きちんと性教育教えて
こども性暴力防止法案 高橋氏に参考人
衆院特委
衆院地域・こども・デジタル特別委員会は16日、「日本版DBS」の創設を盛り込んだ、こども性暴力防止法案の参考人質疑を行い、日本共産党の高橋千鶴子議員が質疑に立ちました。
高橋氏は、誰もが性犯罪・性暴力の加害者・被害者・傍観者にならないためには、文部科学省による「生命(いのち)の安全教育」に加え、「包括的性教育も重要だ」と指摘。「どちらも取り組むことが大事でないか」と質問しました。
寺町東子弁護士は、同意のある安全な性行為について中高生に対して正規の課程で教えていないと指摘。性犯罪に関する法律の規定が改正され、不同意性交が「犯罪になるということを、性教育を含めて学校できちんと教えてほしい」と答えました。
高橋氏は、日本版DBSは英国の制度が検討の出発点だったが、2000人超の同国の公的機関と比べ、体制面で日本には課題があるとし、「政府の覚悟が見えない」と主張。末富芳日本大学教授は、子どもの安全を保護する政策をつくり上げるプロセスの徹底や、こども家庭庁の体制整備を迅速に実現する必要性を訴えました。
高橋氏が、判決確定日と拘禁刑など刑の区分を事業者へ手渡すことの危険性を指摘。寺町氏は判決日と拘禁刑か否かなどで罪名を特定できると答え、特定性犯罪事実該当者でないことの確認に法案を修正することで「問題を回避できる」と答えました。
(「しんぶん赤旗」2024年5月17日付)
ー議事録ー
○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
本日は、参考人の皆さん、貴重な御意見、本当にありがとうございました。
子供の性暴力被害は絶対あってはならない、この点では誰しも一致できると思うんですが、そのプロセスにいろいろ悩ましいことがございます。是非、知恵を出し合って、よいものを作っていきたい、このように思っております。
まず、渡邉参考人に伺います。
生命の安全教育の教材作りに先生が関わったということであります。加害者にならない、被害者にならない、傍観者にもならない、このスローガンはとても大事だと思います。
今、子供の自死が過去最多であったり、いじめの中身も、SNSを媒体としたいじめや性的ないじめが大変多いと感じます。一方、なぜ、包括的性教育といえば、日本の文科省は消極的になるのでしょうか。どちらが大事かではなく、どちらも大事だと私は思うんですが、先生の見解を伺います。
○渡邉参考人 ありがとうございます。
包括的性教育については、世界的に今そういう動きがありまして、たしか、例えば、一つの例としてアメリカのカリフォルニア州では、学校で包括的性教育を実施しなければいけないという州法ができたのではなかったかなと思います。
日本ではそれが進まないということですけれども、一つは、包括的性教育というのが、非常に内容が多いというか、たくさんのことを、性に関することを全て盛り込んでいるというところがあると思うんですね。そうなりますと、例えば、学校でどこでやるかというと、もしかしたら何か新しい教科が必要かもというふうになってしまうかもしれないんですけれども、そうなりますと、なかなか進まないという感じがあるかと思います。
この生命の安全教育は、性犯罪、性暴力の防止だけに絞っているというところで、もう既に教材もできているわけで、そういう包括的性教育という形で導入してやっていくというのも一つの方法としてあるのかもしれませんけれども、恐らく、今、日本でやろうとすると、ちょっと遠回りになってしまう。やはり、緊急性の高い課題ですので、まず、ここの性犯罪、性暴力防止というところにターゲットを絞って、そこで今できる時間帯を使ってやっていくという形が現実的なのかなというふうに思っています。
ですが、その上に加えて、例えば、この部分の要素なり、ほかのところも含めて、学習指導要領の検討とか、そういうところでまた進めていっていただければいいと思うんですけれども、まずは、この性暴力、性犯罪防止というところに絞ったものをすぐに取り組んで推進していくということを考えていければというふうに考えております。
○高橋(千)委員 やはり、性暴力が、子供のときはそれが何を意味するのか分からないということがあるわけですけれども、なぜ駄目と言わなきゃいけないのか、相談しなくちゃいけないのか、その背景にあるもの、妊娠や出産やあるいは性感染症などのことも含めて併せて教えなければ、今、歯止め規定がありますので、やはり併せて教えなくちゃいけないんじゃないかと思うんです。
