衆院厚生労働委員会は9日、障害者雇用促進法改正案についての参考人質疑を行いました。障害者団体の代表など5氏が意見陳述しました。同改正案は、国が定めた障害者雇用率を達成できなかったときに納付金を払う義務が生じる企業の対象を、現在の301人から101人以上に拡大することが柱です。
東京の町田市障害者就労・生活支援センターらいむの天野貴彦センター長は、民間企業に課せられた障害者の法定雇用率1.8%は、フランスやドイツと比べてはるかに低いと指摘しました。
また、現在の実際の雇用率は1.59%で、「法定雇用率を達成している企業はいまだ過半数に達していない」と述べ、「中小企業が障害者を雇用できるよう助成制度を手厚くすること、特に大企業においいて、障害に起因する差別をなくし、『雇用しないことは恥ずべきこと』という考え方の土壌作りを期待する」と求めました。
難病を持つ人の地域自立生活を確立する会の山本創代表は「障害者を最低賃金制度から除外したり、ダブルカウント(重度障害者一人を雇用すると二人分とみなす)して半人前に扱うこと自体問題だ。こういう制度不備を解消して欲しい」と述べました。
日本共産党の高橋ちづ子議員は「就労支援で一番苦労していることは何か」と質問。天野氏は「就労支援を支える人的体制をしっかりすべきだ。各自治体に一つは就労支援センターができないと、障害者の就労支援は進まない」と訴えました。
(2008年12月10日(水)「しんぶん赤旗」より転載)
――― 議事録 ――――
○高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
本日は、五人の参考人の皆さん、大変貴重な御意見をいただきました。ありがとうございました。また、五人の方がそれぞれさまざまな角度から発言をしてくださることによって、今後の障害者施策の課題がよく見えてきたのではないか、このように感じております。
時間が限られておりますので、早速質問させていただきます。
初めに、森参考人に伺います。
御意見にありました四つの角度からの提言、いずれもうなずけるものだったと思います。伺いたいのは、森参考人の所属している日身連は障害者の権利擁護の活動をされており、その中で職業自立相談員、これを事務局に設置して相談業務に応じているということを伺っております。そういう相談業務の内容とか取り組みの特徴とか、こういう相談が非常に多いんだとか、そういうことをぜひ、短いですけれども、簡潔に御紹介いただければありがたいなと思います。
それと、先ほどの園田委員の質問にも少し重なるかもしれませんけれども、障害者権利条約を具体化するに当たって、よく言われている障害者差別禁止法のような新たな法体系が必要であるという立場でよろしいのか。そこでの取り組みの決意といいましょうか、そういうことを伺いたいと思います。
○森参考人 どうもありがとうございました。
職業相談員、非常勤でございますが、我々の方といたしましても設置しております。電話相談が大体多いのでございますが、意外と単純な相談が多いんですね。というのは、就職したいんですが、どこへ行ったらいいんだろうかというような問題、あるいは、実は職場内のトラブルがあるという問題で、どこで解決したらいいかというようなこともあるように承っております。
次に、権利条約の問題でございますが、日本の障害者行政は、昭和二十四年に身障法ができた、そして四十年の半ばに重度の人たちの問題が出てきて、全員就学という問題も出てきておりました。それと重度の人たちのために、あるいは障害者の目線という形で、身体障害者相談員あるいは知的障害者相談員という形の問題も出てきておりました。
それで、決定的に変わったのが、やはり国際障害者年ではないかなと思います。その前から、ノーマライゼーションという動きが日本には四十年半ばにあったわけですね。その一方において、いわゆるコロニー問題というのがありまして、実はこれは相反するものなんですね。そういう問題で、日本の国では相反するものがどっと来たという形で、施設問題も大きな問題になってきたということです。それと同時に、障害者の人たちが外へ出て運動するようになりました。そういう面で相当揺れ動いたわけでございますが、その国際障害者年でノーマライゼーションという考え方が完全に入ってきました。これは考え方によって大分違うと思うんですけれども、私は、その時点で今までと変わった考え方が出たのだろうと思っております。
