高橋氏 行政が役割果たせ
(写真)参考人に質問する高橋千鶴子議員=3日、衆院国交委 |
衆院国土交通委員会は3日、自動車損害賠償法(自賠法)等改正案の参考人質疑を行いました。
日本共産党の高橋千鶴子議員は、被害者救済や事故防止対策を担う自賠責保険制度を持続させ、財政的にも安定したものにすべきだと指摘。飲酒運転事件で義理の両親を亡くし、双子の弟妹も後遺症を負った小沢樹里関東交通犯罪遺族の会代表理事に、被害者支援や相談活動への敬意を表明した上で、行政がもっと役割を担うべきではないかと質問しました。小沢氏は、夜間の交通被害相談窓口の設置・充実など、被害者に寄り添って解決に結びつけるための行政支援が必要だと訴えました。
高橋氏は、自賠責の特別会計から一般会計に繰り入れた貸付金の半分約6000億円が繰り戻されず、毎年わずかしか返済されない問題に関連して、再保険制度の廃止(2001年)はすべきでなかったと指摘しました。
日大危機管理学部長の福田弥夫教授は「規制緩和の関係から完全な廃止になった。自賠責保険・共済紛争処理機構ができ、事後チェックの仕組みになった」と述べました。高橋氏は「義務だからこそ、国の関与は必要だ」と強調しました。
(「しんぶん赤旗」2022年6月18日付)
-議事録ー
○藤田友敬参考人 東京大学の藤田と申します。
本日は、意見陳述のため貴重な機会をいただき、ありがとうございます。
私は、金融庁において自動車損害賠償責任保険審議会の会長を拝命しているほか、今回の自賠法改正に関する関係者の議論の場となりました今後の自動車事故対策勘定のあり方に関する検討会の座長を務めさせていただいております。
本日は、この検討会の審議に関与した立場から、中間とりまとめの内容を御紹介しつつ、今回の制度改正について意見を述べさせていただきます。簡単な資料をお配りさせていただいておりますので、これに基づいて説明させていただければと思います。
まず、自動車事故対策勘定の在り方について検討を始めることとなった経緯ですが、令和二年八月に国土交通省において、福田先生を座長とする今後の自動車事故被害者救済対策のあり方に関する検討会が設置され、被害者の方々の声を丁寧に伺ったところ、今後の被害者支援の在り方について、施策を充実、維持する必要性があることが分かりました。
他方、被害者支援等の財源に係る現在のスキームは、平成十三年に積立金の運用益を活用するものとして確立したものですが、これが、将来に向けての財源の裏づけとしては、仕組みとして維持し難いことも明らかとなってまいりました。
そこで、自動車事故対策勘定の在り方について、令和三年八月より改めて検討が行われるに至ったわけであります。
そこで、二点目として、検討の前提となる被害者支援、事故防止対策をめぐる現状について御説明させていただきます。
まず、交通事故の減少に伴い負傷者数は減少しているのですが、毎年発生する重度後遺障害者数は横ばい傾向で、このような被害者の方に対しては、今後も長期間にわたって支援を行う必要があります。
また、事故被害者をケアする家族が高齢化し、被害者を介護する人がいなくなる、いわゆる介護者なき後の事故被害者の生活支援の問題ですとか、被害者のリハビリ機会の充実など、異なる対応が必要となる問題がいろいろとあり、今後の被害者支援の充実が求められております。
また、依然痛ましい交通事故も度々発生し続けて、被害者やその御家族、御遺族から、同じ思いをする人を一人でも減らしたいという強い声をいただいております。自動車事故防止対策の充実を求める声が強くなっているわけであります。
これに対して、被害者支援、事故防止対策のための施策を行う財源となる積立金の運用益が、金利水準の大幅な低下等により、施策を実施するには全く不足しておりまして、施策実施のため、毎年、積立金の取崩しが続いております。その結果、積立金の総額は大きく減少を続けており、レジュメに記載させていただいた表のとおり、このままですと、遠くない将来に枯渇してしまいます。
なお、過去に自動車安全特別会計から一般会計に繰り入れた残高六千億円余りがあります。この繰入金こそが問題であって、これさえなければ問題はないはずだと思われる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、御注意いただきたいのですが、仮にこの繰入金が全額直ちに今返済されたとしても、現在の金利水準では全く十分な資金とはなりません。その結果、被害者支援、事故防止対策を行うために積立金を取り崩し続けるという状況は変わらず、ただ枯渇までの時間が延びるにすぎません。やはり平成十三年に採用されたスキームは、持続的な財源としてはもはや維持できない状況になっているわけです。
