医師の残業規制求める
高橋議員 過重労働なくす検討を
日本共産党の高橋千鶴子議員は4月28日の衆院厚生労働委員会で、政府の「働き方改革」が医師の残業規制を5年猶予するとしたことを批判し、医師の過重労働をなくす具体的な検討を行うよう求めました。
高橋氏は、厚労省の報告書で「医療従事者の自己犠牲を伴う負担と士気に過度に依存したシステムであってはならない」としている認識は共有できるとしつつ、「結局、医師を増やさず、『改革』の例外とするのか」と追及。「夜勤労働者の労働時間は昼間の労働時間よりも平均して少ないものであるべき」などとした国際労働機関(ILO)178号勧告も引きながら、「緊張が続き、命にかかわる仕事であり、むしろ残業上限を低くして、医師や看護師も『家族の顔が見られる』職場にすべきだ」とただしました。
塩崎厚労相は、医師の労働時間の上限規制については、「医師法にもとづく応召義務等の特殊性を踏まえた対応が必要だ」などと主張。夜勤を含めた長時間労働の抜本改善を先送りする姿勢に終始しました。
(しんぶん赤旗2017年5月1日付より)
――議事録――
○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
まず、三月二十八日の働き方改革実行計画を受けて、労政審が始まっております。
資料の一枚目に、四月七日の労働条件分科会で出された論点を出しておりますけれども、これだけではないんですよね、多分分科会は。それで、検討する法改正案、それぞれ何かということと、いよいよもって、今さらいわゆる残業代ゼロ法案は単品として出すということはあり得ないと思うんですよね。今回の上限規制等の労基法改正案の中に一体として提出するという理解でよろしいか。一言でお願いします。
○塩崎国務大臣 働き方改革実行計画に基づきまして、同一労働同一賃金の実現とか、あるいは、長時間労働の是正を初めとする必要な法令制度改正、そして、女性活躍や子育て、介護との両立支援、こういったことに向けた制度検討など、広範にわたる検討をこれから行うことになります。
中でも、実行計画におきまして具体的な法改正の方向性が示された同一労働同一賃金の実現に向けては、パートタイム労働法、労働契約法及び労働者派遣法を改正する予定でございます。
また、長時間労働の是正に向けましては、労働基準法を改正し、罰則つきの時間外労働の上限規制を導入することとしております。さらに、これに関連をいたしまして、労働者の健康確保のための産業医、産業保健機能の強化、こういった観点から、労働安全衛生法の改正も検討中でございます。
これらの法案につきまして、総理から早期に国会に提出するように指示をされておりまして、しっかりと進めてまいりたいというふうに思っております。
残業代ゼロ法案というのは何を指すかではありますが、もしそれが既に提出をしている労働基準法改正法案を指すということであれば、働き方改革実行計画にもありますとおり、長時間労働を是正し、働く方の健康を確保しつつ、その意欲や能力を発揮できる新しい労働制度の選択を可能とするものでありますので、早期の審議入りをお願いしたいと思います。
○高橋(千)委員 この期に及んでまだ審議入りを述べているということに正直驚きましたけれども、まさか、実際あり得ないし、また相矛盾すると思うんですよね。やはり今、本当に、全面的な健康確保のための労働安全衛生法なども含めて言及をされましたので、それはとりあえず立場上おっしゃっているんだろうと指摘をしておきたいなと思います。
ただ、どっちにしても、私たちは今回の働き方改革は改悪だと思っています。言うまでもなく、過労死ラインにお墨つきを与えるという問題であります。
資料の二枚目に四月二日付の東京新聞をつけておきましたけれども、この右下のところに、残業上限規制と過労死の実態ということで、過労死ラインとよく言うけれども、実際にはその未満でも過労死認定があるんだという表であります。ただ、これは認定された人の数字でありますから、それ以上の人ももっとたくさんいるわけです。
トヨタ系の工場で夫さんが働いて三十七歳で突然死したという三輪香織さんの声を載せています。残業時間は百時間未満ではあったけれども、仕事のストレスによるうつ病で睡眠を十分にとれていなかったとして、名古屋高裁は、健康な人の百時間以上に匹敵すると判断したと言っております。しかし、この三輪さんにしてみれば、政府の改革は、わかっていないのかなというコメントを載せているわけであります。
