労働条件の改善こそ
運送業界 改定案審議入り
衆院本会議で高橋氏が訴え
(写真)質問する高橋千鶴子議員=21日、衆院本会議 |
物流の「2024年問題」への対応として、荷主や物流事業者に対する規制などを盛り込んだ流通業務総合効率化法と貨物自動車運送事業法の改定案が21日の衆院本会議で審議入りしました。日本共産党の高橋千鶴子議員はトラック運転手の労働条件の抜本改善を訴え、「過労死をなくし、安心して働ける職場となるよう取り組むべきだ」と主張しました。
高橋氏は、トラック運転手が他の産業と比べ長時間労働・低賃金で過労死は14年連続でワースト1にもかかわらず、適用される時間外労働時間の上限規制は年960時間で、一般労働者の上限より240時間も長く過労死ラインを容認する水準だと批判。「労働時間規制で年間4億トンの荷物が運べなくなると言うが、トラック運転手の健康より経済優先なのか」と追及しました。
4月から、高速道路での大型トラックの最高時速が80キロから90キロに引き上げられます。高橋氏は「より速く走り、より多く運ぼうとすることは、トラック運転手への心理的な負担を増し、働き方改革に逆行する」と批判。斉藤鉄夫国交相は「緊張度、疲労度が増加すると承知している」と答弁しました。
高橋氏は、トラック事業の低賃金の要因となっている多重下請け構造の解決は喫緊の課題だと指摘。元請け事業者に作成が義務づけられる実運送体制管理簿は中抜きの実態の見える化が期待されるが、下請け事業者名だけでなく運賃や手数料の明記も必要だと主張しました。運送手段を持たず業者と荷物のマッチング(仲介)をする利用運送事業者の存在が、中抜きの温床となっているとして規制の必要性を強調しました。
全業種の中で労務費や燃料代などの価格転嫁が最もできていないのがトラック事業だとし、「運賃はトラック労働者の賃金の原資となるもので標準的運賃を最低運賃とすべきだ」と主張しました。
(「しんぶん赤旗」2024年3月22日付)
ー議事録ー
○高橋千鶴子君 私は、日本共産党を代表し、流通業務総合効率化法及び貨物自動車運送事業法一部改正案について質問します。(拍手)
来月から、自動車運転者の時間外労働時間の上限規制が適用されます。トラック運転手は、他の産業と比べて長時間労働なのに賃金が低く、過労死は十四年連続でワーストワンです。しかも、適用される上限は年間九百六十時間、一般労働者の上限よりも二百四十時間も長く、過労死ラインを容認する水準です。
今、物流の二〇二四年問題として、労働時間規制により輸送力が不足し、年間四億トンの荷物が運べなくなると叫ばれていますが、トラック運転手の健康よりも経済優先なのでしょうか。トラック運転手が過労死するような長時間労働をなくすことが目的ではないのですか。上限規制が一般労働者と同じ七百二十時間になるのはいつか、お答えください。
トラック事業は、一九九〇年施行の物流二法で、需給調整の廃止など規制緩和がされました。事業者数は二〇〇七年に一・六倍の六万数千者に増え、過当競争による運賃の低下、長時間労働という劣悪な状態に置かれてきました。トラック事業の危機を招いた原因は、政府の規制緩和路線にあるという自覚と反省はありますか。
今回、改善基準告示が改正されましたが、運転者が強く求めた休息期間十一時間は努力義務にとどまり、最低九時間とされました。しかも、宿泊を伴う長距離貨物運送については、一日の拘束時間、休息期間が現行と同じとされ、車両内ベッドを設置すれば更に拘束時間を延長できるなど、様々な例外や特例が設けられました。これで本当にトラック運転手の過労死はなくせますか。そもそも、長距離運送を前提としていることが問題です。その日のうちに帰宅できるよう、規制緩和で廃止された営業区域規制を復活させるべきです。
四月から、高速道路での大型トラックの最高時速が八十キロから九十キロに引き上げられます。交通事故が減ってきているからと言いますが、これまで業界の要望があっても引上げを認めてこなかったのは、大型トラックの死亡事故率が普通乗用車と比べ高いからでした。この状況は変わったのですか。最高速度を引き上げ、より速く走り、より多く運ぼうとすることは、トラック運転手への身体的、心理的な負担が増し、働き方改革に逆行すると言わざるを得ません。
次に、法案について伺います。