このような状況を踏まえ、交通事故被害者等が安心して生活できるために、被害者支援、事故防止対策のための財源が近い将来に枯渇するといった不安が残る状況を速やかに解消し、持続可能な仕組みへの転換を図る必要があるという問題意識が生まれてきたわけでございます。
以上を前提に、今後の自動車対策勘定のあり方に関する検討会の議論が開始されました。この検討会には、学識経験者のほか、交通事故被害者の団体及び自動車ユーザーの団体から御参加をいただいております。
以下、検討会における議論について、簡単に御紹介させていただければと思います。
まず、全ての委員に共通していたのは、被害者支援、事故防止対策を更に充実させつつ、維持していく必要があるということです。逆に言うと、財源が厳しい以上、縮小、廃止して構わないといったことをおっしゃる方はいらっしゃいませんでした。
議論が分かれたのは、そのための財源確保の在り方であります。こちらについては、委員間で若干の温度差がありました。
一部の委員からは、自動車安全特別会計から一般会計に繰り入れられた繰越金が残っているということが問題視されました。この繰入金は元々、自動車ユーザーの保険料を原資とした運用益なのであって、ユーザーに負担を求めるのであれば、まずは令和四年度における一般会計からの繰戻し額の増額と令和五年以降の繰戻しの継続を約束させると同時に、今後の繰戻し額返還のめどをロードマップとして示してもらいたい、こういう意見が出されたわけであります。
これに対して別の委員からは、厳しい財政事情を踏まえると、被害者支援の施策を継続していくための安定的な財源を別に確保することは避けられないということ、車社会において誰もが加害者や被害者になる可能性がある中、被害者を救済する仕組みが続く社会でなくてはならないといった観点から、繰戻しの議論とは別に、被害者支援や事故防止対策が持続可能な仕組みを直ちに検討すべきである、こういう意見も出されました。
このように、財源の在り方に関してはメンバー間で若干の温度差があったのですが、令和三年十二月に至り、財務大臣と国土交通大臣の間の大臣間合意がなされ、そこでは、令和四年度予算における繰戻し額の増額、令和五年度以降の繰戻し額の目安とその継続という返済計画の大枠が示されました。
これを受け、検討会においては、現実的な選択肢として、賦課金制度を導入して財源を確保することにより、被害者支援や事故防止を長い将来にわたって安定的、継続的に実施できるようにしてはどうかという方向が示され、最終的に本年一月、中間とりまとめとして合意に至ったわけでございます。
次に、四点目として、検討会の中間とりまとめの提言内容について、若干補足させていただければと思います。
中間とりまとめでは、財源の確保手段として賦課金方式を提案しております。財源確保の手法としては、論理的には、これ以外に例えば租税方式も考えられるわけですが、自賠責保険料の中に賦課金を設ける方が、車社会の利益を享受する者の負担により、車社会の犠牲となる被害者等を支援するという受益、負担の関係が明確になること、自賠法においては既に事故被害者のための政府保障事業の財源を徴収するための賦課金が用いられていることなどから、現実的な選択肢としてより受け入れられやすいだろうと考えられたわけです。
ただし、賦課金の導入に際しては、ユーザーの負担が不当に増加しない配慮が必要であることは論をまちません。
具体的な金額については、事業規模や自動車事故対策勘定の積立金として確保すべき水準を勘案して慎重に検討することになりますが、保障勘定の剰余金をひき逃げ等の損害の填補に支障がない範囲で活用するほか、早い段階で賦課金を導入し、積立金の取崩しによる財源の確保も並行して行うといった措置によって、賦課金の水準を抑え、ユーザー負担の抑制に努めることが必要となります。
以上のような観点を踏まえ、具体的な賦課金額については、現時点で試算して想定される最大値である百五十円を超えない範囲で、できる限りユーザー負担の抑制を考慮した水準を長期にわたって維持するという観点から、検討会において引き続き検討することとしております。この点は、また後で触れさせていただきます。
五点目として、安定的な財源の使途について申し上げます。
自動車ユーザーに新たな負担を求める以上、これを財源として行われる被害者支援、事故防止対策の内容が自動車ユーザーの納得感が得られるものでなければなりません。今後の被害者支援や事故防止対策の具体的な使途の選定に際しては、費用対効果を意識し、無駄を排除するため、できる限り施策の見える化を行い、その効果検証を定期的に行う必要があります。
中間とりまとめでは、安定的な財源の確保が野方図な歳出の拡大につながらないよう、法律その他の措置によりその使途を明らかにすることを提言しており、今回の法案では、これに対応する規定の整備が含まれております。