そこで、改めて伺いたいんですが、今後は、政府が上限としたのだから、百時間ぎりぎりだったとしても瑕疵はないんだということになってはならないはずです。いかがですか。
○塩崎国務大臣 今回の働き方改革実行計画では、「労使合意」に基づいて、現行は大臣告示であるわけでありまして、それで定めておりますのが月四十五時間、年三百六十時間の上限、これを今回初めて法律に明記するということにしました。同時に、現在上限なく定めることができる特別条項を改めて、上回ることができない上限を年七百二十時間としたことは大きな前進だというふうに考えています。
また、「労使合意」では、「上限時間水準までの協定を安易に締結するのではなく、月四十五時間、年三百六十時間の原則的上限に近づける努力が重要である。」こういうことも明記をされております。
これらを踏まえて、実行計画では、さらに可能な限り労働時間の延長を短くするために、新たに労働基準法に指針を定める規定を設けることといたしまして、行政官庁は、当該指針に関し、使用者及び労働組合等に対し、必要な助言指導を行えるようにするとの方針を打ち出しておりまして、しっかりと対応してまいりたいと思います。
このように、今回の計画は、安易に御指摘のような長時間労働を認めるものでは決してなく、あくまでも月四十五時間、年三百六十時間、これを原則とするものであることを強調しておきたいと思います。
百時間未満の問題に御指摘がございました。
脳・心臓疾患の労災認定におきましては、原則としては、発病前一カ月間におおむね百時間または発病前二カ月間ないし六カ月間にわたって一カ月当たりおおむね八十時間を超える時間外労働、これが認められることが必要であるわけでありますが、時間外労働時間数が百時間または八十時間に至らない場合であっても、不規則な勤務、拘束時間の長い勤務など、労働時間以外の負荷要因についてもしっかりと検討いたし、業務の過重性を適切に判断してまいりたいと考えております。
〔委員長退席、三ッ林委員長代理着席〕
○高橋(千)委員 まず、本来なら過労死ラインすれすれの百時間が、企業側に瑕疵がないんだということになってはいけない、それはそういうつもりではないというお答えだったと思うんです。だったら、本当はこれはやめるべきだ、これを重ねて言いたい。
同時に、今大臣が最後の方で、そこに至らない場合でも過重な実態があるんだとおっしゃった。それはすごく大事なことだと思う。
私は、大概、この間起こっている過労死案件、実は電通の事件も同じなんですね。やはりそれは、労働時間が長いというのはもちろんですが、一定の基準の中に入っていたとしても、うつ病になるようなパワハラ、そうした事態が極めて多い。やはり労働の質の問題が問われていると思うんですね。そのことをしっかりと見ていかなければならないと思う。
きょう、実はそれがテーマでありまして、次のところに行きますが、新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会報告書が四月六日に出されました。「患者・住民の命と健康を預かる医療現場において、日々、医療従事者は、ますます膨張する需要と医療に内在する不確実性との隣り合わせの中、心身の精力を傾注してより良き医療の成果を生み出そうとしている。」と書いているんです。それから、現場からは、仕事量は肥大化し、負担は重くなり続けているという声を聞きます、医療従事者の自己犠牲を伴う負担と士気に過度に依存したシステムであってはならないという指摘も共有できます。
つまり、本当に使命感に燃えて自己犠牲的に働いている、そこに甘えてはならないと言っているんだと思うんです。その指摘は大変いい指摘だと思うんですが、しかし、結局やることは、今回の働き方改革においても、五年の猶予期間が医師にはあります。それも、ふやすつもりはありません。これを読んでも、どこにも出てきません。結局、例外とする。これが結論ですか。
○塩崎国務大臣 今、厚生労働省として初めて大規模に行った全国調査についての言及がございましたが、医師の労働時間について、約十万人の医師に対してアンケート調査を行いまして、約一万六千の回答を得た。この働き方に関する初の大規模な全国調査の中で、二十歳代の若い医師の診療、診療外の労働については、一週間で平均五十五時間程度の勤務状況にある、そして、当直、オンコールの待機時間は、男性で十六時間、女性で十二時間存在する、こういった過重な労働環境にあることが確認をされました。
