日本共産党の高橋千鶴子議員は十六日の衆院厚生労働委員会で、国立高度専門医療センター(ナショナルセンター)の独立行政法人化について、「医療提供体制がしっかりとられているか」とただしました。
ナショナルセンターは国立がんセンターなど六つのセンターから成り、国の医療政策の中核を担っています。政府の、独法化により研究開発が進むという言い分に対し、高橋氏は、実際には、多くのナショナルセンターで看護師の二人夜勤がまん延し、夜間時に緊急処置が入ると三十人以上の患者を一人でみなければならないと指摘。月九回以上の夜勤も常態化しているとし、「こういう状況を放置していいのか」とただしました。
舛添要一厚労相は「ナショナルセンターだけでなく、大変過酷な勤務条件にあることは認識している」と答弁しました。
高橋氏は、「国が責任をもつセンターでこそ、モデルとなる体制をとるべきだ」と主張。宮城県の国立西多賀病院で深夜勤務が三人から二人体制になり、筋ジストロフィー患者が「看護師の休む時間もないほどのとても忙しい様子。今まで通りの対応が可能なのか」と訴えた手紙を紹介し、対策を求めました。
舛添厚労相は、「改善に全力を挙げる」と表明しました。
(2008年5月18日(日)「しんぶん赤旗」より転載)
――― 議事録 ――――
○高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
十四日の質疑に続きまして、医療提供体制の問題でまず最初に伺いたいと思います。
効率化の前に、まずこれがしっかりとられているかが出発点だという指摘をいたしました。きょう午前の参考人質疑でも、同様の趣旨の発言が多かったと思っております。
国立成育医療センターの現役の看護師である岸田光子さんが、いまだに二人夜勤が二病棟ある、一日の半分は病棟に拘束されている状態が蔓延していることや退職者がふえていることなど、るる紹介がありました。
岸田さんが示してくれた資料にもあるとおり、国立高度専門医療センターの夜勤体制は、成育医療センターは二人夜勤が二三%、がんセンターは八二%、国際医療センターも六五%にもなっています。しかも、月九回以上の夜勤が、成育医療センターで五五%、国際医療センターで五八%です。看護職員確保の基本指針では月八回以内が努力義務とありますが、こういう状況を本当に放置していていいですか。大臣に伺います。
○舛添国務大臣 これは、医療センターだけではなくて一般の病院についても、勤務医の方々、看護師の方々、その他医療提供者の方々が大変過酷な勤務条件にあるということは十分認識をしております。そういう中でどうすればこれが改善できるか。これは、医療センターだけじゃなく、全体の問題として今取り組んでいるところでありますし、その厳しい状況についてはきちんと私も認識しております。
○高橋委員 国が責任を持ってやっている。今独法化の話になっているわけですけれども、そのセンターでやはりきちんとモデルとなるべき体制をとるべきだという趣旨で私はお話をしています。そのことが全体に波及するであろうということであります。
看護職員の不足や忙しさというのは、患者さんにとっても本当につらいことです。筋ジストロフィーはナショナルセンター武蔵病院と国立病院機構二十六病院にしか病棟がなく、そのすべてが障害者自立支援法に基づく療養介護事業に移行しました。そこで療養介助職という新たな形態が導入されたんです。
深夜の看護師が介助職に振りかえられ、看護師二人の体制にされてしまった宮城県の国立西多賀病院に昨年行きました。そのときに、患者さんが一日がかりでパソコンを打って、私に手紙を託してくれました。その一部を紹介したいと思います。この方は、入院四十二年目です。
「医療の進歩や人工呼吸器の使用で」「昔とは比べられない程の延命が可能になりました。」「夜間の二時間置きの体位交換、急を要し命に関わる大切な気管切開患者の痰吸引・頻繁な呼び出しコールの対応など、看護師の休む時間も無い程のとても忙しい様子は日々の現実です。」「このような状況の中で、」「夜間の介護態勢の看護師二人と吸引や呼吸器に触れることが出来ない介護助手二人で果たして今まで通りの医療事故のない対応が可能なのかを思う時、それはとても不安と疑問です。」そして、この方は最後に「私は病気の進行によって時折、限界を感じるこの頃、残された大切な日々は穏やかに、静かに過ごして行きたいと願っています。」「どうかこうした思いを少しでも理解をして頂き、病棟の看護師の増員による充実した一日を過ごせるように」お願いしたいとあるんです。
