被験者人権明記せよ / 高橋氏 臨床研究法案で要求
日本共産党の高橋千鶴子議員は25日の衆院厚生労働委員会で、臨床研究に関する規制を定めた臨床研究法案について、被験者の人権規定の明記とともに情報公開と監視指導体制を徹底するよう求めました。
医薬品の臨床研究をめぐっては、ノバルティスファーマ社が高額の資金提供によって行った高血圧治療薬ディオバンの臨床研究でデータ改ざんが問題となっていました。
高橋氏は法案は不適正事案が続いたもとで、臨床研究への信頼回復をうたっているが、単なる人体実験であってはならないと指摘。「ヘルシンキ宣言」(人間を対象とする医学研究の倫理的原則)を踏まえ、人権と尊厳を明記した倫理指針の規定を法制化するよう要求しました。
塩崎恭久厚労相は「明示的ではないが、同じ趣旨の内容が盛り込まれている」と述べるにとどまりました。
高橋氏は、臨床研究に製薬企業が資金提供した場合の公開範囲の拡大とともに、労務提供についても公表の対象とするよう要求。さらに、厚労省と製薬会社・学会の癒着が指摘される事件が過去にあったことなどをあげ、法案によって調査・監視指導権限が与えられる厚労省自身がまず襟をただすよう指摘しました。
塩崎厚労相は「製薬企業・学会との関係が疑われることのないように、厚労省自身もしっかり法令順守する」と述べました。
(しんぶん赤旗2016年5月29日付より)
――議事録――
○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
きょうは臨床研究法案についての質疑ですが、私の前の皆さん全員が時間が足りないということをおっしゃっておりました。やはり法制化についての方向は皆さんが同じ方向を向いているんだと思いますが、課題がいろいろあるということでそのような議論になったのだと思いますので、私も二十分では足りないなと思っておりますが、引き続きやはりこの問題は深めていく必要があると思っておるということを最初に言っておきたいと思います。
そこで、法案のもとになった検討会の報告書は二〇一四年の十二月十一日に出されているわけですが、結びにこのように書かれているわけですね。「我が国の成長戦略や国民の健康寿命の延伸の観点から更なる活性化が求められている臨床研究に対し、内外の信用を著しく損ねる不適正事案が生じたことは重大な問題である。」。
私は大変違和感を感じました。つまり、臨床研究は成長戦略の目玉であって、大いに進めていきたい、しかし、こうした不適正事案が生じちゃったのでやらなきゃいけないよというふうな感じで、そうなんだろうかというふうに非常に思いました。昨年一月一日の薬事日報は、被験者保護という本質的な議論がなかったというふうに厳しい指摘をしております。
そこで伺いますが、臨床研究の法制化に向けた議論は、この不適正事案にとどまらず、十年以上前から続けられてきたと思いますが、伺いたい。
また、その際、やはり人権保護ということは繰り返し法定化の前提として指摘をされてきたものだと思いますが、なぜ被験者の権利規定が規定されなかったのでしょうか。
○神田政府参考人 お答えいたします。
臨床研究については、憲法で保障された学問の自由との関係もありまして、まず平成十五年に倫理指針を定めまして、その遵守を研究者等に求めることで対応してきたところでございます。
しかし、今回の一連の不適正事案の発生により我が国の臨床研究の信頼が失われたことを踏まえまして、先生今御指摘のございました平成二十六年十二月に取りまとめられました検討会報告書において、我が国の臨床研究に対する信頼回復を図るためには、現状の倫理指針だけでは不十分であって、欧米の規制も参考に一定の臨床研究について法規制が必要と指摘されたところでございます。
この報告を受けましてこれまで検討してまいったところでございますけれども、臨床研究を規制する初めての法律であるということもございまして、法制的な問題、それから学会等関係者との調整に時間を要していたものでございますけれども、今般取りまとまりましたことから、本通常国会に法案を提出させていただいたところでございます。
それから、被験者の権利規定がなぜ規定されなかったのかということでございますが、法律の目的には、「研究の対象者をはじめとする国民の臨床研究に対する信頼の確保を図ることを通じてその実施を推進し、もって保健衛生の向上に寄与すること」を目的といたしております。したがいまして、患者さんからの臨床研究に対する信頼の確保を図るということ自体を目的に掲げております。
