日本共産党の高橋ちづ子議員は10日の衆院厚生労働委員会で、育児・介護休業法改正案について質問しました。高橋氏は、厚労省調査でも、育児休業などを利用したいという男性が3割を超える一方、実際の取得率が1.56%にすぎないこと、男性が育児休業を取得しない大きな理由が「父親の給料が入らないと経済的に困る」となっていることを紹介。「給付が休業前賃金の5割という水準では、家計が成り立たず、休業取得をためらうか、短期間の取得になる。給付率を6割に引き上げるべきだ」と質問しました。
厚労省の太田俊明職業安定局長は、「雇用保険制度の中で、育児休業給付が失業給付の給付率を上回るのは、制度的に難しい」と答弁。高橋氏が、雇用保険財政の事情で、仕事と子育ての両立を支援する育児休業制度本来の趣旨が左右されてはならないと指摘すると、同省の村木厚子雇用均等・児童家庭局長は、「委員の指摘を今後の議論に反映させたい」と述べました。
高橋氏は、有給休暇取得率がイギリス79%、アメリカ66%に対し、日本は8%にすぎないという調査を紹介。「有給休暇の完全取得や労働時間短縮をすすめず、子の看護休暇や介護休暇を拡大しても有給休暇にふりかえられるだけだ」と改善を要求しました。
高橋氏は、2007年に全労連女性部がまとめた「妊娠、出産、育児に関する実態調査報告」では、働く女性の5人に1が異常出産を経験する実態があることなどを示し、「母性保護の観点からも、制度の内容や権利について、母子手帳に記載するなど周知すべき」だと強調。村木局長は「いっそう徹底を図りたい」と答弁しました。
(2009年6月11日(木)「しんぶん赤旗」より転載)
――― 議事録 ――――
○高橋委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
初めに、大臣に伺います。
ことしは、七九年に国連で採択された女性差別撤廃条約から三十年目に当たります。
日本が八五年に批准した同条約には、「母性の社会的重要性並びに家庭及び子の養育における両親の役割に留意し、また、出産における女子の役割が差別の根拠となるべきではなく、子の養育には男女及び社会全体が共に責任を負うことが必要」と明記をされております。「男女及び社会全体が」、こう強調されているところが非常に重要であり、今読み返しても非常に大きな意味が込められているなと思っております。
しかし、この点が日本においてはまだまだ課題となっているのではないか。今回の法改正でも、仕事と子育ての両立支援、男女ともに子育てをしながら働き続けることができる雇用環境を整備するとあり、目的はいいけれども、実態はなかなか追いついていないと思います。
よく言われる、育児休業取得率が約九割というけれども、出産を機に退職した人は七割近い。そこからいうと三割にも満たないのが実態であります。まして男性の育児参加は極めて少ない。
大臣、差別撤廃条約に照らして、現状に対する認識を伺いたいと思います。
○舛添国務大臣 先ほど申し上げましたように、私は、まだこの国は改革をする余地はたくさんある、特に社会保障制度について言うと、まだまだ前に進めないといけない課題は山積している。ではどういう方法でやるのか。それは人々の価値観の変化をもたらすために制度設計を変更することも必要だと思いますけれども、そういう問題意識をしっかり持って厚生労働行政に当たりたいと思っております。
○高橋委員 そこで、具体的な話を進めていきたいと思うんですが、資料の一枚目を見ていただきたいと思います。これは全労連女性部が、〇七年、妊娠・出産・育児に関する実態調査報告をまとめた中からの資料であります。
〇一年以降、妊娠、出産した正規労働者一千八百人のデータをとって、その中で五人に一人が異常出産を経験しております。また、過去に流産の経験がありますか、こういう問いがあるわけですけれども、二割が経験をしておる、それも二回以上あるという方が四%を超えている。非常に衝撃を受けました。ここには働き方の問題がやはり大きく影響していると言えるのではないでしょうか。
二枚目に、母性の保護について法律に明記された権利が取得されていますか、こうした問いに対して、多忙である、代替者がいないので請求しなかった、こういう理由で時間外労働の免除ですとか時間外労働の制限などがとれなかった。あるいは制度、権利を知らなかった、時間外労働の制限について知らなかった、四五%。こういう実態がございます。