トラック運転手の長時間労働を解決するためには、荷主や物流事業者への規制を強化することが不可欠です。今も貨物自動車運送事業法には荷主に対する勧告制度がありますが、長い間実績はなく、今年になって二件実施したにすぎません。今回新たに設ける荷主、物流事業者に対する努力義務は、どのような効果を期待し、どう実効性を担保するのか、伺います。
トラック事業の多重下請構造の解決は喫緊の課題です。法案は、元請事業者に実運送体制管理簿の作成を義務づけますが、途中で中抜きされる実態が見える化されることが期待されます。一方、管理簿に記載されるのは下請事業者名のみであり、運賃や手数料の明記も必要ではありませんか。
自らは運送手段を持たず、業者と荷物のマッチングをなりわいとする利用運送事業者の存在が、中抜きの温床となっています。ここに規制が必要ではありませんか。
全業種の中で、労務費や燃料代などの価格転嫁が最もできていないのがトラック事業です。今般、政府は、標準的な運賃を引き上げると発表しました。運賃はトラック労働者の賃金の原資となるものであり、標準的な運賃を最低運賃とすべきではありませんか。
終わりに、上限規制が来月始まるという今になっての法案審議とは、トラック運転手の働き方改革に政府が向き合ってこなかったことの証左です。一日も早く過労死をなくし、安心して働ける職場となるよう、本気で取り組むべきだと申し上げ、質問とします。(拍手)
〔国務大臣斉藤鉄夫君登壇〕
○国務大臣(斉藤鉄夫君) 高橋千鶴子議員にお答えいたします。
まず、トラック運転手の長時間労働についてお尋ねがありました。
議員御指摘のとおり、トラック運転手は、他の産業に比べ労働時間が長く、過労死の件数が多いことから、本年四月から適用される時間外労働の上限規制を前提として、トラック運送業を、適正な労働時間と適正な賃金が両立する魅力ある職場としていく必要があります。
その上で、トラック運転手一人当たりの労働時間が短縮されることで、これまでのような形では輸送需要に対応できなくなることが懸念されています。
国土交通省としては、トラック運転手の健康と安全を確保しつつ、物流の停滞が生じないよう、昨年六月の政策パッケージ等に基づき、産業界、関係省庁とも連携して取組を進めてまいります。
トラック運送業の規制緩和についてお尋ねがありました。
一九九〇年の規制緩和によって、事業者数が増加したことなどにより競争が激しくなり、事業運営が厳しくなった事業者もある一方で、新規参入が容易になるとともに営業の自由度も高まり、輸送サービスの水準の向上や多様化が図られたと承知しております。
Eコマースの拡大、働き方改革の推進など、物流をめぐる状況は目まぐるしく変化しており、引き続き、事業者の営業の自由度を高めつつ、対応していく必要があります。
その上で、国土交通省としては、昨年六月の政策パッケージやこの法案などに基づき、物流の持続的成長に向け、トラック運送業における適正運賃の収受と健全な競争環境の実現に取り組んでまいります。
営業区域の規制緩和についてお尋ねがありました。
平成十五年の貨物自動車運送事業法の改正により、現代の輸送需要に対応した運送サービスの提供や、帰り荷の確保による積載率の向上など輸送の効率化を図るため、営業区域制度が廃止されたものです。
あわせて、その際、安全面を担保するため、民間の適正化事業実施機関の権限強化や、運行時間に関する規制の導入、違反事業者への罰則強化等を行ったところです。
その上で、今後更なる効率化や担い手確保を図るためには、長距離での輸送需要に対して、ドライバーの日帰りも可能となる中継輸送の促進など、実態に応じて、様々な手法を取り入れていくことも重要です。
国土交通省としては、トラックドライバーの健康と安全を確保しつつ物流を持続的に成長させるべく、現行制度の下、関係省庁、事業者等と緊密に連携して、しっかりと取り組んでまいります。
高速道路の最高速度の引上げによるトラック運転手への負担についてお尋ねがありました。
安全を大前提として最高速度を引き上げることは、物流の効率化に資する一方、走行速度が高くなることでトラック運転手の緊張度、疲労度が増加する懸念については、警察庁が開催した検討会において昨年十二月に取りまとめられた提言の中でも指摘されているものと承知しています。
国土交通省としては、トラック運転手に過度な負担がかからないよう、適切な運行管理に向け、荷主や物流事業者等と連携して、しっかりと取り組んでまいります。