もちろん、包括的と言っている以上は、ユネスコのガイドラインなどを見ても、人権そのものを、多様性そのものを教えていくということで、確かに時間がかかるプログラムかもしれないけれども、一つずつ組み込んでいくということは大事だと思っておりますが、もしもう一言あれば、お願いします。
○渡邉参考人 今御指摘された、例えば歯止め規定のことですよね、そこのところと性に関しての基になっているようなことを指導するかどうかということなんですけれども、なかなか、ここ、すぐにはちょっと結論が出せないんですけれども、この生命の安全教育については、先ほどもちょっと申し上げましたけれども、既に実践した取組事例集などが出ていまして、二年間、出ています。
特に実践が多いのが、割と、幼児期と、あと小学校の低学年が多いんですね。それを見てみますと、必ずしも、その歯止め規定のこととか、そこのところをやらなければできないということにはなっていないというか、実践を見ても、それでもちゃんと実践できているので、そこでやはりつまずいてなかなか進まないということではなくて、やはり、まずは、この問題、目の前の問題を解決するという方向で行って、今のところ、それが足かせになっているというふうにはないのではないかなというふうに私は思っております。
○高橋(千)委員 この後の参考人の皆さんに別の質問を用意しておりますが、是非、この点で御意見ありましたら、一言加えていただければありがたいと思います。
それで、寺町参考人に伺いたいのは、寺町先生、何といっても、保育施設における子供の重大事故に取り組んでおられました。私も、御遺族から話を伺ったり、うつ伏せになったまま亡くなった赤ちゃんのことを黙っていなさいと園側から言われた保育士さんの証言を読んだときの衝撃は、今も忘れられません。こうした問題を繰り返し取り上げてまいりました。今回の、性暴力被害から子供を守るという点では、この問題と共通することがあると思うんですね。
先生、二〇一六年に提言も出されておりますが、一つは、大人の目を増やすということ。言うまでもなく、保育士は少な過ぎ、忙し過ぎる。誰にも気づかれずに性加害に及ぶことがないように、やはり複数の目をつくるということ、そういう環境をつくることが政治の責任ではないか。それからもう一つは、今言った事案のように、もみ消しを許さないということ。是非、先生に御意見をいただきたいと思います。
○寺町参考人 ありがとうございます。
性犯罪の防止というところで、やはり、密室をつくらないということが非常に大切だというふうに考えております。そういう意味で、園の中での虐待的な保育などの事案があったからこそ、今、保育の基準として、一人で見てはいけない、園児が一人しかいないときでも二人以上いなきゃいけないということに基準が変わってきておりますけれども、そういう意味で、犯罪機会を減らすという意味では、複数の目がいつもあるということ自体はとても大切なことだというふうに考えております。
また、先ほど申し上げたようなドライブレコーダーとしてのビデオというものも、これは、加害の防止だけではなくて、保育の質の向上とかにも非常に役立っておりますので、これを、手挙げ方式ではなくて、全ての園で基本的に設置することを義務づけていくということも必要ではないかというふうに考えております。
また、もみ消しを許さないということについては、やはり、事案が起こったときに報告義務を課しているわけですけれども、その報告義務に違反したときに罰則がないというところは、意識がなかなか高まっていかないという部分になるのではないかというふうに思います。
それから、先ほどの性教育の関係なんですけれども、やはり、先日、AVをまねして犯行に至ったというような事案の報道がございましたけれども、きちんと、同意のある性行為で、また安全な性行為というものについて、中高生に対して正規の課程の中で教えていくことをしないことがむしろ、知らないうちに、法律を知りませんでしたで、いつの間にか犯罪をしちゃっているというような子供たちを生んでしまっていると思いますので、そういう意味では、性犯罪が改正になったことも併せて、あるいは、動画についての関係の規定も増えましたので、そういうところ、犯罪になるんだよというところを含めて、性教育も含めて、学校できちんと教えていただきたいなというふうに思っております。
以上です。
○高橋(千)委員 ありがとうございます。
もう一つ聞きたいんですが、ちょっと時間の関係もありますので、まず末冨参考人に伺いたいと思います。
