日本共産党の高橋ちづ子議員は12日の衆院厚生労働委員会で、子ども手当法案に関し、来年度からの月額2万6000円の“満額”支給について「大胆な見直しをすべきだ」と求めました。
高橋氏が「月2万6000円で子育ての費用は基本的にまかなえると考えているのか」と質問したのに対し、長妻昭厚労相は「すべてではないが、子育ての基礎経費の相当部分にあたる」と答えました。
高橋氏は、文部科学省のデータでは公立小学校の学習費の総額が年間30万7723円かかり、これでは子ども手当分が丸々なくなり、中学校では16万円も足が出ることを指摘しました。
その上で「貧困の克服のためには特別の手だても必要だ。保育の充実や小学校入学前までなら3100億円でできる医療費無料化など子育てしやすい環境整備も一体に取り組む必要がある」と強調しました。そして、「月額2万6000円、予算額5兆4000億円では、どこかにしわ寄せがくるか、あるいは増税かと不安になる」と述べて、大胆な見直しをするよう求めました。
長妻厚労相は「まず(2万6000円という)目標を設定して、それにつきすすむことが重要だ」と、見直すつもりのないことを表明しました。
(2010年3月13日(土)「しんぶん赤旗」より転載)
――― 議事録 ――――
○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
きょう半日の議論で採決をするという与党の提案でありますが、非常に残念に思っております。
今法案は、二十二年度における子ども手当の支給に関する法律案でありますから、二十二年度に限っていえば、児童手当の拡充にすぎず、扶養控除の廃止等による負担増も直接にはほとんどないであろうと、そういうつくりは問題なんですが、我が党は、児童手当の拡充をこれまで一貫して主張し、直近の総選挙でも、十八歳までの支給を目指しつつ、財政に責任を持ちながら、当面、手当額を倍にと主張をしてまいりました。その点だけで見れば、反対はできないと思います。
しかし、これまでの公明党さんが言われた児童手当の拡充だって、それは選挙目当てじゃないか、そういうことはあっても、子供たちのためにどうかという一点に限って賛否を決めてきました。
こういう点で、今回の法案のつくりは非常に問題があるわけです。次年度以降の手当をどうするか、直ちに議論が始まると思います。満額になるのか、財源はどうするのか、あるいは質疑の中で出された児童養護施設に入所する子供の扱いや給食費などの相殺の問題など、課題は多く、時間は余り残されておりません。そうした点でも、見切り発車的制度創設は将来に禍根を残すことにならないか、懸念だけが広がっています。
まず、大臣に伺いますが、来年の通常国会に提出する子ども手当法案、本体と呼びますけれども、これはいつごろまでに決めるのでしょうか。どこが検討の主体となり、国民の声やこれまでの審議がどのように生かされますか。
○長妻国務大臣 二十三年度以降の制度設計あるいは財源のお話だというふうに思います。
これについては、私もここでも答弁をさせていただきましたけれども、現物支給の一つのかなめである幼保一体化の議論と同時並行的に進めていきたいというふうに考えておりまして、現金支給と現物支給の議論の中で、財源あるいは制度、そして、今国会でもいろいろ御指摘をいただいた論点も含めて、それについて議論をしていくということであります。
そして、一つの場としては、内閣に設置をした子ども・子育て新システム検討会議などの場において、新たな次世代育成支援のための包括的なシステムの構築というような議論の過程で、この制度、財源を詰めていくということであります。
○高橋(千)委員 結局、いつごろまでにというのが明確になっていなかったと思います。予算要求の関係があるから夏ごろまでにということが言われているのかなと思いますが、そこは次の質問のときに一緒にお答えいただければいいと思うんです。
でも、自治体では、今回の子ども手当が六月支給という至上命題がございますので、政府から既に詳細な施行令の案が出されております。法案はまだ通っていないにもかかわらず、案といいながら、それをもとにつくらざるを得ない。そうでなければ間に合わないのです。そういうやり方を、また同じことを繰り返すのではないか。そのことの不安はどうしてもぬぐえないのです。
まして、今お話しされた幼保一体化という問題は、これ自体が大変な問題を含んでおりまして、先般質問させていただきましたが、保育の質の問題、これも非常に議論のあるところでありまして、これ自体、本当にこのまま進んでいいのだろうかということを重ねて指摘せざるを得ません。
それで、二万六千円の根拠、これはずっと議論をされてきました。いまだにはっきりしていません。選挙だから額をふやしたという説と、控除の廃止でも差し引きプラスになるためのぎりぎりの線が二万六千円必要だったのだという説がございますが、多分どちらも正解だと思います。
どう聞いても、多分明確な答えが返ってきませんので、問いを変えます。二万六千円で子育ての費用は賄えるという立場なのでしょうか。
○長妻国務大臣 いろいろ御質問をいただいたわけでありますけれども、二万六千円で子育て費用すべてを賄えるというふうに我々は思っておりませんで、基礎的な経費の相当部分というふうに考えているところであります。
