衆院厚生労働委員会は9日、子ども手当法案について参考人質疑を行いました。名古屋経営短期大学の古橋エツ子学長、三重県の山中光茂松阪市長、全日本教職員組合の関口てるみ養護教諭部長など6人の参考人が意見陳述しました。
古橋氏は各国の制度を比較。出生率の向上は子ども手当だけでは実現できないとして、子育て世帯の女性が就労しやすい条件整備や男性も子育てしやすい環境作りが必要だと述べました。
関口氏は学校の保健室を通して見えてきた実態として、父子家庭の児童が学校で高熱を出したが父親は仕事で迎えに来られず、保険証もないので「受診させないでくれ」といわれた(滋賀・小学校)などの事例を報告。「子どもの貧困は深刻だ。子ども手当の支給を子育て支援に位置付け、子育ての土台の抜本的強化とともに行うべきだ」と求めました。
日本共産党の高橋ちづ子議員は山中氏に「保育所の運営費を国から地方に移してその分を手当の財源とするとしており、現物給付への国の責任が後退するのではないか」と述べ、見解をただしました。
山中氏は「この間の総務省の説明によれば、現物給付への国の助成はなくなってしまう。これでは地方格差が広がると思う」と答えました。
また、高橋氏は関口氏に「子ども手当だけでは格差拡大にならないか」と質問。
関口氏は「仲間の間からも親に配ったのでは子どもに渡るのか心配の声もある。医療費の無料化や給食費の無償化なども同時に実現して欲しい」と答えました。
(2010年3月10日(水)「しんぶん赤旗」より転載)
――― 議事録 ――――
○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
きょうは、六人の参考人の皆さん、本当にありがとうございました。いずれも非常に興味深い、また貴重な御意見であったと思います。時間の関係で全員には質問できないことを、最初に御了承いただきたいと思います。
お話の中で、やはり現金給付か現物給付かではなく、現金給付も現物給付も一体なのだ、車の両輪でということをどなたもおっしゃったと思うんです。ですから、目指す方向というのはほとんど余り違いがないのであろう。ただ、そのプロセスですとか財源の構成のあり方などにおいて、まだまだ、理想と実態がどうなのか、あるいは考え方がやはり合っていない、そういうことが指摘をされていた。そうすると、やはりその点のところについては、さらにもっとこの委員会でも議論を重ねていく必要があるのであろうということを改めて感じることができました。
そこで、最初に山中参考人に伺いたいと思うんです。
松阪市への手当分七十六億円の意味を、例えば地方税と匹敵するという例えで表現をされて、大変わかりやすく受けとめることができました。
実は私、先週のこの委員会で、地方税の扶養控除の廃止について質問しまして、地方の増収分が地方に入るけれども、国から出している国庫補助金、例えば民間保育所の運営費などが一般財源化という形で、回り回って子ども手当の負担分になるのである、そういう説明だったと思うんですね。現物給付は地方でという思想である、これは総務省の政務官の答弁でございました。先ほど山中参考人がおっしゃったバーターですよね。
国庫補助と地方負担の分のバーターというのもまさに同じ考え方で、そうすると、車の両輪で進めますと政府は言っているんですけれども、バーターするだけなので、要するに、現物給付の部分は拡充はしていない、そういうことになるのではないか。つまり、現物給付に国が責任を持っているのか。あるいは薄まってくるのではないかということさえ思わざるを得ないわけですよね。
この点について、ぜひ御見解を伺いたいと思います。
○山中参考人 少なくとも、総務省から来ている資料においては間違いなく、薄めるというよりはなしにするというふうに、政府の見解として明確に出しております。
正直、現在においてもそれほど国、県の比率というものが子育て政策で大きいわけではなくて、先ほどから、菊田議員の話で、待機児童の話であったりとかさまざま子育て政策の話が出ましたけれども、ほとんどが実は市町村の基礎的自治体が現在担っている役割で、それに対して、例えば保育園の運営補助などにおいても、大体、国からは一割程度の国庫支出金でございます。ただ、次年度以降の位置づけに関しては、恐らく、そのあたりに関してはなしになるのではないかなというふうに地方自治体としては考えさせていただいております。
だから、子育てプランという部分がどういう位置づけで、それは市町村にやってくれという部分の位置づけで、押しつけて、自治体によって格差が生まれるのを見逃していくような政策なのかなと。子ども手当だけはしっかりと支給するけれども、子育て政策に関しては地方でやってもらって、その財源確保も地方で頑張ってくれよというのがこの総務省の通達なのかなというふうに私は見ております。
