水道事業育成こそ必要
民営化推進の法改定 高橋氏が批判
衆院厚生労働委員会で29日、地方自治体の水道事業の運営権の民間企業への委託(コンセッション方式)を推進する水道法改定案が、実質審議入りしました。日本共産党の高橋千鶴子議員は、必要なのは民営化ではなく、「水道事業の担い手を育て、必要な財源を投じてライフラインを守ることだ」と主張しました。
改定案は、自治体が水道事業者であり続けながら、民間業者が厚労相の認可を受け水道施設の運営権を受託する仕組み。与党は大阪北部地震による損壊を根拠に、「老朽化対策」を進めるとの口実で成立を狙っています。
高橋氏は、課題として指摘されている経営基盤の脆弱(ぜいじゃく)性がなぜ生じたのかと質問。加藤勝信厚労相は「広域化が進まない中、節水意識の向上など、水需要の減少に伴い料金収入が減少した」ためと答弁しました。
高橋氏は、職員数がピーク時より3割減り、給水人口5万人未満の事業体の職員は1~2人、技能職はゼロだと紹介。世界では民営化後の管理運営水準の低下などから再公営化が進むなか、政府がサービス水準の担保策として掲げる民間業者への「モニタリング(監視)」についてただすと、宇都宮啓審議官は、全てを自治体自ら行う必要はなく、「専門的知見をもつ第三者を活用する」と答弁。高橋氏は、すでに8割の事業者が水質検査を外部に委託しているとし、「結局、モニタリングも民間委託になるではないか」と指摘しました。
高橋氏は、民営化推進は水道事業の維持・向上につながらず、「自治体がリスクはとって、もうけは民間に回すもの」と批判しました。
(しんぶん赤旗2018年6月30日付より)
――議事録――
○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
初めに、きょう午前中、参議院の本会議で働き方改革法案が成立をしたことに強く抗議をしたいと思います。もうそもそも働き方改革と呼ぶこと自体がふさわしくないのではないかと。
衆議院のこの委員会で加藤大臣が、高プロのニーズがどこにあるのかということに対して答えた答弁も、全く、いわゆる答弁に合わせて聞いたものであったと、言ってみれば虚偽答弁であったということが参議院の委員会の中で明らかになったわけであります。
到底、立法事実はないし、法案は廃案を、撤回をするべきだという立場に変わりはありませんが、今後とも、詳細な省令を詰めていくことになると思いますが、そうした中でも議論を続けていきたい、このように思っております。
それで、きょうは水道法について質問をいたします。
資料の一枚目は、二〇一三年三月の新水道ビジョンから、取組の目指すべき方向と書いております。これは、水道の理想像という言葉があるんですね。私たちにとって望ましい水道とは、時代や環境の変化に的確に対応しつつ、水質基準に適合した水が、必要な量、いつでも、どこでも、誰でも、合理的な対価をもって、持続的に受け取ることが可能な水道でなければならないと。
これは、いつでも、どこでも、誰でも、つまり、これは国民皆保険制度と同じ、国民皆水道という考え方だと思います。憲法二十五条に基づき、国民の生存権を保障するもの、それだけ貴重な、重要なものだと思っています。
それで、資料の二枚目に、この法案の目的規定、第一条がどのように変わってきたかというのを整理していただいたものがあるんですけれども、これは、昭和三十二年に成立した当時が書いてあるんですけれども、三十二年と昭和五十二年と、そして三番に今国会と書いてあります。
変わっていないのは、「清浄にして豊富低廉な水の供給を図り、」この部分が変わっておりません。そして、逆に変わったのが、「水道事業を保護育成することによつて、」というところが、次のところに、その上に「水道を計画的に整備し、」というのが入った。これは、やはり普及率を高めていくという段階では必要だったかなと思うんですけれども、ところが、今回は、この「保護育成」という言葉が取れて、「水道の基盤を強化する」ということになった。これは、基盤を強化することが悪いという意味ではなくて、意味が全然違ってきたんじゃないのか、こう思うんです。
それで伺いたいのは、水道法の趣旨と目的が変わった理由を伺います。
○加藤国務大臣 今委員、歴史的にも、この水道法の趣旨をお示しになられました。
この第一条には、水道の布設及び管理を適正かつ合理的に行うとともに、水道を計画的に整備し、また、水道事業を保護育成することにより、清浄で豊富な、低廉な水の供給を図り、公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与すること、こう規定されているわけであります。