六点目の導入時期について、中間とりまとめでは、令和五年以降の可能な限り速やかな導入に向けて、可及的速やかに制度設計を行うべきとしています。
検討会では、介護者なき後の対策などの被害者支援の充実が喫緊の課題となっており、現状では決して時間的余裕がないという強い声が聞かれました。もちろん、導入に際しては、自動車ユーザーへの丁寧な説明を行い、納得を得られる努力を続けることは不可欠の前提ですが、制度の速やかな導入により、被害者、御遺族の先行き不安をできるだけ早く払拭していただきたいという趣旨です。
最後に、今後継続して検討すべき課題についても触れておきます。
中間とりまとめの提言は、今後も一般会計から繰戻しを着実に行うことを前提として、賦課金を導入することにより、被害者支援や事故防止対策を恒久的な枠組みの下で実施できる体制に転換するというものですが、具体的な財源の使途や詳細な賦課金の金額の水準については更に十分な検討が必要です。
また、先ほど触れました、実施される被害者救済、事故防止対策に関する効果検証の在り方についての検討も必要となります。
今後、ユーザー団体、被害者、遺族団体の御意見も十分伺いながら、更に議論を深めていきたいと考えております。
また、検討会では、被害者支援や事故防止に必要な情報発信と丁寧な説明を行うことが、自動車ユーザーの理解を得るために必要であるという意見を数多くいただいております。実際、被害者支援、事故防止の実施の中核を担う独立行政法人自動車事故対策機構、NASVAと呼ばれていますが、この認知度が低いというのは大変大きな問題だと思っております。さらに、情報の積極的な発信は、現実に支援を必要としている方へのアウトリーチという観点からも必要です。したがって、制度改正に際しては、関係者において広報の充実にも積極的に取り組んでいただきたいと考えております。
以上、今後の自動車事故対策勘定のあり方に関する検討会における検討内容について、御説明させていただきました。
今回の法案は、自動車ユーザー団体、被害者、遺族団体を始めとした関係者の方々による長年の真剣な議論と調整の結果を反映したものです。この法案が成立し、新たな制度の下、中間とりまとめで示された観点を踏まえた適切な運用がなされることにより、ユーザーの理解の下、今後とも充実した被害者救済、事故防止対策が安定的に継続されることを期待して、私の意見陳述とさせていただきます。
本日はありがとうございました。(拍手)
○小沢樹里参考人 よろしくお願いいたします。
私は、一般社団法人関東交通犯罪遺族の会の小沢と申します。
本日は、このような機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
私は、二〇〇八年に、平成二十年、飲酒運転による交通事件により、義理の両親を亡くし、双子の弟妹が二人とも高次脳機能障害、PTSD、弟に関しては下半身麻痺という後遺症を負った遺族です。
交通事故により、死亡事案、後遺症事案、当事者家族として、交通事故に対して多角的な視点で見てまいりました。裁判では罪名が三つ、四人の加害者と刑事事件だけで五年間、裁判に関わりました。命の貴さ、また生きていくことの苦しさ、さらには支えていく家族の苦しさやもどかしさを知っている家族であると思っております。だからこそ、遺族、後遺障害に偏る支援ではなく、どちらにも支援が行き届く、そのような仕組みが国土交通省におきましてしっかりと構築されることの必要性を感じております。
これまで遺族団体として多くの被害者の方との接点を持ってきた中で感じたことを踏まえまして、本日は意見を述べさせていただきたいと思います。
多くの被害者や遺族の方とお話をさせていただく中で、具体的なニーズといたしまして、被害者や遺族として当然抱く喜怒哀楽の様々な感情を外に出せる場所が欲しい、このような日常の急激な変化、そして、同じ家族であってもどのように接していいか分からないなどといった、さらには、通常経験することもない裁判への対応など、様々な支援の必要性を感じてきました。このため、遺族団体としての活動では、当たり前のことを当たり前に安心して聞ける団体を目指して、活動してきたところでございます。
こうした取組を続けていく中、被害者や遺族が当たり前のことを当たり前にすることができる社会を実現するため、関係省庁などへの要望を行ってまいりました。
国土交通省に対しましては、一昨年秋、当時は赤羽交通大臣でございましたが、団体として直接御要望を伝えさせていただく機会もございました。大臣というお立場でもありながら、遺族の支援や理解を同じ目線で寄り添って聞いていただきました。また、国土交通省の職員の方の多くが非常に交通事故にも被害者救済対策にも強く関心を持ってくださっていたことに、驚きとともに、大変感謝をいたしました。
