際限ない削減を強要
高橋氏 年金カット法案追及
日本共産党の高橋千鶴子議員は16日の衆院厚生労働委員会で、「年金カット」法案は際限のない年金削減を押し付けるものだと追及し、高齢者も現役世代も安心できる年金制度を求めました。
高橋氏は、政府が2004年の「100年安心プラン」で毎年2%以上の物価・賃金増を描いていたが、実際は横ばいだと指摘し、年金引き上げのために「正規雇用化や男女の賃金格差解消こそ必要だ」と主張。塩崎恭久厚労相は「重要な課題だ」と認めました。
法案では、年金の伸びを物価・賃金以下に抑える「マクロ経済スライド」の未実施分を翌年度以降に持ち越す「キャリーオーバー制度」を2018年から導入します。
高橋氏が、プラス成長でも2043年、マイナス成長のケースなら2072年まで繰り越しが続くとただすと、鈴木俊彦年金局長は「その通り。導入しないならフル発動(して削減)するしかない」と開き直りました。高橋氏は「際限のない引き下げの道だ」と批判。「アベノミクスの破綻を見越した改悪だ。“転ばぬ先のつえ”だというが、折れそうなつえを見て見ぬふりをしているだけだ」と批判しました。
高橋氏は、ルール見直しで年金水準の調整がどれだけ早くなり、給付水準に寄与するのかと質問。鈴木氏は、終了がわずか1年早まるだけで、寄与率は0・3%、夫婦で月2千円だと答弁しました。
高橋氏は「わずか1年早まるために、ずっと削減に耐えるのか」と批判。2004年の厚労相案骨子や社会保障審議会年金部会の意見で「親の生活の安定を通じ、現役世代も安心して能力を発揮できる」と述べていることに言及、この立場を投げ捨てたのかと迫りました。
塩崎氏は「世代間の公平を確保することで安心して年金を支えていただける」と答弁。高橋氏は、最低賃金引き上げや均等待遇のルール化など政府の責任でできることがあると述べ、「減らさず、最低保障年金の創設へ向かうべきだ」と主張しました。
(しんぶん赤旗2016年11月17日付より)
――議事録――
○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
本委員会の所信質疑から、あるいは前回の救済法案まで、さまざまな機会で我々がカット法案と呼ぶ法案が議論をされてきました。ですが、委員会の質疑は私にとってはこれが初めてでございます。これまで、法案のときは法案の議論をしていましたし、一般のときは一般の議論をしておりましたので、もう答えたなどということは言わないでいただきたい。きょうの議論を通していて一部ダブるところもあり、また今の初鹿委員のところと重なる部分もあるなと思いますけれども、やはり私は、正直言って、税と社会保障の一体改革のときからずっと一貫して野党だったわけでありますので、そういう意味でも言いたいことがございます。ですので、そこをぜひ踏まえていただきたいということを最初に言っておきたいと思います。
それで、まず、今年度の新規裁定者、初めてもらう方の年金額は、老齢基礎年金の満額では六万五千八円、妻が専業主婦で夫が厚生年金かつ四十年間加入したといういわゆるモデル世帯では二十二万一千五百四円となっております。これはほぼ昨年と同水準でありますけれども、当然、みんながこんなにもらっているわけではありません。基礎年金が基礎的消費支出を補えないではないかという、きょうも随分議論がありましたけれども、私自身も前回も指摘をしたところでありますし、これは見ればわかる話なんですね。
でも、やはりそれだけではないということで、まず資料の1のグラフ、これは厚生年金保険の男女別年金月額の分布を示したグラフであります。
一目瞭然だと思うんですが、総数の山があるのは九万から十万のところであります。そして、女性が圧倒的に手前に山がある。つまり、低年金だということであります。男性の方がわずかに右に山があるわけですけれども、だからといって決して高いわけではありません。
内訳は二枚目、これは今、初鹿委員が出されたものと同じものであります。
平成二十六年度末現在、二〇一四年度末現在で、厚生年金の受給者は千五百四十二万二千十四人です。平均月額は十四万四千八百八十六円。でも、最も多い階層、つまり一番もらっている人が多いのは幾らかというと、今言った月額九万から十万なんですよね。そうすると、七・三%である。そして、一目瞭然のように十万円以下の方も非常に多い、一万円未満という方もいらっしゃるわけですが、これが二五%を超えています。三十万円を超える方が二万六千百六十三人もいる一方で、基礎年金よりも少ない六万円以下の方が六十六万八千九百五十人もいらっしゃいます。この実態をやはりしっかりと見るべきだと思うんですね。
前回、年金期間短縮法案のときに、基礎的消費支出に比べて単身世帯ではそもそも足りていないことや、年金生活者の深刻な生活実態の声、一部ですが紹介をいたしました。しかし、大事なことは、年金がこれ以上減ると暮らせないという声は決して一部のもの、レアケースではなくて、むしろ大部分の声だということなんです。
