高プロ制度削除要求 /「働き方改革」「現代の奴隷労働だ」
参考人質疑
衆院厚生労働委員会は22日、「働き方改革」一括法案に対する参考人質疑を行い、過労死遺族や労働組合代表の参考人から、与党が23日にも狙う採決の強行に反対し、高度プロフェッショナル制度(残業代ゼロ制度)の削除を求める意見が相次ぎました。日本共産党からは高橋千鶴子議員が質問に立ちました。
全国過労死を考える家族の会の寺西笑子代表は、「労働者はまじめで責任感が強いが、生身の体です。本人が望んでも周りが止めなければならない」と高プロ削除を訴えました。
全労連副議長・働くもののいのちと健康を守る全国センター事務局長の岩橋祐治氏は、「高プロは無制限の長時間労働が可能となる『現代の奴隷労働』だ」と批判。残業の上限規制についても「過労死を起こさないため、月45時間、年360時間までとすべきだ」と強調しました。
連合の神津里季生会長は、「高プロは実施すべきではない」と表明。残業の「上限規制」には合意しているものの、「(働き方改革)実現会議のなかで、(単月残業)100時間というのは違うんじゃないかと発言した」「100時間、(平均)80時間はあってはならない水準だ」と述べました。
経団連の輪島忍労働法制本部長は、「今国会で、法案成立をお願いしたい」と高プロ推進を表明しました。
高橋氏は、安倍政権が連合の要請で高プロを修正したとアピールしている点について、「高プロの本質は変わらない」と指摘。神津氏は、「高プロで過労死・過労自殺の懸念は増す。政府要請文にも、制度導入自体に反対だと明記している」と答えました。
高橋氏は、高プロが「時間と成果がリンクしない」と説明されていることについて、輪島氏に「使用者側として、成果に応じて賃金を上げるのか、それとも、残業代を出さないことで労働時間短縮を期待しているのか」と聞きました。輪島氏は、「国際競争の激化がある」などというだけで直接は答えませんでした。
高橋氏は、残業相当が月100時間に達してから医師面接するだけで十分なのか、労働時間の把握を労働基準法で義務付けるべきではないかと質問。岩橋氏は、「その通りだ。企業側の産業医では長時間労働を止められない。労働基準監督官の監督指導でやめさせないといけないが、高プロではできなくなる」と述べました。
(しんぶん赤旗2018年5月23日付より)
――議事録――
○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
本日は、六人の参考人の皆様、お忙しい中御出席をいただき、また貴重な御意見をいただきました。本当にありがとうございました。時間の制約があるために、全員に質問はできないと思いますので、あらかじめ御容赦をいただきたいと思います。
最初に、神津参考人に伺いたいと思います。
先ほど、陳述の冒頭で、高度プロフェッショナル制度について実施すべきではないと力強くいただきました。
そこで、私自身はもちろん、労働時間規制から除外される制度であり、絶対にあってはならないと思っております。
この制度は、ホワイトカラーエグゼンプションがやはり源流にあったのかなと思いますが、あのときも世論の反対の前に導入を断念しました。今回も、一番最初に提起されたときに、総理が年収要件や本人同意要件をつけました。最近では、連合の要請を受けた形で、百四日の休日が義務化などという修正を加えてきているわけですね。今回は与党修正も準備中と聞いております。
改めて伺いますが、このような一定の修正を行ったからといってやはり本質は変わらないのであって、やはり今回はやるべきではないと思いますが、改めて確認をさせてください。
○神津参考人 ありがとうございます。
一言で申し上げれば、最前から申し述べているとおり、この導入は必要がない、むしろ過労死、過労自殺の危険性を増す懸念があるのではないのかということであります。御指摘のように、昨年、政府に対して要請をしたことは事実なんですけれども、その時点においても、要請文にも、制度導入自体が反対だということを明記をしておりました。
また、そもそも法案を一括にするということについても、私どもとしては、これは向きが違う、ベクトルが違うものであるのでいかがなものかということを終始表明をしていることは御承知かと思います。
したがって、いろいろ与党修正というようなことの動きもあるやにお聞きをしますけれども、根本的なところで、さっき申し上げたように、やはりこの制度が危ないというようなことの国民各層における疑念に正面から応えたということとは言えないのじゃないのかな。むしろ、それがあるからこそ修正をせざるを得ないというような内容にも率直に言って見受けられるところもありますので。
そもそも、そういったことがあっても、やはり制度として必要がないということについては全く変わりがないということは申し上げておきたいと思います。
