「日本版DBS」可決
高橋氏「子どもへの性暴力根絶を」
衆院特別委全会一致で
(写真)質問する高橋千鶴子議員=22日、衆院地こデジ特委 |
衆院地域・こども・デジタル特別委員会は22日、子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴の有無を確認する「日本版DBS」の創設を盛り込んだ「こども性暴力防止法案」を全会一致で可決しました。
日本共産党の高橋千鶴子議員は質疑で、2019年の各国の性暴力の発生件数について、日本は人口10万人当たり5件、米国43・5件、英国256・6件だと指摘。「日本は少なく見えるが氷山の一角だ」と主張しました。
さらに、教員からの性暴力について、20年12月放送のNHK番組を取り上げ、被害者自ら取り組んだインターネット調査で、77・9%が最初に被害を受けた時、被害と「認識できなかった」、友達や他の教師に相談しても「まともにとりあってくれなかった」などの結果を紹介。「初動が大事だ。現状認識は同じか」とただしました。安江伸夫文部科学大臣政務官は「性暴力は断じて許されない姿勢で取り組む」と述べ、加藤鮎子こども政策担当相は「本法案の対象事業に該当しないものも含め、あらゆる子どもへの性暴力防止を図る」と答弁しました。
高橋氏は賛成討論で、「性暴力は、子どもの尊厳を深く傷つけ、人生に与える影響は計り知れず、決して許されない犯罪だ」と強調し、「性被害者や家族らの声に応え、日本版DBSの制度は待たれていた」と指摘。「イギリスなどの制度と比べ限定的で課題もあるが、本制度を始めることが最大の抑止効果となることを期待する」と述べました。
高橋氏は、子どもが相談しやすい体制づくり、個人情報の漏えいなどがないよう厳格な制度設計と運用を要求。また、手厚い人員体制と予算確保、包括的性教育を位置付けるべきだと主張しました。
(「しんぶん赤旗」2024年5月23日付)
ー議事録ー
○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
本法案は、与野党共に懸念が表明される重大な法案であります。本日の理事会で質疑終局が決められたことは極めて残念に思います。もっと議論が必要ではないかと思うんですね。不明点も多く、また、引き続き、ガイドラインの作成など、本委員会として必要な局面で審議を行っていくことを求めたいと思います。
では、質問に入ります。
資料の一枚目なんですが、各国における性暴力の発生件数の推移、二〇一五年から二〇一九年のものであります。二〇一九年の日本における性暴力の発生件数は六千三百五件、人口十万人当たり五件といいます。私はこれ自体多いと思うんですけれども、米国は四十三・五件、イギリスは二百六十五・六件と格段に多いわけですね。諸外国で性暴力加害者に対するDBS制度が先行している理由もここにあるのかなと思う反面、日本は表面化していない事件が多過ぎるからなのかとも思うんです。
大臣の認識を伺います。
○加藤国務大臣 御指摘いただきました各国における性暴力発生件数につきましての統計資料が存在することを承知してございます。
しかし、これが、性暴力を厳しく取り上げ処分する諸外国の姿勢を表しているかどうかにつきましては、各国のそれぞれの諸事情は各国で把握しているところもありますため、責任を持ってそこについてお答えできる立場ではございませんが、国の姿勢によってDBS制度が構築されてこなかったことに影響しているかどうかということも、承知をしているところではございません。
我が国におきましては、これまで、このような制度の構築は、縦割り行政の中でなかなか進まなかったものと認識をしております。こども家庭庁創設後は、こども家庭庁が司令塔となって、できるだけ早期の導入を目指して、本制度の検討を進めてまいりました。
いずれにしましても、子供に対する性暴力は断じて許されるものではないと考えております。
例えば、総合的対策の中で、被害者が相談しやすい環境整備を推進するなど、あらゆる子供への性暴力の防止が図られるよう、引き続き最大限の努力をしてまいりたいと思います。
○高橋(千)委員 聞いたことに答えていただきたいんですが。
