日本共産党の高橋ちづ子議員は10日、衆院厚生労働委員会で、子ども手当法案に関連し、保育園の待機児童対策を口実にした国の最低基準の撤廃がねらわれていることについて、首相はじめ政府の姿勢をただしました。長妻厚労相は「全国どこに住んでも保障される最低の基準を持ち、その上に地方自治体が上乗せするのが基本だ」と表明しました。
高橋氏は赤ちゃんの急死を考える会の調査を紹介し、1980年代ゼロだった認可保育所での死亡事故が2000年からの8年間で22件へと急増していると指摘しました。
さらに無認可保育施設「ちびっ子園」での乳幼児死亡事故での裁判で03年に東京地裁が「無認可保育施設への社会的需要にこたえ極力多くの乳幼児を受け入れた」との弁護側の主張を退けて有罪判決を出したことを示し、「待機児童のためだといって、子どもの安全を守る最低限の基準さえ取り払うようなことがあってはならない。むしろ拡充すべきだ」と迫りました。
鳩山由紀夫首相は「保育所の基準は地域である程度自主的に定められることが大事だ」との立場に固執する一方、「質の確保された認可保育所を充実させることが原点に置かれなければならない」と答弁しました。
厚労省は昨年11月の赤ちゃんの急死を考える会の申し入れを受け、死亡事故の件数を調査するとともに、1月19日付で通知を出し、事故が起きたときの体制や症状などについて詳細な報告を求めることにしました。
高橋氏はその調査結果では1996年以降に認可保育所で35件、認可外で77件の死亡事故が起きているとして、「人出があれば防げた事故もある。人員確保が必要だ」「厚労省として最低基準は撤廃しないと表明すべきだ」と迫りました。
長妻厚労相は「憲法25条に国の役割として最低限度の生活を保障することだと規定されている。すべて最低基準も含めて地方に自由にさせたのでは、国の役割は果たせない」と答弁しました。
(2010年3月11日(木)「しんぶん赤旗」より転載)
――― 議事録 ――――
○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
先ほどの総理質問に関連をしまして、資料を、同じものの続きを使いまして、保育問題に絞って質問を行いたいと思います。
先ほどは、総理に対して、十二月七日の厚労省の数字を伺いました。すなわち、認可保育所で十九件、認可外保育所で三十件という死亡事例が、平成十六年から二十一年までの五年間のデータであったということであります。
資料の四を見ていただきたいと思います。これは昨日厚労省からいただいたものですが、ここには平成八年度からの数字がございました。十三年間で見ますと、認可保育所で三十五件、認可外が七十七件もの死亡事故があったことがわかります。
最初に山井政務官に伺いますが、このデータの意味を教えてください。
○山井大臣政務官 高橋委員にお答え申し上げます。
この四ページ目のデータの意味でありますか。これは、認可外保育施設の方が二倍以上死亡事例が多いということであります。
○高橋(千)委員 そういうことではなくて、十二月七日にデータを受けた時点では、なぜ五年間のものしか出ないのか、これでは全然、経年変化と、先ほど私が指摘した規制緩和との関係ですとか、そういうものがほとんど見えてこないのではないか、厚労省はそういうデータがないのかという指摘がこもごもされてあったと思うんですね。
ですから、実は平成八年度からの数字はあったのだ、では、本当はもっとあったんだけれども、もう処分をされていたのかどうか、具体的にお伺いします。
○山井大臣政務官 お答え申し上げます。
お子さんがお亡くなりになられた方々にも直接私も要望でお目にかからせていただきまして、ぜひ真相を究明していただきたい、さらなる調査をしてほしいという切なる要望を聞きまして、過去五年間にさかのぼって調査を初めてさせていただきまして、それを十二月七日に発表させていただいたところでありますが、その際には、市町村の書類の保存年限の関係などもありまして、それより古いことになりますと、市町村の保存年限を超えているところもありますので十分なデータがないとか、それに、どういう書類の形式によって報告するというのが、長妻大臣の指示でことしの一月からは統一書式を決めましたが、それまでは決まっておりませんでしたので、そういう体系的な調査ができないということで、過去五年にさせていただきました。
○高橋(千)委員 それにしても、やはりある数字は出すべきではなかったのか、このことはまず指摘をしておきたいと思います。