出産を機に退職した女性労働者の退職理由の第一が、体力がもたなそうだったというふうにありますけれども、復帰後の働き方への不安だけではなくて、これまでの働き方が反映されている、とても続かない、そういうことがあるのではないか。だとすれば、母性保護の観点から見ても、もっともっとその意義を強調し、理解を求めていく必要があると思いますが、いかがか。
先ほど岡本委員からも提案があったんですけれども、私たちも前から提案をしておりました。例えば、母子手帳に育児休業制度の内容あるいは権利について明記をする、これを同封する、そういうことはすぐにもできることだと思いますが、お考えを伺いたいと思います。
○村木政府参考人 先生御指摘のとおり、今、育児休業あるいは休業後の働き方だけではなくて、その以前からの働き方、それから妊娠した時期の母性健康管理、非常に大事な課題だろうと思っております。やはり制度を知らないという問題というのは、非常に我々も重要な問題、深刻な問題というふうに受けとめております。
先生、今具体的に御提案をくださいました。母子健康手帳ですと、妊娠した方は皆さん自治体でそれをもらわれるということで、ここにいろいろなことを盛り込んでおくことは非常に大事だろうというふうに思っております。
今、母子健康手帳は、記載を必ずするものと任意の記載事項とがありまして、必ず記載をするものについては政省令で、特に母性健康管理に直接にかかわることを書いてございますが、今、任意の記載事項として、働く妊産婦の方に認められたさまざまな制度、育休制度などについても通達の形でひな形、記載例をお示ししているところでございます。
母子健康手帳にこういう情報を入れていくことは非常に大事だと思っておりますので、引き続き、きっちり記載例にこれを入れて、また改正があれば早くそれを内容に反映できるような形を考えてまいりたいというふうに考えております。
○高橋委員 先ほど来、書面を取り交わすのが義務かどうかという議論がされておりましたが、この問題に関しては一切デメリットはないですので、これはもうかっちりとやっていただきたいと思います。
私は、最初に大臣に女性差別撤廃条約との絡みで一言伺ったわけですけれども、機会均等だ、そんな口実のもとで、あるべき母性保護が逆にないがしろにされてきた、それがこの間の労働法制の改悪の歴史でもあった、やはりそうした思いがあるわけであります。そうしたことも改めてしっかりと、きょうは時間がないですので指摘はしませんけれども、検討課題としていただきたいと思っております。
ここにもちょっと関係があるわけですけれども、資料の三枚目、四枚目を見ていただきたいと思います。
先に四枚目を見ていただきたいと思います。これはエクスペディア・ジャパンという旅の会社であります。この会社が、日本を含めた主要十一カ国の有休の取得状況について調査したデータであります。つまり、有休がきちんととれていればもっと海外旅行なんかを利用してくれるだろう、旅行予約サービスなんかをとってくれるだろう、そういう思いで調査を重ねているところだそうです。
ところが、これを見ますと、日本はまさしく世界で最下位であります。有休の平均付与日数は十五日で、これはアメリカより多いんですけれども、消化をしているのは八日しかない。こういう意味では最下位なわけですね。これはつけておきませんでしたけれども、実は、完全消化した率でいいますと八%にしかなりません。アメリカは六六%、イギリスは七九%と比べても、いかに日本が働き過ぎかということが指摘できると思うんです。
前へ一つめくっていただいて、資料三に、昨年と比べて有給休暇がとりやすくなったか。感じないというのが七割を超えているんですけれども、その理由が、「仕事が忙しくなった」、「不況、経営状況の悪化で解雇の不安があるため休みにくい」が多いこと、ほかに「派遣切りのため人手が足りない」、「リストラで負担が増えた」という答えがあるのは非常に興味深いと思うんですね。きょう、まさに二極化という問題も言われているわけですけれども、派遣切りの横行と、そして残る社員に対する長時間労働、こうした問題を正面から見ていく必要がどうしてもあるだろうと思うんです。
そこで、看護休暇の拡充や介護休暇の新設は歓迎するものです。しかし、長時間労働と有休の未消化、この問題が改善されなければ、せっかくの看護休暇をとったとしてもそれは有休に振りかわるだけだ、こうなってしまいますが、どのように取り組みますか。
○村木政府参考人 先生御指摘のとおり、年次有給休暇の消化率、本当に日本は低い状況にあると思います。