そうした中で、国土交通省におけます被害者支援のあり方の検討会にも委員として参画をさせていただくようになりまして、自賠責制度における被害者支援、事故防止について、具体的な内容につき、その財源をめぐる状況についても認識したところでございます。
その中で、支援の事業の内容につきまして、被害者、遺族支援、事故防止の両輪の体制で充実していただきたいと強く願います。交通事故による被害に遭った被害者や遺族への支援の充実、これらは大変重要な課題です。そして、同じ思いをする方を一人でも減らしていただきたい、これが何より重要であると感じております。
私自身は遺族団体の代表をしておりますので、まず、遺族の観点から伝えさせていただきます。
具体的には、自賠責制度における支援内容として、ひき逃げ等の被害への対応はされております。ですが、遺族への支援はこれまでほとんどなかったことにつきまして、被害者救済の情報や心のケアの支援の充実が必要であると感じております。
特に、遺族や遺児のための教育環境面のフォロー、交通事故の被害に遭った後、大人だけではなく、子供たちにもしっかりと心のケアが受けられるよう、環境整備が必要でございます。その一つとして、交通事故を経験した当事者が交通遺児、家族の家庭教師を担えるような仕組みができないかと考えております。
また、後遺障害が残る場合でございます。医療面につきましては、リハビリテーションの体制の充実が必要です。私も参加した検討会の委員には、約三十年もの長期にわたりまして遷延性意識障害の介護をされている方や、御自身に脊髄損傷が残り、必死にリハビリを経て検討委員会の委員として参加されている方、高次脳機能障害の家族の見守りサポートを約二十年続けられている方が参加しております。それぞれの障害に応じたリハビリテーションが受けられること、これが非常に重要です。
遷延性意識障害の場合は、療護センターやその機能を持つ委託病床があります。在院期間中はもちろんのこと、退院後も療護センターや委託病床のリハビリテーションを受けたいという場合には受けられるような環境になってもらえると、遷延性意識障害を持つ、介護をする家族にとっては安心できるのではないでしょうか。
そして、親なき後の介護についても急速な対応が必要でございます。
また、脊髄損傷や高次脳機能障害におきましては、昨年七月に、今後の被害者救済対策の在り方について取りまとめられました報告書で初めて、両者がリハビリテーションを受けられる環境整備に取り組むことが示されました。今後、急性期の病院を退院した後、一つの病院で比較的長期にわたって脊髄損傷からの社会復帰に向けたリハビリテーションを継続して受けられる病院探しや、高次脳機能障害の方の社会復帰に取り組む自立訓練施設探しなど、やっと探し始めたという段階でございます。これらの取組も充実をさせていっていただけたらと思います。
次に、福祉面についてでございます。
圧倒的にヘルパーの方の数が不足しております。特に、医療的なケアをできるヘルパーの不足は本当に深刻です。障害者が地域で生活を営むことができないという大変厳しい現状がございます。様々な障害に応じたスキルのあるヘルパーも少なく、質の面、量の面からも、ヘルパーの確保が早急に取り組んでいただきたい課題であると思っております。
加えまして、介護者が介護ができなくなったときの対応が非常に困難な現状があります。厚生労働省の施策として、入院、入所施設から地域生活への流れがあり、それについては納得をしております。これが、対応できる地域の受皿が足りていないと委員会で聞いてまいりました。地域の受皿の確保をするために、是非、皆さんに耳をかしていただき、取り組んでいただきたいと思います。
これまで全ての交通被害者や家族、遺族の話をしてまいりましたが、親なき後の介護が叫ばれている一方、ヤングケアラーの存在を知っていただきたいと思います。
個人的な話にはなりますが、義理の両親が死亡、弟妹は高次脳機能障害、第四腰椎脱臼骨折、事故後も何度もの手術をしてまいりました。病院に関しては二十三か所、それに伴い薬局が別に併設されております。この病院通いは今も続いています。家族の中で手が回らない、でも介護を頼めるほどでもない。そこで、当時四歳であった息子、今年ちょうど大学一年生となりましたが、裁判の期間中、刑事裁判、民事裁判合わせて、八年間、ずっと彼の人生を犠牲にしてきたことを親として情けなく感じております。お友達と遊びたかったと思います。宿題を犠牲にして御飯作りを優先してもらったときもありました。一番ひどかったのは、自殺をしないか見てくれと頼んだこともありました。