忙しく飛び回る看護師さんを見ていて、患者さんはどんな思いでいるのか。この「残された大切な日々」という言葉を真摯に受けとめる必要があると思います。
十四日の質疑で、大臣は、筋ジスを初め神経性疾患の治療法についても医学の進歩があったという答弁をされました。大いに期待するものです。しかし同時に、現場でこうした患者さんと日々向き合う看護師、医師の努力あってこその進歩ではないかと思います。この点で一言伺います。
○舛添国務大臣 薬や医療機器や治療法がいかに進んでも、やはり現場のお医者さん、看護師さん、こういう方々の努力で初めて病気も治るわけでありますから、そういう方の勤務条件の改善、これに全力を挙げてまいりたいと思います。
○高橋委員 具体的には、障害者自立支援法でいいのかということが問われてきますので、現場の対応をしっかり求めていきたいと思います。
続けて、今度は医師の問題なんですけれども、資料の二枚目を見ていただきたいと思うんですが、ナショナルセンターの病床数と医師数の推移であります。上が〇二年、下が〇八年、定員そのものはふえて百二十人増しになっておりますけれども、新しい方が定員割れが非常に大きくなっているのがわかるかと思います。
またあわせて、資料四にあるように、国立病院の再編、統廃合、経営移譲などで、八九年からの十年間で八十七施設が減。では、統合された先の病院が充実しているかといえば、東北に限って今抜き出して書いておきましたけれども、ごらんのように半分が標欠、こういう状態であります。
医師を初め医療提供体制を確立すること、少なくとも、医療職の削減は、たとえ効率化係数がかかるとなっても除外するべきと考えます。大臣に伺います。
○外口政府参考人 独立行政法人化になった際に、運営費交付金でございますとか、それから人件費についてそれを効率化していくという一つの方向性があるわけでございますけれども、やはり必要な医療は必要でございますし、不採算な医療については必要な運営費交付金等を確保していきたいと考えております。
ちなみに、国立病院機構全体で見れば、国立病院機構は独立行政法人化したわけでございますけれども、平成十六年度、医師四千九百七十三のところを平成十九年度は五千四と、これは減っておりません。看護師は、平成十六年度二万八千五百八十三人のところを平成十九年度が三万一千五百六と、二千九百二十三名ふえております。
ということで、効率化すべきところは効率化しながらも、独立行政法人という柔軟性の中で、必要な職員の数は確保していきたいと考えております。
○高橋委員 ありがとうございます。
減っていないというのは、トータルではまさにそうで、個別に見ると先ほど紹介したような状況になっているわけですから、改善が必要である。
さっき大臣に私がお話しさせていただいたように、やはり国がしっかりモデルとして確保していくことによって全体の体制がとれるのではないかという指摘をさせていただきました。その際に、やはりこの効率化係数をかけないんだということが最低条件だろうということで、あえて確認をさせていただきました。
そこで、資料の三枚目を見ていただきたいんですが、これは、平成十一年三月に「国立病院・療養所の再編成計画の見直しについて」が発表されました。その中に、がんや循環器、神経、精神など各疾患について、ナショナルセンターを核とした政策医療のネットワークが示されました。今、全部ではなく、これはがんと神経・筋疾患の二つをあらわしてみたわけです。
まず、単純な質問です。この平成十一年の政策医療のネットワーク、これは今も生きておりますか。
○外口政府参考人 現在も政策医療ネットワークは生きております。
○高橋委員 ありがとうございます。
問題は、生きているけれども、絵にはなっているけれども、現状がどうなっているかというのはしっかり見ていく必要があるのではないかと思います。
なかなか、このネットワークが示された時点で病床数をどうするのかという数字がなかったものですから、比較が非常に難しかったんですけれども、一応比較をしてみました。