今月六日のビジョン検討会の報告書、取りまとめの中で、医師の負担軽減策として、一つは、主治医、副主治医制度などを活用して、グループ診療とかチーム医療の推進といった、いわゆるタスクシフティング、タスクシェアリングを行う。それから、医師の意向を重視した医師偏在の是正を行う。あるいは、AIやICT、そして遠隔診療など技術革新による医師の作業の効率化、負担軽減。こういったものをもろもろ、具体的な対策として御提案を頂戴いたしております。
今後、こうした提言を着実に実行し、医師が臨床現場の本来注力すべき業務に集中できる環境を整えて、あえて医師数をふやさずとも、国民のニーズに応える医療を提供していくことを目指すという必要があるのではないかということを考えておるところでございます。
なお、医師につきましては、今言及がございましたが、時間外労働時間の対象とはいたすわけでありますけれども、医師法に基づく応招義務等の特殊性を踏まえた対応が当然必要であって、法改正の施行期日の五年後をめどに規制を適用するということといたしました。医療界の参加のもとで検討の場を設けて、質の高い新たな医療と医療現場の新たな働き方の実現を目指して、二年後をめどに、規制の具体的なあり方、労働時間の短縮等について検討し、結論を得ていくということとしたいと思っております。
○高橋(千)委員 今、ふやさずともとおっしゃったのが、それが非常に気になりました。私は、いろいろな工夫はするべきだと思うんです。工夫はするべきだけれども、しかし、やはり医師も人間らしく働けるというのが当然にあって、そのためにはやはり必要なんだ、足りないんだという立場に立つべきなんだということを最初に言っておきたいんですね。
今、一万六千人の、さっき大臣が報告された中にあるんですが、勤務医を対象に行った調査で、二十代医師の六割が地方に勤務する意思があると答えている。すごく希望がありますよね。それから、この資料の下にありますが、五十代以下の勤務医の約半数が今後地方で勤務する意思があると答え、しかも、十年以上勤務したいと言っている方が三〇%近い。これはまさに希望だと思うんです。
地方の医師不足を、決意した医師一人に負わせたり、あるいは、そうはいってもスキルアップのチャンスは摘んではならない。これは工夫ができると思います。ちょっと時間の関係で問いをまとめますので、これが一つ。
それから、資料の四、次のページにあるんですけれども、今大臣も少し言いましたけれども、一日の主な業務のうち、看護師やコメディカル職種との分担可能な時間は二割だと。でも、二割にすぎないんです。看護師も不足していることを考えれば、分担する、可能なことをするとか事務をふやすとか、それは当然ですけれども、それだけでは解決しない。これは確認できると思いますが、いかがですか。
○神田政府参考人 お答えいたします。
議員御指摘のとおり、医師の働き方に関する実態調査におきまして、地方勤務の意思ありという医師の回答が四四%、特に二十代では六〇%以上ございました。その地方勤務の障壁になっている要因といたしましては、労働環境への不安ですとか希望する内容の仕事ができないなどキャリア形成の不安であるということが明らかになっており、こうした障壁を取り除くことが重要であるというふうにされております。
こうした調査結果を踏まえまして、新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会の報告書におきましては、地域医療支援センターが、大学医局等と協力し、キャリア形成プログラムを作成し、過疎地の医療機関と中核的な医療機関とをローテーションを組んでキャリアを積めるように、若手の医師のキャリアの形成支援を行っていくこと、地域医療支援センターと医療勤務環境改善支援センターが協力をして、休日代替医師の派遣やグループ診療の調整を行うなどにより、僻地で診療に従事する医師の勤務負担の軽減を図ることなどの内容が提言されたところでございまして、厚生労働省としては、報告書の内容を踏まえ、具体化の検討を行うなど、地域における医師確保に向け、さらなる検討を進めていきたいというふうに考えております。
