日本共産党の高橋ちづ子議員は26日の衆院厚生労働委員会で、社会保険病院と厚生年金病院の新たな受け皿を作る独立行政法人地域医療機能推進機構法案に関連し、「病院売却ありき」という政策をとらないよう強く求めました。
高橋氏は、長妻昭厚労相が「(病院を)新機構が受け入れた後も売却先があれば民間に売却する」と表明していることについて、その法的根拠と、売却に手を挙げている施設がどのくらいあるのか質問。長妻厚労相が法的根拠については答えず、「売却は一病院だが、現在地方と協議・あっせんなどしているのが十例」と答弁したのに対し、「法的根拠もなく、全体としてすすんでいるわけでもないのに売却ありきはおかしい」と指摘しました。
高橋氏は、先考事例として、岩手労災病院を花巻市が買い取り医療法人に無償譲渡したが、せき髄損傷患者受け入れができないなど約束がほごにされていると指摘。「市は2億5千万円も税金を投入し、医療は守れない。住民が犠牲になってだれが責任をとるのか」と迫りました。
足立信也政務官は、「譲渡はよほど慎重に取り組まないといけない」と述べ、地域のなかで医療サービスが完結される体制がとられることが必要だという認識を示しました。
高橋氏は、「全国1本のスケールメリットを生かす機構をつくろうということなのだから、売却をすすめるべきでない」と重ねて主張しました。
(2010年5月28日(金)「しんぶん赤旗」より転載)
――― 議事録 ――――
○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
きょうは、先ほど来伺っていますと、何かどんどん売却するといったような話が随分出てきて、ようやっと公的病院として受け皿が決まったのかなと思って運動してきた皆さんが本当に喜んでいるときに、何か売却ありきみたいな議論になるというのは非常に不安に思っております。
それで、まず伺いたいんですけれども、大臣は、機構発足後も引き受け手があれば民間などに売却するという旨を繰り返し述べているわけですけれども、それができる根拠がまずどこにあるのか。それから、現在五十二の社会保険病院と十の厚生年金病院、そのうち、実際に買いたいなどという形で手を挙げている、そういうところが幾つくらいあるでしょうか。
○長妻国務大臣 これについては、一つは、中期目標というのを大臣が立てて新機構にお示しするということになろうかと思います。その中で、そういう売却についても書き込んでいこうと思っておりますが、当然、先ほど来申し上げておりますように、地域医療を担う、そして、住民の同意、自治体の同意等々、そういう前提条件はございますけれども、そういうような中期目標というのが一つの根拠になるのではないかと思います。
そして、今現在どれだけということでありますけれども、これについて、浜松の病院が一つ売却できたということでありますが、それ以外の病院につきまして今交渉をいろいろしておりまして、自治体と交渉している、あるいは首長さんが厚生労働省を何度か訪れてぎりぎりの調整中、あるいは厚生労働省から地元自治体に打診をして、面会も数回厚生労働省事務局が行っている等々十例以上、進んでいるわけではないんですけれども、多少、そういう交渉が進展しつつあるものはございますが、まだ確定的なものはございません。
○高橋(千)委員 まず、根拠法、法の条文のところでありますかということを聞いたつもりだったんですけれども、今、中期目標に書き込むということで、これは事前に原課に伺ったときも、十三条の中に売却できないとは書いていない、その程度の説得力の話なわけですね。そういうレベルの話で進めていいのかということがあるのと、今十例とおっしゃいました。ただ実際に、まだまだ煮詰まっているというほどではないし、五本の指に入るかどうかという程度の話ではなかったのかなと思うんですね。
だから、何か全体としてそこに向かっているのではないということは、まずよろしいのかなと確認をさせていただきたいと思うんです。違えばまた、答弁の中でお答えいただきたいと思うんです。
それで、仮に売却するという場合に、地域医療を守るという理念をどう担保するのでしょうか。よくある話は、例えば、何年間他の用途に転換してはならないという条件をつけるですとか、現在の診療科、入院の可否などの機能が移転されているかどうかというのが問題になると思いますけれども、どのように考えておりますか。
