衆院厚生労働委員会は31日、生活保護法改悪法案について参考人質疑を行いました。
朝日訴訟の会理事の朝日健二さんは「申請を抑制し、生存権を否定し、生活保護法の根幹を前近代的に改悪するもので断じて認められない」と強調。就労指導強化による生活保護からの追い出しとあわせて、「垣根を高くして寄せつけず、かろうじて寄っても門戸が非常に狭められる」と指摘しました。
生活保護水準は憲法25条の生存権保障に反するとした東京地裁判決を受けて引き上げられたことにふれ、生活保護基準の切り下げを批判するとともに、最賃など国民全体の生活水準を引き下げるとのべました。
自立生活サポートセンターもやいの稲葉剛理事長は、20年間で3000人の生活保護申請に同行した経験を交え、窓口で申請を受け付けない「水際作戦」が後を絶たないことを告発。「扶養義務が強化されると、家族の所得や資産が丸裸にされてしまうと考え、確実に申請の抑制につながる」と指摘しました。「遺児と母親の全国大会」の緑川冬樹実行委員長は、「子どもの将来が生まれ出た環境に左右されない国に」とのべ、貧困率削減の明確化を求めました。
質問で日本共産党の高橋ちづ子議員は(提出を)義務化しながら「運用は変わらない」では矛盾しているし、機械的しめつけが強まると主張。稲葉氏は「ますます違法な水際作戦が広がり被害が出る」と答えました。
生活困窮者自立支援法について高橋氏は、保護からの追い出しと水際作戦につながると指摘。稲葉氏は「何でもいいから仕事を探して生活保護から出すことは精神疾患を発症することになりかねない」とのべました。
また「憲法25条がゆらいでいる」とのべた高橋氏に、朝日氏は「朝日訴訟の東京地裁判決文で小中信幸裁判官は『人間に値する生存』を保障することが判決のポイントだとのべていた。この点を大事に審議していただきたい」と訴えました。
(しんぶん赤旗 2013年6月1日より)
――― 議事録 ――――
○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
本日は、六人の参考人の皆さん、お忙しい中御出席いただき、また貴重な御意見をいただきました。本当にありがとうございました。
時間の関係で、早速質問に入らせていただきます。
初めに、岩村参考人に伺いたいと思うんです。
先ほど、特別部会の部会長代理として、報告書の背景についてお話をいただいたと思います。昨年の四月にこの特別部会は立ち上がっていますけれども、その名のとおり、生活困窮者の支援制度のあり方について検討を始めたと。
同時並行で扶助基準については別の部会があったわけですから、言ってみれば、生活保護制度の大幅な改正というのは、本来はこの特別部会に要請されていたことではなかったのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
○岩村参考人 特別部会につきまして、どういうことを議論するのかということは、もともと設置要綱で課題が決まっていたということでございます。
その中で、最初から、一方では生活困窮者の方々のための支援というものを考えるとともに、生活保護の問題について、先ほどおっしゃった扶助基準の部分は別ですけれども、そこについても検討するということで、最初から特別部会の検討課題として入っていたというふうに私は理解しております。
○高橋(千)委員 これ以上は言いませんけれども、第一回の議事録の中で、どこまで保護制度についてやるんですかという質問が出ております。やはり、すみ分けをするんだというふうな答弁をされていましたし、保護制度そのものについてはできるところからやっていくというのが議論の出発点ではなかったのか。
先生が最初にお話をされた社会保障制度改革推進法が通ったのは八月ですので、そこから議論が少し変わってきたのかなということを思って、少し残念に思ったな、少し触れていただければよかったかなと思っております。
次に、稲葉参考人に伺いたいと思います。
二十年間、三千人の同行、相談をされているということで、本当に、支援活動から貧困のない社会へと活動されてきたことに、心から敬意を表しますし、また、具体的な実体験に基づいた訴えは非常に重いものがあり、国会としても受けとめるべきだ、このように思っています。
そこで、稲葉さんは、多くの福祉事務所で生活困窮者を窓口で追い返す水際作戦が日常的に行われている、その現場をまさに見ている、指摘をされているわけですよね。
ただ、厚労省は、今回の二十四条の申請の義務化について、運用は全く変わらないんだと答弁をしています。また、申請に書類が必要なのは今までだって同じなんだから、何も変わらないというふうに言っています。しかし、逆に、法定しておきながら、全然変わらないという説明もまた、矛盾するのではないかと私は思うんですね。
福祉事務所で現実に今そういう対応がされているのに、しかし法定されたことで、やはり機械的な対応がむしろ進むことにどうしてもなるのではないかなという危惧を持っているんですが、いかがでしょうか。
○稲葉参考人 厚生労働省は、国会での答弁でも、今までと運用は全く変わらないと。あと、全国係長会議などにおいても同様の御説明をされているんですけれども、私、全くわからないのは、今までと変わらないのであれば、なぜ条文を変える必要があるのかという点が疑問でなりません。