また、タスクシフティングだけでは医師の過重労働は解消されないのではないかという御指摘についてでございますけれども、先ほど先生御指摘ございましたように、この医師の働き方に関する実態調査におきまして、医療の事務でございますとか物品の運搬等の業務についてコメディカル職種に分担できるか否かを問うた結果、一日約四十七分がほかの業種に分担可能という結果が出ているわけでございます。一週間にいたしますと約四時間弱の負担軽減となるという結果が出ていることから、タスクシフティング、タスクシェアリングを推進することによって、医師の過重労働の軽減を図っていくこととしております。
このほか、この報告書におきましては、特定行為研修を受けた看護師の養成の推進でございますとか、特定行為の拡大といった看護師への業務の移譲、また、それに加えまして、看護師以外の医療従事者が現行の業務範囲を超えて診療の補助を可能とすることも検討するべきというふうにされているところでございます。
また、この報告書では、コメディカル職種に対する業務の分担ということではなくて、医師の中で、主治医制、副主治医制等も活用した医師間の役割分担の最適化、ICTを活用した遠隔診療の推進、また、各都道府県が設置いたします医療勤務環境改善支援センターが医療機関における勤務環境改善の具体的な好事例の収集ですとかその共有を行うなど業務の抜本的な強化を行うといった対策も提言されておりまして、こうした対策を具体化していくことによって、医師の勤務環境の改善に努めていきたいというふうに考えております。
○高橋(千)委員 そもそも、これまでも医師、看護師の確保対策や待遇改善について何度も、私だけでなく堀内委員や参議院でも議論してきました。
夜勤は原則禁止となっている国もあるわけですよね、フィンランドやノルウェーやスウェーデン、ベルギー、スイスなど。医師や航空など、夜業がどうしても避けられない職種を除いては原則禁止なんだけれども、でも、夜勤をする場合は割り増し賃金が極めて大きい。一〇〇%なんですね。そういうふうに、やはりどうしても避けられない、だけれどもそれは最小限に短縮する、そういう努力をしていると思うんです。
ILO百七十一号条約を補足する百七十八号勧告は、夜勤労働者の労働時間は昼間の労働時間よりも平均して少ないものであるべき、夜業労働者の超過勤務は行われるべきではないとしています。
応招義務があるからと言うんだけれども、それは今に始まった話じゃないんですよね。もう何年もあるわけで、それに手をつけられてこなかったということが問題なわけです。緊張感が続き、まして命にかかわる仕事であるわけですから、むしろ上限規制を一般の労働者よりも低くする、そのくらいの取り組みを、ILOは当たり前なんですから、そういうふうにしなければ、やはり担い手もできてこないだろうと思うんですね。
医師や看護師だって家族の顔を普通に見られる職場にすべきだと思いますが、大臣の決意を伺います。
○塩崎国務大臣 夜勤についてのお尋ねでございまして、医療現場で働く方々の場合の夜勤など、厳しい勤務環境があることはよく認識をしておりまして、その改善を図るということが重要だと思っております。
この点、既に提出をしております労働基準法改正法案では、各企業の自主的な取り組みを促す労働時間等設定改善法、これを改正いたしまして、深夜業の回数の制限などを労使に促す方針でございまして、まずはこの法案の早期成立をお願いしたい、こう思います。
上限規制につきましては、今回、働き方改革実行計画で、医師についても対象としておりますけれども、医師法に基づく応招義務等の特殊性を踏まえた対応が必要だということは先ほど来申し上げているわけでありまして、規制の具体的なあり方については、さっき申し上げたとおり、二年後をめどに結論を得ていこうと思っております。
他方、看護師さんにつきましては、医師のように法律上の応招義務が課されているわけではございませんので、原則どおりの上限規制の対象としておるところでございます。これを着実に実施することで、勤務環境の改善に向けて取り組んでまいりたいと考えているところでございます。
○高橋(千)委員 大臣の言葉で決意を聞きたかったんですけれども、やはりちょっと事務的な答弁だったのが残念かなと思います。
改めて、本当に、医師だって人間的に働ける、らしく働ける、そういう立場に立って頑張っていただきたいということを重ねて指摘したいと思います。