単純に比較してしまうと、日本はまだまだ性犯罪がほかの国よりも少ないねと見えるわけですよ。そうではなくて、表面化していない、よく氷山の一角という表現もされますよね、こともあるのではないかという問題意識があるのかどうか、簡単に言えば、そういうことを聞いています。
○加藤国務大臣 お答えを申し上げます。
委員の御指摘の、十万人当たり、日本は五件、また、米国は四十三・五件、イギリスは五十倍にも当たる二百六十五・六件と、物すごく差があるわけでございますが、これが、性暴力を厳しく取り上げて処分するという姿勢を表しているかどうかについては、ちょっと、そこまで把握しているわけではないので、責任を持ってお答えはできませんということを申し上げたいと思います。
○高橋(千)委員 残念でたまりませんね。
大臣、素直に答えていただければいいと思うんですよ。それは、諸外国の基準はいろいろあるかもしれないから、それは一概に言えない、当たり前じゃないですか。日本の大臣に、イギリスはこうだから、アメリカがこうだからということを聞いているんじゃなくて、単純に比較すれば少なく見えるけれども、それだけじゃ済まないんじゃないかという思いがあるから聞いているわけですよ。その一点も答えられないというのは非常に残念に思います。
次に進みますけれども、教員性暴力防止法においては、第十八条の二、通報についても、条文に明記されています。
具体的に、どのような仕組み、体制で、子供たちの性被害をキャッチしてきたのか、文科省に伺います。
○浅野政府参考人 お答えいたします。
教職員からの性暴力については、いわゆる教員性暴力等防止法により、相談を受けた教職員等や学校に対して、学校設置者や所管警察署等への通報義務が課されております。
さらに、事案の発見のため、学校設置者が児童生徒等及び教職員等に対する定期的な調査を行うことや、地方公共団体が通報及び相談を受け付ける体制整備等を行うこと等が法律により求められてございます。
これを受け、文部科学省におきましては、各教育委員会に対して、法に基づく措置に適切に取り組むよう、通知や会議等において、機会を捉えてお願いしているところであり、こうした中、各教育委員会におきましては、例えば、被害児童生徒からの聞き取り等、具体的場面を想定した教員研修の実施、児童生徒に対して定期的に学校を経由させない形で相談できるタブレットや手紙形式のアンケートを配付するといった対応等に取り組んでいると承知しております。
○高橋(千)委員 先日、性被害当事者らでつくる一般社団法人Springの皆さんからお話を伺いました。
最初は、性被害だと、子供の頃に受けたことを自覚できなかったこと、何年もたってから、突然息苦しくなるなど不調が訪れて社会生活が困難になったなど、性被害が子供の心身に与える影響の複雑さや重さについて改めて認識をさせられました。
NHKが、教員からの性暴力問題に、連続して、「クローズアップ現代」などで特集番組を放映してきました。二〇二〇年の十二月に、自身も性被害者であり、提訴もしている方なんですが、石田郁子さんの取組を紹介しています。
ネットを使ってのアンケート調査で、被害時の状況で一番多かったのはどこかというと、実は授業中だった。三一・五%であること。つまり、見えないところでではなくて、言葉がけの、わいせつな言葉のやり取りですとか、体に何でもないふりして触るとか、そういうところから始まっているということなんですよね。
なので、七七・九%が、最初の行為を被害と認識できなかったこと。それから、私が一番深刻に思ったのは、回答した百四十九名のうち、友達や親、ほかの教師に相談したと回答したのは十七件にすぎませんでした。それでも、共感してくれたとか、ほかの教師や校長先生が再発を防いだと答えてくれたのは更に少なくて、多くが、まともに取り合ってくれなかったということなんです。ここがやはり深刻だと思うんですよ。
それで、政務官に伺います。
私は、初動が大事だ、もみ消しがあってはならないと九日の本会議でも述べましたが、まず、文科省の現状認識として、実態は、今私が紹介したような調査に近いという認識があるでしょうか。どう受け止めているのか、伺います。
