将来世代も水準低下 首相認める
日本共産党の高橋千鶴子議員は25日の衆院厚生労働委員会で、年金カット法案は“将来世代の給付確保のため”と言う政府の言い分を突き崩し、「まずこれ以上の給付減と負担増をやめるべきだ」と述べ、法案の撤回を迫りました。
高橋氏が、年金の伸びを物価・賃金の伸び以下に抑えるマクロ経済スライドで「年金水準=購買力が下がるのは明確だ」とただすと、安倍首相は「物価の伸びほど年金は上昇しない」と認めました。
さらに高橋氏が、今回の改定でマクロ経済スライドの未実施分を持ち越すことや、賃金に合わせて改定するルール見直しによって「前年より年金水準が下がり、将来世代の水準も下がる」とただすと、安倍首相は「物価が上がっても賃金が下がれば、下がった賃金にスライドさせる」と述べ、将来水準の低下を認めました。
高橋氏は、現役男性の手取り収入の50%給付を維持すると言う主張についても、受給開始年以降にどんどん落ち込み、40・4%まで下がると追及しました。
塩崎恭久厚労相が“物価スライドで購買力を維持する”と昨年答弁していたことに触れ、今回、賃金スライドを提案するのは矛盾していると追及すると、厚労相は答弁に立てず、鈴木俊彦年金局長は「50%の水準を保てるのは新規裁定者(=受給開始年)だけだ」と認め、「賃金の動きに合わせて改定してこなかったため、将来の年金水準が下がる結果になった。きちんと対応するのが責任だ」と居直りました。
高橋氏は、地方では年金収入が県民所得や家計消費の2割を占めていることを示し、「高齢者にいま以上のガマンを押し付ければ国民全体に悪影響を与える。年金を削れば経済の好循環なんて生まれない。これ以上の給付削減をやめ、医療・介護の負担増もやめるべきだ」と強調しました。
(しんぶん赤旗2016年11月26日付より)
――議事録――
○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
本会議で総理に法案について質問したのは十一月一日でした。そのときは言い切りでしたので、一問一答の質疑で順次深めていきたいと考えていましたが、全く時間が足りません。
委員長にお願いをいたしますが、本日の参考人質疑もありました。さらに十分な審議を確保してくださるようにお願いいたします。
○丹羽委員長 理事会でそれは諮ってください。筆頭間で諮ってください。
○高橋(千)委員 ちゃんとお答えいただきましたが、今聞こえませんでした。
○丹羽委員長 筆頭間で御協議をお願いいたします。
○高橋(千)委員 筆頭間の協議が成り立たないときは、ぜひ理事会でお願いをしたいということであります。与野党が一致をしておらないという状況で、我々はさらに徹底審議を求めたいと思います。
総理にまず質問いたしますが、冷静に、しかもシンプルな質問ですので、総理が答えていただきたいと思います。
野党が今度の法案を年金カット法案と呼んでいることに対して、やや、レッテル張りだとか、将来年金確保法案とか、あるいは転ばぬ先のつえなどというさまざまな名前が与党の側からも出ております。
しかし、先ほど実は総理がちらっと述べたように、年金が下がることは間違いないんです。カットという表現を使わなくても構いません。
それはどういうことかといいますと、マクロ経済スライドで所得代替率が三割下がるのは〇九年に既に決まったことだと答弁をされている。でも、それは過去に一度しか発動されていない。なので、それを確実に発動することを今回の法案で組み込んだわけですよね。
なので、仮に物価より賃金が上回る経済再生ケースであっても、マクロ経済スライドが毎年引かれることになるわけですので、年金水準、購買力が下がるのは明確だと思いますが、いかがでしょうか。
○安倍内閣総理大臣 マクロ経済スライドは、平成十六年の改革によって、将来世代の負担を過重にしないため、将来の保険料水準を固定し、その範囲内で給付と負担のバランスをとるよう給付水準を調整する仕組みとして導入されたものであります。
そして、今回の年金額改定ルールの見直しについては、マクロ経済スライドの調整期間の長期化を防ぎ、将来世代の基礎年金の給付水準を確保するため、マクロ経済スライドの未調整分を持ち越し、できる限り早期に調整し、賃金に合わせた年金額の改定により、支え手である現役世代の負担能力に応じた給付とすることとしたものであります。
マクロ経済スライドによる調整が行われる間は、既に年金を受給されている方の年金額は物価の伸びほど上昇しないことになります。しかしながら、マクロ経済スライドによる調整を早期に行い、終了させることは、将来世代の給付水準の確保につながるものであり、御理解をいただきたいと思います。
なお、見直しに当たっても、マクロ経済スライドによっては、前年度よりも年金の名目額を下げないという配慮を維持しているところであります。その上で、低年金、低所得、無年金の高齢者については、社会保障・税一体改革において、年金の受給資格期間の二十五年から十年への短縮、年金生活者支援給付金の創設、医療、介護の保険料の負担の軽減など、社会保障全体を通じた低所得者対策を講じることとしております。
