――― 議事録 ――――
○高橋千鶴子君 私は、日本共産党を代表し、東日本大震災復興特区法案について質問します。(拍手)
震災から八カ月余りが過ぎました。被災自治体は、発災直後から、復興のためには特区が必要だと訴えていました。その姿がなかなか示されないばかりか、国がどこまで財政支援をするのかがわからず、復興計画や復興事業も進みませんでした。本来なら、二次補正の際に、今回の三次補正並みの予算が成立するはずだったのです。
まして、被災者の皆さんは、仮設住宅を出た後の住まいはどうなるのか、仕事をどうするのか、日々の暮らしに必要なお金をどう工面するか、先の見通しが持てずに、不安に苦しんでいます。
今急がれることは、被災者一人一人の生活となりわいの再建に向けた明確な道筋を示すことであり、それを被災者みずからが選び取れるようにすることです。大臣の見解を求めます。
法案は、第一条で、被災地域住民の意向の尊重をうたっています。しかし、被災地の実情や被災者の声を反映させる仕組みは明記されていません。
その一方で、民間企業には、規制緩和と法人税等の減免や利子補給など、参入がしやすい条件が整備されており、復興推進計画が策定される過程での意見聴取、地域協議会への参加、新たな規制の特例措置の提案権まで認めています。
これに比べて、被災者の意向はどのように尊重されるのか。具体的にお答えください。
復興産業集積区域において新規立地する新設企業に法人税を五年間実質的に免除するなど、税制面での特例措置を定めていますが、被災地で今現在、営業、操業している企業や商店にも、同様の扱いをするべきではありませんか。被災しながらも地元で頑張り続けてきた事業所の存続なしに、地域経済の再生などあり得ません。答弁を求めます。
復興推進事業を実施する企業は特定地方公共団体が指定することになっていますが、安定した正規雇用の創出に結びつくよう、指定要件の厳格化などの措置が必要です。五年間の特例措置の期限が過ぎれば企業が撤退する可能性もありますが、指定企業の身勝手な撤退やリストラを防ぐための歯どめ策が必要と考えます。答弁を求めます。
特区法に列記された特例措置の一番目が、漁業法の特例であります。
沿岸漁場の漁業権が漁協に優先的に与えられているのは、紛争回避と資源管理のために、利用する漁業関係者が漁場をみんなで管理するという考え方に立って、歴史的に確立されてきたものであります。その漁業権を漁協の頭越しに民間企業に与えようという特例に対し、全漁連を初め多くの漁業者が、浜の秩序を崩壊させると怒りの声を上げています。
現行の漁業法でも民間企業が養殖漁業を営むことは可能であり、そうした事例も存在します。しかも、法案には、民間企業が地域協議会を通じて新たな特例措置が提案できる仕組みもあるのです。漁業法の特例を認めた第十四条は削除するべきではありませんか。答弁を求めます。
次に、条例による政省令の変更を認める特例措置についてです。
法案は、政令等で規定された規制の特例措置として、医療機関の医療従事者の配置基準や、介護施設等に対する医師の配置基準を弾力的に対応できることとしています。
被災地では、十分な体制が確保できず、弾力化の要望が出ていることは承知しています。しかし、医療従事者の労働条件改善と利用者の安全確保は表裏一体であり、これ以上放置できない問題です。一刻も早く通常の基準に見合う体制を確保できるよう、報酬単価の引き上げなどの措置を行うべきではありませんか。
なお、体制確保が困難なことに対し、診療報酬をカットするなど、制裁的な措置はやるべきではありません。答弁を求めます。
総合特区法案の立案の際には、条例によって地域限定で医療法や薬事法などの法律を書きかえる条項を盛り込むことが検討されましたが、法案化されませんでした。政府は、国の定めた法律を条例で書きかえる仕組みを導入するのは憲法上困難と繰り返し答弁しています。にもかかわらず、総合特区法でできなかった条例による法律の書きかえ、いわゆる上書き権を復興特区法案に盛り込もうという議論が絶えません。
上書き権は認めるべきではないし、法律ではなく政省令ならよいということについても、慎重であるべきです。
例えば、医療機器の製造販売業などの許可基準を緩和するという薬事法の省令改正の特例措置が盛り込まれました。政府は、TPP交渉をめぐる議論の中で、公的医療保険制度を守ると繰り返し述べてきましたが、医療特区構想などを通して、混合診療など制度の根本に穴をあけてはならないと思いますが、見解を伺います。
次に、復興交付金事業についてです。
これは、補助要件の緩和や自治体負担の大幅な軽減を図り、さまざまな復興事業を推進しようとするもので、被災地の強い要望にこたえたものだと思います。