遺族になると、心も体も壊れます。障害を持つ家族がいれば、家族の犠牲は当然と思われるかもしれません。心を病んでいたり障害を持った家族がいれば、その家族を、介護で、家族で担わなくてはならない、社会に頼ることができない、これが今の社会の現状です。だからこそ、介護への問題は、高齢化だけではなく、若き社会の担い手にも、交通事故に遭った瞬間、誰もが苦しむ問題なんです。この私たちの家族は一例であり、本当に多くの方が遺族になり、当事者になり、声に出すことも戸惑う状況が続いております。被害者支援からこぼれ落ちている、これが社会の問題でございます。
このような課題のほかにも、ショートステイの課題、家庭崩壊、介護者のうつなど、課題は山積しております。これまで以上に被害者、遺族の声に寄り添った施策をしていただきたい。もし財源が厳しいなら歳出を抑制すればよいという声もお伺いします。これ以上、命が失われることを目の前で見たくはありません。課題はとても多いですが、国民一人一人に愛のある施策を今後期待したいと思っております。
事故防止においても、高齢ドライバーがハンドルを握らなくても安心して生活できる社会、現実、ドライブレコーダーの導入促進、飲酒運転の検知器の導入など、事故を未然に防ぐための対策をしっかりと講じていただくことが必要かと思います。
国土交通省やNASVAから出されております自動車アセスメントなどのしっかりとしたデータは、これまでの多くの事故を防いできた、命を守るデータであると私は思っております。事故防止の取組を自動車業界の方々に知っていただく機会をつくっていただくことが、安全な車社会の実現につながるのではないかと思っております。
さらに、ソフト面の対策として、子供たちへの交通安全教育も、加害者目線だけではなく、被害者目線に立った教育がされることが必要です。被害者目線を知っていただくことが、命の大切さや家族の大切さを考える心のケア、又は相手を思いやる教育につながるのではないかと思っております。また、グリーフケアという悲嘆のケアについても浸透していっていただけたらなと思っております。
交通事故は、誰もが被害者になり得ます。被害者支援の充実は、被害に遭ったそれぞれの被害者に対し、施策の中で、偏った支援ではなく、平等に講じていただくことが必要です。社会の誰もを救済できる受皿として、自賠責保険が被害者支援の要であっていただきたいのです。
このほかにも充実していただきたいことを挙げれば切りがないんですが、このような施策の充実に取り組むためには財源の裏づけが必要でございます。
検討会における議論でも、先ほど意見を述べられました藤田様のおっしゃるとおり、まずは一般会計からの繰戻しが今後もしっかりと継続して行われることが重要であると考えております。
一方で、それだけに頼る状況になることは、数十年先の未来、子供たちの未来を考えたとき、また、介護を今まさに受けている方にとり、大きな不安がございます。社会における財源の不安を早く払拭していただきたい、そのように考えております。
そのためには、手元に積立金がある程度ある今、賦課金制度を導入していただくことは必要であり、これをこれ以上後回しにはできない状況であると思います。
自動車そのものの安全性向上により、将来的に事故は更に減っていったとしても、これまでに事故の被害に遭った方も多く、将来にわたった継続した支援が必要になることが見込まれております。この観点からも、被害者支援、交通事故防止、これが永続的な仕組みの下で実施できる体制をすぐにでも確立していただく必要があると思っております。
一方で、賦課金導入は、自動車ユーザーの皆様の負担を求める取組であるため、自動車ユーザーの皆様の御理解をいただけることが重要であると考えております。そのために、国土交通省におきまして、自賠責のお金の使い道につきまして、自動車ユーザーに届くよう、私たち遺族や被害者が置かれた状況について、含めまして、広報をしっかりと行っていただくことが必要です。
皆さんにいま一度、御自宅の道路を通るときを想像していただきたいのです。日本の横断歩道の中で、どれだけの方が車を止めているでしょうか。現状は、手を挙げている子供を無視してまで横切る交通社会です。いま一度、車は凶器であること、道路には、年齢も様々で、障害を持つ方もいる。様々な方が使う道としての認識を、改めて自動車ユーザー一人一人が、自分自身のハンドルを持つ自覚として、他者への愛を考える、歩行者優先の道路であることを意識づける機会になっていただきたいと思います。海外では横断歩道で必ず止まる、このように日本でも必ず変えていきたいと思っております。