しかし、カット法案は、まさにここから下がる一方、あるいは、ほとんど横ばいになるんじゃないか、こういうことを私たちは危惧しているわけです。
まず大臣に、この年金生活者の現状について、今私が指摘をしたことについては、きょう認識はほぼ一致できると思うんですけれども、その点で伺いたいと思います。
○塩崎国務大臣 先ほど初鹿委員からも少しお話がございましたけれども、今の御指摘のとおり、老齢厚生年金の受給権者のうちで月額十万円未満の方が占める割合は約二五%となっておりまして、これらの方の多くは定額部分のない報酬比例部分のみの年金が支給されている六十五歳未満の方々だというふうに考えられます。
こうした報酬比例部分のみの年金を受給されている方は、六十五歳になりますと基礎年金も含めた厚生年金を受給されることになりますので、その時点で受給額も増加をするというふうに考えられます。
一方で、御指摘の女性の年金額につきましては、平均して月額約十万円でございまして、男性の約十六万五千円に比べると低額になっております。これは、男性に比べて女性の方が年金額の算定の基礎となります標準報酬月額が低いということ、それに加えて加入期間が短いといったことが影響しているものではないかというふうに思われるところでございます。
○高橋(千)委員 例えば、今もあるいはきょう朝からも、生活保護世帯と比べた議論がありました。ただ、六十五歳以上の生活保護受給者の中で、既に五割近くの方は年金をもらっています。逆に言うと、五二%が無年金であるというのが厚労省の調べですよね。
私も、本当に、ワーキングプアという言葉がテレビで話題になったときに、そのテレビに出た方に直接お会いしたことがありましたけれども、四十年間ばりばり働いているんです、正社員です、そして名立たる大企業です。だけれども、一人では到底暮らしていけない、もう先立たれてお一人でしたから。それで、生活保護を一部受給しています。ですから、生活保護を受給していることが、何か満額で、そして年金よりもえらい高いという議論もありますけれども、そうじゃないんです。あくまでも不足した部分ですから、一万か二万だけの方もいらっしゃいます。
そういうことも、全体を踏まえて、やはり公的年金の役割を、ちゃんと働いて、頑張って納めて、頑張って暮らせるようにする水準にしていくことが実は前向きな議論なんじゃないか、私はこのように思います。最初にそのことを指摘させていただきたい、こう思います。
スライドの話をする前に、年金支給額のもととなっている標準報酬月額がどうなっているのか。これも少し議論がありましたけれども、非常に差があるわけですよね。やはり男性と女性でも差がある。
ここ数年、若干伸びているわけですけれども、いわゆる百年安心と言われた二〇〇四年から十年間で見るとどうなっているのか。つまり、二〇〇四年と二〇一四年の比較を男女でお答えください。
○伊原政府参考人 お答え申し上げます。
年金額の算定の基礎となる標準報酬月額につきまして、平成十六年度末における平均額は、男子が三十五万八千六百七円、女子が二十二万五千六百六十三円となっております。一方、平成二十六年度末における標準報酬月額の平均につきましては、男子が三十四万九千七百三十五円、女子が二十三万五千七百六十三円となっております。
○高橋(千)委員 今お答えいただいたように、男子は実は減っていまして、女子はふえている。ですが、その額は余りにも男子と比べると少ないということが耳で聞いてもおわかりいただけたと思うんです。
資料の3に、これをグラフにしてみました。やはり女子は若干右肩上がりになっている。だけれども、比較するとまるで少ない、六割、七割の水準であるということ。それから男子の方は、若干上がってきてはいるんですけれども、二〇〇〇年の水準、三十六万五千円を超えている、この水準にまだまるで戻っていないというのが実態であるかと思います。
先ほど来議論があったように、物価上昇率は〇・二%前後ですので、ゼロ近傍、だからほとんど物価を加味しなくてもいいような、そういう実態だ、横ばいになっている、こういうことが言えるのではないかと思うんですね。
そこで、実は、二〇〇四年の改革のときは、参議院の厚労委員会の質問で、当時の坂口厚労大臣は、現在、現役男子の手取り賃金が三十九万ぐらいである、それが二〇一七年ごろには五十万ぐらいに上がる、あるいは二七年ですと六十三万円と答えています。その時点で既に、毎年二%以上のプラスを期待していたと思うんですね。現実が全く違っていたのは、もう既に御存じのとおりです。だから、これから先が急にそうなるはずがないという議論がるるされてきたのかなと思っております。
そこで、やはりこのグラフの意味をよく考えてみたいと思うんです。
大企業の内部留保は、これだけゼロ近傍で横ばいだと私は言いました、デフレの中でも最高水準までためてきているわけですよね。二〇〇〇年との比較では一・七四倍、三百兆円近くをためています。なのに、標準報酬は減っている。おかしいじゃないか。結局、正規が減って非正規雇用に置きかわっていること、男女の賃金格差が依然として大きいこと、あれこれではなく、ここを解決する以外にないと思いますが、大臣、いかがでしょうか。