○高橋(千)委員 ありがとうございます。
同じく高度プロフェッショナル制度について輪島参考人に伺いたいと思うんですけれども、現在、裁量労働制を適用している主な企業などでは、やはりグレード別の基本給と残業代見合いの裁量労働手当といった、呼び方はいろいろあると思うんですが、報酬制を採用しているところが多いと思うんですね。
二〇一七年の、先ほど紹介されたことしのではなくて、昨年の経営労働政策委員会報告では、もともと高い年収が確実に見込まれる者が対象なんですからということで、賃金下がることは想定されていないということを書いた上で、高年収保障型成果給というふうな表現をされております。
そこで伺いたいんですけれども、時間と成果はリンクしない、でも、賃金と成果がリンクするという規定は現実に法案には書いておりません。そこで、使用者側としては、高プロの導入によって、成果により報酬や手当を高めてインセンティブを持たせる、そういう仕組みをつくるという考えなのか、それとも、残業代も出ないために、なるべく労働時間を短縮させるというインセンティブが働くということで効率的な働き方になることを期待しているのでしょうか、伺います。
○輪島参考人 ありがとうございます。
私どもの考え方としては、先ほど来申し上げているように、我が国企業を取り巻く環境は非常に激変をしている。国際競争力の激化、デジタライゼーション、AIなどの新技術を利用したもの、企業の新規参入、人口減少に伴う国内市場の縮小というようなことでございまして、企業がこうした環境変化に対応するためには、やはりイノベーティブな経営を一層追求をしていくほかはないというふうに考えております。
そのために、職種を絞って、最先端の研究者、イノベーションの担い手である高度専門職がその持てる能力を最大限に発揮できるように、環境を整えることが大変重要だというふうに考えております。
もとより、高度専門職の特徴でございますけれども、働いた時間と成果との関係性が薄いということでございます。また、高度な専門職でございますので、企業に引く手あまたというような、そういう労働市場にいらっしゃる方なのではないか、いわゆる転職が容易なくらい極めて高い専門性を持っているというふうに考えているわけでございます。
こうした高度専門職の特徴を考えますと、働いた時間に比例して成果が上がることを前提とした従来型の労働時間規制にはなじまないのではないかというふうに考えているところでございます。
私からは以上でございます。
○高橋(千)委員 それでは、同じく高プロについて、岩橋参考人に伺いたいと思います。
今の、イノベーティブな働き方ということのお話もあったわけですけれども、この間の委員会の議論でも、私が、なぜ自律的で創造的な働き方になるのかという問いに対して、加藤大臣は、深夜手当が高いから、なるべくそういう時間帯に働かないようにということも率直におっしゃっているわけなんです。その上で、夜間に働く方が効率よい人もいるというふうな表現をしておりまして、労働者側のニーズというのはほとんど見えておりません。
時間配分は裁量で決められるといっても、命じられた業務量や終期の決まったプロジェクト、あるいは研究開発のように失敗も含めて時間がかかるものとか、さまざまあると思うんですね。そういう意味でも長時間労働は避けられないと思います。
現場を知る者として、ぜひ御意見を伺いたいと思います。
○岩橋参考人 ありがとうございます。
私、最初の意見陳述で申し上げたんですけれども、今回の高度プロフェッショナル制度というのは、まさしく、労働基準法の労働時間法制を年休の手当以外を適用しない全く異質な制度だと思うんですね。法律をつくる以上、やはり労働基準法というのは使用者に罰則をもって守らせるという法律ですから、悪用を許さない。想定していないというような楽観的な御意見がありますけれども、どんなひどい使われ方をするのか、それを許さないということを基本に法制度をつくっていただかないと。先ほど高度プロフェッショナルとかきれいなことを言われましたけれども、それは、今、専門型業務労働制もあるわけで、何の必要性もないわけですよね。
そんな恐ろしい制度をなぜつくるのかという、やはり日本の現実を想定していただいて、先ほど日本の労働者の現実ということで言われましたけれども、本当にひどい働かせ方をされているわけですね。
過労死をなくそうということで先ほど連合の方も言われましたけれども、今回の働かせ方改革の出発点が過労死、過労自死をなくすことだと。そして、経団連の方も、過労死は絶対あってはならないということを言われているわけですから、そうしたことが予測される、特に今回の高度プロフェッショナル制度では、使用者が労働者を指揮命令できないんだ、裁量に任すんだという規定がないわけですよね。裁量に任せたら専門型業務労働制でいいわけですから。確かに高度プロフェッショナルで自由に働ける人のためにつくるんだと言っていますが、つくる中身は恐ろしい中身になっているというふうに思います。