改めて広報の在り方について検討をしていただき、広報の充実を図っていただきたいと思いますし、広報の充実に際しましては、交通事故被害に遭われた方を救済する制度を早期に情報を届ける被害者ノートなども活用していただきながら、広報と被害者支援の必要性を同時に訴える形で知っていただけるようにするために、保険会社など様々な連携を図ることについて検討していただきたいと思います。
以上になります。
ありがとうございました。(拍手)
○福田弥夫参考人 よろしいでしょうか。
御紹介いただきました、自動車損害賠償保障制度を考える会の座長で、日本大学危機管理学部長の福田弥夫でございます。
この度の自賠法改正に関し、参考人として意見の陳述をさせていただく機会を与えてくださったことにお礼申し上げます。
参議院でもお話ししましたが、本日は、日本で唯一、財務大臣に、お金を返してくださいと言うことができる会の代表として衆議院にもお招きいただいたかと思います。
まず、我々の会は、法案賛成で一致しております。
初めに、平成二十二年に結成された考える会の若干の説明をさせていただきます。
民主党政権の事業仕分と埋蔵金発掘騒動の中で、交通安全特別会計がその対象となり、交通事故被害者救済事業が大きく後退するのではないかという危惧感から、交通事故被害者を守るために、当時の自賠責保険審議会委員を中心に結成されました。
資料の一と二を御覧いただきたいと思います。自動車総連や日本自動車会議所、そしてJAFなどのユーザー団体や、被害者団体の代表、学識経験者などがメンバーです。
平成二十九年からは、特別会計へ繰り戻されていない約六千億円の早期繰戻しを求めて、財務大臣、国土交通大臣などへ働きかけてまいりました。粘り強い活動の結果、平成三十年から繰戻しが実現し、昨年十二月には、大臣間合意で、向こう五年間の繰戻しが約束されております。しかし、元利合計で現在の残高が六千億円を超えており、将来にわたる被害者救済事業の継続実施への影響を心配しております。
私は、平成十一年から運輸省の自賠責保険制度の在り方を考える大臣懇談会、そして、平成十七年から十年間は自賠責保険審議会、現在は国土交通省の自動車損害賠償保障制度の在り方を考える検討会のメンバーを務め、自賠法の改正に、二十三年、関係しております。
今回の改正は、平成十三年の改正において積み残しあるいは将来の課題とされた点への対応でございます。
簡単に平成十三年改正について御説明いたします。
平成十三年改正前の自賠責保険は、国が六割の再保険を引き受ける形になっておりました。このような仕組みとしたのは、昭和三十年に自賠責保険が創設された当時は、日本の損害保険会社の財政的基盤が十分ではなく、リスクヘッジ及び被害者保護の観点からです。長い間、保険料の六割を国が預かり、保険金の支払いに際しても、その六割を国が払うという形で運用されてきました。四割は民間の保険会社です。
保険は、保険料が入ってきても、それがすぐに保険金としては出ていきません。その間のタイムラグによって、資金運用による運用益が発生します。もっとも、ノーロス・ノープロフィットの原則の下に運用されており、損害率の検証によって、定期的な保険料の見直しが行われております。
平成十三年当時、運用利回りが好調であったところから、特別会計へ約二兆円の運用益が滞留しておりました。また、損害保険会社の財政的基盤も昭和三十年当時とは比べ物にならないほど強固となり、再保険制度を維持する必要性が減少したため、平成十三年の改正で再保険制度を廃止することになりました。
その際、この運用益をどう処理するかが大きな課題となりましたが、最終的に、二兆円を二十分の十一と二十分の九、すなわち、一兆一千億円と九千億円に切り分け、一兆一千億円はユーザー還元を目的として自賠責保険料への充当を行い、残りの九千億円を運用して被害者救済事業に充てることになりました。
当時の試算では、約九千億円を運用すれば被害者救済事業に必要な資金は確保できると考えられました。一般会計への貸出しの元本残高は約六千三百億円でしたが、平成八年以降、毎年ではないのですが順調に繰り戻されており、短期間で全額繰り戻されるであろうと、心配もしておりませんでした。
ところが、平成十五年の五百八億円を最後に、我々が働きかけを行った平成三十年まで繰戻しはストップしてしまい、運用によって賄うはずであった被害者救済事業のための原資は切り崩されてまいりました。
今回の改正で導入される予定の賦課金については、再保険制度を廃止した平成十三年改正に際しての衆議院及び参議院の附帯決議において、社会経済情勢の推移等を踏まえ、施行後五年以内の賦課金導入の可能性の検討と示されております。あれから二十年が経過し、この賦課金を選択する必要が生じたための今回の改正であります。
自賠責保険について簡単に御説明いたします。