〔委員長退席、三ッ林委員長代理着席〕
○塩崎国務大臣 二〇〇四年以降の経済の伸びあるいは実質賃金の動きについては、リーマン・ショックの発生、それから、長続きするデフレからの脱却に向かう過程での物価上昇など、さまざまな要因が影響していると考えられます。
御指摘のうちで、まず、正規、非正規の動きにつきましては、足元の数値では、働き盛りの五十五歳未満では、二〇一三年から十五四半期連続で、非正規から正規に移動する方が正規から非正規になる方を上回ってきております。それから、二〇一五年につきましては、正規雇用労働者が、第一次安倍内閣以来八年ぶりに前年比でプラスに転じて、二十六万人増加をいたしました。こういったことで着実に改善を見ているわけであります。
正社員を希望する方々の正社員転換、この推進は重要でありまして、本年一月に策定をした正社員転換・待遇改善実現プランに基づいて、非正規から正社員への転換などを行う事業主を支援するキャリアアップ助成金の活用促進などに取り組んでまいっております。
男女間の賃金格差についてでありますが、これを平成十七年で見てみますと、男性を一〇〇とした場合、女性が六五・九でございましたけれども、平成二十七年、昨年では七二・二となっておりまして、縮小傾向にございます。しかし、依然として格差は大きいわけでありますので、本年四月に施行された女性活躍推進法に基づいて企業に行動計画の策定を促すなどの取り組みを進めております。
非正規雇用の方の正社員転換や男女間の賃金格差の解消は安倍内閣にとっても極めて重要な課題でございまして、働き方改革を含め、今後とも全力で取り組んでまいりたいというふうに思います。
○高橋(千)委員 女性活躍推進法は、内閣委員会に私も出張っていって質問しましたけれども、賃金格差を指標に入れておりませんので、やはりこういうところが問題である。
平成十七年からの比較でおっしゃいましたけれども、一定は縮まってきているということは確かです。しかし、欧米から比べるとまだまだ低いということがはっきりしているし、また、働き盛りの、非正規から正規にふえたというのも、総理がよく予算委員会で答弁されていたのを脇で聞いておりました。
団塊世代が一定リタイアをして、あるいは底を打ったという中で今労働力が不足しているわけですから、正社員が一定ふえる展開になるというのは自然の数字であろう。ですから、アベノミクスが貢献したわけでは決してないわけで、やはりここは、本当にこれからの本格的な議論が必要ではないかと思っております。ただ、やり方についてはまた今後議論するわけですけれども、問題意識は基本的には一致しているのではないかというふうに思いたいなと思っております。
そこで、二〇一四年の財政検証、これも先ほど議論があったわけですけれども、これは、私もこのときにも既に質問しておりますけれども、昨年一月二十一日の社保審の年金部会の整理でいいますと、一つは、日本経済の再生と労働市場参加の促進が進めば、現行の制度のもとで、将来的に所得代替率五割を確保できる。二つ目は、低成長が続いた場合、五割を割り込む。三つ目は、オプション試算によって、三類型いずれもが持続の可能性を高め、給付水準を確保する上でプラスになるということだったと思います。
ですから、この財政検証は、はっきり言って、今のままでは破綻するということを明確に認めたものだと思うんですね。その上で、今までずっと横ばいだったけれども、経済が再生し、かつ、労働市場参加が促進して初めて五割を確保できるというのを言ったものであろうということで、かなりこれは、正直、安心ではなくなったという財政検証そのものだったのではないかなというふうに思っております。
そのことをお認めいただきたいのと、その上で、そのときにオプションを言ったわけですけれども、その中の一つが、さっきから話題になっている、デフレ下でもマクロ経済スライドをフル発動するというものが入っておりました。こうしたことが議論されたわけですが、採用しなかった理由は何でしょうか。
○鈴木政府参考人 お答え申し上げます。
平成二十六年の財政検証でございますけれども、これは、必ずしも現行のままいきますと制度が破綻するといったことを前提とするというよりは、経済が健全に機能していけば所得代替率五〇%が確保できるということが確認をされた財政検証であるというふうに思っております。
その上で、今お尋ねございましたオプション試算でございますけれども、これは三つの事項についてやっております。
一つは、今御紹介のございましたマクロ経済スライドの見直し、すなわち、デフレ下でもフル発動した場合どうなるか。それから被用者年金の適用拡大、これは、この十月から二十五万人の適用拡大をやっておりますけれども、これを思い切って拡大して二百二十万人にしたらどうなるか、さらに拡大して一千二百万人にしたらどうなるかという計算でございます。三点目が保険料拠出期間の延長ということで、今現在、二十から六十歳までが基本的な拠出期間でございますけれども、平均寿命の伸長等もございますので、これを四十五年まで拠出できるというふうにしたらどうなるかなど、一定のオプション試算を行ったわけでございます。
