民間でできるというふうには私は思っておりませんので、やはりその中間の独立法人化というのが今のステップとしてはいいのではなかろうか、このように私は思っております。
○高橋委員 ありがとうございました。
関連していろいろなことを今言いたいなと思いましたけれども、ちょっと時間がなくて残念ですが、次に進みたいと思います。
岸田参考人に伺いたいと思います。
まさに現場の深刻な実態について御報告をいただきました。私は、やはり御案内いただいた夜勤の実態ですとか、本当に大変だと思うんですね。それと同時に、今のこの人員の体制が不十分であるということが、自分に余裕が全然なくて、新しい人が入っても育てることができないですとか、新しい人にしてみても、教えてもらえないままいきなり現場に行かなきゃいけないとか、そういう問題があるということや、患者さんのナースコールにこたえることができなくて、自分もつらいし患者さんも我慢をしているとか、そういう現場の実態をよく聞くんですけれども、そうした、いろいろな角度から見て非常に問題があると思うんですけれども、その点のことをもう少し詳しくお話しいただいて、また、どうすべきかについても御意見を伺いたいと思います。
○岸田参考人 センターの病院としての目標というのがあると思うんですけれども、それを実現していく、目標を達成していく課題は医療現場にも当然あるわけですね。その目標を、よりセンターの充実というところでそれを実現していくという課題を持っているのが医療現場でありますから、そこをやはり大事にしてほしいというのが一つあります。
看護師だけではなくて、医師も二十四時間体制で医療をやっているわけですから、そこを、やはりマンパワーの部分を充実していくというところが一番今抜けているというか、見てもらっていないんじゃないかというのが実感としてあります。ですから、本当に医師も看護師も燃え尽きるんじゃないかというすれすれのところで現場を支えているという、この実態をぜひ改善していただくことが、ひいては病院全体を充実していくことにつながっていくんじゃないかなというふうに思っています。
強調して言わせていただければ、今、昼間の医療も夜間の医療ももう差がないくらい、二十四時間同じ治療が続けられているという点から考えますと、日勤帯が九人いて夜は三人しかいないというのは非常に問題があるんじゃないかなというふうに思いますから、その点で、二人夜勤というのは非常に大きい問題だと思いますので、そこを何とか、やはり最低レベルでも夜三人で見ていくというところをぜひお願いしたいというところです。
以上です。
〔吉野委員長代理退席、田村(憲)委員長代理着席〕
○高橋委員 ありがとうございました。
昼も夜もほとんど差がないのに、夜勤で非常に手薄な状態をやられているということ、非常に重要な指摘だったかなと思っております。
そこで、独法化されることについての懸念についても表明がされたと思うんですけれども、独法化で、法律上は常勤職員は継承されるという規定になっているわけですけれども、一方、賃金職員については理事長が処遇を決めるということになっております。そうすると、国立病院機構に移行したときに、賃金職員は非常に大きな問題があったと思います。そうした教訓も踏まえて、懸念されることについて御意見を伺いたいと思います。
○岸田参考人 独立行政法人化になったときに、国立病院機構では移行時に、一つは、中高年の一般職員、看護師が圧倒的に多いわけですけれども、最大月四万円を超える賃金の切り下げが行われたと聞いています。これは、独法化に際してこのような処遇切り下げがありましたら、若い離職に加えて、中堅層の指導者の熟練看護師も退職、離職が憂慮され、医療の質の低下や患者サービスの低下を引き起こすのではないかというふうに非常に憂慮するところであります。
あと、賃金職員についても、今、病院の中に賃金職員が働いております。その人たちが独法化のときに切り捨てられるということはあってはならないというふうに思いますし、一職員として雇用をきちんと守っていくということは、医療を守るというところでも一致していると思いますので、その切り捨てということはぜひないようにお願いをしたいというふうに思います。
○高橋委員 ありがとうございます。
大変申しわけありません、残念ながら時間が参りましたので、もう一問伺いたかったんですけれども、国立病院機構で行われた処遇の非常に極端な低下ですとか、そうしたことが行われないように求めていくと同時に、やはり独法化そのものに対して、我々も反対をしているわけですけれども、その点でさらに議論を深めていきたいと思います。
きょうはありがとうございました。