そして、先ほど紹介をしたように、五の赤ちゃんの急死を考える会の調査の意味をやはり本当に考えるべきだ。要するに、行政というルートがない中で、みずから新聞の報道記事や漏れ伝え聞いたことを頼りに、現地に行ったりして調査を集めたものである。ですから、もしやこの数字というのは、もっともっとその周りにあるだろうということが当然言えるわけです。しかも、死亡事故に限っておりますので、死亡には至っていないけれども、逆に、植物状態という形で後遺症と闘っている、そういうお子さんもいらっしゃるわけです。そうした実態を本当に見るべきだ。
今、いかにも認可外だけが大きいということが問題のように言われますけれども、七〇年代に百七件も、三けたの事故があった、そういうことを考えれば、なぜここからもっと調査がえぐられてこなかったのか。また、二〇〇〇年代に入って既に二十二件、これは全体の三割を超すまでに認可保育所の中で事件が起きている。これを本当にどう受けとめるのか、対応が問われると思うんです。そういう角度からきちんとした調査をするつもりがあるのかどうか、もう一度伺います。
○山井大臣政務官 高橋議員御指摘のように、本当に、私も当事者の方にお目にかかりましたが、やはりこういう過去の反省をもとに、どう改善していくのかということが非常に重要なことであります。子供の安心を信じて預けた保育所で、子供の命が失われたり、また、病気やけがが悪化するということがあっては決してならないと思っております。
そういう趣旨も踏まえて、先ほども答弁しましたように、一月十九日の、今回長妻大臣の指示で出しました課長通知におきましては、ここにも書いてありますけれども、事故の報告様式というものをきっちり定めまして、今後は、そのような事故があったときにはきっちりとこういう報告が上がってくるようにして、再発防止に努めたいというふうに思っております。
さらに、これを見てみましても、認可外を利用している方が十分の一ぐらいであるにもかかわらず、十倍以上の方々がお亡くなりになったという死亡事故が起こっているということは、本当にけた違いに認可外の方が死亡の危険性が高かった、これはそういうふうな非常にショッキングなデータであったと思っております。
○高橋(千)委員 そこで、資料の六に、今紹介いただいた事故報告様式、一月十九日に厚労省が通知をしたものである。もっと早くこうしたことができればなと思いますけれども、しかし、保育の実態ですとか症状などを詳しく書く、また、そのときの発生状況などを詳しく書くようになったということは、やはり会の提言を受けてそういう調査に乗り出したんだろうということで、多としたいと思います。
問題は、赤ちゃんには、自分の身に起こったこと、何が起こったかを証言することができません。顔に傷がある、唇を本当に傷がつくほどかんだ跡があり、もがき苦しんだことがわかる。我が子の変わり果てた姿を見て、親たちは、何が起こったのか、真実を知りたいと思います。しかし、経営者は、頻繁に様子を見ていましたと平気でうそをつき、SIDS、突然死です、だから園にも市役所にも責任はないと言ってのけることが多かったのであります。
大臣の問題意識を伺いたいと思います。まず、事実を隠すということを何としても防ぐ、このことをまずどうやっていくのか、それから、きちんと原因も調べずに、すぐに突然死だという都合のいい理由で片づけるということはきっぱりやめるべきだと思いますが、伺います。
○長妻国務大臣 ことしの一月から詳細な調査票に書いていただくということでありますけれども、今おっしゃられたように、その調査票に本当に誠実に書いていただけないということがある場合は、我々としてはどう把握するのかということにもつながると思います。
基本的には、やはりまずはその調査票、上がってきたものを分析して、そして不明な点があればこちらからも積極的にお問い合わせをする、そして、こちらからも実際にお話を聞く必要があるときは聞くというような積極的な姿勢がまず一つだと思います。
そして、もう一つは、保育所長などに、管理者に対する研修の中でそれを徹底するような研修もしていただきたいというようなこともお願いをしていく。あるいは、事故が起こった場合、親御さんにどういうふうな説明をすべきで、どう対処すべきなのかというようなことも、ほかの保育所の事例も含めて、研修の中で徹底させていただくというような取り組みをしていきたいと考えております。
○高橋(千)委員 今、研修ですとか直接見ていきたいというふうなことをおっしゃったと思いますけれども、やはり、また紙が来たとか、また調査がふえたというような受けとめで終わらないような、本当に政府の姿勢というものが大きく打ち出されることが必要だと思います。また、そのための、先ほど来認可外の問題もありますけれども、監督権限の強化の問題ですとかもやはり検討しなければならないのではないかと思います。