このオプション試算自体は、御案内のように、社会保障制度改革国民会議の報告書、そして、これを受けて成立いたしました社会保障制度改革プログラム法、この中で、年金制度の課題ということで、今御紹介した三項目も含めて課題が提示されておりまして、こういった課題の解決に資するような、そういったオプション試算をするべきであるということが国民会議の報告書でも位置づけられて、その結果、オプション試算をしたものでございます。
そこで、今お尋ねございました、マクロ経済スライドの例えばフル発動をなぜ今回やらなかったかということでございます。
当然、このオプション試算自体はアイデアでございますので、これをやれば所得代替率の大きな改善につながるということは間違いございませんけれども、これらを具体的に制度化するに当たりましては、やはりフィージビリティーというものを考えて、さまざまな検討が必要になってまいります。
今具体的に御指摘のございましたフル発動ということでいきますと、これは従来から御議論に出ております、いわゆる名目下限措置を廃止して、実際マクロ経済スライドだけで年金の実額を下げる、こういったことを前提とするわけでございますけれども、これも従来から御答弁申し上げておりますように、マクロ経済スライド自体は、経済の動きそのものと直接関係があるわけではない、人口構造の調整を長期間かけて行う制度でございますので、今般の改革におきましては、そういった趣旨に鑑みて、名目下限の廃止まではせず、これを、しかも、片づかなかった未調整部分をそのまま放置するのではなく、景気がよくなった段階で解決するという、いわゆるキャリーオーバーということで御提案を申し上げた、こういった考え方と経緯でございます。
○高橋(千)委員 まず、前段のところは、必ずしも破綻なわけではないとおっしゃいましたが、それを言っちゃったらもうおしまいでしょうから、そういう答弁になるのは当たり前ですが、それは、あくまでも経済の再生と、プラス労働市場参加が進めば、つまり、一億総活躍がうまくいけばという大前提でありますから、それを二つともかなえなきゃいけないという点ではかなり厳しい、裏を返せば、それができなきゃ破綻するよという試算であることの指摘は間違っていないと思うんですね。
それから、誤解のないように言っておきますが、私が今なぜかと聞いたのは、デフレ下でもマクロ経済スライドをフル発動せよという立場で聞いたのではございませんで、答弁が今大事なところでありまして、やはり名目下限措置を維持するということ、基本はやはり前の年金を減らすんじゃないんだということ、ましてそれは経済とは無縁のものであるから、乱暴なことはやっちゃいけないという意味だったのではないかなと。そこはとても大事な答弁ではなかったかなと思うのであります。それと今度のカット法案は、実は非常に考え方が近いものがあるかなという心配をしております。
そこで、話を進めますけれども、資料の4で今の財政検証の資料を幾つかつけておきましたけれども、労働力人口が六千万人前後を二〇三〇年まで維持できるというのが大前提になっているということ。それから、めくっていただきまして、資料の5を見ると、AからEのケースでは、今年度、二〇一六年度までは実質賃金にマイナスが立っているわけですけれども、来年度からは、物価上昇率二・二%、実質賃金一・四%というように、ずっと成長が続く前提となっている。
そうすると、この財政検証AからEのとおりであれば、絶えず物価上昇を賃金上昇率が上回っている、だから無理だという議論をさっきからされていると思うんですが、しかし、本法案で言う賃金スライドはその場合は発生しないということを確認したいのと、だとすれば、なぜこの法案が必要か、伺います。
〔三ッ林委員長代理退席、委員長着席〕
○塩崎国務大臣 二十六年の財政検証で、デフレから脱却、それから長期的に物価、賃金ともにプラスとなる経済を想定しておりまして、経済再生ケース、いわゆるAからEにおいて賃金がマイナスになるということは想定をしていないということでございます。
安倍政権としては賃金上昇を含む経済再生に全力で取り組むわけでありまして、今回の法案は、将来、不測の経済状況が生じて、名目でも実質でも賃金が下がったときに、将来の基礎年金の水準がこれ以上下がることがないように改定ルールの見直しを行うということでございます。
この見直しによって、制度がさまざまな事態に対処できるようにすることで、若い世代の年金制度への信頼が高まって、安心して今の高齢者の年金を支えていただくということとなりまして、年金の持続可能性にもプラスだということだと思います。