○高橋(千)委員 これはすごく大事なことなんですね。これからの政策にかかわって非常に大事なことですので、もう一回、具体的に聞かせていただきたいと思います。
例えば、文部科学省の子どもの学習費調査では、義務教育であるはずの公立小学校でさえ、学習費の総額は三十万七千七百二十三円にもなって、そもそも、子ども手当が丸々それだけでなくなってしまいます。中学校では四十八万四百八十一円で、十六万円も足が出ます。そもそも、年収二百万から四百万の家庭では、約半分が教育費に消えているという実態です。
つまり、現金を投入すれば、当然、一定負担は軽くなるし、貧困の家庭には大きな助けになる。これは間違いないと思うんですね。ただ、手当で足りているという考えに立てば、就学援助だってもう要らない、そういう考えになりかねない。ここを皆さんはどう考えているかということなんです。
現在、就学援助の受給者数は百四十四万人にも上り、一三・九%にも達しています。低所得者に対する就学援助のような制度は、一律支給する子ども手当の前提として絶対維持しなければならない、また逆に、貧困を解決するためには拡充しなければならない、このことをどう考えますか。
○長妻国務大臣 私どもも、二万六千円で子供にかかる全体の経費がカバーできるというふうには思っておりませんで、その中の、先ほど答弁したような考え方でありますので、二万六千円が支払われるから子供のいろいろなものにかかわるこれまでの優遇政策が全部必要ない、こういうような考え方ではないというふうに私は考えております。
○高橋(千)委員 もう少し具体的に言わなきゃ。これまでの子供にかかわる優遇政策とかというのではなくて、この間議論されてきたのは、本当に子供の貧困率が高いという問題、それから、所得の再分配機能が日本は欧米諸国に比べて弱いのだということは、もう政府自身がミニ経済白書でも言っておりますし、認めているわけですね。
本当に子ども手当によってそれが効果が高まるのか。それは、貧困率は若干下がるかもしれませんよ、ただ、厚労省は試算がないということでしたので。そういう中で、低所得者の世帯に対してきちんと手当てをしていた部分が子ども手当で賄えるとなったら、改善は、結局もとに戻っちゃうんですよ。格差が広がるか、あるいは今のままか、そういうことなんです。だから、そこはきっちりととっておかなければならない。そういう認識はございますか。
○長妻国務大臣 二万六千円ですべてカバーできるというわけではありませんので、それと引きかえにこれをやめる、あれをやめるというような議論が直ちに起こるということではないというふうに思います。
そして、低所得者の方ですけれども、先ほども控除から手当へというお話を申し上げましたが、今、税調でも検討していますのは、給付つき税額控除という考え方でありまして、控除というのは税金を払っておられない低所得の方は何の意味もないわけでありますので、そういう方にお金をお戻しするという、これは、厚生労働省の所管ではなくて税金の範疇に入るわけでございますけれども、そういうトータルの施策の中で格差の対策ということも考えているところであります。
○高橋(千)委員 直ちに起こるとは思わないとおっしゃいました。絶対やらないという答弁にはなっていないわけですね。それはやはり、財源が不安定だから、絶えずそういう議論が起こるんですよ。
今、生活保護世帯の子ども手当の扱いをどうするかということが俎上に上ったときに、私は政府に対して申し入れをいたしました。それが、今の児童手当がやっているように収入認定をするけれども、その分加算をして、実質プラスになるように手当てをするんだと、運動があった中で、そういう回答が得られたわけです。ですが、そのやりとりの中で、厚労省が真っ先に言ったのは、手当があるからね、そういうことは検討の中であったとおっしゃっているんですよ。だから、絶えずそういう問題は起こるんです。
今、就学援助の問題も一つ例にして出したわけですけれども、これだって、〇五年の三位一体改革で就学援助の国庫補助が廃止されて以降、生活保護の対象に準ずる程度に困窮しているという準要保護家庭の認定に際しては、自治体の判断となったために、基準を変えて対象者の絞り込みを行っている自治体があったということが調査でも判明し、国会でも繰り返し指摘をされてきたところです。
結局、この間も、地方と国の分担ということがあるわけですから、こういう形で結果として絞り込みをされるということは絶対あり得るのだ、ここに対して、それは絶対つくらない仕組みをやると言っておかなければ。子供の貧困を改善させるための土台を維持し、拡充するんだということをきちんと決めておかなければならない、この確認をもう一度。
○長妻国務大臣 まず、直ちに、二万六千円を払うからほかの施策はもうやめますというような議論にはならないということであります。そして、貧困対策といった場合、お子さんが、中学以下の方がいるいないにかかわらず、例えば住宅手当というのも拡充をしておりますし、今回子供の議論をしていただいている以外についても、お子さんの有無にかかわらない貧困の対策というのも我々打ち出させていただいておりますので、そういう全体の中で、貧困、格差ということにも正面から取り組んでいくということであります。