今まではどういうことかといいますと、いわゆるリハビリテーションという考え方です。それは主役が専門家だったんですね。専門家の、できたものに従って障害者が社会復帰していくという形だったんですが、ノーマライゼーションという場合にがらりと変わって、主役は障害者ですよ、こういう話になってきて、それをサポートするのが専門員ですという形です。したがって、大きな流れが変わったのは、もう御案内のとおりでございます。
自立支援法なり障害者基本法、障害者基本法も前は心身障害者対策基本法だったわけですが、これも平成五年に変わりました。次に十六年も変わりました。十六年のときには、いわゆる差別してはいけないという規定が中へ入りました。今度は、そういう面でいえば大きなチャンスであると思います。差別というのが前面に出てきておりますし、また裁判規範という問題が、これがキーになると思うんですね。
そういう面で、我々障害者団体は、その辺を中心にいたしまして取り組んでいかなければならない。チャンスだと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
○高橋委員 ありがとうございます。ぜひチャンスを生かして、いい形にしていきたいと思います。
次に、山本参考人に伺いたいと思います。
冒頭述べられた、一般企業はメジャーリーグ的な就労観、この指摘は非常に衝撃的といいましょうか、自分の問題意識にフィットするものであったと思います。合理的配慮とは何か、あるいは就労上の障害認定方法を新たにつくれという御提言、細かく提言をいただきましたので、非常に重要であり、また、形にできるように頑張っていきたいというふうに思っております。
参考人に伺いたいのは、難病をもつ人の地域自立生活を確立する会の会長として、実態調査なども取り組んでおられますので、ぜひその中身を簡潔に御紹介いただいて、課題を御紹介いただければと思います。
○山本参考人 ありがとうございます。
私たち、千人の方を対象にアンケート調査を行ったという経緯がございます。そのときに一番衝撃的な中身だったのは、本人の所得に限った場合、約六割の方がいわゆる百五十万以下の所得だったということです。当然、主婦の方も含まれていますので、そういった傾向が若干出たのかもしれませんが、やはり本人の稼働能力の減退ということを加味すると、六割の方が百五十万以下という厳しい状況にあるということは、何とかしなければいけないという思いを、そのデータを見て改めて思いました。
例えば、就労でどういったことに困っていますかという声を聞いたところに回答があったのは、ハローワークに就職の相談に行ったら、病名を出しただけで、いや、あなたは難病だからちょっと制度の対象にならないね、申しわけないがということで、そこで窓口を閉ざされることもあったという報告があります。また、病名を出しただけで、面接すら受けることができなかったというような厳しい声も聞かれたりしております。
やはりこういったことを放置しないで、ぜひとも一歩、国会で解決していくという道筋を立てていただきたいと思います。
以上です。
○高橋委員 ありがとうございました。
本当はもっと紹介する中身があったんだと思いますけれども、こうした貴重な実態を受けて、難病の皆さんも、今回、障害者自立支援法の見直しの中でぜひ検討に入れていただく、また、提起をされていた障害認定方法の問題についても前進が図られるように、ぜひ頑張っていきたいと思っております。
次に、天野参考人に伺いたいと思います。
先ほど、森参考人の最初の意見陳述の中に、障害者就業・生活支援センターが大変少ない、ふやすべきだという指摘がございました。天野参考人に紹介いただいた「らいむ」の実践は、文字どおりセンターの具体的な意義、役割を紹介いただいて、非常に貴重だったと思っております。また、山本参考人が指摘をした一般就労と福祉就労の縦割りの問題など、二分的ではなく対角線的な仕組みというふうにやるべきだという図をかいての提起がございまして、これも非常にわかりやすい、なるほどと思って受けとめさせていただきました。
そこでまず、「らいむ」が就労支援を行うに当たって一番苦心されていることは何か、伺いたいと思います。
