衆院厚生労働委員会は二十八日、家庭的保育事業(保育ママ)を法制化するなど子育て支援事業の拡充・強化を盛り込んだ児童福祉法の改正案、児童扶養手当法改正案についての参考人質疑を行いました。
恵泉女学園大学の大日向雅美教授は、子育てを孤立化させないための全般的な支援が必要だとして、「(改正案の成立は)少子化の流れを変えていくための大事な一歩になる」と評価しました。
駒沢女子短期大学の福川須美教授は、乳児保育の補完として地域で重要な役割を果たしてきた家庭的保育事業の意義について報告。法制化にあたって事業の質を確保するためには、「保育者の資格要件は欠かせない。保育士にあわせて補助者を置き、研修など資格を取れる条件を保障すべきだ」と強調しました。
NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」の赤石千衣子理事は、母子家庭の生活基盤の確立を訴え、政府が取り組む母親の就労支援についても、「生活保障とセットでないと実効性がない」と指摘しました。
日本共産党の高橋千鶴子議員は、日本経団連などが導入を迫る保育の市場化などについて質問しました。大日向教授は「保育は子どもの発達保障という観点から質を担保しなければいけない」と指摘。公的な枠を守るとともに、新たな仕組みを導入する場合でも、「(利用者が)保育サービスを選択できるだけの量が必要で、そのための財源確保が不可欠だ」と強調しました。
(2008年5月29日(木)「しんぶん赤旗」より転載)
――― 議事録 ――――
○高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
きょうは、五人の参考人の皆さん、お忙しい中、本委員会に御出席いただき、また貴重な御意見をありがとうございました。児童福祉法、次世代育成支援法などさまざまな角度から深められ、大変参考になったと思います。ありがとうございます。
初めに、大日向参考人には、地域での子育て支援を御自身が取り組まれながら、特別部会の座長として全般的な少子化対策、また子供と家族を応援という課題で精力的に取り組まれていることに敬意を表したいと思います。
きょう伺いたいのは、社会保障審議会少子化対策特別部会の十九日の会合で、保護者が認可保育所に直接入所を申し込む直接契約制度の導入を検討するなど、保育制度改革の方針を了承したということを伺っています。日本経団連や規制改革会議などが強く求めてきた内容でありますが、私は、児童福祉法に明記された国や自治体の保育を行うという責任を後退させ、格差を生むおそれもあるのではないかと賛成できません。また、保育の市場化を迫る動きも強まっておりますが、その点もあわせて大日向参考人のお考えを伺いたいと思います。
○大日向参考人 御質問ありがとうございます。
今先生が言われた十九日に関する新聞記事は、特別部会の議論が必ずしも正確に報道されているとは思いません。むしろ、二十日に「基本的考え方」をまとめて公表しておりますので、それをごらんいただければ大変ありがたいと思います。
「基本的考え方」におきましては、確かに、今日のニーズの変化に対応いたしまして、利用者の多様な選択を可能とするために、保育に欠ける要件などを見直す、あるいは契約など利用方式のあり方についても見直すことが必要だろうということは議論はされました。
しかし同時に、それ以上に、保育というのは対人社会サービスであるということにどの委員も大変重く意識を置いて議論いたしました。保育の公的性格、特性を踏まえまして、あくまでも子供の発達保障という観点で質を担保しなければいけない、法的な保育の枠組みを守りつつ、そこに新しい仕組みを検討していく必要があるということが「基本的考え方」には明記されたというふうに私は承知しております。
こうした新しい仕組みを導入する場合には、保育の必要度の高い子供の利用の確保のための市町村等の適切な関与、あるいは保育サービスを選択できるだけの量の保障がなくてはなりません。それを裏づける財源確保が不可欠であるということも私どもは認識しております。
厚生労働省におかれましては、この「基本的考え方」をもとに、引き続き、税制改革の動向を踏まえつつ速やかに議論を行っていく予定であるというふうに承知しておりまして、こうした動向を見守ってまいりたいと考えております。
○高橋委員 ありがとうございました。続きをもう少し伺いたいんですけれども、ほかにもいっぱい伺いたいことがありますので、もし時間があればもう一度伺いたいと思います。