具体的には、法律の規定といたしまして、特定臨床研究を実施する者に対しまして、研究の目的、内容等について研究対象者に説明し、同意を得ること、研究対象者に健康被害が発生した際の補償等について定めること、研究に起因することが疑われる疾病等が発生した場合、厚生労働大臣等へ報告することなどを義務づけておりまして、研究対象者の権利の保護についても規定をいたしているところでございます。
○高橋(千)委員 今答弁されました「研究の対象者をはじめとする国民の臨床研究に対する信頼の確保を図ることを通じて」云々というところは、ことしの五月十九日の参議院厚労委員会で、川田龍平議員の質問に対して、大臣がお答えになっておるところなんですね。川田議員の質問の趣旨も私と同じだったと思うんですが、信頼の確保というのは人権の保護とは違うだろうということを、川田議員自身がこれに対して反論をしていると思います。私は、そうだと思うんですよね。ディオバン事件から我々が学ぶべきことは何かと思うんです。
ディオバンの事件の報告書の中で、我が国で承認された二〇〇〇年当時、一般に、製薬企業による医薬品開発は高血圧症や高脂血症などの比較的患者数が多い疾患を中心に進められており、このような領域における市場獲得競争は内外で激しいものがあったということを現状認識しています。
つまり、どの企業も同じように、同じような種類の同じような効果を持っている薬を販売している中で、激しい競争をして何とか差別化につながる新たな科学的根拠を求めていた、そうした中で起こった事件だったということなわけですよね。
ですから、これが当然、医師の診療の基本にもなる、広告で大きく取り上げられて、医師が判断する基本にもなっていったということなわけで、全体をゆがめてしまったわけなんです。そこをやはり、その立場に立つと、単に信頼の確保だけでは済まないだろうと思うんですね。
倫理指針というのは、さまざまあるんですけれども、やはりどれも基本は、ヘルシンキ宣言にあるように、人に対する医学的研究が単なる人体実験であってはならないということ、人間の尊厳及び人権が守られることが前提であるはずなんだ。
ある意味、ディオバンは、降圧剤としては効果が認められている薬なんだ、だからもう世に出ているんだからとおっしゃるかもしれません。しかし、今回は、この薬の大規模な研究によって脳卒中とか狭心症とかさまざまな効能があるんだよということを、他の薬とは差別化したい、そこにデータを改ざんするという事件が起こったわけであるし、どんな効果がある薬であっても、使い方を間違えば重大な影響を与えるということは基本だと思うんですね。
改めて、その立場に立って、倫理指針の人権規定を法定化すべきではないでしょうか、大臣。
○塩崎国務大臣 ディオバン事案について、企業が、奨学寄附金が研究事案の支援に用いられることを意図及び期待していたというふうに述べているわけでありまして、このような不透明な資金提供を背景にデータ改ざんが行われたというようなことが、我が国の臨床研究の信頼性を損なったということだと思います。
大変残念なことであって、そういうことで、今回改めて法案で、製薬企業からの資金提供を受けて実施される臨床研究に対して実施基準の遵守などを義務づけるとともに、製薬企業等に対して、自社製品の臨床研究に対して研究資金を提供する際には、研究開発を実施する者と契約を締結するということと資金提供の事実の公表を義務づけるという新たな義務を課したわけでございます。
川田議員からも質問があった、人間の尊厳及び人権が守られるという問題についてでございますけれども、これは参議院でも答弁をいたしましたけれども、特定臨床研究を実施する者に対して、研究開始前に、研究の目的及び内容等について研究対象者に説明をして同意を得ること、これを義務づけるわけでございます。
それから、研究対象者の生命、健康の尊重の措置として、厚生労働大臣は、特定臨床研究の実施による保健衛生上の危害の発生または拡大を防止するため必要があると認めるときには、特定臨床研究を実施する者に対して当該研究の停止を命ずること、こういったことを規定しているわけでございますので、研究対象者の尊厳及び人権の保護に配慮をしている内容が盛り込まれているということで、明示的に人間の尊厳及び人権が守られるという表現はないにせよ、こういうような形で同じ趣旨の内容が盛り込まれているという理解を私どもはしているところでございます。