つい先日、今週の火曜日も、私たちのところに相談に来られた方で、役所の窓口に、東京都内の福祉事務所の窓口に一人で行ったけれども追い返された、病気があるということを言うと、救急車を呼んで入院になれば生活保護をかけてあげるよというふうに言われたということがあって、こうした水際作戦については、これまでも厚生労働省は、申請権の侵害はあってはならない、申請権の侵害とみなされるような行為も厳に慎むようにということで、再三再四、通知を出されてはいるんですけれども、いまだに根絶されていないということがあります。
生活保護法を改正するなら、まずここの水際作戦の根絶ということを一番に掲げるべきだというふうに私は考えるんですけれども、残念ながら、今回は、新聞等でも厳格化というふうに言われております。
厚生労働省が幾ら運用は変わらないよというふうに言っても、やはり地方自治体に与えるメッセージというのがあるのではないか。厳格化されたというふうに受け取られてしまうと、ますます、違法な運用、水際作戦というものが広がって、今以上に被害者が出てしまうのではないかということを一番懸念しております。
○高橋(千)委員 ありがとうございました。
本当にそのとおりではないか。やはり、今と変わらないというのであれば、削除をすべきではないかと私も思っております。
次に、朝日参考人に伺いたいと思います。
きょうは、大変貴重な機会を得られて感謝をしております。
朝日訴訟は、まさに憲法二十五条を問いただした生存権裁判として、その後の生活扶助水準の引き上げや日本の社会保障制度に大きく影響を与えた、歴史的な意義を持っていると思います。
その訴訟から五十六年がたち、当時とは日本の経済も大きく違っております。しかし、一般世帯の消費水準が下がっているからということで、扶助水準も過去最大の下げ幅にしようとしている現在は、どこか当時の状況と似ているところがある、共通しているところがあるということを朝日さんはいろいろな機会に述べていらっしゃいますけれども、ぜひ御意見を伺いたいと思います。
○朝日参考人 ありがとうございます。
私が配りました資料の一ページに、下の方に、自殺の人口十万対の図をお見せしておりますが、この左の山がちょうど朝日訴訟の時代で、左の山で急激に減っていくのが、朝日訴訟で東京地裁判決で勝訴判決が出て、保護基準の連続引き上げが始まってから、この山が急減してきたわけです。
そういう意味では、この右側の、三つ目の山も同じ高さになっておりますが、鳩山内閣が成立したときから右下がりが始まっている。最近、この四月はなぜ東京や神奈川や愛知がまた反転してきているか、まだ私は理由がつかめないんですけれども、朝日訴訟で勝訴した後、国の方で最低基準を大幅に、連続引き上げてくださった、それが国民に大きな安心感と勇気を与えて、経済の成長にもつながったように思うわけで、私は、その歴史的な経験、教訓を今日まさに生かすときではないかというふうに思っております。
○高橋(千)委員 ありがとうございます。
多分、遠慮して、最初の陳述のときに余り朝日訴訟の中身について触れられなかったと思うんですけれども、やはり、今、そのことが問われていると思うんですね。
つまり、健康で文化的な最低限度の生活を維持するという憲法二十五条の理念に基づきという生活保護法の原則は一切変わりませんという答弁をされています。しかし、その中身が今大きく変わろうとしている。私は、解釈改憲に近いのではないかということを思っているわけです。朝日訴訟は、まさにその最低限度の生活とは何かということを問いただしたわけであります。
ですから、当時は、一千万人もの極貧の人たちが農漁村にはいるという議論が一方ではあったわけですけれども、しかし、その最下層、ただ生きているだけではだめなんだということがきちんと指摘をされたと思うし、また、予算の有無によって決定されるものではないということが判決に盛り込まれた。そのことの意味がやはり今問われなければならないのかなと思うんですが、もう少し意義についてお話をいただければと思います。
○朝日参考人 朝日訴訟の判決について、二ページの冒頭に御案内しておりますが、この四項目、アンダーラインを引いたところの、例えば、憲法二十五条について、生存権的基本的人権の保障、そしてまた二番目に、「健康で文化的な」とは決して単なる修飾ではないというふうに判決してくれております。また、政府の方で予算の有無を申されるんですけれども、三つ目は、むしろこれを指導支配すべきものというふうに判決をいただいたわけです。
五月三日に、この判決の起案をされた小中信幸先生が写真つきで朝日新聞に登場しておられますけれども、その小中先生に、この辺がポイントでしょうかと言ったら、もちろんそうだけれどもと申されて、三行目に、太文字にしておりますが、「人間に値する生存」というところを指して、ここをポイントに判決を書いたとおっしゃっておりまして、まさに、今回の法案の御審議についても、この辺を大事にしていただけるとありがたいというふうに思っております。
○高橋(千)委員 ありがとうございました。
次に、生活困窮者自立支援法案について、樋口さんと稲葉さんに一言ずつ伺いたいと思います。