この保険は、交通事故の加害者の賠償資力を確保することを目的として昭和三十年に制定された強制保険です。
戦後の経済成長に伴い、モータリゼーションが進むに比例して、交通事故件数は増加し、死者数も増加しました。ところが、自動車保険への加入は任意であったために、加害者が保険に加入していないために十分な賠償能力がなく、泣き寝入りをせざるを得ない被害者が続出して、大きな社会問題となりました。それを解決する手段として、強制保険としての自賠責保険が導入され、被害者に対する基本的な保障を提供することになりました。なお、スタートしたときの保険金の上限は、死亡で三十万円です。
その後の日本の経済発展とモータリゼーションの発展は先生方御存じのことで、日本の経済成長を牽引する産業の一つとして、自動車産業は日本が世界をリードする基幹産業へと大きく成長しました。自動車台数の増加とともに、不可避的に交通事故は発生します。そのため、ある意味で、交通事故の被害者は国の政策の犠牲者ともいうべき存在です。
ところで、自賠責保険が誕生した頃は、歩行者が被害者というのが中心でした。しかし、車対車の事故が増加し、乗車中に死亡する被害者が増加してきました。いわば走る凶器型の事故から走る棺おけ型の事故への変容です。ここで、自動車ユーザーは、加害者にも被害者にもなるという位置に立つことになります。
このことが、自動車ユーザーが負担する自賠責保険料を被害者救済事業にも利用することが許される理由です。
自賠責保険は、単に加害者に対する賠償資力の確保だけではなく、被害者救済事業とセットになった、自動車ユーザーによるいわば自助、共助の仕組みだということです。自賠責保険と被害者救済事業は表裏の関係に立ち、このような自動車保険制度は比較法的に見ても例がなく、世界に誇ることのできる交通事故被害者救済のための制度であります。
積立金を活用して実施されている自動車事故対策事業は、安定した運用益が確保され始めた昭和四十二年からスタートし、昭和四十八年に、自動車事故対策センター、現在の自動車事故対策機構が設置されてから本格化します。現在の被害者救済対策事業の柱は、重度後遺障害者への支援事業であり、療護施設の設置、運営、介護料の支給、訪問支援などが実施されています。
私は、今後の自動車事故被害者救済対策のあり方に関する検討会の座長を務めましたが、これは、当時の赤羽国土交通大臣の被害者救済に寄せる強い思いによって設けられました。これまでの対策は、最重度の後遺障害である遷延性意識障害に遭われた方を中心としておりましたが、社会保障制度の変化や介護者の高齢化等を踏まえた、きめの細かい被害者救済対策の在り方について検討を加えました。
報告書の概要は、一、療護施設の充実、二、リハビリ機会の確保、三、介護者となる家族の高齢化の進展等により介護が困難になった後、いわゆる介護者なき後への備え、四、事故後の支援、五、今後留意すべき事項から成ります。その中でも、私は、介護者なき後への備えが特に最優先課題ではないかと考えております。
今回の改正は、被害者救済にとって大きな進歩です。それは、賦課金の導入により、これまでは附則として、いわば限りのある積立金を原資として、当分の間、実施するものとされていた被害者救済事業を、本則によって、恒久的に実施することとなり、この制度の安定的かつ継続的な維持が可能となるからです。
なお、賦課金導入によって安定的な財源は確保することができますが、五点ほど指摘させていただきます。
まず、繰戻しの問題です。
先ほど藤田先生も小沢さんも御指摘のとおり、一般会計へ繰り入れられていて、いまだ繰り戻されていない約六千億円は、自動車ユーザーが自助、共助のために支払った自賠責保険料が原資であって、税金ではございません。この法改正の当然の前提として、繰戻しの継続及び早期の返済があると考えております。
次に、被害者救済事業の効果検証の必要性です。
被害者救済レベルを下げることは決してあってはなりませんが、医療技術などの進歩によって新たな施策が必要となる一方、必要性や効果の乏しいものも出現することが予想されます。必要性や効果を定期的に検証する仕組みは必要だと考えます。事故件数や死者数は減少していますが、支援を必要とする重度後遺障害者は必ずしも減少しておらず、脊髄損傷、高次脳機能障害、あるいは被害者の遺族など、この制度による支援が必要な方はいまだに増加しております。
三番目は、賦課金導入に際しては、新たな負担を自動車ユーザーに求めるわけですから、中間とりまとめにも記載があるとおり、負担者である自動車ユーザーの納得感が得られるようにすべきであることは言うまでもなく、自動車ユーザーへの丁寧な説明と広報などによる理解を得る活動が必要だと考えます。