それで、あわせて大日向参考人に、ことし三月に保育所保育指針が改定され、大臣告示となりました。保育者の質の向上や地域の子育て支援あるいは保護者への援助など、保育所に期待される役割が大きい一方、その担い手がどうかという問題が問われると思います。
今、保育所では非正規の割合が多く、ダブルワークも顕在化していること、低賃金という実態、支え手の人間らしい暮らしが確立しなければ、どんな立派な役割を言われても実際は成り立たないと思いますけれども、この点での御意見を伺いたいと思います。
○大日向参考人 確かに、保育所の役割は、従来の就労家庭の支援を超えて、地域の子育て家庭に対する支援という大変広く、また多様な役割を期待されております。私もかつて保育者養成校の講師をしておりましたので、保育者養成課程が今後地域の子育て支援まで担っていくためには、保育者の資質も相当上げなくてはいけないということは十分に考えられることだと思います。
同時に、今先生が御指摘になられたような、保育者の雇用の安定等も大変重要な課題であると思います。同時に、保育所が、地域の子育て支援も含めて就労家庭の根本的な支援もしていくというときには、地域のNPO、さまざまな子育てサークル、企業等との連携も深め、全体的に、社会的に子供の保育、地域の子育て支援を充実していくことが必要かと考えております。
ありがとうございました。
○高橋委員 ありがとうございます。
最初に御紹介いただいた、必要な財源の投入は大事だということで、個々の人材における投入もしっかりと発言をされていただければいいな、私自身もそういうふうに何度もお話をしているつもりですけれども、よろしくお願いしたいと思います。
次に、赤石参考人からは、きょうは御自身の経験も触れながら、母子家庭の実態をリアルに紹介していただいたと思います。ありがとうございました。社会の状況が家庭を崩壊させているという言葉は本当に当たっていると思います。
私からの質問は、児童扶養手当は命綱であり断ち切るわけにはいかない、この点は全く同じでございます。同時に、就業支援のメニューがあっても、本当の意味での自立を妨げる壁はほかにもたくさんあるのではないか。例えば住宅の問題、教育費の問題、保育所の問題、医療費、さまざまあると思いますが、その点、御紹介いただければと思います。
○赤石参考人 住宅については先ほども少し触れたと思うんですけれども、持ち家率が生別の母子家庭の場合には非常に低くて、ちょっと今数字がすぐ出ないんですけれども、低いので、民間アパートや借家に住まざるを得ないということで、家賃が給与の半分以上みたいな方もたくさんいらっしゃいます。
それはちょっと余りにも大変ということで、公営住宅にうまく入れればいいんですけれども、それもなかなか入れない。先ほどの八千代市のデータでも、三年住んでいないと公営住宅の申し込みの基準にならないというようなことがありましたので、公営住宅に入れる基準をもうちょっと緩めて優先していただきたいということと、やはり公営住宅の建設がもうちょっとないと、量的にも不足しているのかなというふうに思います。
それから医療でございます。医療については、一人親の医療費助成は、自治体によって違うのですが、かなり整備はされてきているというふうに思います。本当に健康状態が悪い母子家庭が多いので、助かっているということはよく聞きます。払い方については、若干いろいろありまして、もうちょっとスティグマがない、医療機関で母子家庭ですよということがわかるようにならないといけないようなやり方のところがありますので、そういうのはちょっと改善していただきたいなというふうに思います。
それから教育ですね。本当に教育の問題というのはすごく大きくて、手厚く子供にかけている家庭と同じクラスに通っていて、習い事も何もできない、しかも、お母さんが宿題の手伝いもできない、夜遅く帰ってくるというようなことだと、本当に教育格差は広がらざるを得ないという感じです。
東京都では何か、生活保護の世帯に塾費用を出すようなことを考えて、中三の子ですね、というのがありますけれども、本当に、中三でどういう勉強ができるか、それによって高校がどこに入れるかというのが決まってしまい、それがひいては、その先の子供の一生にかかわっておりますので、そこでの支援。それから、高校の入学金とか授業料を払えない人もとてもふえております。私学にしか行けなかったという人もいますので、やはりもうちょっと給付型の奨学金というのをふやしていただかないといけないかなというふうに思っております。
以上です。
○高橋委員 ありがとうございました。