○長妻国務大臣 まず、一つの事例を申し上げますと、この浜松の病院の件ですけれども、これは主体がRFOですから、一概に新法人と同じとは言えませんけれども、その場合どうしたかというと、売却の譲渡条件というものを交わしまして、こういう一定の機能を持った病院を運営していただくということで、その譲渡条件に違反した場合は違約金をいただく、こういう契約書を作成いたしたわけであります。
今おっしゃっていただいた件については、それぞれの特色、特質、あるいは地域住民のニーズなどもありますので、やはり、この例のようにきちっと譲渡条件を文書で交わして、そして、それに反する場合は例えば違約金とかあるいはペナルティーとか、そういうものを交わして、住民、自治体に透明性を高めた譲渡ということが望ましいのではないかというふうに考えております。
○高橋(千)委員 大変具体的じゃないんですね。
違約金と書き込んだら、お金を払えば済むのかと。地域の病院が守られる、民間病院に移ったけれども機能は維持されるんだという約束だったけれども、全然そうじゃなかったというときに、金を払えば済むんですかということが問われてくるわけです。
今議論されているのは、もらった利益をどうするのかという議論が随分されていますけれども、そんな単純なものじゃないということをしっかり見ていただきたいと思うんですね。
例えば、先行事例として、労災病院の問題があると思います。労災病院は、一の主体に独占して行わせることが必要であるものを効率的、効果的に行わせることを目的として設立されるという独立行政法人通則法第二条に基づきまして、独立行政法人労働者健康福祉機構に変わっているわけですけれども、労災病院の再編計画に基づいて廃止また委託などということをやったところがございます。
その一つが岩手労災病院ですけれども、二〇〇六年の九月に、機構と花巻市が覚書を結びました。そして、翌二〇〇七年四月に、医療法人杏林会というところと基本協定を結んだわけです。その条件は、岩手労災病院の移譲に係る医療の基本構想にちゃんと即した医療を適切に提供するという中身をどちらにも盛り込んでおります。
これは、機構が市に贈与をした、そして、市はその贈与された病院を杏林会に無償譲渡という形になっている。トライアングルの関係になったわけです。こうした場合、機能の維持にだれが最終的に責任を持ちますか。政務官。
○足立大臣政務官 委員がこの問題を何度か御指摘されているということは伺っております。
そして、どこが最終的に責任かということになりますが、この協定を結んだ上で市に移譲して、市は委託をしたという流れの中で、やはり当事者である花巻市、そして運営している医療法人が取り組むことが基本だ、そのように思いますが、今のおっしゃられた流れ等、やはり機構を通じてこういうことが起きているわけでございますから、私どもとしては、医師確保の取り組みを労働者健康福祉機構を通じて市と医療法人に対して要請する、そういう立場であろうかと思います。
○高橋(千)委員 これもまた、ちょっと具体的じゃないと思うんです。
当事者と法人とおっしゃいました。例えば、この花巻の場合、贈与条件、「贈与物件に係る無償譲渡契約に定める義務を本市が履行しないときは、当該契約を解除することができる」と書いています。つまり、先ほど大臣は違約金の話をしましたけれども、契約を解除ということなんですよ。
そうすると、病院がなくなればそれでいいのか、病院が開設できなくなればそれでいいのかとなると、犠牲になるのは住民なわけですよね。そういうことを結んだわけで、契約解除でそれで済みましたということにならない、機能の維持はできない。どうしますか。
〔中根委員長代理退席、委員長着席〕
○足立大臣政務官 御指摘の件は非常によく理解できます。
ですから、今は、労働者健康福祉機構を通じて花巻市に対して直接的に必要な働きかけをするということ以上に言える部分はないのでございますけれども、結局は、譲渡、売却はよほど慎重に取り組まないとこういう事態が生じる可能性があるということは常に念頭に置きながら対処しなければいけない、そのように思っております。
○高橋(千)委員 政務官は、多分私が言いたいことを先取りして答弁をされたと思うんですけれどもね。