○高橋(千)委員 賃金がマイナスは想定していない、想定していないから本来は必要ないはずだけれども、万が一ということがこの間ずっと議論されてきたのかなと思っております。ただ、万が一ではないだろうというのが、ずっととは、もちろん私たちも言いませんが、そうではないだろうということを言いたいわけなんですね。
それで、最も現実的な試算と言われている資料5の下にあるケースEの場合、これは私、実際は、この間ケースEを言ってきたけれども、今の現状はHだなというのは皆さんと同じ認識であるわけですけれども、物価上昇率が一・二%、賃金は二・五%がずっと続くという場合になっております。
これは、現行ルールのままなら、厚生年金の調整が終了するのは二〇二〇年度、この表にあるとおりです。基礎年金の調整が終了するのは二〇四三年度。この場合のマクロ経済スライド調整率は一・二%、この理解でよろしいでしょうか。
○鈴木政府参考人 今御指摘のございました平成二十六年の財政検証のケースEでございますけれども、マクロ経済スライドによる調整率でございますが、二〇一五年から二〇四〇年までの平均でいきますと、今お示しのとおり一・二%となっております。
○高橋(千)委員 そこで、平成三十年、二〇一八年から、まずキャリーオーバー制度が導入されるわけです。資料の6を見ていただきたいと思います。
マクロ経済スライドの名目下限維持の原則は変わらないわけですよね。つまり、前年度の水準は維持することに変わりがないので、物価、賃金がプラス一%であれば、調整率一・二%だと全部引けないわけです。そうすると、残り〇・二%は翌年度以降に繰り越されることになります。マイナスだった場合は、一・二%が丸々翌年以降に繰り越されることになります。
それが二回以上続いた場合、足し算で、一・二が二・四、三・六というようにたまっていくわけですよね。これは一体最大何年繰り越すんでしょうか。
○鈴木政府参考人 御指摘のマクロ経済スライドの調整でございますけれども、これは言うまでもなく世代間の分かち合いの仕組みでございまして、早く終了することができれば、その分終了後の所得代替率がより高い水準で安定する、これが基本でございます。
その中で、今回の法案に盛り込まれましたキャリーオーバーの仕組みでございますけれども、これは、マクロ経済スライドの調整をできるだけ先送りしないで、若い人たちが将来受給する基礎年金の水準が低下することを防止する、こういうものでございます。
こうした趣旨を踏まえますと、繰り越しに期限を設けることなく、より早期に調整を終了させることが世代間の公平を図ることにつながるものと考えております。
○高橋(千)委員 これはなかなかすごい話だと思うんですよね。
さっき言ったように二〇四三年まで終了年度があるわけで、そうすると、始まる年度が一八年だから、あと二十五年ですか、ずっと繰り越すと。でも、ずっと成長しない場合のケースであると、最大で二〇七二年が終了というのもあります。そうすると、そこまでもずっと足していく。これは、期限がないと言ったんですから、そういう意味ですよね。
○鈴木政府参考人 繰り越しがずっと生ずるようなそういった経済が続くということでありますと今先生の御指摘のとおりでございますが、一方で、キャリーオーバーの仕組みといいますのは、先ほど来申し上げておりますように、現在の受給者の方々に配慮して、前年度よりも年金の名目額を下げない、いわゆる名目下限措置と裏腹の問題でございます。
したがいまして、この調整期間、繰り越しの期間に終わりがないということで、これが難しいということですと、逆に、平成十六年に設けました財政スキームのもとでは、これはもとに戻りますけれども、それではデフレ下でもマクロ経済スライドをフル発動するという選択肢しかないわけでございまして、これは、現在の与えられた状況の中で一番最適な選択肢ではないだろうかというふうに考えてございます。
○高橋(千)委員 そういう答弁で、結局、さっき私が言ったように、デフレ下でのフル発動と根っこは同じ考え方だと思うんですね。二〇七二年まで繰り越す場合もあるというわけです。だけれども、肝心なことは、キャリーオーバー制度、そんなに繰り越すのか。いやいや、そんなはずはない、上がるときもあるんだと皆さんはおっしゃっているわけなんですが、これが二〇二一年度、平成三十三年度には賃金スライドが施行となる。これが合わせわざになったらどうなるのかということを考えてみたいわけですね。
資料の7に六つのパターンがあるんだということで、上が現行制度であります。下がこれからの新しい改定ルールであります。
これは、比べると、実は、六つと言いましたが、新しい制度はそのうち二つを変えるだけだということです。
まず、今の考え方というのは、既裁定者、既に年金をもらっている方は購買力維持のために物価に合わせる。新規裁定者、初めて年金をもらう方は賃金に合わせるのが基本というのが今までのルールだったと思います。