やはり現場の方たちの、当事者の声を聞いてきめ細かな政策を、国がやるべきは国が、自治体がやるべきは自治体が、そこにまた支援をしていくようなことを大いに発言していければいいかなと思っております。
関連していますので、先に森田参考人に伺いたいと思います。
今の件でもしアドバイスがあれば、一点お願いしたいと思います。
それと同時に、先ほどの研究、大変興味深いデータをいただきました。生活保護世帯で、かつ母子家庭に着目をして、頼れる親族がいないことやもともと体調が悪いこと、子供の通学そのものがなされていないことなど実態が伺えたと思います。
生活保護家庭に対しては母子加算の段階的廃止という重大な問題がございまして、そもそも、生活保護の最低基準がそのことによって割り込まれ、憲法二十五条が守られていないものだと、裁判に立ち上がっている方々もいらっしゃいます。この生活保護の母子加算廃止についても御意見をいただければと思います。
○森田参考人 ありがとうございます。
先ほどちょっと御紹介いたしました、ちょうど韓国からいらした方、今私は日韓比較の研究なんかもやっておりまして、こういうお話がありました。韓国では、児童養護施設に通っている子供たちの七割から八割が大学進学をしている。先ほど庄司先生の方から御報告がありましたけれども、日本は二割。
私のところの大学の二部の方には、かつて、実はうちの大学も授業料が一部の半額でした、そうした場合に、毎年一人か二人、児童養護施設等で育った子供たちが大学進学してくれました。私どもは、そこで社会福祉士の資格を取って、そしてみずから自分の人生を組み立てていくということが支えられるとして大変喜んでおりました。彼女たちに、一部の授業料の半額であったとしても、卒業段階で幾らぐらいの負荷がかかってくるのかと聞きましたら、約一千万円ぐらいの借金を背負って社会人になっていくんだというふうに聞きました。
いかがでしょうか。二十二になったばかりの子供たちが、一千万円近い借金を背負いながら社会に出ていく。その負荷の大きさというのは大変重いというふうに私は思っています。それが、ある意味でいえば、社会的養護を受けた子供たちでこうした高学歴、高学歴と言えるかどうかわかりませんが、少なくとも大学を出てきちんと資格を取り、その後の生活がしていかれるというところまでたどり着いた子供たちの状況です。そういった意味で、今、日本の中で、奨学金も貸付制度が非常に中心になってきておりますと、社会人としてのスタートのところで大変なハンディキャップがつくということがあります。
それからもう一点、先ほど母子加算の廃止の問題がありました。その影響が私どもの今回の調査の中で出てきたことは、実は、児童扶養手当が生活費に使われているという実態でした。
児童扶養手当、何のために使っていますかという質問の中で、約六割近い家庭が、実は生活費に使っている。子供のために使えているというのは十数%でした。こんな実態では、子供には責任のないことですので、子供のためにきちんとそのお金を使っていくという社会にはならない。
そうした意味で、母子家庭の中で子供を育てる、次世代を育てるという価値。ぜひ、きちんと整備していただきたいというふうに思っております。
○高橋委員 どうもありがとうございました。
次に、福川参考人に伺いたいのですが、家庭的保育の成り立ちについて、日本と欧米との違いも紹介いただきながら、意義を深めていただいたと思います。地域から必要性に応じて生まれてきたのだという背景は、実はとても大事なことではなかったのかなと思っています。
また、資格要件についても、実は先般の委員会でも随分議論になったところなんですけれども、本日のお話は、保育士がまずあってプラスアルファなのだ、そのことが非常に明快ではなかったのか。同時に、そのプラスアルファも、ちゃんとキャリアアップするチャンスを与えていくべきだという提言は、非常に重要だと思って受けとめました。
私は、日本は欧米の上辺のところだけ学んで、その背景や、社会の全体の仕組みとか考え方など、やはりそこには追いついていかない、そこでちぐはぐな傾向があるのではないかなということをよく思うことがあります。そういう点で、家庭的保育について、欧米との違いなども踏まえて、もう少し詳しく御紹介いただけたらと思います。
○福川参考人 日本と欧米の違いというのは、欧米の方が、日本のような認可保育所ということがナショナルミニマムとして確立されながら施設がつくられていった国とは違いまして、むしろ、そういう公的な保育所の広がりの方が少ない。困った人たちは結局個人に預けるという形で、保育ママと呼ばれているような人たちがどんどん自然に広がってしまって、しかし、それはまた質の問題を呼び起こし、そこで、欧米ではそれを、公的な介入を行いながらその質のアップを図っていく、そういうスタイルだったと思います。