その上で、例えば防災集団移転促進事業では、自治体負担の軽減や、これまで対象外だった病院など公益的施設の用地造成も支援対象となりました。しかし、幾ら自治体の負担が軽減されても、移転先の住宅購入費用などの個人負担が重く、事業そのものが進まないのが実情です。被災者生活再建支援金の大幅な引き上げを含め、住宅再建に対する被災者個人の負担を軽減する措置がどうしても必要です。政府の見解を伺います。
最後に、福島県においては、県内外合わせて十五万人とも言われる避難されている方たちを初め、すべての県民、原発被災者の生活とふるさとの再生のために道筋を示すとともに、全面的な制度・財政保障を明記した特措法制定が求められます。来年の通常国会に提出されると聞いていますが、その意義、内容について伺います。
以上、寒さの冬に向かう被災地に希望が見えるよう、政府の力強い答弁を求め、質問を終わります。(拍手)
〔国務大臣平野達男君登壇〕
○国務大臣(平野達男君) 高橋千鶴子議員より、七問、質問をちょうだいいたしました。
まず、被災者の生活再建についての御質問をいただきました。
政府は、これまで、地元自治体とも協力して、被災者の生活支援に全力で取り組んでまいりました。
具体的には、被災者生活再建支援金を円滑に支給するため、第一次補正で五百二十億円を、第二次補正で三千億円を計上するとともに、東日本大震災の特別措置として、国の負担割合を八割に引き上げました。
雇用機会の創出につきましては、厚生労働省を中心に「日本はひとつ」しごとプロジェクトをつくりまして、重点分野雇用創造事業の基金を積み増しし、被災者による高齢者の見守りや瓦れき処理など、働く場所を確保してきたところであります。
さらに、例えば水産業につきまして、漁港の早期復旧や加工流通施設の整備に対する支援を実施し、中小企業についても、施設設備への補助や、仮設店舗・工場の貸し付けなどの、これまでにない支援措置を講じてまいりました。
今後は、本格的な安定雇用を生み出すため、産業政策と一体となった雇用面での支援や、若者、女性、高齢者、障害者の雇用機会の確保に取り組むこととしております。加えて、地方自治体が行う復興計画の策定を全力で支援し、災害復興住宅の建設や高台移転の推進について支援をしてまいります。
政府としては、今後も引き続き、被災者の生活支援に全力で取り組んでまいります。
被災者の意向はどのように尊重されるかとの御質問をいただきました。
復興の主体は、地域住民と被災自治体でございます。本法案においては、さまざまな特例を適用するための計画作成や新たな特例の提案を行う主体を、地域住民の意向を把握し、地域住民に対して責任を負う主体である地方公共団体としているところであります。地方公共団体は、復興推進計画を策定する際には、地域住民の意向を十分に聞いて、これを反映させるものと考えております。
既存企業へ新設企業と同様の税制上の特例措置を講じるべきとの御質問をいただきました。
新設企業については、立ち上げ当初の経営が安定していないと考えられますことから、特に大胆な措置を講じ、創業を支援し、地域への定着を促すこととしたところでございます。
一方で、既存企業につきましても、事業用設備を取得した場合の即時償却や、被災者を雇用する場合の税額控除等の適用を受けることが可能でありまして、こうした措置によって、既存企業による投資や雇用が促進されることを期待しております。
税制上の特例措置を講じた企業に対して、雇用を維持させるためのルールが必要との御質問をいただきました。
企業が税制上の特例措置を受けるためには、計画の認定を受けた地方公共団体の指定を受ける必要がありますが、地方公共団体は、復興推進計画に適合する事業を適正かつ確実に実施し、雇用機会の確保に寄与することが見込まれる企業を指定することとなっております。
また、地方公共団体は、指定した旨の公表を義務づけられておりまして、指定を受け税制上の特例措置が講じられた企業は、地域の各方面から雇用機会の確保等の責務を果たすことが求められることになります。
これらの措置により、指定を受け税制上の特例措置が講じられた企業が適正に事業を実施し、そのことを通じて雇用機会がより確保されることになると考えております。
いわゆる上書き権は認めるべきではないし、政省令改正の特例措置についても慎重であるべきとの御質問をいただきました。
本法案では、いわゆる条例による法律の上書きにつきましては、唯一の立法機関である国会に対して地方公共団体に立法権限の一部の移譲を求めるものでありまして、政府提案として国会に提出することは控えるべきとの考え方に基づきまして、同法案には盛り込まなかったものであります。
また、本法案では、政令または省令で定めるところによりまして、条例で規制の特例措置を定めることができる仕組みを創設することとしておりますが、この仕組みは、地域住民に対して責任を有する地方公共団体の提案に基づき、国と地方の協議会で協議、検討が行われ、特例を認めることが必要になった事項について適用されるものであります。