資料の三番目に、一番新しい、ことしの一月に起こった事故ですけれども、郡山市の無認可保育園で、やはりうつ伏せ寝で一歳児が死亡したという事件、刑事告訴を両親がされたという記事を載せております。実は、ここに、この園で働いていた保育士の陳述書がございます。全部は読めないので、一部紹介します。
この亡くなった赤ちゃんを担当していた保育士が、赤ちゃんを後ろから抱きかかえ、うつ伏せ寝にし、その上からバスタオルをかけ、さらに厚手の毛布で頭の上から足の先まですっぽり隠していたこと、とんとんと背中をたたいて泣いていた赤ちゃんが静かになると、さらに円柱形の、これは一メートルくらいあるんですが、重いまくらを背中の上に二つ並べたということを証言しています。赤ちゃんがその後ぐったりし、食事の途中だったので、離乳食が口と布団の間にへばりついて呼吸をふさいでいた、そういう様子が後でわかるんですね。
ところが、この保育士は副園長から、五分に一回は赤ちゃんの様子を確認したと言いなさい、まくらは乗っけていない、顔は横を向いていたと言いなさいと迫られます。夜の緊急職員会議では、きょう起こったことは口には出さず、自分の心の中にだけしまっておきなさいと全職員に述べたそうです。証言では、この赤ちゃんが亡くなってしまったこと、副園長からうそをつくように指示されたことがショックで、その日の夜は涙と吐き気と偏頭痛がとまらず、一晩じゅう泣いたり吐いたりしていましたと述べています。
この方の勇気は本当にすごいと思う、しかし、退職しなければ証言もできなかったわけです。証言は、事故の状況だけではなく、この園が人手が足りなく思ったということ、食事の途中でも泣き出すと無理やり寝かせつけるとか、保育のやり方にも問題があったこと、保護者と保育者が直接会わないようにさせていたことなど、問題点をるる指摘しています。
大臣に伺います。事故を検証するということは非常に難しいことです。また、このような証言を得られるということは非常にまれだとも思います。しかし、通報者を本当に守ること、そういう中でこうした透明性を図るということが、どうしても向かっていかなければならないと思いますが、見解を伺います。
○長妻国務大臣 これは、事故が一〇〇%起こらないようにするというのが基本でありますけれども、万が一事故が起こったときにはきちっとその状況を包み隠さず公表して、そして、再発防止に努めて二度と事故が起こらないようにするというのは、これはもう当然のことであります。
その前段として、これは国にも基準というのが保育所運営でもございますし、地方自治体の指導もありますし、それについて適正にしていくということと、あとは、先ほども申し上げました、やはり意識を持っていただくということで、保育に携わる管理者の方の研修等を通じて、何しろ、安全第一、事故が起こらないようにする、そして、親御さんにも十分に保育の中身をガラス張りにしていく、いつでも親御さんが気づいた点を指摘できるような体制にするなどなど、透明性の確保というようなことを研修を通じても徹底するというようなさまざまな取り組みの中で、事故が起こらない体制をつくるということが必要だというふうに考えます。
○高橋(千)委員 例えば、認可外保育所の、今おっしゃった基準でいいましても、六割以上が基準に合致していないというふうなデータがあるわけであります。この中身が、基準に合致していないといっても、さまざまあるわけですよね。例えば、窓ですとか換気ですとか、そういうのが足りないということから、本当に子供の安全にかかわるものまで、さまざまあるわけです。
そういう実態をきちんと検証していく、明らかにしていく、そしてその上で、もっと必要な権限を強めていくということもやらなければならないと思います。と同時に、それでもやはり不十分なことを補わなければならないことがあるのではないか。
公立保育所でも、もはや例外ではなくなっています。赤ちゃんの急死を考える会が〇八年六月にまとめた公立保育園や認可園の死亡事例集を見ても、例えば、鳥取県の町立保育所で、一歳四カ月の男児が押し入れの中にあったいすに挟まって窒息死をしている。このいすというのは牛乳パックでつくったいすで、そのいすの角と押し入れの天井に頭を挟めて窒息死をしたということが認められた事件であります。また、同じ牛乳パックのいすから転落して死亡したという事故は、土佐市の市立保育園でも一歳男児でございます。溺死など、さまざまあります。
こうしたものを見ていきますと、この中には、保育士がちょっと目を離したすきに事故が起こっている場面も非常に多いと言えるのではないか。あるいは、経験もない若い保育士が、引き継ぎも満足にされない、そういう立場の中で、ゼロ歳児、一歳児に食事を与え、目の前でリンゴのスティックを詰まらせて子供が死んでしまう、そういう事件も起こっております。
もっと人手があれば防げたのではないか、ゆとりがあって互いに連携し合えるという環境にあれば防げたのではないか、そういう事故もあるのではないかと思いますが、人員確保の点について伺います。