○高橋(千)委員 ありがとうございます。
非常に重要な指摘ではなかったかと思っております。政府の答弁も、長妻大臣なども繰り返し、いや、車の両輪なんだ、現金給付と現物給付は一体で進めるんだと言っているんだけれども、国の方向が決してそうではないということが指摘をされているのではないかと思っております。引き続いてこの問題は議論していきたいなと思っております。
次に、関口参考人に伺いたいと思います。
保健室を通して、本当に深刻な子供たちの実態が語られたと思います。私が本当に胸にひっかかるといいますか胸打たれるところは、子供たちが、本当に命と暮らしが脅かされる、健康が脅かされる状態にありながら、やはり親に気を使っているという指摘が幾つもあったのではないかと思っております。
そこで、やはり今回、子ども手当が子供たちの健やかな育ちを応援するという趣旨だとは言っております。ただ、実際には、親に支給されても、こういう状態では生活費の一部に吸収されて、貧しい子供ほどその効果が見えにくいのではないか。つまり、余裕のある家庭では塾の費用や、使い道も自由で、むしろ格差の拡大になるのではないかという心配もございますけれども、意見を伺いたいと思います。
○関口参考人 私たちの仲間からも、保護者の手元に渡っても、それが本当に子供に使われるのか、なかなかそうは思えないという意見はあります。もっと子供に直接還元されるような、具体的には、先ほどから言わせてもらっていますように、十八歳までの子供の医療費が無料になったり、給食費が無料になったり、高校の教科書が無料にされたり、あと、予防接種が無料になったりとか、そういうふうなものに使ってほしいという意見はあります。
生活費の一部になることによって、その子供がきちっと食事が食べられたりとか身に合った服が着られたりとか、そういう形になるのならば、それはそれで望ましいかなと思うんですけれども、先ほど心配されたような、親御さんのお金になるというような心配というあたりについては、現実問題として私たちの仲間からも出ているところです。それよりも、やはり社会で子供を育てるというこの法案の趣旨にのっとった形で使われるというようなことが一番望ましいと思いますし、この視点は私たちも大事にしたい視点だと思っています。
そういう面では、本当に、子ども手当にとどまらずに、先ほどから論議されています現物給付というところもあわせて実施していただきながら、子育ての土台の整備を総合的に進めていただきたいというふうに思います。よろしくお願いします。
○高橋(千)委員 ありがとうございました。
今、親御さんに使われるという表現をしたわけですけれども、やはり先ほどの関口参考人のお話の中にもありましたように、子供を通して親たちの本当に深刻な経済的な状態、仕事や暮らしに追われている状態というのが見えているということだったと思うんですね。だから、ちまたでよく言われているように、親が好きなことに使うんじゃないかとか、そういうだけの話ではない。そこにもきちんと向き合わなければならないということを提起されているのではないかなと思っております。
保健室が、子供の貧困やあるいは虐待などの家庭的問題を見つける上でも大きな役割を果たしていると思います。こうした点で、具体的に実感した点、つまり、親御さんとアドバイスをしたり相談所との連携を図るなどしてそうした問題が解決できたとか、そういうことを紹介していただけたらありがたいなと思うのと、この際、そういう点でも、やはり保健室の体制というのがもっと拡充されていく必要があるなと思っているんですけれども、御意見を伺いたいと思います。
○関口参考人 事例ですけれども、佐賀県の高校の方です。
父親が失職し、その後行方不明になり、母親も病気で働けず、経済的に困窮し、食事も満足にとれない状態だった高校生なんですけれども、先ほどは保健室で氷を食べるというふうに言いましたが、この子は水を飲んで空腹を満たしていた。ふらふらして保健室へやってきたときには、もう皮膚は乾燥しているし、体もやせぎみで、生気のない表情をしていたというふうな状況だったようです。
保健室で、バナナとかあめとかチョコレートとか、糖分の補給をしたりしながら対応していたんですけれども、やはり目の前の子供を助けるだけでは、対応しているだけでは進みませんので、その後、担任と連絡し、保護者とも連絡をとり、生活保護を何とか受けることができた。やはり、保健室でそういうふうにかかわりながら、法の中で使える制度を使っていくというふうなことで、食生活も学業の維持もできたというふうな事例を聞いています。