○安江大臣政務官 お答えを申し上げます。
令和四年度の人事行政状況調査によりますと、児童生徒性暴力等で懲戒処分を受けた事案の発生の場面は、勤務時間外、放課後、休み時間等が多いという結果となっております。
また、今委員が御指摘いただきましたような、許し難い、本当に許されないような実態につきましても、私自身も見聞をしたこともございますし、御紹介をいただいた、調査をした方のお話も直接伺ったこともございます。
その上で、委員から御指摘がありました、学校等が適切に対応しない事態を今後決して起こさないためにも、今御指摘もあった令和三年の議員立法、いわゆる教員性暴力等防止法を制定いただいたものと認識をしております。
この児童生徒性暴力等に関する学校の対応につきましては、当該法律におきまして、学校は、児童生徒性暴力等を受けたと思われるときは、適切かつ迅速に対処する責務を有するとされ、さらに、通報等を受けた場合におきまして、学校は、事実確認のための措置を講ずること、学校の設置者は、医療、法律等の専門的知見を有する者との協力を得つつ、調査を行うこと等が法律により求められております。
また、法律に基づく基本的な指針におきましては、あしき仲間意識や組織防衛心理からの事なかれ主義に陥って必要な対応を行わなかったりすることがあってはならないことを示してもいるところでもございます。
引き続き、児童生徒等の尊厳と権利を踏みにじる性暴力はいかなる理由であれ断じて許されるものではないという態度で、その根絶に向けて取組を徹底してまいります。
○高橋(千)委員 大変熱い答弁をありがとうございます。
先ほど政務官が紹介いただいた、令和四年度公立学校教職員の人事行政状況調査結果に係る留意事項について、これは今年の三月二十八日に出ているんですけれども、やはりその中でちゃんと認めているんですね。被害者やその保護者が望まなかったためって、えっ、被害者のせいにするのかなって思ったら、その後に、十分に検討することもなく犯罪に当たらないと判断したりしたことなどにより、教育委員会等が、学校から告発が適正に行われなかったことも考えられるためというふうに認めていらっしゃる。
やはり各段階で、学校に言ったけれども、あるいは教育委員会に言ったけれども、その先が届かなかったということがやはりあってはならない。しっかりと今お答えいただいたので、それを実践していただきたいと思います。
それで、実は三年たったから何かしらの調査が出たかなとか、通報が分かったかなって聞いたんですが、それは全く分かっていないというお答えでありました。
定期的な調査を行うということを指針に書いたわけですから、これは是非、どのような状態になっているのかということを公表していただきたい。今まだそれができていないというのであれば、今後必ずやっていただきたいと思いますが、お約束いただけるでしょうか。
○浅野政府参考人 いわゆる教員性暴力等防止法で定められていますような通報については、具体的な通報件数等については現在把握しておりませんが、令和四年度の人事行政状況調査において、令和四年度の公立学校教職員の児童生徒性暴力等に係る懲戒処分については、事案の発覚の要因として、警察からの連絡等、教職員への相談の割合が多いと承知しております。
そういった人事行政状況調査等も通じて、しっかりと状況のフォローアップをしていきたいと思います。
○高橋(千)委員 実は、ここはあとは要望にします、時間がないですので。ここをちょっと文科省とやり取りしたときに、通報する人が誰かといったときに、学校やあるいは教育委員会、生徒の相談をする係の方、そしてその保護者なんですね。児童生徒自身が通報するというのがないんです。だから、友達にしか相談できない場合もあるわけですよね。そういうこともちゃんと認める必要があると思うのと、いじめ問題などが起こったときに、必ず生徒に匿名で調査をしますよね。そうすると、本当に実態がよく分かるんだけれども、それが表に出てこないとか、そうしたことはもう絶対ないようにお願いしたいということを、是非御検討いただきたいということを要望しておきます。