今般の改正案では、将来にわたり安全な水の供給を維持するということで、水道を計画的に整備することや、水道事業を保護育成することも含む、これは広い概念として「水道の基盤を強化する」ということを法の目的に掲げたところでございます。
水道事業に対する技術的、財政的支援を行う旨の規定、これは引き続き残しているところでございますので、また、水道事業が地域独占の事業であることも維持しており、水道事業を保護育成することにも変わりがない、こういうふうに考えております。
○高橋(千)委員 含まれているんだ、広い概念になっているんだというふうにおっしゃるんですけれども、やはり、あえて保護育成という言葉を使ってきた、その理由があったのではないか、そこにこだわりを持っています。
もう一回、一枚目の資料を見ていただきたいんですけれども、安全でなければならない、持続しなければならない、強靱でなければならない、これはいずれも、どれ一つも欠けてはならない、そう思うんですね。だから、その点に照らして、今、含まれているという表現でいいんだろうかということが問われていると思うんです。
そもそも、水道事業の維持・向上に関する専門委員会報告、これは平成二十八年の十一月に出されておりますけれども、全ての管路更新に百三十年かかるという老朽化の問題。先ほど、高木副大臣がこれを答えたのに対して、百三十年というのは、なかなか例えとしてはどうかなという指摘もありましたけれども、しかし、現実に、百三十年よりかかるかもしれないわけですよね、下手すれば。そのくらいの事態である。そして、耐震化がおくれている。今、三八・七%、四割を切っている段階である。そして、小規模で経営基盤が脆弱なところがまだ多い。そういうことが指摘をされたと思うんです。
その問題点は当然共有できるものであるんですけれども、なぜそうなったのかというのが余り書かれていないなと正直思うんです。そのことを大臣にちゃんと答えていただきたい。
○加藤国務大臣 今お話がありました平成二十八年十一月の水道事業の維持・向上に関する専門委員会の報告では、老朽化の進行、耐震化のおくれ、これが指摘をされておりまして、これについては、水道事業者等が水道施設の状況を必ずしも的確に把握をしていなかったこと、また、更新計画が策定できていなかったこと、また、計画的更新のための必要資金を確保できていなかったこと、こういったことが要因になっているというふうに考えております。
また、小規模で経営基盤が脆弱という課題については、これまでもずっと認識がされ、水道事業者の広域化という議論があったわけでありますけれども、この広域化については、それぞれの事情が異なるということで、なかなか、そうした統合というんですか、広域化が進まないということ、あるいは広域化のメリットがなかなか見えてこなかったことといった事情があって、そうした広域化が進まない中において、人口減少や、あるいは節水機器の普及ということによって、あるいは節水意識の向上、まさに水需要が減少し、それに伴う料金収入が減少したということが更にその経営基盤の脆弱化を図った、こういうふうに考えております。
そのため、今回の法案では、水道施設台帳の作成、保管、あるいは水道施設の点検や必要な修繕等の義務づけ、あるいは水道施設の計画的な更新等々の措置を設けること、また、広域連携が推進するようにすること、そうしたことも、そうしたいわば反省に立って盛り込ませていただいているところであります。
○高橋(千)委員 質問するときに、今、課題は共有できるが、なぜそうなったのかと質問しましたけれども、今の答弁を聞いていると、共有できるという言葉を撤回しなくちゃいけないのかな、問題意識が全然違うのかなと思うわけですね。
だって、大臣、今、広域化が進まない中においてと、はなから広域化じゃなきゃいけないという前提があって、だから、進まないから小規模で脆弱なんだという議論にしてしまうと、我々は広域化が全部だめと言っているわけじゃないですよ、全部だめと言っているわけじゃないけれども、そうじゃない、自治体の選択権というのがちゃんと残されていなきゃいけないし、それでも成り立つ水道事業でなければならないんだということを考えているわけなんですよ。そうすると、全然問題意識がずれてくるなと。
今、節水意識と言いましたけれども、そもそも、水が多過ぎるじゃないか、需要が過大だったじゃないかということも指摘をされたと思うんですね。
