「生涯ハケン」押し付け/派遣法改悪案審議入り 高橋議員が批判
今国会の重要法案として注目の労働者派遣法改悪案が28日の衆院本会議で審議入りしました。質問に立った日本共産党の高橋ちづ子議員は、臨時的・一時的な業務に限定するという派遣労働の原則を覆すものだと批判。「労働者に『生涯ハケン』を押しつけ、不安定雇用と貧困を広げる改悪案は廃案しかない」と主張しました。
2閣僚辞任を受け与党が想定の審議入りから大幅に遅れ、今国会成立には時間が少ない日程となっています。全労連や連合、日弁連なども反対。たたかいが広がり、29日は労働者が国会前に座り込む予定です。
高橋氏は「まるで物のように使い捨てられるのが派遣労働の本質だ」と強調。(1)派遣元に無期雇用されていれば期間制限をなくす(2)労働組合から意見聴取すれば、受け入れ期間を際限なく延長できる(3)別の課に配置変えすれば、同じ人を使い続けられる―と法案の問題点を指摘しました。「生涯ハケンはレッテル貼り」と言う安倍晋三首相に対し、「常用代替であり、生涯ハケンそのものだ」とただしました。
首相は「派遣労働は雇用の安定やキャリア形成が図られにくい」と問題を認めながら、「正社員への道が開かれるようにする」と答弁。高橋氏は「配慮・努力義務にとどまり、実効性は期待できない」と批判しました。
高橋氏は、派遣先の正社員との差別をなくす均等待遇も盛り込まれていないとし、「ヨーロッパ諸国は均等待遇が当たり前の原則だ」と述べました。「女性活躍というなら、派遣労働者の保護を強化する規定を法定化すべきだ」と求め、首相は「乗り越えるべき課題がある」と先送りしました。
(しんぶん赤旗2014年10月29日付より)
――議事録――
○高橋千鶴子君 私は、日本共産党を代表し、労働者派遣法改正案に対し、質問します。(拍手)
安倍総理は、所信表明演説で、大胆な規制改革なくして成長戦略の成功はありませんと述べ、雇用を、医療や農業と並べて、岩盤のようにかたい規制と強調しました。
その成長戦略では、失業なき労働移動や、多様な正社員、いわゆる残業代ゼロ制度と呼ぶべき新たな労働時間制度など、労働法制の緩和が検討されています。
岩盤どころか、そもそも日本は、一日八時間労働を定めたILO第一号条約を初め、労働時間に関する十八本のILO条約を批准すらしていません。
安倍総理が目指す、世界で一番企業が活動しやすい国とは、今以上に労働者が大切にされない国なのではありませんか。
職業安定法四十四条は、労働者供給事業を禁止しています。中間搾取を禁止する労働基準法第六条と相まって、間接雇用を禁止し、直接雇用を原則としているのです。それは、戦前の人夫供給業のような中間搾取や強制労働を許さないための規定であり、戦後の労働法の出発点であります。
一九八五年の労働者派遣法成立の際、我が党は、この直接雇用の原則に風穴をあけるものと厳しく批判しました。しかし、政府は、常用代替を防止するため、業務や期間を限定した上で、労働者供給事業の一部をあくまでも例外的に認めるものと説明してきました。総理にこうした認識はありますか。
派遣法は、一九九九年に原則自由化、二〇〇三年に製造業派遣解禁、専門二十六業務の期間制限廃止など、たび重なる規制緩和の歴史をたどります。
二〇〇八年のリーマン・ショックでは、派遣労働は、真っ先に首を切られる究極の不安定雇用であることが明らかになりました。
その後、民主党政権が誕生し、労働者派遣法は、初めて規制強化に踏み出すかに見えました。しかし、二〇一二年、現行法成立時には、自公両党の修正を受け入れ、骨抜きにした上、唯一残った直接雇用申し込みみなし規定は、いまだ施行されないまま、今回の改正案によって葬り去られようとしているのです。
今回の法案の最大の問題点は、従来政府が述べてきた臨時的、一時的という派遣労働の原則を覆すものだということです。
派遣元に無期雇用されていれば、期間制限をなくすと言います。
派遣先の仕事がなくなれば、契約解除という形で、紙切れ一枚で解雇される。まるで物のように使い捨てられるのが派遣労働の本質です。二〇〇八年、派遣切りが横行した際には、解雇された派遣労働者の九割が無期雇用派遣でした。これでも、派遣元に無期雇用されていれば雇用が安定していると言えるのですか。
法案は、専門二十六業務を廃止するとしています。