日本の場合には、乳児保育の補完ということで、むしろ自治体の方が、つまり公的な機関の方がその制度を創設していったという経緯があります。実は、そのせいで保育者の質が保たれたということが大変重要な点でございます。
つまり、自治体が補助事業を始めるに当たりましては、要綱や規則、まれには条例という形で保育者の資格要件を定めております。その中には保育士以外にも、看護師さん、それから幼稚園教諭、保健師、助産師、そういうような関連資格を認めるという形で、これまで自治体の独自事業が行われておりました。
しかし、欧米もそして日本も、かなり日本の場合にはボランティア的な形でも始まっておりましたので、質の確保、それからその人たちの働く条件の確保、職業的な条件の確保、そういう部分は大変立ちおくれております。それは欧米も日本も本当に変わらない形なんですね。
ECの保育専門ネットワークの勧告にもありますように、まずは保育者の資格要件をしっかりすることが子供たちのために大変重要であるということ。さらに、研修体制がやはりどうしても整備される必要があること、それは保育者の質を一定化するためにも非常に重要であること。
さらに、スーパービジョンの体制が何もないという、実は保育については、日本もそうですけれども、指導監督するに当たって、家庭的保育の実情、現実をよくわかっている人たちが指導監督できるかといいますと、そこの部分は保育所保育の専門家であったり、あるいは保健師さんであったり、栄養士さんであったり、日本の場合には施設型の、保育所型の、さまざまな視点からの指導監督がかなり多いわけですね。
しかし、実際には、家庭型の保育はそれなりの特徴があり、保育の内容も、異年齢の少人数の低年齢児ということ、年齢も異なる子供たちを扱っていくということですから、本当は、実際にその保育をした経験者、そしてその中で培われたさまざまな知恵や専門的な技術を伝える必要があります。その意味でも、スーパービジョンをどうやってつくっていくかというのは日本にとっても大変大きな課題だというふうに思います。
さらに、やはり第三者評価といいますか、保育の内容が明らかにされ、一層改善が進むような機関も必要ですし、キャリアアップの機会が実はないんですね。きょう始めた人も十年前からやっている人も、どんなにベテランも実は収入は同じでございます。そういうところでも、キャリアアップしただけの報酬あるいは退職するときの保障、そういう意味での身分保障については本当に貧しいものでございます。そのあたりのこともきちんと確立していく必要があると思います。
その点で、資格を緩和すればやりたい人がふえるんではないかという議論もあるんですが、決して資格だけでやるかどうかを決めているわけではなくて、この仕事が本当に収入が安定して得られ、そして休みがきちんととれ、保育内容もきちんとできる、労働時間も、うちにいるからいいでしょうということではなく、保育所であれば八時間労働でございますから、家庭型保育もそれなりの時間で保育が終了できる、そのためにはもちろん働き方の見直しも必要なんですけれども、そういうことがきちんと条件整備ができていけば、やりたい人は私はふえるのではないかというふうに思っております。
そういう点でも、日本の家庭的保育の質を高める条件をぜひ整備していただきたいというふうに思っております。
ありがとうございました。
○高橋委員 ありがとうございました。
庄司参考人にもぜひ伺いたかったんですけれども、残念ながら時間が来てしまって、一言だけお話ししたいと思います。
本当に、戦後の戦災孤児の支援から始まった里親制度が、今は時代は全然違うけれども、逆に里親が注目される、そういう状況が実は生まれているのではないかということを非常に考えています。赤ちゃんポストがちょうど一年たちましたけれども、熊本市で十七件の子供が預けられたこと、その中で、実は千五百件、同病院に育児や妊娠に関する相談があって、子供を預かってほしい、六十八件、そして三十六人は自分で育てることを決めたこと、二十七人は養子縁組に結びついたこともあったということは、私は、わずかかもしれないが救いを感じているところがあります。
そうした中で、実はこの里親のあり方というのも、職業里親なども提起をされておりますし、もっともっと実態をよく伺いながら研究をしていく必要があるのではないか、高めていく必要があるのではないかというふうに思っております。今後ともまた勉強させていただきたいと思います。
ありがとうございました。