そこで、Dを、上と下を比べていただきたいと思うんですが、既裁定者にとって物価が一%上がっているけれども、新規の人は賃金に合わせるとマイナスになってしまう。これは、両方を鑑みてゼロスライドであるというのが今の状況であります。ところが、新しくなりますと、一%物価が上がっているにもかかわらず既裁定者は新規裁定者と合わせてマイナス一・〇%、賃金スライド、こういうことになるわけであります。
また、Eのケース、上の方を見ていただきますと、これは、物価はマイナス一%だけれども賃金はマイナス二%である。今までは、既裁定者は一%マイナスで、新規の人も一%に合わせていた。余りにも二%減らすのは酷であるということです。ところが、今回は、逆に引く方に合わせてどっちもマイナス二%、賃金スライド、こういう形になると思うわけです。
そうすると、問題は、マクロ経済スライドが発動するのは調整率一・二%以上に賃金がアップするときのみなんですね。
賃金スライドが採用されると、現行でも、物価が二%上がったとしても、賃金が一%なら、ほぼ年金はゼロ増なわけですよね。キャリーオーバーで積み越された調整率があれば、これは当然二%以上なければ、また引き切れずに繰り越されるということで、つまり、一度でもマイナスの年があれば、ずっととは言いません、一度でも二度でもマイナスの年があれば、この繰り越しが来て、そして、やっとちょっと上がった、物価も賃金もやっと上がったというところをばっさりいかれる。そうすると、結果として際限のない引き下げの道になりませんか。
○鈴木政府参考人 今御質問がございましたけれども、そもそも、経済の状態がよくて賃金と物価が上がる、こういう状況のもとでは年金額が下がることはないわけでございまして、むしろ、こういう状況のもとでは年金が上がることも当然あり得るわけでございます。
したがいまして、今の政府といたしましては、このデフレ脱却、それから賃金の上昇に全力で取り組んでいく、これが、年金制度以前といいますか、年金制度の大前提となっています経済政策の姿勢でございます。
しかしながら、従来から申し上げておりますように、万が一、例えばリーマン・ショックのようなことが起きて賃金が下がるというようなことが起きたときにも、これは転ばぬ先のつえということで、将来の基礎年金の水準がこれ以上低下することのないように改定ルールを見直したということでございまして、前提の置き方次第でございますけれども、あわせまして、例えば、六万円の福祉的給付の措置、これをスタートさせた後の三十三年度から新ルールを導入するということもございますし、先ほど来申し上げておりますように、名目下限の措置というものもきちんとつけておりますので、際限のない引き下げが行われるというような御指摘は当たらないのではないかというふうに考えております。
○高橋(千)委員 名目下限をつけていても、やっと上がったときにはばっさりいかれる、賃金が下がれば引かれる、結局どういうときに上がるのかなと。一年でも二年でもこれがマイナス改定になってしまえば、それがずっと響くんだよということで、キャリーオーバーに制限がない。さっきお答えになりました、二〇四三年度まであるいは二〇七二年度まで行った場合でも制限がないと。この制度設計は非常に危険ではないでしょうか。
○鈴木政府参考人 もとより、年金制度は、経済が健全に機能して、年金制度以前の、あるいは年金の基盤になります社会経済がきちんとその役割を果たしているということが前提での制度でございますので、その中で年金制度が持続可能性を維持して、将来の若者たちにもしっかりした年金水準を確保しよう、そういうことからいたしますと、今回御提案申し上げておりますマクロ経済スライドのキャリーオーバー、そして年金額改定ルールの見直しというものはやはりどうしても必要な措置でございますので、御理解を賜りたいと思います。
○高橋(千)委員 二〇一四年度の財政検証では、先ほど来言っているように、アベノミクスの成功と一億総活躍で百年安心、大丈夫だということを描いて、内実はもしかしたら破綻する可能性があるということを見越して、賃金スライドとキャリーオーバーを入れ込み、転ばぬ先のつえだと言っている。私は本当に、今にも折れそうなつえか、あるいは既に骨折しているんじゃないか、そういうことを見て見ぬふりをしていることを指摘しなければならないと思います。
それで、ずっと答弁されているんですけれども、スライド調整が早く終われば将来世代にプラスになるという表現をされています。これは総理も何度も答えているんですが、そのイメージ図が資料の10でありますけれども、これは上の方は年度が全然入っていないんですが、さくさくとマクロ経済スライド調整ができずに、なだらかな線になった場合に、この調整期間が長期化して給付水準が低下するという意味であります。
ということで、改めて伺いますけれども、このマクロ経済スライドの調整期間の終了というのはどういう意味なんでしょうか。何をもって終了と判断するのか。
○鈴木政府参考人 マクロ経済スライドの調整でございますけれども、これは法律にルールが決められておりまして、具体的には、年金財政の均衡が見込まれて調整を行う必要がなくなったと認められるときに終了するということになっております。