○高橋(千)委員 それは当然のことですが、今ある制度をまず維持するんだ、絶対に削らせないんだ、その上で拡充するということを言っていただかなければならないわけです。
一つだけ提案をいたしますけれども、そういう点で一つ大きなかぎとなるのは、医療の問題ではないかと思うんですね。
九日の参考人質疑で、京都の中学校で養護教諭をしている関口てるみさんが、保健室から見た子供の貧困について訴えたということをお聞きになったと思います。本当に、こもごも深刻な実態が出されました。頭痛がひどく、病院に行くように勧めても、お金がないから病院に行かない子供、ようやく行ったら脳梗塞の可能性があった。格差によって平均寿命が変わってしまうのではないか、それぐらいに子供たちの健康状態、生活状態は悪くなっているという指摘があった。
これを受けとめなければならない。これはもう、正直、手当だけではどうにも解決できないわけですね。でもこれは、医療費の無料化、小学校入学まで三千百億円、この間、予算委員会でもやっていただいたわけですが、卒業まで、その倍だとしても財政効果は抜群に高いわけです。
自治体は、もうほとんどのところでそのくらいはやっているわけですから、それを国が小学校までは責任を持つ、全国どこでも子供の医療、子供の命を守るためにそこまで責任を持つ、そういうメッセージを出せば、自治体はこれまで医療費助成などを独自にやってきた部分をもっと子育て支援に振り向けることができる、そういうことも考えるべきではないでしょうか。
○長妻国務大臣 先ほど前段のお話でありますけれども、生活保護の皆さんという意味では、母子加算を復活させていただいたり、あるいは児童扶養手当も父子にも支出をする。そして、今の医療費の話でございますけれども、これについてはいろいろ参考人の方からも御指摘があったということで、御存じのように、中学生までのお子さんについては、保険証の取り上げというのはしない、高校生までについてもそういうような措置をするというようなことであります。
そして、自治体全体でいっても、医療費の優遇施策というのは独自にされておるところもございますし、国としても、乳幼児等でございますけれども、自己負担二割というのを一律に決めさせていただいている。そういうような形で、我々としても、そういう本当にお困りの方がきちっと医療を受けられるような体制整備というのにはこれからも努めてまいりたいと思います。
○高橋(千)委員 子ども・子育てビジョンでは、「親の経済力や幼少期の生育環境によって、人生のスタートラインの段階から大きな格差が生じ、世代を超えて格差が固定化することがない社会を目指します。」と書いています。これ自体は、非常に立派な理念だと思うんですね。
だからこそ、一律の手当とともに、つまり、所得制限がない手当ですから、それをやるからには、やはりその前の土台のところ、貧困の克服のために特別な手当も絶対に必要だということ。これまで、現金給付と現物給付は車の両輪でという話をしてきました。しかし、忘れてはならないのは、そのスタートラインに立てないところをきちんとやらなければならないということなんですよ。
そうして、トータルで見ると、子ども手当だけに五兆四千億円。そうすると、やはりどこかにしわ寄せが来るのではないか、しわ寄せが来ないとすれば増税になるしかないのではないか、これはだれでもわかるわけなんです。
だから、初めから二万六千円ありきでは増税やむなしで、未来への投資がツケに回るんだ。そういう考え方ではなくて、大胆な見直しをする、このことを決意するべきではないか。もう一言。
○長妻国務大臣 今、平成二十三年度の子ども手当の給付水準についてお尋ねがありましたけれども、やはり、子供にかかわる予算というのは、もっとほかに重要なことがあるということで、これまで後回しにされてきた。その結果、やはりGDP比も子供にかかわる予算が下がり、そして、結果として少子化の流れも加速していった。そういうふうに私は考えておりますので、今回は、大目標をきちっと掲げて、現物サービスも五カ年計画で掲げさせていただいておりますので、それに向かって全力で努力をしていく、後回しにしない、こういうようなことで取り組んでまいりたいと考えております。
○藤村委員長 高橋君、時間が過ぎております。
○高橋(千)委員 全く答えがすれ違っております。聞いたことに答えていないんです。
積極的に努力をする、一緒にやる、それは本当にいいことなんです。だけれども、二万六千円ありきで物を始めると、五兆四千億円の財源のために結局未来へのツケが回るのではないか。だから、それを前提としないで、きちんとした検討をすべきではないか。大胆な見直しも恐れないで取り組むということを聞きたかったんです。
○藤村委員長 長妻大臣、簡潔に願います。
○長妻国務大臣 本当に、今まで後回しにされがちだった分野でありますので、私は、ここで目標を掲げてそれに突き進んでいくということは、過去、もうちょっと早い時期にそういうことがなされればよかったとも思っておりますけれども、この機会にそういうような目標を掲げて取り組んでいくということであります。
○藤村委員長 高橋君、取りまとめをしてください。
○高橋(千)委員 とても残念です。長妻大臣、思い切ってそういう大胆な見直しも検討するとお答えになればよかったと思います。
議論はまだまだ続けるべきだ、審議は続行するべきだということを重ねて指摘して、終わりたいと思います。