専門二十六業務の優先雇用義務は、三年を超えて働いていれば、派遣先の業務を十分こなせる能力があると認められ、直接雇用で雇用の安定を図るというものでした。しかし、この規定は二〇一二年改正で削除され、本法案にもありません。
専門業務といいながら、一般業務と変わらない仕事をさせて期間制限を免れていた実態が数多くありました。この現状を追認するということですか。今後は専門業務を区別しないというなら、これまで専門業務として三年を超えて働いてきた派遣労働者は、派遣先に優先的に雇用されるべきではありませんか。答弁を求めます。
事業所の派遣受け入れ可能期間は三年としますが、過半数労働組合等からの意見聴取をすれば、際限なく延長できます。
労働組合がある事業所は、二割未満にすぎません。労働組合のかわりに過半数代表者が選挙で選出されているのは一割にも届かず、四割近くが会社の指名や親睦会の代表というのが実態です。これで歯どめになるでしょうか。
さらに、派遣労働者個人の期間制限は、同じ職場で働ける期間を三年とするものの、別の課に移せば同じ派遣労働者を使うことができます。これは常用代替そのものです。
総理は、生涯派遣との批判はレッテル張りだと答弁されましたが、まさに生涯派遣そのものではありませんか。
次に、総理は、派遣労働者の正社員化を含むキャリアアップを支援すると強調しますが、いずれも配慮義務、努力義務にとどまり、実効性は期待できません。派遣労働者の雇用主は派遣元であり、派遣先は派遣労働者を特定できないはずです。
ところが、今回、派遣先が派遣労働者の働きぶりなどの情報を派遣元に提供するとの規定が盛り込まれました。これは、派遣先による人事評価であり、労働者を選別することも可能になるのではありませんか。結局、正社員化どころか、有能で安上がりの派遣労働者をずっと使いたい使用者側の身勝手な論理にほかなりません。
課題とされてきた均等待遇原則の明記は、今回も盛り込まれませんでした。派遣制度を持つヨーロッパ諸国は、均等待遇が当たり前の原則です。
総理は女性の活躍を叫んでいますが、やるべきことは、有期でもパートでも、女性がみずからに最もふさわしい働き方を選び取れるよう、均等待遇原則、派遣先の団体交渉応諾義務など、派遣労働者の保護を強化する規定を法定化することであります。
今、労働者派遣法の改正を初めとする労働法制の改悪に反対する地方議会の意見書が三百七十六にも達するなど、雇用のルール守れの声が大きく広がっています。
労働法制は、人間らしい働き方を保障するための最低限のルールです。労働者に生涯派遣を押しつけ、不安定雇用と貧困を広げる派遣法改悪案は廃案しかありません。
以上で質問を終わります。(拍手)
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 高橋千鶴子議員にお答えをいたします。
成長戦略における労働法制等の見直しについてのお尋ねがありました。
現在進めている雇用、労働に関する改革については、いずれも、個人がその能力を発揮し、経済成長の担い手として活躍できるようにすることを目指して取り組んでいくこととしています。
安倍内閣としては、全ての人々が生きがいを持って働くことができる環境をつくっていくという一貫した方針のもと、これらの取り組みを進めているところであり、今以上に労働者が大切にされない国になるとの御指摘は当たりません。
労働者派遣法と労働者供給事業禁止の原則との関係についてのお尋ねがありました。
我が国の労働者派遣制度は、昭和六十年、職業安定法で禁止されている労働者供給事業から分離する形で、常用労働者との代替のおそれが少ない業務に限り、制度化されたものです。
労働者派遣法の制定以来、こうした考え方は維持されており、今回の改正案においても、同じ事業所における継続的な派遣労働者の受け入れについて、三年という期間制限を課すこととし、三年を超えて派遣労働者を受け入れようとする場合には、過半数労働組合等からの意見聴取を義務づけることにより、派遣先で正社員が派遣労働者に代替されることを防ぐこととしています。
無期雇用の派遣労働者の雇用についてお尋ねがありました。
無期雇用の派遣労働者は、有期雇用のように雇いどめの対象とならないことから、有期雇用に比べて雇用が安定していると言えます。
また、今回の改正案では、無期雇用の派遣労働者について、長期的なキャリア形成を視野に入れた計画的な教育訓練等を義務づけるほか、派遣会社が派遣契約の終了のみをもって解雇することがないよう許可基準に示すこととしており、これらにより、雇用の安定を図ることとしております。