○山井大臣政務官 お答え申し上げます。
介護においても、医療においても、教育においても、保育においても、まさに現場のサービスの質を決めるのは人であります。人の数と専門性だと思っております。
そういう意味では、今回の子ども・子育てビジョンの中でも専門性の拡充というものをうたっておりますし、また、何よりも、今回の地域主権改革推進整備法案、高橋委員が一番気にされているのはこの点ではないかと思いますが、この中でも、厚生労働省としては、この人員配置、数の部分に関しては、遵守すべき基準として最低基準を守っていきたいというふうに考えております。
○高橋(千)委員 今、先取りして政務官がお話をされましたけれども、地方分権改革推進委員会の第三次勧告で、施設等基準について、原則すべて条例委任と。そういう中で、今おっしゃったように、居室面積、面積といってもいろいろ種類がありますが、居室面積の基準と人員配置基準などは義務として残したのだと。でも、全体で見ると、九割はまず取っ払われたということが問題なわけですね。しかも、範囲内だ、人員は守られていると言いますけれども、その最低基準は、昭和二十三年に作成されて以来、何ら改善もされておりません。
実際のところ、例えば、乳児の基準でいうと、はいはいする前は一・六五平方メートル。はいはいし始めると三・三平方メートル、畳二畳。ですから、足して二で割って一・五畳あればいいんだと。いわゆる丸めでカウントしているというのが実態なわけですね。これは横浜市でもあった。あるいは、北九州市でも一つの布団に、さっきベビーベッドに二人の話をしましたけれども、一つの布団に三人の子供を寝かせて、大人用のタオルケットを一枚かけている。でも、最低基準はちゃんと守っているんですよ、丸めだから。こういう告発が現場からあるんです。
これまでも、こうした丸めで基準オーケーを認めてきたのではありませんか。
○山井大臣政務官 高橋委員にお答え申し上げます。
この人員配置基準というのは一番重要なところでありますので、ここに関してはこれからもきっちり現場に守っていただくようにしていきたいと思っておりますし、あくまでも基準は最低基準でありますので、それより上を目指していただくよう現場に努力を求めていきたいと思っております。
さらに、今後行います次世代育成の検討会の中でも、今の人員配置基準で十分なのか、不十分なのか、そしてこの保育の質を上げるためにはどうすればいいかということを議論していきたいというふうに考えております。
○高橋(千)委員 今政務官から、最低基準である、それより上を目指すのだという答弁がございました。
それを大臣にもきちんとお答えいただいて、総務省に対して、厚労省は最低基準は撤廃しないのだと言ってもらわなければなりません。要件を緩和したり、定数の上限を取り払って子供を詰め込んで、そういうことをやって、それに見合う人員配置ができるでしょうか。そもそも、最低基準がなくなりますと、運営費交付金の根拠がなくなっちゃうわけですよね。
総務省がこの間言っているのは、先日もこの委員会で答弁がございました、民間保育所の一般財源化を、子ども手当の財源としてやっていくんだと。要するに、国が出す分を地方に移して、地方負担とバーターでやる、こういうことを言っているわけですよね。これを絶対にやるべきではない、また、最低基準は絶対に取っ払うつもりはないということを、大臣、お答えください。
○長妻国務大臣 国の役割というのはどういうものなのかということでありますけれども、憲法二十五条には最低限度の生活があるし、ナショナルミニマムという考え方もあるということで、すべて、最低基準も含めて地方に自由にやっていただくということだと国の役割が果たせなくなるということは、私も考えております。
ただ、その最低基準が、先ほども指摘をいただきましたように、昭和二十何年から検証がされているのかいないのか、なかなか不明確な点があるというのも御指摘を受けておりますので、私としては、今ナショナルミニマム研究会をつくって、そういう最低基準を見直す、あるいは新たな指標をつくっていくという取り組みもきちっとした上で、やはり最低限度、これは全国どこに住んでも保障されるというような基準があって、そしてその上にプラスのオプションとして、プラスのサービスとして、いろいろ地方自治体ごとに展開をしていただくということが基本だというふうに考えております。
○高橋(千)委員 最低限度は拡充こそすれ、それを取り払うものではないということ、これを上乗せしていくものだという確認がとれたかと思います。その立場で絶対にぶれることなく頑張っていただきたいということを重ねて指摘して、終わりたいと思います。
ありがとうございました。