それでは、ちょっと一つ問いを飛ばしますけれども、「産業医の独立性や中立性を高めるなど産業医の在り方を見直し、産業医等が医学専門的な立場から働く方一人ひとりの健康確保のためにより一層効果的な活動を行いやすい環境を整備する。」と働き方改革に書き込まれました。この趣旨はどういうことかということと、独立性は重要だと思うんですが、現場で起こっている事態は労災の認定の上で企業側に有利に働いているのではないか、この指摘がたびたびあって、今もあるわけです。これに対してどのように取り組んでいくのか、伺います。
○田中政府参考人 お答えいたします。
三月二十八日の働き方改革実現会議で決定されました働き方改革実行計画におきまして、時間外労働の上限規制とあわせて、働く方が、健康の不安なく、働くモチベーションを高め、その能力を最大限に発揮できるようにするための対応として、働く方の健康確保のための産業医、産業保健機能の強化に取り組むこととされております。
産業医は、事業者によって選任されますけれども、その職務の遂行に当たりましては、医学専門的な立場から、働く方一人一人の健康確保のための最善の対応を事業者に対し助言することが期待されております。
このため、現行制度においても、独立的、中立的な職務遂行を前提として産業医による事業者への勧告権などが定められておりますけれども、産業医がより一層の独立性、中立性を確保しつつ働く方の健康確保等のために活動できる仕組みや環境の整備について検討を行うことといたしております。
産業医の仕事の仕方については、今先生おっしゃったようなことも含めて、いろいろな御指摘がございます。そういったことも含めて、現在、労働政策審議会安全衛生分科会において御審議いただいているところであり、実行計画の内容の速やかな位置づけに向けまして議論を進めてまいりたいと考えております。
○高橋(千)委員 いろいろな指摘があるという言葉の中に、私が言いたかったことを含んでいると受けとめたいと思います。
それで、昨年十二月二日の本委員会で、NTT東日本に対して労災の請求をしている女性の案件を取り上げました。そのときに、山越局長は、一般論ではあるんですけれども、心理的負荷による精神障害の認定基準においては、発病前おおむね六カ月間に業務による強い心理的負荷があるということを要件としているけれども、しかし、いじめとかセクハラのように行為が繰り返されるものについては、当然それより前を見て評価するんだというお答えがありました。
残念ながら、二月二十八日に山梨労働局よりこの案件の審査請求を棄却するとの決定書が出されたわけなんです。なぜかということを考えたいと思うんですけれども、この方は中島宏美さんといいます。名前を言ってほしいと本人が言っているので、あえて言わせていただきました。
年末に、原処分庁の甲府労働基準監督署と山梨労働局の労災補償課による申立人との審査会がやられたわけなんですね。
そのときに、平成二十二年の年末、これが事の発端、職場の上司によるセクハラ、強制わいせつですけれども、そういう事件があったわけです。この事実認定について、原処分庁は、それを認めたことが山梨県内では前例がないと述べた後で、行為者が、私、しましたと言えば、それはお互いの言っていることが相反しないから認めるという発言を、私、しましたと認めるんだったらそれは世話ない話であって、そんなことを言っているわけですね。
それどころか、服の上からなら、セクハラには該当するけれども、まあ、認定基準でいうと特別な出来事には当たらないんじゃないか、要するに、服の上からなら大したことない、言ってみればそういう驚くべき発言を担当者がしているわけです。それはさすがにその場にいた労働局にたしなめられて、慌てて訂正をしている。
やはりこの認識は本来まずいんじゃないでしょうか。
○山越政府参考人 一般論としてお答えを申し上げさせていただきたいと思いますけれども、精神障害の労災認定基準におきましては、身体接触などのセクシュアルハラスメントを受けたことは、職場における心理的負荷となる具体的出来事の一つとして位置づけられておりますので、これは労災認定に当たっての評価の対象となる事項でございます。
このセクシュアルハラスメントの労災認定でございますけれども、労働基準監督署において関係者への聞き取り調査を行いまして、その結果、セクシュアルハラスメントに当たる事実が確認されれば、加害者がそれを認めていない場合でも、労災認定上の評価の対象とされるものでございます。
いずれにいたしましても、精神障害についての労災認定は、平成二十三年に策定をいたしました心理的負荷による精神障害の認定基準に基づきまして、必要な調査や主治医、専門医の意見などを聞いて判断することとしておりまして、適切に調査を行いまして、事実関係を把握した上で、適正な労災認定を行うように努めてまいりたいと存じます。