なお、厚生労働省の調査によれば、平成二十年において、解雇された派遣労働者の多くは有期雇用であったと認識しております。
専門業務に従事する派遣労働者についてのお尋ねがありました。
今回の改正案では、わかりやすい制度にする観点から、派遣受け入れ期間に関する現行の制限を見直し、全ての業務を対象として、派遣労働者ごとの個人単位で、同じ職場への派遣は三年を上限とするなどの期間制限を新たに課すこととしています。
この見直しにより、現行では制限対象外とされる二十六業務が新たに制限対象となりますが、個々の労働者の雇用が途切れないよう、派遣会社に対して新たに雇用安定措置を義務づけることとしています。
さらに、今後、期間制限を超えて派遣労働者を受け入れる派遣先については、派遣労働者に労働契約の申し込みをしたものとみなすこととしており、これにより、派遣労働者の保護はより強化されることになります。
派遣労働者個人の期間制限についてお尋ねがありました。
一般に、派遣労働という働き方には、雇用の安定やキャリア形成が図られにくい面があり、働く人の希望に応じ、正社員化を含むキャリアアップを図ることが重要であると考えています。
このため、今回の改正案では、派遣会社に対し、計画的な教育訓練等を新たに義務づけるほか、派遣期間が満了した場合の雇用安定措置を義務づけるなど、派遣就労への固定化を防ぐための措置を強化するとともに、派遣先に対しても、派遣労働者への正社員募集情報の提供を義務づけることとしています。
これに加え、派遣先において派遣労働者を正社員として雇用する場合のキャリアアップ助成金の活用等を進めることとしています。
これらの取り組みは、正社員を希望している派遣労働者について正社員への道が開かれるようにするものであり、生涯派遣との御指摘は当たりません。
派遣労働者の保護についてお尋ねがありました。
同一労働をしていれば同一賃金が保障されるという仕組みをつくっていくことは、一つの重要な考え方であると考えています。
他方、能力や責任の大きさなどさまざまな要素を考慮して労働者の処遇が決定されることが一般的である我が国の労働市場においては、すぐさまこうした仕組みを導入するには、乗り越えるべき課題があります。
また、派遣労働者の場合、派遣先のどの労働者と比較するかといった課題もあります。
このため、まずは個々の事情に応じた均衡待遇を推進していくことが重要であると認識しており、今回の改正案において、賃金等の面で派遣先の責任を強化するなど、均衡待遇を一層推進することとしております。
また、派遣先の団体交渉応諾義務については、一律に定めるのではなく、個別の事案ごとに判断されるべきものと考えております。
安倍内閣としては、今回の改正により、全ての人々が生きがいを持って安心して働くことができる社会を築いてまいります。
残余の質問につきましては、関係大臣から答弁させます。(拍手)
○国務大臣(塩崎恭久君) 高橋千鶴子議員にお答えをいたします。
まず、過半数労働組合等からの意見聴取の実効性についてのお尋ねがございました。
今回の改正案では、過半数組合がない事業所においては、派遣先は、労働者の過半数を代表する者を選出し、その者に対して意見聴取を行うこととしております。
この過半数代表者は、管理監督者以外の者とし、投票、挙手等の民主的な方法による手続によって選出された者とすること等により、過半数代表者に対する意見聴取の透明性等を担保することとしております。
また、意見聴取に際しては、反対意見に対して対応方針を説明すること、意見聴取の記録を事業所内に周知等すること等を派遣先に新たに法的に義務づけることとしており、これらにより、意見聴取の実効性が確保できるものと考えております。
次に、派遣先による情報提供についてのお尋ねがございました。
今回の改正によりまして、派遣労働者の希望に応じたキャリアアップを図ることができる環境を整備するため、派遣元事業主にキャリアアップ措置を義務づけることとしております。
これらの措置が適切に講じられるようにするため、派遣先は、派遣元事業主の求めに応じ、派遣労働者の業務の遂行状況等の情報提供に努めることとしているものであり、特定目的行為に当たるものではなく、また、派遣先が人事評価を行うことにもなりません。
特定目的行為については、現在も認められておらず、改正後も同様に対応してまいります。(拍手)