○高橋(千)委員 ですから、一問一答なんですから、本会議と同じ答弁を長々とやらなくてもいいです。順々に質問していきますので、最初のところだけでよかったと思います。
二点、確認をいたしました。
結局、マクロ経済スライドを確実にやっていくわけですから、物価の伸びほど上昇しない。ですから、これは購買力が下がるというのは明確だとお答えをいただいたと思います。
それから、名目下限措置があるからと。つまり、前年の水準よりは下げないのだということは、これは原則は決まっております。今も、新しいルールでもそれは決まっている、そのことをお答えになったんだと思います。
ただ、問題は、資料の一枚目を見ていただきたいんですけれども、まず一つはキャリーオーバー制度で、削減し切れなかった分は、翌年、翌々年とどんどん繰り越していって、必ず削減しようとしている。ですから、ちょっとでも大きく物価が上がれば、その分、ざっくりと、去年削減できなかった分も合わせて、例えば、毎年一・二%マクロ経済スライドをきかせるんですから、一年削減できなければ二・四%というようになることなわけですね。そこでまず横ばいになる。
しかし一方では、そうはいっても、ずっと右肩上がりというのはさすがにないと思うんですよね。幾ら経済再生ケースといっても、ずっと右肩上がりというのは見たこともないわけで、当然、マイナス成長もあるでしょう。そのときに、転ばぬ先のつえということで、賃金スライドの新しいルールが発動するわけなんです。
この資料の1の下にあるように、物価もマイナス、賃金はそれよりマイナスの場合、新規裁定者も既裁定者も賃金に合わせる。あるいは、物価はプラスなんだけれども賃金がマイナスのときは、どちらも賃金に合わせて下げられるということで、そうすると、マイナス成長で賃金スライドが発動された場合は、このラインが下がっていくわけですよね、物価よりマイナスのところに合わせるわけですから。そうすると、そこからまたスタートしていくということなので、結局、将来世代の年金水準を下げることにもなると思いますが、いかがですか。
○安倍内閣総理大臣 これは、既にこの委員会で厚労大臣が答弁をさせていただいておりますように、物価が上がっても、賃金が下がっているときには、この賃金が下がっている方にスライドをさせるということでございますが、従来から申し上げておりますように、こうした状況をつくらないように我々も努力をしていきたい、こう思っているところでございます。
○高橋(千)委員 まず、事実だけを確認いたしました。下がる仕組みになっているということなんです。だから、私たち、カット法案と呼んでいるわけですが、現実にはそうなんじゃないかなと言わなければならないと思います。
そこで、資料の二枚目ですが、二〇一四年の財政検証から二つのパターン、政府がよく使うケースEと、それから最も悪いケースHについて。これは二〇五五年には積立金も底をつくというケースなわけですけれども、二つを示しています。
それで、先ほど来答弁されているのは、早く調整をしていけば、それだけ早くマクロ経済スライドの調整が終わって、将来世代の水準が保てるんだという説明だったと思うんです。
それで、Eケースでは、ここにあるように、終了時が二〇四三年で、所得代替率が五〇・六%。これは、二〇一四年の物価に割り戻していいますと、夫婦の収入二十四万四千円で、今より少し上がっているという計算になるわけですね。問題は、ここで示されている数字は、あくまで新規裁定者の数字だということです。
資料の三枚目を見てください。これは、似たような形の絵をパネルで、去年の予算委員会で質問したことがあるので総理も見覚えがあると思うんですが、現在の年齢の方が六十五歳になって年金をもらうと仮定して、その後の年金額の推移を示したものであります。
先ほどの資料に合わせまして、二〇四四年、つまりマクロ経済スライドが終了する年の新規裁定者、六十五歳の方、今三十五歳なわけです。その方は五〇・六%、二十四万七千円もらうということで、その先がどうなるのかというのは、上に上がっていくとわかるわけなんですね。その同じ年に、四十歳の人は四八・〇となり二十三万四千円になり、四十五歳の人は四五・七%となり二十二・三万円となって、年金を一度もらったら、その先は確実に減る仕組みになっている。つまり、既裁定者というのは将来世代じゃないんでしょうか。
○鈴木政府参考人 今先生お示しになりましたように、新規裁定者と既裁定者の改定ルール、これについて差異を設けるというのは、実は平成十二年の法改正によって既に導入されておるわけでございます。したがいまして、もとよりこの法案で導入されたわけではないわけでございます。