もちろん、これをしっかり完全消化ができるようにするということが非常に大事なことではありますが、今回、子供の看護休暇をふやしていく、それから介護についても短期の休暇を設けていく理由の一つには、実際にそういう立場にあるお父さん、お母さん方の中から、やはりまずお給料が欲しいので、子供が病気のときも年次有給休暇から使っていくという方がたくさんいらっしゃいますが、お子さんの病気が重なるとその年休もなくなってしまって、この後、では今度子供が病気になったらどうすればいいのか、自分が休める権利を主張できるものがないという声も聞こえてまいります。
そういう意味では、もちろん有給の休暇が一番労働者の人にとってはありがたいことではありますが、せめても、子供が病気、それから家族の介護が必要というときに、無給でもいいから堂々と権利として休める、この休暇制度の充実というのは非常に大事なことということで、有休の完全消化とあわせて、こうした制度の充実も図ってまいりたいと考えているところでございます。
○高橋委員 今局長がおっしゃったことは、まさに先ほど紹介した調査の中にも出てくるわけなんですね。つまり、年休を使い切っちゃっている人たちというのは、そのすべてを子供さんの病気で呼び出されるとか、あるいは運動会や学校行事、PTA、さまざまなことに費やして、それでも足りなくて、足りなくてというのは、看護休暇は今は五日しかないわけですから、はみ出ているわけなんですね。そういう状態なわけです。
だとすれば、看護休暇を今おっしゃったような病気だけとしないで、家族のための行事の参加、こうしたものも休暇として認めるべきではないでしょうか。
○村木政府参考人 子供を育てることに際して、一番困るのは病気のときということでございますが、この問題をいろいろ議論するときに、ほかにもどうしても親が休みたいときがある。
特に審議会や研究会の中で声が大きかったのは、子供の健康診断ですとか予防注射でございました。またあわせて、確かに学校の行事というのも一般的に御希望としてはよく聞きますが、必然性の高いものとしてはそういった健康診断、予防注射がまずあろうかというふうに思っております。これは審議会でも、休暇の拡大について、子供の看護休暇の使途についてはこうしたものまで拡大をした方がいいのではないかというお話がございました。
あと学校の行事等につきましては、健康診断や予防注射ほどの大きなニーズがなかったということと、それから非常に正直に申し上げれば、行事の持ち方も、お父さん、お母さんが働いておられるということを前提にした工夫もしていただきたい部分もあるというようなこともあって、これまでの検討としては、全部ではございませんが、一部、子供の看護休暇の使途の拡大を今回やった方がいいということで、そういう方向で検討したということでございます。
○高橋委員 実はこの問題を担当者と議論したときに、結局、病気以外のもので対応できないのかといったときに、それは年休を使ってくださいと言うので、話が堂々めぐりするわけですよね。年休を使い切ってさらに足りないと言っているのに、年休で対応するしかないというのは、今お話があったように、問題意識は持っているんだ、ニーズがあるんだということだったと思うんですね。
最初にお話をしたように、やはり本当に両立支援ということを考えるのであれば、言われている健康診断もそうですし、もっともっと必要な時間というのがあるんだということを実態に即して対応していただきたい。ここはすぐにでも見直しができることだと思いますので、要望しておきたいと思います。
さて、次に、先ほど来、三党が出した修正案についての議論がありまして、我々も基本的には賛成をしているわけであります。今回は共産党が入れてもらえなかったということもあるわけですけれども、私たちは党としても修正案を準備しております。その中で、いろいろな項目がある中で非常に絞り込んで、現実的であるということで提案をしておりますので、少し意見を伺いたいと思います。
育児休業や短時間勤務制度を利用したいという男性は三割を超える。その一方で、実際の取得率は一・五六%にすぎません。男性が育児休業を取得しない理由の大きなものとして、父親の給料が入らないと経済的に困る、これがあると思います。この間の非正規雇用の増大で、夫婦ともに正社員という世帯が減少していること、もともと男性と女性の賃金格差は五割から六割というように、まだまだ大きいのです。そういう中で、休業前賃金の五割しか保障されない中では家計が成り立たない。育児休業の取得をためらうか、あるいはとっても短期間になってしまうのが実態だと思います。