もう一点ちょっと、余り当てられないので言わせていただきたいんですけれども、先ほど、過労死とかなくすということを言われましたから。
脳・心臓疾患を生むおそれがある、そうであるなら、何で四十五時間を超える時間外労働を認めるんだろうと。政労使、安倍首相も連合も経団連もそう言われているわけですから、過労死は絶対に起こさせないという一致点がある以上、その結論は、厚生労働省が言っている脳・心臓疾患を起こすおそれがある月四十五時間以上の時間外労働は認めないという結論に何でならないのかということを、質問もされていないまましゃべってしまいましたが、済みません。
○高橋(千)委員 全く同感でございまして、私は大臣告示基準を上限とすべきだという立場でこれまでも言ってきました。
そこに関連して岩橋参考人にもう一点、簡潔にお願いしたいんですけれども、今回、労働安全衛生法で、一般の労働者は、現行百時間、これを省令で今度八十時間にするということなんですが、医師との面接を義務づけるわけで、高プロの場合は、健康管理時間が所定内労働を超えて百時間になるときに医師の面接を義務づけるというふうになるわけです。
ただ、どちらも、過労死ラインぎりぎりのところで医師の面接を義務づけるというのはおかしいのではないかと思っているのと、その前提としての労働時間の状況を把握するということが今回盛り込まれたわけですよね。でも、私は、そもそも労基法に罰則つきで労働時間の把握を義務づけるべきだと思いますが、いかがでしょうか。
○岩橋参考人 簡潔に申し上げます。
そのとおりだと思いますが、産業医の面接指導で改善されることはないんですよ。産業医というのは企業側が雇っている人で、産業医が、そうした百時間を超えたら是正しなさい、改善しなさいという意見を言うことはできるでしょうけれども、それを改善できないわけでありまして、やはり、監督官の監督指導があって、そうした百時間を超えることをさせないということが必要なわけで、今回の高度プロフェッショナル制度はそうしたことができなくなるわけで、労働時間の把握、監督しないわけですからね。まさにそういう意味でも危険だと。
産業医の面接指導に、現実もそんなことは全くされていないわけですけれども、過大な期待を設けるというのは、本当に幻想以外の何物でもないと思います。
○高橋(千)委員 今回、産業医の権限を強化ということは書いてあるんですけれども、まだその議論が十分されていないし、実態は、強化できるどころか、企業に遠慮しているということがあるのではないかと思います。
ありがとうございました。
そこで、上限規制について、神津参考人と輪島参考人に伺いたいと思います。
先ほど、八十、百時間の問題がひとり歩きしちゃっているけれども、これはそもそもあってはならない時間なんだというふうに神津参考人おっしゃいました。ただ、現実に、今、三六協定の特別条項によって青天井になっている残業時間、そして、年間千時間を超す所定外残業を労使協定によって認めているという現実もあるわけなんですよね。このことを今回過労死ラインに据えることについて、どのように労組として臨むのかを伺いたいと思います。
続けて、輪島参考人には、今言ったように、上限規制を今決めるとすれば、今の状態で超えている企業がたくさんあるわけであります。そうすると、そういう企業は、どのようにしてこの上限規制を守るように努力をしていくのか。既に始まっているということは御紹介いただきました。だけれども、例えば弾力的な制度に振りかえていこうとするのか。本来は人をふやすのが一番いいと思うわけですけれども、その点について続けて伺いたいと思います。
○神津参考人 ありがとうございます。
連合としてということにおいては、二つの要素があると思います。
一つは、自分のところの傘下の労働組合の取組として、どういうふうにやっていくのかということにおいてなんですけれども、その点については、冒頭その説明を申し上げた中で、私ども、足元の春季生活闘争の中で、実際に法の考え方を先取りし、あるいは上限時間をそれよりももっと下回るような協定にしていく、そういう努力を重ねているということは申し上げておきたいと思いますし。
やはり、私は、この上限時間の問題もそうですけれども、働き方改革にかかわるあらゆる問題が、きちんとした労使関係を持てるのかどうかということによって大きく左右されるということは、私どもとして、同じ労働組合に所属する仲間をふやす、そういう地道な取組も含めて、世の中にもっとアピールしていかなければならないというふうに考えています。