その上で、先ほど来総理あるいは大臣が御答弁を申し上げておりますのは、新規裁定者の年金につきまして、今回の改定ルールによりまして、あるいは従来入れておりますマクロ経済スライドによりまして、どういったような所得代替率の動きが生ずるであろうか、その際、基礎年金についての購買力というものが失われることになるだろうかということの論点について申し上げたわけでございまして、その点につきましては、購買力が失われることはないということでございます。
○高橋(千)委員 そうです、平成十二年に、これがもう既に入れ込まれている。そのときの説明は、下から上に上がっていったときに、最初にもらうときの所得代替率の八割を下らなければまあいいんだといって、年を重ねていけば消費支出が減るんじゃないか、それが自然な姿じゃないかという説明だったと思うんです。
しかし、昨年の大臣の答弁は、こういうふうなものでありました。二〇一五年二月二十七日の予算委員会です。「年金を受け取り始めた後の年金、いわゆる既裁定年金と呼ばれますけれども、この改定は、購買力を維持するために、基本的には物価スライドのみということにしたわけでございます。」中略「なお、先進諸国の年金制度においても、多くの国々は我が国と同様に、年金額の改定というのは物価スライドのみで行われているということが多いわけでございます。」と答えているわけです。
先進諸国まで引き合いに出して、既裁定者には物価スライドが原則と言い、だから購買力が維持できるんだと言っておきながら、今回は賃金スライドの提案をしている。どういうことですか。
○鈴木政府参考人 今回の見直しの前のルールにおきましても既に、物価と賃金と丈比べした場合に賃金の方が物価ほど上がらない場合には、賃金に準拠して改定をするというようなことになっております。
繰り返し申し上げますけれども、購買力のお話につきましては、あくまで新規裁定年金の話ということで従来から御答弁を申し上げているところでございまして、その際、では既裁定年金についてはどういうことになるのかということは、ただいま先生御紹介ございましたように、既に平成十二年の改正におきまして、八割を維持するということで歴代厚生大臣が御答弁を申し上げているところでございます。
○高橋(千)委員 局長、そういうごまかしの答弁をしてはなりません。
賃金と物価を丈比べして上がらない場合はとおっしゃいました。そうなんですよ。上がらない場合の話であって、今は、どっちも下がっていたときに、賃金の方が下がったら賃金に合わせるという、それは全く新しいルールではありませんか。それは十二年のときは想定していなかった。だから大臣が昨年、先進諸国だって物価スライドのみだと力を込めて答えたんじゃありませんか。
二〇一四年度の財政検証結果レポートを見ると、「年金をもらい始めた年以降の年金額は、原則として物価スライドにより年金の購買力を維持する仕組みであるが、マクロ経済スライドによる給付水準調整期間は、物価スライドを抑制することとなるため、いずれの経済前提においても年金の購買力は低下していくことになる。」と明記しているんです。最初からわかっていたこと、国民にもこのことをきちんと説明してこなかったのではありませんか。総理、お答えください。
○丹羽委員長 鈴木年金局長。その後に総理。
○鈴木政府参考人 まさに今先生から御紹介いただきましたように、私ども、公表をしております年金数理レポートの中で、ただいま御紹介になったような記述を既にしておるわけでございます。
そして、昨年の大臣の答弁ということで今御質問ございましたけれども、今回の法律改正の提案に当たりまして、まさに賃金が名目でも実質でも下がるような状況下で、この賃金の動きに合わせて年金を改定してこなかったがために将来の年金水準がより下がってしまうような結果を生んだということがわかったわけでございますので、このわかったことに基づいて早急にきちんとした対応を図るというのが責任ある対応であろうというふうに思っております。
○高橋(千)委員 まず、先ほどの質問をきちんとやはり認めていただかないと、丈比べをした話を、逆さまなことで、私が下がった話をしているのに、それをすりかえたということは、きちんとやはり認めていただかないといけないと思うんですね。
時間が来たので、ここはまとめますけれども、世代間の分かち合いとか持続可能な制度を叫んで、高齢者に今以上の我慢を押しつけることが、実は国民全体へも悪影響を与えるわけです。今、国民の四人に一人が年金受給者ですから、地域の消費支出、地域の経済を決めているのは、ある意味、年金受給者なんですね。
私の生まれた秋田は、年金は県民所得一六・四%、対家計消費一八・五%です。だけれども、総理の地元の山口では一六・〇%、対家計消費二二%なんですよ。だから、ここを削ると、本当に経済の好循環なんて生まれるはずがないんです。
こういう立場に立ってやはり組み立て直さなきゃいけない、このことを指摘して、終わりたいと思います。
――資料――