労災病院ですので、主要な任務というものがございます。その中でも、覚書で結んだ「医療の基本構想」の中で一番の大事なところは、やはり脊髄損傷の患者の受け入れを条件としていたわけですね。労災病院がもうそこしかないわけです。
ところが、新病院はそれをやってくれません。約束がほごにされています。交渉したときには、県立病院がやってくれるんじゃないかというふうな話をしていたわけですが、県立病院には何の責任もないわけで、それは受け入れていただけないという状況であります。
今、実際、この杏林会がどういう状態になっているかといいますと、百五十の老健のベッドと、入院のベッドが五十ございます。そのうち、老健のベッドの中で、ほとんど見てもらえないということで、大きな褥瘡ができちゃっている人がたくさんいる。家族が、何でここまでほっておいたんだ、もうにおいがして大変だというくらい深刻になって、それが悪化して、そこから菌が入って亡くなった方さえいるという状態なんです。
でも、もう御存じのように、介護の施設というのは、現状、どこもあきがありませんから、ほかに受け手がないということでここにお世話になっている方がいるし、また病院に入っている方がいらっしゃる。外来は毎日十二人から三人程度、そういう実態である。もちろん、約束の脊損はやられていません。
しかし、重大なのは、さっきから市に責任をとらせるというお話をしていますけれども、お話ししたように、市が機構から贈与されて、市が無償譲渡という形で、トライアングルでしょう。一応、市にとっての公的病院になるわけですよ、民間病院がやっているんだけれども。そのために、花巻市が二億五千万円のお金を出している。これをもっと出さなきゃいけなくなる、病院が維持できないから。
おかしいじゃないかと。やっていることは、大臣がよく言うように、民間病院と同じか、それ以下なんですよ。ニーズを満たしていない、約束も果たしていない、だけれども公的病院だから、そこにだけ何で税金を払うんだということになりませんか。こういう実態が起こるんですよ。それに対して、やはりだれが責任をとるのかということになる。もう一度伺います。
○足立大臣政務官 だれが責任をとるのか、最後のお言葉はそうでしたが、先ほどから、本来は民間へ売却ではないかという議論もございますが、私は、やはりこれはばらばらにとらえていてはなかなか難しい問題なのではなかろうか、そのような観点が一つ大きいと思います。
それは、リハビリテーションのネットワークであり、また、地域の中で四疾病五事業をしっかりやっていく、中心的に担っていくグループというような位置づけで、そのスケールメリットを生かすということになると思いますけれども、やはりそこが担うべきだと思います。
前政権下でも、当初、宙ぶらりんな状態でどうすればいいのか、風評被害等も含めて非常に地域の住民の方々に不安を与えました。当初はやはり、日赤や国立病院機構や済生会等公的なところにどうか引き受けてもらえないかという話が進んでいたんだと思います。その後、RFOに出資されて、さらに地域住民の方々が不安になった。そんな中で、地方自治体をまず考えて、やっていただきたいという話になりましたが、今議員の方から、地方自治体でもそれはなかなか大変だよという話がございまして、実際のところはなかなか進んでいないという状況の中で、私は、スケールメリットを生かして、全体として、グループとして責任を持ってやっていくということが必要なのではなかろうか、そのように思っています。
○高橋(千)委員 ありがとうございます。
市立病院との統合に失敗した美唄労災病院や、三井三池三川鉱の一酸化炭素中毒患者らが入院、通院していた大牟田労災病院、四年前に廃止され、引き継いだ病院でも約束が履行されていない、こうした問題が起こっています。実際には機能は維持されないというのが、もうこの先行事例で明らかだ。
でも、先ほど政務官がおっしゃってくださったように、私は、せっかく公的病院として全国一本のスケールメリットを生かした機構にしようというところに来たんだから、まず、前へ前へと、地域医療を守るために機構がどういう役割を果たしていくかということに力を注ぐべきであって、できれば売れればいいみたいなことを言うべきではないということを重ねて指摘して、終わりたいと思います。
ありがとうございました。