ほかにも、子供たちに丁寧にかかわることで、不登校とかあってなかなかかかわりができないながらもかかわっていく中で、お父さんに首を絞められたというふうな虐待の事実をつかんだという養護教諭の仲間もおります。
そういうふうに、やはり私たちは子供たち一人一人に向き合いながらかかわっていくことをしたいわけなんですけれども、先ほども申しましたように、なかなかそれが十分にできないというふうな状況があります。
定数法というのがありまして、そちらの方で養護教諭の定数が定められています。大きな学校については養護教諭の複数配置がされているんですけれども、小学校では児童数が八百五十一人以上、中学校、高校では八百一人以上が複数配置というふうになっていますが、これではまだまだ不十分です。この基準を引き下げて、ぜひとも養護教諭の複数配置への拡充をしていただきたいというふうに思っています。
また、この定数法で、三学級以上に養護教諭を配置するというふうになっておりますので、二学級以下の学校、小規模の学校には養護教諭を配置しなくてもいいというふうなことになってしまいます。どんな小さな学校にでも、やはり子供がいる限りは養護教諭は必要だと考えますし、ぜひともこちらの方も全校配置をして、すべての子供たちに養護教諭との出会いを保障していきたい。そして、やはりきめ細やかに子供たちの生活実態を把握して、支援をしていきたいというふうに思っています。
○高橋(千)委員 ありがとうございました。
子供を社会で育てるという大きな理想のためには、そこで、前線で頑張っている、今の養護教諭の配置の問題もそうですし、保育であれば保育士であったり、あるいは児童福祉司であったり、そういうマンパワーの拡充ということもやはりあわせてやっていくべきだということを改めて考えさせられました。ありがとうございました。
次に、阿部参考人に伺いたいと思うんです。
先ほど来紹介されている、阿部参考人が出されました「子どもの貧困」の中でも、子供の貧困ゼロ社会への十一のステップという形で提言をまとめられております。その中に、私が今質問をしてきたこととの関連で、やはり大事だなと思うことがあるんですけれども、四番目に「大人に対する所得保障」という言葉がございます。やはり理想は一人一人子供を育てるんだということなんだけれども、しかし、親の実態を改善しなければそこは引き上がっていかないだろうという大事な提言ではないかと思います。
この点、少し詳しく御紹介いただければと思います。
○阿部参考人 私がその本で紹介したのは、実はイギリスのチャイルド・ポバティー・アクション・グループという、非常に影響力の強い市民団体ですけれども、研究者やいろいろな方々から成っているものですが、そこが行ったイギリスにおける子供の貧困撲滅のための十のステップというものに一つつけ加えて、十一のステップとさせていただいたものです。御紹介いただきました大人への支援というのも、そのイギリスのもともとの十のステップの中に入っていたものです。
イギリスのチャイルド・ポバティー・アクション・グループの考えとして、そして私の考えにも重なるところなんですけれども、子供重視、子供に直接届くとかいろいろ、もちろんそれは正論ではあるんですけれども、子供について、一番その人のケアを、一次的に見ているのは家庭であって、その家庭の親が、もう仕事でへろへろで、疲弊してしまってうつ状況になっていてというふうな状況で、自分自身も全く将来の展望も持てないというような状況の中で、子供だけが希望を持って明るく生きるというのは、やはりそれは無理なところがあるというところなんですね。
なので、これは結局のところ労働する人たち全員になるかと思いますけれども、イギリスのCPAGの中では、これから子供を持つような人たちも対象に含めて、大人への支援というのをきちんとしていかなければいけない、大人が希望を失っているような社会では子供も希望を持てないであろうということだと思います。
ですので、これは結局のところすべてではないかということになってしまうんですけれども、労働市場の中での底辺層で働く人たちの家庭それぞれをやはりサポートしていく、それらを改善していくというマインドを持たなければ、結局のところ子供の貧困は解消できないですよということを言っているんだと思います。
○高橋(千)委員 どうもありがとうございました。
また、今の問題に関連して、今度は古橋参考人に伺いたいと思うんです。
先ほど、諸外国のいろいろな取り組みなどを御紹介いただきました。