一方で、これは再三強調申し上げているところですが、労働組合という傘を持たない人たちのことを考えますと、これは、さっき申し上げたように、百時間とか、あるいは、実際に過労死のケースにおいても、それは百時間を下回っていても過労死認定がされるというケースがあるわけですから、そもそもそういう時間に到達しないようにしなきゃいけないというのが極めて重要な今回の法改正の一番中心の趣旨だと思っていますから、今回、ですから、その三六協定を届け出る場合においても、やはり労使で具体的にどういう努力をそこでしているのか。
やはり、ただそのお題目だけではなくて、これは後ほど輪島参考人からもそういうお話があるのかもしれませんが、やはりマネジメントとして、実際に、じゃ、そういう努力というのを何で裏づけるのかということが明らかにならなければならないということだと思いますので、そこは、省令とかそういう補足的な措置においても、やはりそこのところをいかに強化をしていくのかということは力点を置いていただきたいというふうに思います。
いずれにしろ、上限を罰則つきで決めるという基軸を転換するということにおいては、やはりこれはスタートさせなければならない、このように認識をしています。
以上です。
○輪島参考人 ありがとうございます。
先生御指摘のとおり、大変、どういうふうに企業として対応していくのかというのは厳しいところがありますけれども、業務量を減らすことなく労働時間を短くすれば、かえって過重な労働というものを誘発をしかねないわけでございまして、業務量を減らすことが非常に難しいというような声を聞いているところでございます。
そこで、いろいろ各社からお伺いをする点でございます、事例といいますか、そういうことで御紹介をしたいと思いますけれども。
全社的に業務の棚卸しというものを実施をして、業務の本質に照らして、不要なもの、時代に合わなくなったもの、まずそれを捨てる、いわゆる断捨離でございますけれども、そういうようなことでまずは対応する。それから、二番目には、上司が毎日職場の稼働状況を確認をして、当日どの仕事に何人従事をしているのかというようなことについて、本当に目配りをして日々確認をするというようなこと。それから、社内の資料でございますけれども、これまでA3の一枚というようなことで会議に提出をする慣例といいますかルールをA4一枚にするというようなことで、役員会議のペーパーレスもあわせてやるというようなことも伺っております。
また、ビッグデータを分析をしまして、活用したもので、採用の評価、それから監査、問題プロジェクトの予兆の分析、それから財務システムの品質の向上というようなもの、タブレットの端末活用によってデータの再入力作業を防ぐとか、そういう細かいものを寄せて、企業としては非常に努力をして生産性を上げるというようなことでやっているというふうに伺っています。
私どもとしましても、企業のこういった取組というようなものを、働き方改革事例集であるとか、それからセミナーであるとか、そういったもので、東京だけでなく、地方に対しても積極的に周知をしているというところでございます。
私からは以上でございます。
○高橋(千)委員 ありがとうございます。
最後に寺西参考人に一言伺いたいんですけれども、例えば、高プロの導入において、夜の方が効率がよいという人がいたり、一定の残業を望んでやる人がいたとしても、しかしそれは、やはり規制をしなければいけないんだということが皆さんの経験でわかっていることだと思うんですね。一言お願いしたいと思います。
○寺西参考人 ありがとうございます。
やはり、日本人の労働への美徳、真面目に責任感が強い、そうした皆さんの思いの中から、どうしても、仕事を任されたり、そしてたくさんの仕事を積まれると、それをこなさねばならないという思いが強いんですね。ですから、中には長時間労働したいという方がいらっしゃるかもわかりませんが、その背景にそうした問題があるのではないか。
たまたま一日そういう日があったとしても、じゃあ、それを毎日ずっと機械のように働けるのかということであります。本人が気づけない、そういう場合は、やはり周りが気づき、そして、使用者である立場の方が、それだけ働いたら過労死するよ、倒れるよということで、やはりそこは制止する、そうした職場の役割が必要じゃないかというふうに思います。
人間は生身の体です。そんな機械のように働き続けることはできません。そうして、万が一の場合に遺族は大変な悲しみを負うということが私たちの教訓ですので、そこはきちっと、本末転倒にならない考え方を持っていただきたいというふうに思っています。
○高橋(千)委員 ぜひその生の言葉を総理にもちゃんと届けられるように、そして、過労死をなくすということはみんながおっしゃっているわけですから、この法案をそういうものに変えていかなければならない、今のままではだめだということを表明して、終わりたいと思います。
ありがとうございました。