○天野参考人 ありがとうございます。
「らいむ」の支援に当たって一番苦労しているということなんですが、「らいむ」自体、四百七十名を超える方がいらっしゃる。そうすると、その方たちが持っている願い、望みというのも四百七十ある。そうすると、個別支援が中心ですから、その方に合わせた本当にさまざまな支援を行っていかなくちゃだめだ。就労支援のところで特に重要なのは、障害を持っている方を就労させた段階で終わりではないんですね。むしろ、就職後、いかに長く安心して働いていただけるかという定着支援のところが重要になってきます。
私どもの方に、御本人あるいは職場から、いつSOSが入ってくるかわからない状態なんですね。実際に、今、サービス業の関係なんかでは土曜、日曜に営業されているのが当たり前ですから、一週間を通していろいろなところから入ってくる。だから我々は休みもないような状態で動いている。実際にそういうSOSが入ってきた時点ではもう手おくれというような場合も結構あるんですね。そういった面で、本来、職場訪問等、本当は定期的にしっかり回らせていただきたいんですけれども、何分にも人的体制が弱くて、そういったことができない。
就労支援センターというのは、就労移行支援事業所から一般就労した方、あるいは特別支援学校を卒業して一般就労した方、そういった方がどんどん入ってくるんですが、就労支援センターから押し出していくというか、出口がないんですね。そういった面でパンクしてしまうような状況になりがちです。そういったことにならないようにするために、やはり、定着支援等を初めとする就労支援を支える人的体制のところをしっかりしていかなくちゃだめだな、特にジョブコーチの養成等というようなお話はほかの方からもたくさん出ていたと思うんですが、そういったところをぜひしっかりやっていただきたいなと思うところです。
あと、私どもの「らいむ」は、東京都の自治体の制度でやっているわけなんですね。先ほど、国制度の就業・生活支援センターの話もさせていただきましたけれども、この国制度のセンターは非常に広域でやっております。私のおります町田市にはこの就業センターがなくて、同じ福祉圏域の中の八王子市につい最近できたんですね。ただ、そのセンターさんが今範囲としている自治体、五市あるんですが、八王子、町田、日野、稲城、多摩という五市なんですが、この五市を集めると、人口だけで百二十万ぐらいになってしまうんです。この就業・生活支援センターだけではやはりどうしても見られない。
そういった面では、自治体制度、東京がやっているような、自治体、市町村にやはり一つ就労支援センター的なものができないと、なかなか実際には就労支援というのは進まない。特に、就労移行支援事業所にしても、就労継続支援事業所にしても、基本的には自治体単位の事業ですね。そうしたときに、就労支援を支えるセンターも、基本的にはやはり自治体、市町村単位で必要なのではないかなというように思っております。
以上です。
○高橋委員 ありがとうございます。
今の最後の部分をもう少し詳しく教えていただければと思うんです。要するに、市町村単位に一つこうしたセンターが必要である、国制度のセンターもまたふやす必要があるという意味だと思うんですけれども、例えばハローワーク管内に一カ所というふうな感じで。その点、どのようにお考えか伺いたいと思います。
○天野参考人 ありがとうございます。
まず都道府県単位の地域障害者職業センターが、上下という関係じゃないですけれども、上に来ると思うんですね。その下に国制度の障害者就業・生活支援センター、さらに、もっとより身近なということで、できれば区市町村単位の就労支援センター、そういったネットワークができればいいんじゃないかなというような意味での御提案です。
以上です。
○高橋委員 ありがとうございます。
ネットワークをさらに広げて連携していくことが必要であるという指摘かと思います。その点ではまだまだ不足をしているのだろうということで、頑張っていきたいなと思います。
次に、輪島参考人に伺いたいと思います。
輪島参考人が、地方公務員月報という雑誌の四月号の中で、法改正について触れている文章がございましたけれども、障害のない従業員の担当してきた職務を障害者に置きかえるという発想ではなく、障害者を受け入れられる職務を社内において発掘するという視点から雇用計画を策定する必要があると述べられているわけです。