〔三ッ林委員長代理退席、委員長着席〕
○高橋(千)委員 まず、加害者が認めていなくてもとお答えがありました。非常に大事なことだと思うんですね。当事者、一番最初に対応する原処分庁がそういう認識であるということ、これは何としても正さなければならないと思うんです。
私がきょう問題にしたいのは、その最大の根拠とされたのが嘱託医なんです。山梨労働局地方労災医員というんですね、身分が。その意見書に書いてあるわけです。
具体的出来事として、セクハラを受けた、これは、セクハラを受けたとする出来事に該当する可能性があるけれども、その出来事の平均的な心理的負荷の強度は2である。そして、本来、出来事にかかわる忘年会があったものですから、そういうのは業務ではないということと、それから、被害者と加害者は上司と部下、加害者と被害者という関係ではなく、プライベートなつき合いであったことがカルテの記載内容からもうかがえるために、被災者が言うところのセクハラとは違うというふうに書いているんですね。
この意見書、私もずっと読みましたけれども、事の発端が二十二年だと言っているのに、本人がNTTに入るずっと前の平成十九年のころからの病院歴を事細かに書いているわけなんです。それは言えば切りがない話で、薬を過剰投与されたとか、それでぐあいが悪くなったこともありました。でも、結果としては寛解をして勤めているわけです。それなのに、まさにそれが原因であるかのように長々と書いて、肝心の出来事についてはカルテ一つで結論を出しちゃっているわけです、個人的な関係だ、プライベートな関係だと。そういうことを判断しているという問題だ。それどころか、もし本人が強姦だと言うのであれば警察に申し立てているじゃないかという初歩的な意見を述べています。
なぜ初歩的なことと言うかというと、それは、厚労省の要綱を詳しく読みました。特別な出来事があったとき、すぐには訴えられないことは容易に考えられることだ、フラッシュバックするなどして心身に影響が出てきて、あるいは、医療機関にかかる、それだって一定の時間が経過してからのことになることだってあり得る、そういう特殊性を考慮した認定基準になっているのではなかったですか。
○山越政府参考人 これも一般論としてお答えをさせていただきたいと存じますけれども、セクシュアルハラスメントに関する事案の場合は、その被害者が被害を受けてからすぐ相談できなかったりするというような特殊性もございますので、こうした相談などがすぐになかったことをもって単純に心理的負荷が弱いと判断する理由とはしていないところでございます。
また、医療機関への受診が発病から相当後になった場合でも、そのことをもって不認定となるものではないものでございます。
今後とも、個々の事案の労災認定に当たりましては、事実関係を的確に調査いたしまして、また、主治医や専門医の意見を聞いた上で、発病時期などの特定を行いまして、適切な労災認定を行うように努めてまいりたいと存じます。
○高橋(千)委員 専門医がカルテの中に、この人は付き添ってきた人とプライベートな関係である、そういうことを書くのが普通なんですか。
○山越政府参考人 お答えを申します。
セクシュアルハラスメントが原因で精神障害になった場合でございますけれども、その事実認定は、そういった医証だけではなく、例えば、会社関係者の方でございますとか、必要な場合にはその被災者の家族の方などからもよく状況をお聞きした上で、事実関係を把握して認定しているところでございまして、丁寧に関係する方のお話をお聞きすることにより、的確に事実関係を把握していきたいと思っております。
○高橋(千)委員 これは極めて異例な対応をしていると思うんですね。
企業側の、加害者本人なんですよ。加害者本人が被害者に付き添って病院に行っている。それは、お互いの関係性、要するに、上司と部下との関係性、切迫的な、心理的な問題があって付き添っているんです。
それに対して、付き添っているからそれはプライベートな関係なんだろうといって、カルテを見て、労働局がですよ、取り調べのときに、そういう関係なんだろう、だから違うんだ、これはセクハラ事件ではないんだということをカルテをもって判断しているわけなんです。だけれども、本人は、付き添ったのは事実だけれども、そういう関係ではないと答えている。当たり前なんですよ。だって、別のカルテを見ましたよ。おじと書いていたんですよ、おじが付き添っていたと。おじと間違うような、年の離れた人なんです。片やおじと書いていて、片や愛人だみたいなことを書いている。不倫関係だって書いている。そんなばかな話があるわけないじゃないですか。