といいますのは、〇二年三月の時点で、例えばがんですと、総病床数二万五千四百五十が、現在二万四千九百九十で、四百六十減っている。うち基幹医療施設が二十減っている。がんの方はまだ減りが少ない方ではないかと思うんですね。下の方の神経・筋疾患における病床数においては、総病床数で千百十、うち基幹医療施設で二百七十九、これは一割近い減になっております。例えば、この図の一番左端、北海道の基幹医療施設「西札幌・小樽・札幌南」となっておりますが、これも今一つになるというふうな形で統合がどんどん進んできているわけですね。
その中で、昨年十二月に整理合理化計画が出されました。「次期中期目標期間開始後、二年程度を目途に個々の病院ごとに、政策医療、地域医療事情、経営状況等を総合的に検証し、その結果を公表し、病床数の適正化を含め、必要な措置を講ずる。」として、ネットワークの再構築を求めております。一枚目に整理合理化計画をつけておきましたけれども、これを読みますと、やはり病床利用率や採算ベースで今後さらに病床削減、再編がされるのではないかという危惧を持っているんです。
ちょっと具体的な話をします。きょうも、また十四日も何度も取りざたされた国立国府台病院ですけれども、言われていないことがございます。
ことしの四月からこの国立国府台病院が国立国際医療センターに組織再編、そのことによって六人の神経内科医師が全員退職しました。このために、神経難病の患者さんが、通院、入院ともに地域外の病院に転院を余儀なくされたわけです。医師不足と地域医療の崩壊の中、わずかなベッドを削減され、神経難病の患者が行き場を失い、悲鳴を上げています。多発性硬化症のある方は、急に悪化して入院が必要になったけれども、脳外科のベッドがなく、差額ベッド代十七万円も取られた、こういう声が上がっているんです。
少なくとも、国立病院が役割を果たし、政策医療におけるネットワークをしっかり維持していく必要があると思いますが、いかがですか。
○外口政府参考人 まず、国府台病院の神経内科のお話でございますけれども、これは国府台病院の病棟構成の見直しによりまして、一部の神経内科医の方が近隣の他の病院に移りまして、これらの医師の方から、自宅療養等が可能なため退院となった患者さん以外の二十五名の患者さんを責任を持って診療に当たるとの申し出がありましたので、それらの患者さんについて、その医師の移転先の病院に転院していただいたところでございます。
精神・神経センターから新たに国立国際医療センターに変わったわけでございますけれども、こういった移行につきましては、円滑に進みますように、特に国府台病院は児童精神部門と精神科救急の部門は残しますけれども、国立精神・神経センターとよく連携しながら進めていきたいと考えております。
それから、政策医療ネットワークについてでございますけれども、今の政策医療ネットワークは確かに分野ごとに濃淡がございます。例えば、がんとか循環器はかなり熱心に活動しておりますけれども、ほかのところはそれぞれ差があります。
やはり、独法化後の国立高度専門医療センターにおきましても、医療の均てん化の推進という観点がございますので、国立病院の政策医療ネットワークはもとより、都道府県の中核的な医療機関ともよく連携をしながら、日本全体の医療レベルの底上げができるように、政策医療ネットワークのあり方についても、平成二十年度に国立病院機構の中期目標の期間が終了することを踏まえまして、同年度中に議論を深めてまいりたいと考えております。
○高橋委員 今、全体の底上げということをおっしゃいました。当然なんですね。均てん化やネットワークが大事だということを、これまでも私もるる主張してきたつもりであります。
そのためにも、やはり国立病院がそのネットワークから現実にこぼれていく、今何か近隣のお医者さんが何とかしていますというふうなお話をされましたけれども、現場の方たちが悲鳴を上げているんです。まして、それが今地域で一斉に起こっている問題なんです。神経内科、神経外科という限られたベッド、そして、難病ですからなかなか対応も自宅でというのは簡単ではありません。そのことによって、自分たちが地域医療からはじき飛ばされてしまうのではないか、そういう声を上げているときに、国立病院がきちんとした役割を果たすべきではないかということを重ねて指摘して、時間が来たので終わりたいと思います。
ありがとうございました。