そこで、今の休業の給付は五割でありますけれども、これに対して、せめて六割をやるべきだと思いますが、いかがでしょうか。
○太田政府参考人 お答え申し上げます。
育児休業給付につきましては、休業を失業に準じた職業生活上の事故ととらえて雇用保険から支給するというのが現行の制度でございます。
御指摘のように、この給付を六〇%にすることにつきましては、雇用保険制度の中心的な保険事故である失業に対して給付する基本手当の給付率が五〇%から八〇%となっておりますので、この五〇%を上回るということがございまして、失業中の者よりも高い給付率になり得るために、現在の雇用保険制度の中ではなかなか難しいという状況でございます。
○高橋委員 なぜ雇用保険より上回るとうまくないんですか。
○太田政府参考人 今御指摘の点につきましては、審議会の中でも雇用保険の負担者である労使の議論がございまして、その中で、やはり基本的には失業給付というものが雇用保険の中心的な制度である、そういう中心的な制度の基本手当の給付率が五〇%から八〇%でございますので、労使の議論としても、やはりそういう失業中の者よりも高い給付率になるというのはバランスを失するのではないか、こういった議論がございまして、六〇%にするのはなかなか難しいというコンセンサスがございました。そういうものを踏まえて、五〇%という給付率にしているところでございます。
○高橋委員 今のお話は、要するに、どこから金を出すかという議論だと思うんですね。雇用均等の問題でもっと分野を広げなきゃいけないという議論が分科会である一方で、雇用保険の分科会では、それでは金がもたぬぞ、もっと何とか絞り込まなきゃいけないんじゃないか、あるいは、失業保険がベースなんだからそんなものは出せないんだ、そういう議論がされてきたことが今あるんだと思うんです。
しかし、お金の出し方については、もし雇用保険会計がうまくないというのであれば、それは皆さんが検討すればいいことなんです。私が言いたいのは、復職し、育児しながら働き続けるための制度のはずなんです。それなのに、実際には休みをとると生活ができないから、やっていけないということになるのがおかしい。
しかし、雇用保険料をこの方たちは払っているわけなんですね、払っている。しようがないわ、じゃ、やめますかといったとしても、出産のため、あるいは育児のために休んでいる人には雇用保険の給付がないじゃありませんか。そうしたら雇用保険料のただ取りになるわけです。
そういう意味では、やはり続けて働いていく、その先もずっと雇用保険料を払って頑張っていける、そういうふうに考えるべきではありませんか。
○村木政府参考人 少子化の問題、それから特に男性が育児休業をとる、女性が継続して就業するということを考えたときに、休業中の所得保障というのは本当に大事な問題だというふうに考えております。雇用保険財政の中では確かにやはり制約があるんだろうというふうに思っております。
政府の重点戦略会議でこの問題を議論したときに、一つの試算ではございますが、スウェーデン並みの休業給付をしたら幾らになるだろうという試算を実はさせていただきました。財源をどうするか、子育てに関してこれからコストがかかることをいろいろやっていきたい中で、優先順位はどうなるのか、それから、きょうの質疑の中でも出てまいりましたが、自営業の方々とのバランスはどうなんだろうか、専業主婦の方とのバランスはどうなんだろう。
いろいろな課題があるとは思いますが、安心して休めてまたきちんと職場復帰ができる、そのときの経済的な支援ということは非常に大事な課題であると思っておりますので、今、私どもの少子化特別部会という審議会で大きな枠組みを議論しております。そういったところの議論にもきょういただいた意見などを投げ込んで、しっかり議論をしていきたいというふうに思っております。
○高橋委員 午前の部で議論があった自営業者の問題でいいますと、私たちは、前から国保に社保並みの出産手当をすべきだということをずっと要求しております。当然、そういう形で前進をしていくべきなのではないか。
今回、男性の育児参加を強調するために、パパ・ママ育休プラスなどということを制度としてつくったわけですけれども、参考にしたのはドイツである。そのドイツが六七%の給付である。そうしたことから見ても、何か上物だけまねをするけれども中身が全然違うというのでは、やはり成果が上がらないであろう。そういう立場でしっかりやっていただきたい。
問いをいっぱい残しましたので、こっちを向いて言いますが、また次の機会をぜひお願いして、終わりたいと思います。