○高橋(千)委員 大臣がその趣旨は盛り込まれているんだと言うのであれば、やはりそれを明記するべきだったと思っています。
最初に質問したように、もう十年以上前から議論されてきたのは、臨床研究指針が改定されるときに、やはり人権保護ということと研究の公正さをあわせて盛り込むべきではないかということが議論されてきたんだから、初めての法律をつくるという意味でまだまだ限定的な法案だったかもしれないけれども、そのときに真っ先にやるべきことではなかったのかということを指摘したいと思います。
次に、中身に入るんですが、先ほど、倫理審査委員会はやはりディオバンでは機能しなかったんじゃないかということで、本法案がどうなるかということを、質問を通告しておりましたが、岡本委員が厳しく指摘をしましたので、ここは時間の節約で指摘だけにしたいと思っております。
そこで、次に、情報公開規定なんですけれども、現状でも、各企業がホームページから資金提供の情報を開示しているわけですけれども、非常に難しいし、ばらつきがあります。現行の製薬協の透明性ガイドラインによって公開されている範囲と、今、法案でやろうとしている中身とは、ガイドラインよりはまだ狭いことになっております。やはりここは、もう少し踏み込んでやるべきではないか。
例えば、詳しく調べようと思うと、個人情報の保護のフォームが出てきて、改めて自分がどういう者であるかというのを送らなければできないというふうなことで、もっと統一したポータルサイトにするとかして情報公開を進めるということが必要なのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
○神田政府参考人 お答えをいたします。
現在、業界団体の自主ルールに基づきまして各企業が公表の取り組みを進めておりまして、これまでの取り組みを踏まえて、本法律案においても、各企業において公表を行うということとしております。
資金提供の公表は、臨床研究に対する信頼を確保するため、製薬企業等と臨床研究を実施する医師や医療機関との関係の透明性の確保を図るという目的で行うものでございます。ある医師が複数の企業から総額で幾らの資金を受け取っているのかということを明らかにすることを目的としている措置ではないことから、各企業の公表内容を統一して集約するということは現在考えておりません。
ただ、一方で、各企業の公表について、公表の方法が統一されておらず閲覧等がしづらいという指摘があることを踏まえまして、例えば、来社方式ではなくて原則インターネットで公表を義務づけるということですとか、ウエブページの印刷ができないという指摘がございますので、それはできるようにするといったことなど、できる限り公表方法のルール化を図ってまいりたいというふうに考えております。
○高橋(千)委員 できる限りということでありました。
ただ、この情報公開の規定については省令委任が非常に多いですので、もう少し、どんなことを考えているのかというのを議論していく必要があると思うんですね。
その上で、非常に大きな論点となっているのが、労務提供、これはまさにノバ社の問題がそうであったわけで、これは当然公表の対象とすべきだと思いますが、いかがでしょうか。
○塩崎国務大臣 今回の法案は、臨床研究に対する信頼の確保を図ることを目的としているものでございますので、製薬企業等からの資金提供について、臨床研究に関連したものに限って公表の対象とするということに整理をしているわけであります。
労務提供の点で御指摘をいただいたわけでありますが、これを公表の対象にするということについて、その範囲を明確化することがなかなか難しいということ、それから諸外国の法制度でも対象となっていないということから、今回の法案では公表の対象としていないというところでございます。
○高橋(千)委員 これについては引き続いて議論をするべきだと思うんですね。アメリカのサンシャイン条項のように、十ドルから、資金提供があれば既に公開をしている、そうした例にもやはり学ぶべきだという議論もこの間されてきたと思うんですね。そういう点で、実際にどれだけのものになっていくのかというのがまだまだわからないということがあるので、重ねて指摘をしたいなと思っております。
それで、次に、大臣に伺いたいんです。