被災者の住宅再建についての御質問をいただきました。
東日本大震災で住宅を失われた被災者の方々の住宅の再建を支援していくことは、被災地の復興を進めていく上で重要な課題であると考えております。
このため、自力で住宅を確保することが困難な方につきましては災害公営住宅の供給を進めるとともに、自力で住宅を再建しようとする方に対しては、新たに住宅を建設する場合の住宅金融支援機構の災害復興住宅融資につきまして、当初五年間は金利をゼロにするなどの金利引き下げなどの措置を行っているところでございます。
御指摘の被災者生活再建支援金の支給限度額の引き上げにつきましては、他の災害との公平性などに配慮する必要があると考えておりますが、その円滑な支給を確保する観点から、第一次補正では五百二十億円を、第二次補正で三千億円を計上するとともに、東日本大震災の特別措置として、国の負担割合を八割に引き上げる措置を講じているところでございます。
今後とも、こうした措置により、被災者の住宅の再建を支援してまいる所存であります。
最後に、福島再生のための特別法制定についての御質問をいただきました。
御承知のように、福島県は前例のない原子力災害に見舞われております。原発周辺地域の多くの方々が全国への避難を余儀なくされ、また、放射線による健康に対する不安を感じながら、日々生活をされております。いわゆる風評被害が、観光、農林水産業、さらには企業立地などの面でも広範に広がるなど、甚大な被害をこうむっております。
このため、原子力事故に起因する他の被災地と異なる事情につきましては、別途の考慮を行いまして、それに応じた対策を講じる必要があると考えております。
福島再生のための特別法につきましては、原子力災害からの福島復興再生協議会において福島県から御要望いただいておりまして、法案について、次期通常国会に提出できるよう、現在、内容の検討を進めているところでございます。
以上でございます。(拍手)
〔国務大臣小宮山洋子君登壇〕
○国務大臣(小宮山洋子君) 被災地の医療機関などの医師の配置と診療報酬についてですが、被災地の医師不足の状況に対応し、医療の提供体制を確保するため、被災地の医療機関や介護施設の医師基準の特例などを復興特区法案関連の省令に規定することを検討しています。
被災地の診療報酬を引き上げることについては、中央社会保険医療協議会でも御議論いただいています。その中では、診療報酬は診療が行われた場合に算定できるものであり、被災地に対する支援という意味で効果が限定的であること、結果的に患者や保険者の負担の増加につながるといった慎重な意見がありました。
なお、看護師の不足等、被災地で診療に尽力されている医療機関の状況に応じて、これまでも診療報酬の緩和措置を設けてきています。今後の対応については、被災地の状況を見ながら検討したいと考えています。
被災地の特例措置と混合診療などの医療保険制度についてですが、復興特区法関連の薬事法の省令の特例措置については、医療機器製造販売業者等の許可基準のうち、現場責任者の実務経験に関する要件三年の緩和を検討しています。
被災地での特例措置を設ける場合にも、公的医療保険制度を維持し、安心、安全な医療を守れるようにしていきたいと考えています。
例えば、お尋ねのような、被災地で混合診療を解禁することについては、患者負担が不当に拡大するおそれがあり、所得の差によって受けるサービスに差が生じるおそれがある、また、安全性、有効性等が確認されていない医療を助長するおそれがあることなどから、適切ではないと考えています。(拍手)
〔国務大臣鹿野道彦君登壇〕
○国務大臣(鹿野道彦君) 高橋議員から、漁業権の特例についてのお尋ねであります。
被災地の復興に当たりましては、現行の漁業法では免許付与の優先順位が最も高い地元漁協のもとで、地元漁業者による復興を支援することが基本と考えております。しかし、深刻な被害によりまして、地元漁業者のみでは資金や担い手等の確保が困難なことから、地元漁業者が主体となりつつも、外部の企業とともに復興を進めることを考えなければならない地域も存在いたします。
本法案におきましては、復興推進計画の区域におきまして新たな規制の特例措置等の適用を受けて事業を実施しようとする者は、地方公共団体に対して内閣総理大臣に提案するよう要請することができることとされておりますが、既に、宮城県知事から、漁業法の特例の規定の創設を強く求められているところであります。
このため、本法案の中に漁業法の特例を設けることとし、漁業権に係る特区制度の適用地域について、地元漁業者のみでは養殖業に必要な施設の整備や人材の確保等が困難な区域に限定した上で、現行漁業法の優先順位の規定にかかわらず、地元漁業者が主体の法人に対して、知事が直接免許を付与できるようにしたものであります。(拍手)