日本共産党の高橋ちづ子議員は7日、衆院厚生労働委員会で、障害者雇用促進法改正案で精神障害者の雇用が5年間の経過付きで義務化されることについて質問し、義務化の早期実施を求めました。
田村憲久厚労相は「この法案が成立すれば、障害者権利条約批准の条件が整う」と答弁しました。
これに対し高橋氏は、当事者が参加した2011年の障がい者制度改革推進会議の骨格提言が骨抜きにされるなど「障害者権利条約の求める水準に届いていない」と指摘。精神障害者雇用義務化も経過措置を入れると10年もかかり遅すぎると主張しました。
また、精神障害者を採用した7割強の企業が採用を「良かった」と答える一方、「問題あり」としているのは雇用経験がない企業が多いという調査を示し、政府が早期義務化の決断をすべきだと求めました。
高橋氏は、企業の人事部向けインターネットサイトが、メンタルヘルス不調者に精神障害者保健福祉手帳を取得させ、「特定子会社」に配属させることを「効果」として紹介していることをあげ、首切りと雇用率クリアをはかるのなら問題だと指摘しました。厚労相の小川誠障害者雇用対策部長は「強要が行われないよう指導する」と答えました。
(しんぶん赤旗 2013年6月13日より)
――― 議事録 ――――
○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
きょうは、障害者雇用促進法案について質問をします。大臣、思いやりがなくて済みません。よろしく御答弁お願いいたします。
本法案は、国連障害者権利条約の批准に向けた対応として位置づけられており、その親法ともいうべき障害者差別解消法案が五月二十九日の内閣委員会で審議をされました。その際、障害者権利条約の締結に向けた必要な国内法の整備として、障害者基本法、障害者総合支援法、そして障害者差別解消法によって必要な措置を講じたことになる、つまり、早期批准の条件はそろったという答弁が内閣委員会でされております。
そこで、厚労省の立場としては、今審議をしているこの雇用促進法の成立がされれば、権利条約批准の要件は整ったと認識をしているのか、伺います。
○田村国務大臣 腰の方、皆さんにお気遣いをいただきましたが、よくなっておりますので、ありがとうございます。御心配いただいたことを心から御礼申し上げます。
今委員おっしゃられた話でありますけれども、障害者差別解消という意味では、障害者差別解消法の特別法たるものでありますので、今回のこの法改正、障害者雇用促進法の一部を改正する法律案の中において、障害者ということを理由に差別をする、そしてまた、一方で、合理的配慮というものの提供を義務づける、こういうようなものが今法律案の中に内容として盛り込まれております。
その意味からいたしますと、今委員がおっしゃられたとおり、差別解消法とそれからこの法案、これが残っておった課題でございますので、この法案が成立をいたしますれば、障害者権利条約の批准に向かっての条件が整ってまいるというふうに認識をいたしております。
○高橋(千)委員 そうおっしゃいましたか。
もちろん、私たちも、この法案には賛成をいたします。また、差別解消法についても、一歩前進だという立場で賛成をいたしました。
しかし、国内法の整備が整ったかという視点でいいますと、二〇〇九年に政府は条約批准をもう既にやろうとしていた、それに対して、障害者団体は、国内法の整備がまだできていないと反対をしたわけであります。
その後、民主党政権下で、障がい者制度改革推進会議を当事者参加で取り組んできた。そして、その結晶とも言える骨格提言が骨抜きにされるなど、到底、現状が国連権利条約の求める水準に届いているとは、やはり言えないのではないか。
まして、今の精神障害者の雇用義務化については、二〇〇四年の労政審の意見書によって、雇用義務制度の対象にすることが考えられると答申が出されてからことしで九年、施行まで五年、また、激変緩和措置を入れれば十年、足かけ十九年になります。遅過ぎないでしょうか。
○田村国務大臣 法定雇用率の問題を今おっしゃられたんだというふうに思います。
これは、見直しは五年に一回ということで今までやってきておるわけでありまして、そういう意味からいたしますと、この四月に見直されたわけでありまして、引き上げを行いました。一・八から二・〇ということでございますので、そういう意味からいたしますと、五年後、見直しの期限が来るわけであります。
そういう意味からいたしまして、そこで、さらに激変緩和措置という話は何なんだということが、多分、言外に委員おっしゃりたいことなんだろうというふうに思いますが、二回連続引き上げるということは今までなかったわけでございまして、そのような意味からしますと、今般、大変大きな法改正になるのであろう、このように思います。