新水道ビジョンの中には、これまで水道事業者は将来の最大給水量を見込んで施設整備を行ってきました、念のため、念のためとマックスやってきた、それで、今後、水道事業者は、施設の更新時に、当該施設の余剰分を廃止して規模を縮小するのか、あるいは一定の目的のために更新するのか、厳しい判断を迫られていると。
つまり、余剰分を廃止するという選択肢だってあるんですよ。ダウンサイジングということがあちこちで言われていますよね。こうしたことを、やはり現実をちゃんと見なければ、そういう現実を見た上で、そういう選択肢も含まれているんだと。そうじゃなければ本当の解決にはならないと思います。
これは、問題意識、大臣、どうですか。
○加藤国務大臣 将来の動向を見据えて、それに合わせていくというのは、当然必要になってくることだと思います。
ですから、その上において、先ほどちょっと、広域化について意識が違うとおっしゃったんですが、例えば、隣同士であるものが浄水場を一つにしていくとか、そうしたさまざまなやり方も、当然その中には含まれるのではないかなというふうに思います。
○高橋(千)委員 そんな、急に身近なコミュニティーのような話をされても、違うと思いますよ。
これは、議論は、広域化の問題、また続けていきますけれども、まず、大阪北部地震で、改めて、水道、ガスなどライフラインの重要性が問われたと思います。きょうも何人かの方が議論をされておりました。
資料の三を見ていただきたいんですが、都道府県別の管路経年化率、これは全国平均は、右端にあります一四・八%なんですね。それで、大阪府は二九・三%で、断トツの老朽化が進んでいる、こういう状態なわけです。
資料にはないんですが、大阪市はそもそも四四・九%で、十三大都市中、最大という老朽化だということです。二〇一四年四月に橋下前市長が水道事業の民営化を提案し、維新を除く全ての会派に反対され、つまり、自民党さんや公明党さんも反対し、二度目の案も議会に否決され、廃案となった経緯がございます。
そこで伺いますが、今回地震があったから、法案審議が前倒しをされたと思います。この法案が、こうした問題を解決するのでしょうか。
○宇都宮政府参考人 お答えいたします。
今御指摘いただきましたように、このたびの大阪府北部を震源とする地震では、断水等により国民生活に多大な支障が生じて、水道という重要なライフラインの強靱化の必要性、それから、大阪における老朽化の進行、こういったことにつきまして、改めて認識したところでございます。
そこで、今回の水道法改正法案におきましては、先ほど大臣からも答弁ございましたが、水道施設台帳の作成や保管、施設の点検や必要な修繕等の義務づけ、あるいは水道施設の計画的な更新、更新費用を含む事業の収支見通しの作成や公表の努力義務といったものについて、水道事業者等にそういったものを規定いたしまして、事業者のアセットマネジメントの取組を推進することとしていることでございます。
これによりまして、水道事業者等が中長期的な観点から必要な財源を確保した上で、施設の更新や耐震化を着実に進めていくということで、地震に強い、被害の少ない水道を構築することにつながるものであると考えているところでございます。
○高橋(千)委員 義務づけただけでは、予算はがばっと減ってきたという話をしているわけですし、どこからも生まれないわけですよね。
民営化をしても、では、これまで自治体の責任でここまでおくれてきたものを、何で我々が引き受けるんだという議論になりますよね。これは別に大阪市を責めているわけじゃないんですが、そういう議論にこれからなっていくわけですよね、民営化すればということでいうと。
そうすると、やはりそれは、最低限は責務や整備をさせることは必要なことかもしれないけれども、この法案によって解決するのではない、うんと議論しなければならないことがあるということだと思うんですね。
それで、伺いたいんですけれども、ちょっとその前にですが、法案の目玉である官民連携、コンセッションという形式を水道事業でも導入しようという、これが切り札となるのかということなんです。
地方公共団体が、水道事業者等としての位置づけを維持しつつ、大臣の許可を受けて、水道施設に関する公共施設等運営権を民間事業者に設定する、これがコンセッションの考え方だというわけですけれども、まず、資料の四枚目に、水道事業にかかわる職員数がありますけれども、ピーク時と比べて三割減少しています。給水人口規模で見ると、五千人未満のところ、一番下のところにあるんですが、最多が二名、最少が一名、こういう状態ですよね。技能職はゼロ、こういう現状なんです。
だけれども、これはまず認識は共有できるんでしょうか、大臣。技術の継承は深刻な問題だと思います。