そうすると、一般の方と障害のある方も対等にというふうな議論、そこのバリアを除いていくというのが必要ではないかという視点が先ほど来議論されていると思うんですけれども、こちらは、企業の方で、これだったら障害者にというふうな話になる。そうすると、これはいつまでもミスマッチですよというふうな形になって、なかなか前進をしないのではないかと思うわけであります。
それで、例えば障害者の権利条約二十七条には、他の者との平等を基礎として障害のある者の労働の権利を認める、募集、採用、雇用の条件、雇用の継続、昇進などの面で障害に基づく差別を禁止しているわけです。
経団連は、こうした権利条約、当然日本も批准をし、国内法整備が必要とされているわけですけれども、こういう部分をどのように受けとめ、取り組んでいくのか伺いたいと思います。
○輪島参考人 ありがとうございます。
今の点は、権利条約についてどのように考えるのかということを申せばよろしいんでしょうか。
○高橋委員 失礼しました。
今私が読み上げた権利条約の差別の禁止という観点からいっても、いかがなものかなということを、率直に私の感想を述べさせていただきました。その点で、経団連としてはどのように取り組むのかということです。
○輪島参考人 職場で取り組むという意味でよろしいのですか。(高橋委員「はい」と呼ぶ)
職場の工夫というのはさまざまにあると思います。例えば、ある会社では、五千人の規模のグループ企業の名刺を知的障害の方が一人で入力をして、印刷をして、配付をするというようなことをしています。ただ、知的障害の方なので漢字が実はよく読めないというところで、人事の方でどういうふうに工夫をしているのかというと、ジンジというふうには読めないのですけれども、例えば「人」、それから「事」ということで、ヒトと読めてコトと読めればパソコンでは入力ができるというような事例がございます。
そういう意味で、先ほど御指摘の点の、障害を持った方を受け入れるについて、そういう基本的な発想の転換をしないと職場では受け入れることが難しいのではないかという趣旨で申し上げたつもりでございます。御理解をいただければと思います。
以上でございます。
○高橋委員 その上で、例えば、先ほどグループ企業の問題、チェーンストアの問題などが指摘をされて、そうすると法定雇用率が下がるおそれがありますというふうな指摘がございましたけれども、同じ輪島参考人の論文の中で、逆に、特例子会社に集中をして、親会社が雇用の責任を緩められるのでは問題であるという指摘もあったと思います。
それは非常に大事な指摘ではないかということと、ほかの参考人からも出されていたように、短時間労働が本人の希望の場合のみであるということの指摘の徹底なども非常に大事になってくると思うんですけれども、その点で御意見を伺いたいと思います。
○輪島参考人 ありがとうございます。
短時間労働につきましては、考え方としては、三十時間から四十時間ですと一カウントになりますけれども、例えばフルタイムではなかなか難しいという人方、特に精神障害とか、障害特性に合わせて対応していくという観点からすると、その中間的な位置づけとして、二十時間から三十時間について〇・五カウントにしてはどうかというのが今回の見直しのポイントかなというふうにも思っております。そういう点で、フルタイムに移行する一つの手段として短時間労働というのを位置づけるということも重要なのではないかというふうに思っています。
また、障害特性によっては非常に、就業能力の劣化ということも指摘をされております。そういう意味で、フルタイムから短時間労働に移行して、その後、福祉の方の施設にソフトランディングしていくという一助にも短時間労働の位置づけというのはなり得るのではないかというのが審議会での議論であったのかなというふうに理解をしております。
以上でございます。
○高橋委員 ありがとうございました。
残念ながら時間が来てしまいまして、五十嵐参考人に伺うことができませんでした。もっともっと参考人の皆さんに伺いたいことがあったんですけれども、残念ですが、これで終わりたいと思います。
本当にきょうはありがとうございました。