きめ細かい自立支援活動に大変敬意を表します。今回、必須事業として法定するに当たっては、支援事業と保護窓口との連携をどのように考えるのか、また、そのための人材確保が非常に重要だと思いますが、その点について伺いたいと思います。
それから、稲葉さんの経験の中で、やはり、仕事に対して、えり好みしなきゃそれでいいんだというふうな窓口の対応が非常に多いと。そのこととこれが結びついてしまうと非常に危険ではないかという危惧を持っていますが、一言ずつお願いします。
○樋口参考人 私どもがきょう発表させていただきました生活保護受給者のチャレンジ事業につきましては、御存じのように生活保護の受給者だけでございますけれども、さらに、生活保護を受ける手前の生活困窮者の方も今回の法律改正で対象になって、考え方としては、そういう本県で行っております三本柱を中心に行われていくのではないかというふうに認識をさせていただいております。
そういうことの中で、今後、本県のチャレンジ事業の実施の仕方が一つ参考になるのではないかなと思ったりもしております。具体的には、それぞれの福祉系の団体の方に業務を委託して、ボランティアを活用しながらやっていくというのが一つの参考になるのかなと。
あと一つ申し上げさせていただければ、今、私どもの方の事業、チャレンジ事業の方については、先ほど、財源につきましては国の補助金や基金を活用させていただいてやっているというお話を申し上げましたが、ここまで非常に成果が上がり、きょうお呼びを受けて発表させていただいたように高い評価を受けておりますので、もうやめることのできない事業ではないかと個人的には思っております。
そうした中で、こういう形で生活困窮の関係の方まで広げて法制化されるということは、そういう財源の部分についても一つ恒久化が図られるのかなということで、ある意味、ありがたい話ではないかなと思っております。
以上でございます。
○稲葉参考人 ありがとうございます。
生活困窮者自立支援法案に関してですけれども、私たちの団体では、ホームレスの方々や住まいを失った方々がアパートに入る際の保証人を提供するという事業もやっております。そうしたことから、私は、ずっとこの間、住まいの貧困、日本の住宅政策というのは余りに貧弱なのではないかという問題提起をしてまいりました。
そうした意味で、これまでの住宅手当制度、今年度からの住宅支援給付が恒久化されるということに対しては、これは私たち自身が要望してきたことでありますし、歓迎していきたいというふうに思っております。
ただ、これまでの、そして今回法制度化される住宅支援給付が、非常に使い勝手が悪い、実際に困窮している方が使えない場合が多いという問題が生じております。
住まいを失った方がこの住宅の援助を受けるためには、社会福祉協議会から初期費用、アパートに入るための敷金、礼金等を貸し付けてもらわないといけないんですけれども、そこの審査で落とされるケースというのが頻発しておりまして、そのため、結果的に、この第二のセーフティーネットが使えず、生活保護を使わざるを得ないという方が実際相談窓口ではおります。今回、恒久化されるに当たって、そうした使い勝手の悪さについては改善していただきたいというふうに思っております。
あと、生活困窮者自立支援法案の中で、幾つか懸念している点があります。
まず、入り口でワンストップ型の相談が行われるということ自体は評価できるんですけれども、自立相談支援事業と言われる入り口の相談が、そこで結果的に生活保護の水際作戦をしてしまわないか。あなたは生活保護対象者です、対象者じゃないですという形で、法律とは違う形で選別が行われないか、そこできちんと相談者の意思というものが尊重されるかどうかということをまず心配しております。
あともう一つは、これは、厚労省の生活困窮者の支援に関する特別部会の中で中間的就労というふうに言われていたものが、今回、就労訓練事業というふうに名称化されております。
この中間的就労については、これまで部会の中でも、最低賃金を適用するのか外すのかという議論が出されていて、両論併記の形で報告書はまとまっていたかと思います。
今回の法案を見ても、この辺が非常に曖昧な形になっておりまして、もし、就労訓練という、訓練だから最低賃金を外していいということになってしまいますと、そこに悪質な企業が入り込んでしまう、ブラック企業と言われるものが入り込んでしまいますと、これは労働市場全体の劣化につながりかねないという点で懸念をしております。
生活困窮者、生活保護受給者の就労支援について言えば、先ほど、もやいで行っている事業のことについてもお話ししましたけれども、その方の適性に合った、心身の状況に合った形で、働ける分だけ働くというのが本来の形であって、何でもいいから仕事を探して、お尻をたたいて、生活保護から出していくというのは、結果的に、場合によっては、精神疾患、うつ病などを悪化させることにもなります。
そうした一方的なやり方ではなくて、御本人の意思とか御本人の状況に合った形での就労支援というものが行われるべきだというふうに思っておりますので、この事業がどう動いていくのかということについては注視していきたいと思っております。
○高橋(千)委員 時間になりました。済みません。子供の貧困は、しっかりやります。
ありがとうございました。