やはりスウェーデンの、例えば育児休暇の制度などに日本がどのように学ぶべきかということだと思うんです。日本も、育児・介護休業制度を大いに拡充してきたとは思うんですけれども、まだまだ諸外国にはおくれている。例えば、休業をとりなさいといっても、給付が非常に少ないわけですので、やはり、男性が一家の大黒柱で、休むととても経済的にも支えられないというような問題ですとか、あとは全体の底上げですとか、そういうことが課題としてあると思うんです。
やはりそれは、男女平等に対する考え方ですとか、国がもっと子供と家族を支えるという思想の問題ですとか、そこに大きな違いがあるのではないかというふうに思っておりますけれども、少し御紹介いただければと思います。
○古橋参考人 実は、日本の育児休業、男性労働者も取得できるというときに、ちょうど北欧三カ国を回ってまいりまして調査したとき以来、その取得の仕方、休暇のあり方とか、それから休暇中の所得保障というのがとても大事だというのがよくわかりました。
育児休暇、さっき少し、両親休暇という言い方をわざわざいたしましたが、両親を対象としているということと、それから、スウェーデンの場合は両親に、両方に平等に担っていただく。出産は女性しかできないけれども、育児は男性も十分できるということ。それから、父親と接する、子供に接する、子供にとって父親と接する権利、それから父親にとって子育てをする権利、この両方を保障しようではないかということから始まっています。
当初は、全日休暇制といって、日本の前の形だったんですが、ずっと続けて休暇をとらなければいけない。そうなりますと、どうしても一人でずっと子供と向き合っている。これは子育てした方がいつも悩むことですが、大人と会話がしたいという気持ちがとても大きくなるんですね。そこで、時間短縮型の休暇が取り入れられているということです。
それからもう一つは、その時間短縮型も、今では八分の一、いわゆる一日の労働時間八時間のうちに一時間休む、二時間休む、それから三時間、四時間というふうに、それから六時間というのももちろんあるんですが、そういう形で自由に選べるということです。
しかも、これはぜひ私、この場をかりてお願いしたいんですが、今、日本の場合ですと、全日休暇型のときは失業保険の方から所得保障されますけれども、時間単位でとったときというのは所得保障がないんですよね。
スウェーデンの場合を見ていますと、例えば、一日二時間ずつ育児休暇をとったとした場合、四日間で一日分とカウントされます。そういう支給の仕方をしていますので、休暇と休暇中の所得保障がうまくマッチしている。ですから、共働きの場合は、片方が、お父さんの方が二時間、お母さんが二時間とすると、子供自体も保育所にいる時間が短くなる。送っていったりお迎えに行ったりする、時間が短くなるので、親と接する時間も長くなる、そういう効果が非常にあるということです。
日本の場合、ちょっとまだ、一時五〇%になりましたけれども、やはりそれが一つネックではないかな。とりやすさということ、それから十分お父さんにもとっていただくということを考えますと、やはりそこの底上げをぜひしていただきたいと思っております。
それで、先ほどちょっと言いましたが、お父さんの方が育児休暇をとったときに、非常に効果として、メリットとデメリットというのが実態調査をしたときに出てまいりました。
北欧三カ国で、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーでしたけれども、共通して言えることは、復職後、仕事内容も待遇も同じであるという、復職を非常にきちっと保障していることと、父親としての父性に関する理解が非常に深まった。それから、自分の仕事内容が、多くの場合、人とのコミュニケーションを必要とすることなので、人間を深く理解するためには子育てが非常に不可欠であったということに気がついたということ。それから、夫婦の関係でいいますと、非常に夫婦の危機があったのが免れて離婚しなくて済んだとか、それから、子育てに関して、子供というのは自分の思いどおりにならないということで、愚痴を夫婦で言い合ってお互いに慰め合う、そういうコミュニケーションをとれるというプラスがありました。
デメリットとしては、休暇中の所得保障が給与の八〇%だから何とか一〇〇%にしろという、非常にうらやましいデメリットでした。それから、職場復帰した後に労働能力が低下するのではないか、そういう不安。ですから、休暇中に職場との連携をぜひとっていただきたい。これは、日本で育児休業をとった親御さんたちから最もよく出ていた要望でした。
ですから、今現在、時間短縮が日本も育児休業で認められていますが、もうちょっと幅広くしていただけたら、もっとお父さんもとりやすくなるんじゃないかなと思います。
○高橋(千)委員 どうも本当にありがとうございました。
時間が来ましたので、終わらせていただきます。