一番決定的なのは、そのカルテを見て、こう書いている、こう書いているといって、本人が違う違うと言ったときに、ではカルテを開示してくださいとなるじゃないですか。ところが、真っ黒塗りのカルテが出てきて、本当にそう書いてあるのかどうか、あるいはその書いていることが事実かどうかを証明することができないわけなんです。おかしくありませんか。
なぜそう言うかというと、本人の署名欄すらも黒塗りなんです。本人の名前ですよ。本人の名前、サインしたところまで黒塗り。そういうものを出して、カルテに書いているから間違いない、そういう判断がされているんです。だったら、これは労働局も企業側に立って判断していると言わざるを得なくなるじゃありませんか。違いますか。
○山越政府参考人 お答え申し上げます。
セクシュアルハラスメントが原因で精神障害になった場合の事実認定でございますけれども、先ほど申し上げましたように、主治医からのさまざまな聴取ばかりではなく、会社関係の方、同僚の方、あるいはその被災者の家族などからもよく状況をお聞きした上で、総合的に事実関係を把握し、認定していきたいというふうに思っております。
いずれにいたしましても、丁寧に関係する方のお話をお聞きさせていただきまして、的確に事実関係を把握していきたいと思います。
○高橋(千)委員 大臣、このような案件はきちんと調査をするべきではないでしょうか。本人が自分のカルテを情報公開しなければ出てこない、労働局に対してですよ、情報公開しなければ出てこない。しかも、自分のカルテが黒塗りに出てきて、証明することができないわけなんです。
関係者の意見をたくさん聞くと言いました。ところが、親に対しては加害者からたくさんのメールが届いているんですよ、この案件にはかかわるなと。全部それは証拠があります。幾らでも提示をします。調査をするべきではありませんか。
○塩崎国務大臣 労災認定に当たりましては、その請求があった際に、やはり個別の事案ごとに、丁寧に、また的確に事実関係を調査して、そして主治医あるいは産業医、しばしば産業医が十分機能していないということもあって、電通事案でも、産業医の存在というのは高橋まつりさんのケースには出てきていないわけでありまして、そういうようなことを考えてみて、業務を原因として発症したものかどうかということを、先ほど局長からも答弁申し上げたとおり、丁寧に、そして適切に判断をするということが大事であるわけであります。
したがって、事実関係をしっかりと調査するということが基本中の基本でありますので、どういうデータが出てきているのか、今いろいろ御指摘がありましたが、そこのところは適切な材料がなければ判断ができませんから、事実関係をしっかりと捉えられる資料を調査した上で、できるだけ早く、迅速に、そして適切な労災認定を行うようにしていかなければならないというふうに考えております。
○高橋(千)委員 同じカルテが二枚あったりしますからね、書き加えているものとそうじゃないものと。どちらが本当か、そうした証明をしていかなければならないと思います。
資料の最後に、これは厚労省が出している調査の事例集であります。こうして、これは一部しか抜粋をしていないんですけれども、やはり丁寧にやって、きちんと認めているわけなんです、本来は。だから、私が事例に言ったような、忘年会だから業務命令じゃないんだとか、実際は今は、社長命令でゴルフコンペにまでつき合わされているとか、そういうことはしょっちゅうあるわけじゃないですか。そういうことを簡単に切り捨てているということが、事例集を見るとそうじゃないということがわかるわけなので、その立場に立っていただきたい。
今、ジタハラという言葉もはやっていますよね。長時間労働が叫ばれるようになって、表向き残業はNG、だけれども仕事はあるということで、見えない残業を強いられている、そういうことが起こっています。ですから、ここに切り込むのは、ルールをきちんとつくることと同時に、見えない労使の関係性、これに切り込んでいかなければ問題は解決しないということを指摘して、きょうは終わりたいと思います。
以上です。
――資料――