荷主、物流事業者に対する規制についてお尋ねがありました。
この法案では、荷待ち、荷役時間の削減や、積載率の向上を図るため、全ての荷主、物流事業者に対し、物流改善のための努力義務を課すこととしています。これに基づく事業者の取組状況については、国において指導助言と調査、公表を実施することとしています。
また、一定規模以上の事業者には、中長期計画の作成や実施状況の報告を義務づけ、取組が不十分な場合は事業所管大臣から勧告、命令等を行うこととしています。
さらに、昨年七月に創設したトラックGメンにより、荷主や元請事業者への監視体制を強化したところであり、厚生労働省等とも連携しながら、物流の適正化に向けて取り組んでいるところでございます。
国土交通省としては、関係省庁とも連携しながら、これらの措置の実効性確保を図ってまいります。
実運送体制管理簿についてお尋ねがありました。
実運送体制管理簿には、実運送事業者の名称及び下請次数、貨物の内容及び運送区間等を記載することとしています。
運賃等を記載することについては、実運送事業者等の実際の運賃を把握した荷主等が、元請事業者等への発注額を引き下げたり、実運送事業者に安値で直接発注したりすることにより、全体の運賃水準の低下につながる懸念もあり、慎重な検討が必要であると考えています。
その上で、この法案による契約の書面化等により、トラックGメン等が実運送体制とともにそれぞれの契約内容も把握することができるようになるため、これを通じて適切に対応してまいります。
利用運送事業者についてお尋ねがありました。
荷主又はトラック事業者と運送契約を締結する利用運送事業者については、この法案により下請行為の適正化に係る努力義務が課されるほか、トラックGメンによる是正指導の対象となっています。
これらの措置により、取引環境の適正化を推進してまいります。
標準的運賃の最低運賃化についてお尋ねがありました。
まず、標準的運賃については、令和二年の制度開始以来、物流業界に年々浸透してきており、今後更なる周知を行うとともに、トラックGメンによる荷主の是正措置等を活用することにより、一層の実効性確保を図ってまいります。
その上で、トラック事業の取引は多種多様であるため、最低運賃を保障する制度の導入については様々な意見があり、慎重な検討が必要であると考えております。
以上です。(拍手)
〔国務大臣武見敬三君登壇〕
○国務大臣(武見敬三君) 高橋千鶴子議員の御質問にお答えいたします。
トラック運転者の時間外労働の上限規制についてお尋ねがありました。
トラック運転者の長時間労働を改善していくために、来月から、トラック運転者にも年九百六十時間を上限とする時間外労働の上限規制が適用されます。
この上限は当分の間のものであり、できるだけ早期に一般則に移行できるようにするためにも、まずは、この水準の履行確保に取り組んでまいります。
改善基準告示についてお尋ねがありました。
本年四月から、改正後の改善基準告示が適用されます。今回の改正では、多様な勤務実態等を踏まえた例外規定を設ける一方で、全体としては、拘束時間を短縮するとともに休息時間を延長するなど、過労死等の防止に資する改正となっているものと考えます。
厚生労働省としては、改正内容の周知や、監督指導を通じて、改善基準告示の履行確保を図り、トラック運転者の労働条件の改善に取り組んでまいります。
以上です。(拍手)
〔国務大臣松村祥史君登壇〕
○国務大臣(松村祥史君) 高橋千鶴子議員から、高速道路の大型トラックの最高速度について御質問がございました。
高速道路における大型トラックの最高速度の在り方については、警察庁において、学識経験者や運送事業者団体等の方々を構成員とする有識者検討会を立ち上げ、検討を行いました。
その結果、大型トラックの死亡事故率は普通自動車と比べて高いものの、この三十年間では約四割減少しており、そうした中、大型トラックについて、交通実態として九十キロに近い実勢速度が確認されていること、また、交通事故件数及び死亡、重傷事故件数が全車種と同程度減少していること等を踏まえ、九十キロを上限とする現在の速度抑制装置の装着義務を存置した上で、大型トラックの法定速度を九十キロに引き上げることは可能という結論に至ったものであります。
引き続き、高速道路における道路交通の安全が確保されるよう、警察を指導してまいります。(拍手)