イギリスのDBS制度について詳しく御紹介をいただきました。本法案も、元々、イギリス型を念頭に検討が始まったと承知をしています。やはり、そこまでいかなかった理由というのは、政府の答弁を聞いていますと、OFSTEDとは人員体制が全く違う、日本が足りないということをおっしゃっていたのと、個人情報保護法などとの整合性だとかというのでも、イギリスはきちっと整合性が取れている、問題がないというふうなことがおっしゃっていたことなのかなと思うんですね。あと、先生に紹介していただいたように、イギリスも、最初から今の制度ではなかった。逆に言えば、もっと早い時期から問題視をして取り組んできたというところの違いもあると思うんですね。
私は、やはり、日本の政府には、そこまで徹底する覚悟が今はないような気がしますし、覚悟がなければできないんじゃないか、こういう思いもあるんですね。御意見を伺いたいと思います。
○末冨参考人 ありがとうございます。
私も思いは同じでございまして、こども基本法の最大の意義の一つが、第三条第四号に、子供の最善の利益を優先して考慮するとの規定が明記されたことでございます。
私自身も、日本版DBSの最大の障壁が、犯罪者の職業選択の自由を優先するという、主に法務省や司法がそれまで持っておられた価値観をいかに突破するかというところに懸かっていることは承知しておりました。であればこそ、こども基本法が成立し、子供の尊厳、利益、あるいは最善の利益が特に優先されるんだと明記されたことによって、やっとこども家庭庁がその壁を突破してくださったということは大変高く評価しております。
しかしながら、ここまで積み重ねてこられた大人の犯罪者真ん中の価値観というものをいかに転換していくかということについては、とりわけ、こども家庭庁の司令塔組織を活用した、全関連省庁そして司法も含めた意識改革を、子供安全保護法制、政策をつくり上げるプロセスを通じて徹底していくということに懸かっていると存じます。であればこそ、こども家庭庁の人員、体制の拡充は必須です。
なお、OFSTEDの予算定員は現在二千人強となっております。こども家庭庁の官僚の定員は三百八十名にすぎません。こうした意味からも、こども家庭庁の体制整備というものをしっかりと、かつ迅速に実現していただいた上で、子供たちの守られる権利を一刻も早く実現していただきたいと願っております。
あわせまして、おっしゃっておられた包括的性教育につきましては、国際的なガイドライン自体もやはり多岐にわたる中で、私自身は、教育基本法の規定の実現というのが特に重要かと思っております。教育基本法は、第一条、人格の完成規定もとても大事なんですけれども、第二条に、正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を尊重するという教育をしていきましょうという目標が掲げられておりまして、生命の安全教育自体の進化、そして教科横断的に様々な、やはり、例えばですけれども、同意がない性行為は我が国の刑法上犯罪なんですよねといったことも含めて、体系的に心身の発達に応じて学ぶということが大事であると思います。
あわせて、渡邉先生がおっしゃっておられましたけれども、保護者への案内というのが極めて重要になってきまして、実は、学校が教育をすることで自らが被害当事者であると気づく子供たちが出ます。そのケアの体制もさることながら、保護者にそうしたことをしてはいけないんだよと間接的なメッセージを送ることにもなりますので、そのような取組がなるべく早くに実現していくとよいと考えております。
以上でございます。
○高橋(千)委員 ありがとうございます。貴重な御提言だったと思います。
それで、嶋田参考人にも伺いたいと思うんですが、有識者会議で先生がプレゼンをされておりまして、興味深く読みました。本日もありがとうございます。
性嗜好障害という言葉は今回の法案準備を通して初めて聞いたわけですけれども、加害者が子供だけをターゲットにしているのか、あるいは、たまたまいたからなのか、あるいは、そうじゃないんだけれども弱い立場だからちょうどよいと思って加害に及んだのかとか、そういう加害者の特性に合わせた治療的支援というのを、現場では研究が進んでいるんだと思います。
それで、私は、更生プログラムの可能性について先生がどう思っていらっしゃるか伺いたい。つまり、再犯は避けられないという前提に立った制度設計をするのか。もちろんゼロにはできないと思いますが、治療的支援が適切にできれば、立派に更生し、再び社会貢献できるのであって、受け入れる社会の側も理解して共生していくことも大事ではないか、このように考えますが、御意見を伺います。
○嶋田参考人 御質問ありがとうございます。
加害者の更生プログラムにつきましては、先ほども申し上げましたように様々な内容があるんですけれども、現在も、データを収集しながら、より効果の高いものというのを作成、改定しているところでございます。そういったことに鑑みますと、ある程度のこういった方々への更生あるいは再犯防止というのはできるのではないかと考えております。