それで、民間に運営を仮に任せたとしても、では、この職員がどうやってモニタリングをするのか、その体制を確保するのか、非常に矛盾していると思いますが、いかがでしょうか。
○宇都宮政府参考人 お答えいたします。
御指摘いただきましたように、小規模事業者の場合におきましては、職員数は非常に少ないということでございます。
モニタリングにつきましては、水道法に基づく水道施設運営権の設定の許可を受ける地方自治体が責任を持って行う必要がございますが、場合によっては、必ずしもその全てを水道事業者自身がみずから行う必要はなくて、水質検査機関等の専門的知見を持つ第三者の役割や専門性を踏まえて、適切なモニタリングの体制を構築して行うということも考えられるところでございます。
今後、省令におきまして、許可基準に関する技術的細目として詳細な基準を定めますとともに、ガイドライン等において許可基準の明確化や許可申請時の留意事項等を示してまいりたいと考えているところでございます。
○高橋(千)委員 ちょっと、いっぱい書いているんですけれども、少し飛ばします。
今、責任を持って全てをやるわけじゃないんだというふうにおっしゃったんですよね。それ自体が問題だと思うんです。結局、今、第三者機関に移す場合に、委託をする場合もあるんだとおっしゃいました。今、八割の水道事業者が水質検査を登録機関に依存をしています。既にそういう状態なんですね。つまり、みずからチェックする力を持たないで、モニタリングだって民間委託、こういうことになるわけじゃないでしょうか。
これは、水道事業のコンセッションについて議論された内閣委員会でも、いろいろなこういう議論がされているんですけれども、審議官が、これからの水道事業として、水道の基盤強化のため、広域連携や官民連携などを推進すると答弁をされております。
かつ、再公営化、きょうも出ましたけれども、再契約のときに更新をせず、公営に戻るという事例が海外でふえている、こういう指摘に対しては、海外のコンセッション事業で問題になったことのある管理運営水準の低下、設備投資の不履行といったサービス水準については、コンセッション事業者の業務、経理の状況を適時適切にモニタリングすることにより、早期に問題を指摘し、改善を求めることができる、こう言っているわけですよね。
できないということを今もう答弁しているじゃないですか。これは全然担保がない。そう言えませんか。
○宇都宮政府参考人 お答えいたします。
先ほど申し上げましたように、みずから行うことでなくても、専門的知見を持つ第三者というものを活用いたしまして適切なモニタリング体制を構築して行うということであれば、そういったことは可能かと思うところでございます。
○高橋(千)委員 ちょっとその答弁、本当に、こう言っては失礼ですが、恥ずかしくないでしょうかね。そう思いませんか。
本当に基盤が脆弱になってきて、人手も足りなくなってきて、それで民間のノウハウを、委託するんだと言って、だけれども、ちゃんとモニタリングもするんだから大丈夫だと言っておきながら、じゃ、本当にできますかと言うと、いやいや、第三者に任せることもあるから大丈夫だ、こういう話では、全然、結局、どっちも大丈夫じゃないということなんですよ。
午前の高木副大臣の答弁の中にも、再公営の問題が指摘をされたときに、民間事業者に人材を、これまでの水道事業をやってきた、要するに公務員ですよね、その人材を派遣するんだと。それで、再公営したときにどうするかと言ったら、その人が戻ってくるから大丈夫とおっしゃった。これは本当に、もう語るに落ちたということなんですよ。
これだけ人が足りなくなってきている中で育てられないでいるのに、もう二年か三年で異動するかもしれないような人を、民間に行って戻ってくることもあるから大丈夫よと言ったら、一体、何十年も委託をすると言っているのに、あら、もう二、三年でだめかもしれないということを見込んでいるんですか、こういう話になるんですよ。
政府が、それでも海外のように失敗はしないと言う最大の根拠は、従来のPFIと違って、地方公共団体が水道事業者であり続けるから、リスクは自治体がとって、もうけは民間に、だから成長戦略だと言いたいんだと思うんですね。
水は国民共有の貴重な財産、これは水循環法にも明記されています。リスクは、責任を持ってというんだったら、最初から民営化なんかしないで、人材をちゃんと育てて、必要な財源を投入して、ライフラインを守るべきだと思うんです。
全然、予定していた問いができませんでしたので、引き続いて来週やりたいと思いますので、十分な時間を委員長にお願いしたいと思います。
これで終わります。
――資料――