でありますから、障害者の雇用の状況でありますとか行政支援の状況、こういうものを鑑みながら激変緩和ができるというふうな形にさせていただいておるわけでございまして、これは諸々の状況を見ながら激変緩和ということもあり得るというような法整備にさせていただいたわけでございまして、一歩前進ということで御理解をいただければありがたいというふうに思います。
○高橋(千)委員 やはり今の答弁が、法定雇用率の引き上げ、二回連続なんだからという角度でのお答えがありました。結局、そこが争点になっているからということをおっしゃっているんだと思うんですね。
五年前の改正のときも、私は、なぜ義務化しないのかという質問をいたしました。そのときに、実態が追いついていないから、精神障害者の雇用の環境がまだ整っていないと。しかし、それを理由に義務化ができないと言ってしまうと、いつまでも引き上がらないじゃないかという指摘をしたわけです。
ただ、実際には、雇用率の実績には入っておりますので、二〇〇六年は千九百十七人、わずか〇・七%だったものが、二〇一一年には一万三千二十四人、三・六%と、六・八倍にもなったわけです。ですから、障害者全体の雇用率を〇・一三ポイント引き上げることに貢献したと言えると思うんですね。
ただ、それが逆に、だから、精神障害者を雇用率の算定基礎に入れれば、二%よりさらに引き上がるということが非常に懸念されているというのがおっしゃりたいことなんだと思うんですね。
二月二十五日の労政審の障害者雇用分科会において、使用者委員が三十分間も反対声明を読み上げるという異例の展開がございました。精神障害者の定着率が悪いなどの例を挙げて、精神障害者は体調の波が大きいからほかとは違うんだと強調されて、法定雇用率がさらに引き上げられるならば、法が目指している障害者雇用の促進につながらず、納付金の徴収額がふえるだけだ、こう言い切っているんですね。
しかし、それでは、さっき批准に向けてと言ったんだけれども、条約の精神もあったものじゃないですよね。そういう議論をしちゃだめなんですよね。
そもそも、雇用義務制度が最初に始まったのは一九七六年でありまして、当時は、雇用の場を確保することが極めて困難な者に対して社会連帯の理念のもとで義務を課す、そういう位置づけだった。でも、権利条約とのかかわりでは、もう既に雇用義務制度は積極的是正措置、ポジティブアクションであるということに位置づけられて、障害の範囲を広くとって、難病ももちろん入るんだ、そういう中で、そもそも身体、知的、精神という三障害を区別するということ自体がなくなっているわけですよね。
そういう環境の中で、環境が整わないから期限を延ばしてくれ、あるいは期限を延ばせば環境は整うということではなくて、当然のことながら、やらなきゃいけないんだという立場で政府がイニシアを発揮していく、そういう立場に立たなきゃならないと思うんですが、いかがでしょうか。
○田村国務大臣 各般いろいろな御議論があったというふうに私も認識いたしておりますが、少なくとも、やはり、精神障害者の方々も含めて、障害者の方々の雇用というものがふえていくということは我々が目指しているところでございまして、これは、当然のごとく、社会の要請でもあると我々は思っております。
そのような意味からいたしまして、いろいろな御議論を踏まえた中で、この法律を整備しようとするときに、いろいろな議論を踏まえれば、この激変緩和の措置を講ずることは可能であるというような形で法整備をさせていただいたわけであります。
答弁が繰り返しになって恐縮でございますけれども、障害者の方々の雇用の状況でありますとか、また行政の支援等々、いろいろなところを勘案しながら、それは、五年後、決定をさせていただきたいということでございます。
○高橋(千)委員 今、激変緩和も可能であるという表現をしたんだという答弁でありましたから、逆に言うと、無理にしなくてもよいと。なるべく早く環境を整えて実施に移すべきだという立場で、指摘をしたいと思います。
それで、同じ二月二十五日の審議会の中で、精神は他とは違うんだという使用者側の意見について、家族会などから、知的障害を義務化するときも同じ議論はあったんだ、全く同じだという指摘がされているんですね。だから、それをまた繰り返して、また時間をかけるということは、やはりちょっと許されないんじゃないかということを指摘したいと思います。
そこで、このとき、使用者側委員が、条件が整わない説明としてさまざまアンケートを紹介しました。ところが、この同じアンケートをよくよく見ますと、この十年間で精神障害者の雇用に対して理解が進んだかという問いに対して、「大変進んだ」と「進んだ」を合わせると九二%です。そして、精神障害者を雇用して「大変良かった」と「良かった」を足すと七三%なんです。