一方で、先ほども申し上げましたとおり、やはり、体の反応といいましょうか、自分の意思ではどうにもできないような方々がいらっしゃるのも事実でございますので、そういったことを含めますと、現在の心理療法を中心とした働きかけだけでは限界があると理解しております。
ただ、内容的にも、法務省の発表している治療効果のデータもあるんですけれども、その中で、やはり、小児を相手にした場合にというのが比較的成績がよくないということもございまして、それを今もなお内容的に検討しているところでございます。
以上でございます。
○高橋(千)委員 そうなんですよね。効果があるというデータは見せてもらったんだけれども、減っているというだけであってまだまだ課題があるし、今先生御指摘あったように、小児においてはちょっと成果が悪いということは非常に重要なことかなと思っております。
末冨参考人にもう一度伺いますが、先生には子供の貧困議連で大変お世話になっております。一人親家庭も大変だけれども、多子世帯の困難をデータで明らかにされたことなど、今の貧困の基本法の大事な力になってきてくださったと思っています。
その活動の中で、学生たちが自らの体験を語り、政策提言をする機会にも参加をさせていただきましたが、その経験の中で、面前DVとか性虐待などもあったと思います。そのときに強く感じたのは、どこにも相談する場がなかった、いよいよ命の危険にさらされ、初めて交番に駆け込んだけれども、それまでは学校も相手にしてくれない、そういう指摘が非常に印象に残ったんですね。
それで、今回の法案が子供の目から見て本当に役に立つのか、そこが一番問われると思うんですね。例えば、いじめのアンケートさえ取らないとか、取っても公表しない、そういう学校の体質などは問題外であると思うんですが、そうした体質を転換させること、子供が相談しやすい環境を第三者も含めて本気でつくっていかなければならないと思うのですが、その点、是非御意見をいただきたい。
○末冨参考人 今回の法案を子供の視点に立って考えますと、やはり重要なのが第五条から第八条の安全確保策に尽きると存じます。
私自身は、本日、安全保護主任それから安全保護チームの重要性を強調してまいりましたけれども、今、自治体もそうなんですけれども、相談体制が細かく分かれているんです。いじめはいじめ、性暴力は性暴力、虐待は虐待ですよね。そうではなくて、一元化した相談窓口をつくっていくということが極めて重要かと思います。
もちろん、目の前の先生たちが信頼できるということも極めて重要で、だからこそ、例えば養護教諭の方たちの複数配置で、たとえ一人が忙しくしていてももう一人、あるいはスクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーも常勤化することで、その課題に相談できる、信頼できる人が何人もいるんだという状態をつくっていくことが理想かとは存じます。
ただし、子供自身が、これって相談した方がいいんじゃないかと思えるようになるためには、何よりも、生命の安全教育等を通じて、これってやはりおかしいから言ってもいいんだよねということが認識できることが極めて重要であって、その点についてはガイドライン等でも、その責務をより、こういうふうに子供たちに伝えてくださいねというような方針が明確化されれば、子供たちに届く法になっていくと存じます。
御質問、大変ありがとうございます。
○高橋(千)委員 ありがとうございました。
寺町参考人に一言伺います。先ほど、事業者にやはり渡すべきではないというお話がありました。だからホワイトリストの問題が非常に提案が多いのかなと思うんですが、実際、渡すものが判決の確定日と区分ですよね、拘禁刑なのか罰金刑なのか、それを渡すことになるので、下手すれば推測できちゃうということもあるわけですよね。そういう意味では、やはりそれはやらない方がいいと思うし、本当に自らが何もないですということが証明できれば一番いいなと思うんですが、もう一言お願いします。
○寺町参考人 ありがとうございます。
まさにおっしゃるとおりで、やはり日付と区分でニュース検索等すれば分かってしまうということは多々あろうかと思います。なので、少なくとも、四条とか三十三条とかの特定性犯罪事実該当者であるか否かの確認ではなくて、でないことの確認という形に修正していただくことで、この問題点は、取りあえずは、完全にではないですけれども、回避し得るのではないかというふうに考えております。
以上です。
○高橋(千)委員 ありがとうございました。
時間が来ましたので、終わります。