調査権限あるいは監視指導、最大では罰則つき中止命令ができるというふうに今回なったわけです。それについて、さっき細かい質問が岡本委員からあったわけですけれども、その中身のことではなくて、私が聞きたいのは、厚労省にこれまではなかった権限が付与されるということなんですけれども、厚労省自身が襟を正していかなければ、本当にこの調査権限や監視指導をきちんと果たせるだろうかということを、決意を伺いたいと思うわけです。
例えば、先ほどちょっと岡本委員などが資料として出していた中にもありました、J―ADNIの事件がありました。これは私が田村厚労大臣のときに質問したわけですが、アルツハイマー病の長期縦断観察研究ということで、同じ研究者の中から、主任研究者に対して、これはデータがおかしいのではないかという相談が厚労省にあったわけですね、メールで。ところが、その厚労省が、あろうことか、問題とされている主任研究者に、こんなのありましたけれどもと丸々送り返してしまう。ですから、守秘義務違反であることは間違いないわけですけれども。
そうすると、起こっていることがもしやデータ改ざんかもしれないという、重大なことの端緒かもしれないのに、その出だしのところでお知らせしてしまったとなると、当然、もしそれが本当に深刻な事件であれば、資料の保存という問題等もかかわってくるわけですし、重大ではないかということを指摘いたしました。
その前には、民主党政権のときでありましたが、薬害イレッサの下書き事件というのがございました。学会がこぞってイレッサの効能についてアピールを出したわけですけれども、その下書きを御丁寧に厚労省が書いていたという事件であります。
ただ、これも、結局、質問を契機として、調査検討会といいますか、内部でやっていただいたんですが、結論は、過剰サービスという結論だったわけですね。いや、これでは本当に再発防止にはとてもならないのではないかと思ったのと、私自身の問題意識は、これって案外普通に行われていることなんじゃないかな、それがたまたま今渦中となっている事件の中で発覚したのであって、厚労省がこんなふうに、どうでしょうかというのが日常的に行われているんだろうかという疑問を私自身は持ったわけであります。
こうした問題が続いてきたということを真剣に反省して、本当に監督指導できる立場なんだろうかということを大臣に伺いたいと思います。
○塩崎国務大臣 今回、臨床研究に関して、今までは倫理指針に基づく実施、指導体制であった、すなわち、厚生労働大臣にも行政指導に強制力がない、そういう形であったものに、法律に基づく実施、指導体制を構築するということで、法律に基づく調査権限あるいは監視指導ができるという形になる中でございますし、規制の実効性を確保する観点からは、中止命令そして立入検査等の行政処分の拒否等に対する罰則というものも設けられているわけで、厚生労働省としては、臨床研究の信頼性を確保するために、こうした権限を通じて、不適正な事案に対して厳しく対応するという法的な枠組みを今回御提起申し上げているということであるわけであります。
今幾つか、厚生労働省の中における必ずしも適正じゃない動きについて御指摘がありました。それはそれでそのとおりだと思いますし、製薬企業とか学会との関係が厚労省との間でやはり曇りがあるようではいけないわけでございますので、疑われることのないように、きちっとコンプライアンスを守りながら、今回法律で定める監督指導の形でございますから、厚生労働省自身も、国家公務員倫理法の遵守はもとより、法令遵守をしっかりとやっていくということは当然のことだと思います。
○高橋(千)委員 そのとおりとおっしゃっていただきましたので、しっかりと襟を正していただきたいと思います。
残念ながら時間になってしまいましたので、もう一言で終わります。
資金提供のあり方などについては、薬害オンブズパースンですとか被害者の団体連絡協議会などですとか、さまざまなところから意見が出ております。まだまだ緩いのではないかという問題、透明性が足りないのではないかという問題が出されております。
それから、最初に言った人権規定の問題などは、製薬協の方からは、むしろ、それを踏まえながら全ての臨床研究に対して法規制をするべきではないかという提案もされています。
ですから、まだ議論が途中なんだなと思っておりますが、検討規定も設けられているということで、重ねてこれをいいものにしていく議論が必要なんだということを指摘して、終わりたいと思います。