具体的にはどういうことかと申しますと、このマクロ経済スライドによる調整を進めていく中で、当然、財政検証をやっていくわけでございますけれども、財政検証の年からおおむね百年後に給付費の一年分程度の積立金を保有する状態で年金財政の収支が均衡するという見通しが立った時点、この時点で終了することとなっております。
○高橋(千)委員 済みません。後で追加したので、この資料の一番下に入っているかもしれません。申しわけありません。
この10の下の図が今言ったことをあらわしていると思うんですが、確かに、入りと出が一緒で、決まっている中で、調整をしていくということの中で、一年分の積立金が残っているというところになったときに終了するというお話だったんですが、ただ、これは、二〇〇四年のときは二十年で終了する予定だった。そうすると、あと八十年安心だと言っているわけですね。
これはちょっと想像しがたいわけで、今は、二〇一四年のケースでいいますと、三十年間に延びちゃったということで、皆さんが言っているのは、そのために、スライドがきかなかったから所得代替率が上がってしまったんだと、とても悪いことのようにおっしゃるわけです。
それで、最初は五九・三%だったものが六二・七%にまでなってしまったんだということを指摘しているわけですが、括弧して書いていますように、そうはいっても、実質の手取り収入でいいますと、三十九万三千円、後の方が三十四万八千円と減っているわけなんです。ですから、代替率が高くても、もらえる年金額は逆に減っているということをまず指摘しておかなければならないわけですね。だから、多分その逆もあるんだと思う。所得代替率が下がっても年金水準は上がる場合がある。これは物価以上にスライドをきかせていくので実質価値は上がるんだという説明をしていたと思うんです。
では一体、この賃金スライドとキャリーオーバー制度を導入すれば、マクロ経済スライドの調整期間がどれだけ早まって、何%寄与するんでしょうか。
○鈴木政府参考人 まず、賃金スライドの方でございますけれども、二十六年の財政検証では、先ほど来申し上げておりますように、デフレから脱却をいたしまして、長期的に物価、賃金ともプラスになる経済を想定しておりますので、今回の賃金変動に合わせた年金額の改定ルールの見直しが発動するということは、この中で想定されていないわけでございます。
ただ、今先生お示しのこの十ページの資料でございますけれども、まさに、当初二十年間でもくろんでおりましたマクロ経済スライドの調整期間が三十年間に延びてしまった。その原因の一つが、この賃金スライドの徹底をしていなかったことによって、足元の代替率が、現役の賃金が下がっているにもかかわらず、年金の水準が、五九・三から六二・七に上昇してしまった。その結果、マクロ経済スライドの調整期間が長期化してしまったということでございますので、逆に申し上げれば、今回の賃金スライドのルールの徹底をするということは、こうしたマクロ経済スライドの長期化が防がれる効果があるというふうに御理解を賜ればと思います。
一方で、キャリーオーバー制度でございますけれども、二十六年の財政検証ケースEで申し上げますと、現行制度と比べまして、マクロ経済スライドによります給付水準の調整終了年度が一年短縮して、調整期間の終了後の所得代替率が〇・三%、夫婦で申しますと月額二千円程度上昇するものと見込んでおります。
○高橋(千)委員 ということなんですよね。
何が言いたいかというと、いろいろ言うけれども、マクロ経済スライドの調整が一年早まるだけだ、しかも、その寄与度は〇・三%だと。それにしては、余りにも長い間、年金が減っていく、あるいはふえない状況に耐えなければならないということを言いたいなと。それから先はずっと同じ年金で安心ですと言われても、到底そんなふうには言えないだろう、これが多くの皆さんの思いじゃないかということを指摘したいと思います。
それで、改めて、資料の8になりますけれども、百年安心のときの坂口試案という骨子がございます。私たちは、当然、このときの制度自体にも反対をしているわけですけれども、ただ、その出発点の思想、これはとても大事なものがあるのではないかと思うんですね。「給付と負担の具体的見直しに当たっての基本方針」「公的年金制度の堅持」、アンダーラインのところを読みます。「公的年金は、高齢者の生活のため不可欠なものであり、高齢期の親の生活の安定を通じ、現役世代も安心して社会で能力を発揮できる。」
私がこれをなぜ紹介したかというと、今、高齢者がちょっと我慢すれば将来世代につながるんだという話をるるされるわけですけれども、この出発点は、やはり今の高齢者、親の世代の安定こそが現役世代の安定にもつながる、そこから出発したのではなかったのかということが言いたいわけなんです。
その次の9のところで、これは、骨子を受けて、社保審の年金部会が年金制度改正に関する意見というのを出しています。長いものですが、最初のところだけ紹介したいと思います。