つまり、雇用した企業の評価は大概よいんですよ。それで、いやいや問題ありと答えているのは、まだ雇用した経験がない企業であるということがこのアンケートから読み取れるんですね。食わず嫌いじゃないですけれども、そういう実態なんだということをよく踏まえていただきたいと思います。
そこで、問いをちょっと進めたいと思うんですが、権利条約の肝とも言える合理的配慮の中身、精神障害については具体的にどのようなイメージを考えているのか、伺います。簡潔にお願いします。
○小川政府参考人 例えばでございますけれども、精神障害者の障害特性に応じた合理的配慮としては、勤務時間に配慮するということが考えられます。
具体的には、今後、労働政策審議会の場で議論した上で、指針が定められるというふうに考えております。
○高橋(千)委員 とても簡潔でありがとうございます。
いろいろ、カウンセラーとかジョブコーチなど、やはり相談できる体制ということも非常に大事であるということと、勤務時間の調整、あるいは症状悪化のときの有休を認めるですとか、そういうことが差別禁止部会の中でも議論をされておりましたし、そういうことをしっかりとやっていただきたい。過重な負担という、言い逃れというんですかね、これは基本的には認めるわけですから、ただ、この程度のことは当然やれるはずの話だということで確認をしていきたいなと思います。
そこで、最後に、労政審の意見書の中でも、精神障害者を雇用義務の対象とする場合の、「精神障害者保健福祉手帳で判断することが適当である。」その文脈の中で、「その際、本人の意に反し、手帳の取得が強要されないようにすべきである。」とあえて明記したのはなぜでしょうか。雇用率を引き上げるために、抑うつ傾向などの社員に対して手帳の所持を迫るということが、まさかあってはならないと思いますが、どうでしょうか。
○小川政府参考人 精神障害者の方のプライバシーの確保の観点から、精神障害者の雇用率算定に当たり、手帳の取得が強要されないようにするということが重要であることから、労働政策審議会の意見書においてもそういうふうに明記されたと考えております。
厚生労働省では、平成十八年四月から精神障害者の実雇用率の算定を認めるに当たりまして、特に在職している精神障害者の把握、確認の際に、障害者本人の意に反した制度の適用が行われないよう、プライバシーなどに配慮した障害者の把握・確認ガイドラインを定め、事業主への指導に取り組んでいるところでありますが、引き続き、制度の適切な周知に努めてまいりたいと考えております。
○高橋(千)委員 この間、法定雇用率が達成しないまでも前進した背景として、特例子会社が十年間で百二十三から三百六十六と三倍にもなって、その八六・七%が大企業であります。
人事キーマンの情報ポータルなるサイトがございました。その中に、特例子会社について、「うつ病治療などが長期化しているメンタルヘルス不調者についても、日常生活や社会生活への影響が深刻な人のための「精神障がい者保健福祉手帳」を取得していれば、特例子会社で、障がい者として雇用することができるのです。そのため、メンタルヘルスの不調で離職を余儀なくされたり、復帰と休業をくり返したりしている人々の就職支援策としても期待されています。」こんなことが書き込まれている。
これは、下手をすれば、首を切りたい労働者を特例子会社に飛ばして雇用率もクリアという、一石二鳥という話になるわけです。まさかそれはないとおっしゃると思いますけれども、確認させてください。
○小川政府参考人 基本的には、障害者の方のプライバシーが重要であるということでございまして、先ほども申し上げましたように、そういった手帳の取得の強要などが行われないように、適切に指導してまいりたいと考えております。
○高橋(千)委員 基本的にはなどという言葉をつけないで、強要は行わないと明確に言ってくださいよ。そんな話じゃないでしょう。
本当であれば、私たちは、特例子会社はやはり大企業の責任逃れだということで、反対です。だけれども、その経験を生かして、本当であれば、大企業でも雇用をふやそうということを言ってきたじゃないですか。そう表では言っておきながら、ていのいいリストラの代替策だということになっては困るわけですよ。この間、三者、四者の協議といいながら、使用者側の言い分を次々と受け入れてきた、労働行政の後退だと指摘をせざるを得ないんです。そういう背景があるんだということを指摘せざるを得ません。
我が国が障害者権利条約を批准できるのは、下手すれば十年先になってしまうよ、批准しても、矢のように勧告が飛んでくるのは避けられない事態でありますから、そういうことがないように、しっかりとお願いをしたいと思います。
終わります。