それで、また大臣に戻るんですけれども、今の文科省とのやり取りを聞いていただいたと思うんです。そもそも、やはりきちんと性被害を把握して、適正に処分されていることがなければ、被害は繰り返されるわけなんですよ。
下手すれば、いつまでたっても初犯になるわけですよね。だから、本当に子供たちを守ることは、その初動がしっかりできなければできないと思うんですが、そのためにどのように取り組んでいくのか、決意をお願いします。
○加藤国務大臣 お答えを申し上げます。
委員御指摘のとおり、この法案、また今度新しく整える制度、仕組みにつきましては、そもそも、しっかりと初犯のところで押さえられていなければ確認することもできないという意味において、委員の御指摘、大変重要なものと受け止めてございます。
また、まず、御指摘の点につきましては、本年四月の関係府省で取りまとめましたこども・若者の性被害防止のための総合的な対策の中の柱の一つであります、加害を防止する取組として、改正刑法等による厳正な対処なども盛り込んでおりまして、政府として、子供への性暴力に対して厳しく対応をしてまいります。
また、本法案では、性犯罪歴、前科の有無を確認する仕組みによる再犯対策のみならず、初犯対策にも対応ができるよう、児童等への面談、また児童等が相談を行いやすくする措置などの安全の確保をするための措置を講じることを学校設置者等や認定事業者に直接義務づけることにより、適切に端緒を把握する内容としているところでございます。
いずれにしましても、繰り返しになりますけれども、この法案だけで全ての性被害を防止できるわけではありませんので、その前提に立つわけにはいかないので、子供たちを性犯罪から守るために、本法案の対象事業に該当しないものも含めて、関係省庁と連携して総合的な対策を推進することによって、あらゆる子供への性暴力の防止が図られるよう、最大限取り組んでまいります。
○高橋(千)委員 しっかりお願いします。
時間が来ましたので終わります。
ー討論ー
○高橋(千)委員 私は、日本共産党を代表して、子供性暴力防止法案に対する討論を行います。
子供が日常的に過ごす場での性暴力は後を絶ちません。わいせつ行為により教員が懲戒処分となった件数は二〇二二年度で百十九件、教員性暴力防止法に基づく教員免許状失効者に関するデータベースには既に二千四百九十八人が登録されています。
性暴力は、子供の尊厳を深く傷つけ、その人生に与える影響は計り知れず、決して許されない犯罪です。性被害当事者や家族らの声に応え、日本版DBSの制度は待たれていました。先行しているイギリスの制度などに比べても、限定的で不十分、課題もありますが、本制度を始めることが最大の抑止効果となることを期待して、賛成とします。
参考人質疑でも強調されたように、本法案が子供の最善の利益に照らしてどうなのかが問われていると思います。本法案は、学校設置者等及び民間教育保育事業者に対し、その教員等及び教育保育等従事者による児童対象性暴力等の防止に努めるとともに、被害児童等を適切に保護する責務を規定しています。被害に遭った子供たちの多くは、それを被害と認識することができず、また、嫌だと思っても、信頼する先生、あるいは力関係により、訴えることもできません。また、勇気を出して訴えても、学校等が取り合ってくれないことによって更に傷つくことになります。絶対に事実をうやむやにしない、子供が相談しやすい環境と体制づくりが急がれます。
性犯罪歴確認を行うことで、児童性暴力を行うおそれのある者は本来業務に就くことができなくなり、政府は事実上の就業制限と認めています。職業選択の自由との関係で、制限される範囲を限定的に絞ってはいますが、恣意的な運用にならないよう基準を明確に示すべきです。一方、限定したがために、犯罪事実確認等児童性暴力防止のための措置が義務づけられる施設とそうでない施設があって、これで全ての子供が守れるのかという強い懸念が出されています。子供への性暴力は絶対に許さないというメッセージを地域、社会と共有し、国が本気で取り組むときです。
なお、犯罪履歴は極めて機微な要配慮個人情報であって、膨大なデータベース化とその活用により、人為的ミスも含め漏えいや目的外利用などの重大な懸念が拭えません。厳格な制度設計、運用を求めます。