公的年金は、いまや、高齢期の生活の基本的な部分を支えるものとして国民生活に不可欠の存在となっている。
高齢者世帯の所得のうち公的年金が占める割合は約七割に達しており、公的年金を高齢期の生活設計の中心と考えている人の割合も七割を超えている。
また、公的年金は、現在年金を受けている高齢者世代はもとより、若い世代にとっても、親の高齢期の生活費についての心配や自分自身の高齢期の心配を取り払う役割を果たしており、ひいては個々人の自立や経済・社会の発展にもつながっている。
これはとても大事な思想だと私は思うんです。
大臣に伺いたい。
本当に今政府がさんざん言っていることは、高齢者が我慢しなければ将来世代にツケが回る、そればかりです。あるいは、今の年金だけで暮らしていけると思うな、蓄えや私的年金で補え、こんなことばかり言っている。この出発点の立場は忘れたんでしょうか。国民年金法の第一条、私は何度も言いますが、憲法二十五条が書かれています。これはもう空文になっちゃったんでしょうか。
○塩崎国務大臣 今回御議論いただいております法案は、マクロ経済スライドによる調整をできるだけ先送りせずに、また、仮に現在の若い人たちの賃金が下がるような経済状況が起きた場合は、現在の年金額も若い人たちの賃金の変化に合わせて改定をすることで、若い人たちが将来受給する基礎年金の水準が低下することを防止するものというふうに思っております。
世代間の公平を確保し、そして将来世代の給付水準を確保する、こうした改革によって若い世代の年金制度への信頼感というものが高まることで、安心して今の高齢者の年金を支えていただけることになって、年金制度の持続可能性も高まると考えているところでございます。
こうした不断の改革に取り組むことによって、将来にわたり年金がその役割や法律に規定をされた目的を果たすことができるようになるというふうに考えております。
○高橋(千)委員 信頼感という言葉がありましたけれども、もう一度大臣に伺いますが、今紹介した出発点、高齢者の、今の世代の安心が現役世代の、これからの世代の安心にもつながるんだという思想、だって、そうじゃないですか、親の年金が余りにも少なくて現役世代が補っている、その逆もありますし、そのことを考えたときに、決して対立だけではないんだという立場は共有していただけるでしょうか。
○塩崎国務大臣 先ほど坂口試案をお取り上げいただきましたけれども、ここにも「親の生活の安定を通じ、現役世代も安心して社会で能力を発揮できる。」というような表現がありますけれども、やはり、現役で働いている世代、すなわち、今の高齢者に言ってみれば仕送りをしているという方々の世代間の助け合い、そして、その方々が今度は将来年金をもらう立場になるわけでありますので、時間を経ても、この分かち合いというものもしっかりとやっていくということが両方成り立たないといけないのではないかというふうに思いますので、どちらかだけを助ける、どちらかが助けてどちらかが助けられるというようなことではないんではないかというふうに思っているところでございます。
○高橋(千)委員 私はもちろん両方の立場で言っていますので、政府がどちらかというと片方だけの話をしているんじゃないかということで指摘をさせていただきました。
あとは、要望だけを言いたいと思います。
改めて原点に立ち返って、どうしたら安心の年金制度をつくれるかを考えるときだと思うんです。私は、政府がやる気になれば、できることはいっぱいあると思うんです。
例えば、五千三百万人に減るだろうという労働者を六千万人に維持しなければいけないと言っている。そのときに、六百万人いるパート労働者のうち、今回最大で五十万人なんです、十月から始まった方を入れても七十五万人にしかなりません。そのときに、百三万、百三十万の壁と言われます。だけれども、そもそも、最低賃金が一律千円以上になる、あるいは均等待遇がきちんとルール化されれば、壁を越えてもメリットがある水準になれるはずなんです。
男女の賃金格差が将来の年金格差になっています。これも、男女雇用機会均等法の間接差別の定義とか、さっき指摘をしました女性活躍推進法にきちんと位置づける、そうしたことを国が正面から取り組むことによって大きな改善が見られるはずなんです。
国が補助金で誘導したりお願いベースではなくて、ルールに定めることで改善できることがあるはずだ、私はそういうことを提案して、減らさないで、最低保障年金制度創設へ重ねて検討を求めて、きょうの質問は終わりたいと思います。
ありがとうございました。
――資料――
【資料1】厚生年金保険 男女別年金月額階級別老齢年金受給権者数(グラフ)
【資料2】厚生年金保険 男女別年金月額階級別老齢年金受給権者数(表)
【資料4,5】厚労省「国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通しー平成26年財政検証結果ー」より