四番目として、繰戻し額とも連動しますが、賦課金のレベルは、自動車ユーザーに負担感を余り与えることがないレベルであるべきだと考えます。
五番目として、今回の法改正は令和五年四月一日からの施行となりますが、実際の賦課金額等については、引き続き国土交通省において開催される検討会において議論されることが予定されており、そこで慎重な議論がされることを望むとともに、三点目にお話ししたとおり、負担者となる自動車ユーザーの納得感、理解を得ることが、本制度を真に維持していくには必要だと思います。
最後に、私と一緒にこの会を立ち上げた桑山雄次さんを紹介いたします。
桑山さんは、交通事故に遭われた遷延性意識障害の息子さんを二十五年以上も自宅で介護されています。高校教師の職も、介護のために辞めました。桑山さんの最大の心配は、介護者なき後の問題です。これはなかなか結論が出ない問題ですが、そう言っているうちにも時間は経過し、状況は悪化していきます。
先ほど申し上げましたように、交通事故の被害者は、国の経済的繁栄の犠牲者とも言えます。一刻も早い対応が必要です。時間は余り残されてはいません。
以上をもちまして、私の意見陳述とさせていただきます。
ありがとうございました。(拍手)
○高橋(千)委員 日本共産党の高橋千鶴子です。
本日は、三人の参考人の皆さん、本当に、御出席いただきまして、また、貴重な御意見をいただきました。ありがとうございます。
この法案は参議院先議でございますので、参議院で我が党が反対をしたのはもう既に御承知だと思います。
ですが、今まで皆さんがお話しされてきたことに異を唱えているわけでは全くなくて、方向性は一緒だと思います、共有しているものだと思います。
やはり自動車ユーザーが加害者にも被害者にもなり得るということ、その責任を必ず果たすために国がこれを義務づけている自賠責の中で被害者対策また事故防止対策をきちっとやっていくために、制度的に安定したものにしていくこと、財政的にも安定したものにしていくことという点では、本当に必要な措置だと思っております。
ただ、国に対して、このままのペースで繰戻しをしていけば百年かかるわけですから、それをよしとはしないのだ、やはり約束は早く守るべきだという立場で異を唱える人がいなければいけないという形で反対をしたものでございますので、前を向いて一緒に頑張っていきたいということでお話をしたいと思います。
最初に、小沢参考人に伺いたいと思うんですが、本当に、先ほど息子さんのお話も、何とも胸が詰まる思いをして聞いておりました。壮絶な経験をされながら、被害者支援と普及啓発活動に取り組んでいるということ、本当に大変な思いをされていると思います。心から敬意を表します。
また、同じ経験を持つ方がアドバイスをするということは大変意義あることだと思うんですけれども、先ほども御答弁の中にありましたように、相談の電話が夜中がほとんどであるということで、実は、行政が昼間で終わっちゃうこともあって、そのかなりの部分を、小沢さんを始め被害者の会の方たちが担っているということでありました。
なので、思うことは、それ自体は本当に大事なんだけれども、ただ、やはりもっと行政に担えることがあるんじゃないのかということを思うんですけれども、いかがでしょうか。
○小沢樹里参考人 ありがとうございます。
夜間の支援についてでございますが、本当に先生がおっしゃるとおり、行政の支援の拡充というのは必要であると思っています。
例えば、分かりやすく言うと、市役所が、一番最初は五時まででございました。ところが、とある段階から、火曜日だけ七時にやりますよとか、土日の午前中だけ開庁しますといったときに、大変多くの方が助かったというのは多くの方が存じ上げていると思います。これが被害者支援にも当てはまるのではないかなと思っております。
例えば、性犯罪でいうと、二十四時間、早急な対応が必要でございますから、例えば埼玉県でいうと、アイリスホットラインというところは二十四時間で相談体制を行っております。これは、各都道府県、ほとんど今二十四時間体制にしていこうというような体制が組まれていると私は考えておりますし、聞いております。
ところが、やはりこの相談業務という中で、ほかの、他罪種の方に関しては、まだまだそこの緊急性が乏しいというようにも感じておりますが、実際に、今、目の前でうちの主人が死にそうだ、なぜかというと、余りにも悲嘆して、自殺を図りたいといったとき、これは緊急対応でございますから、本来であれば、しっかりとした対応ができればいいなと思います。
このようなことから、もしかしたらNASVAさんの負担になるかもしれませんが、例えばNASVAさんであっても、週一回、又は土日のどちらかの午前中だけでも、午後だけでもいいですから、そのような開催、又は、市区町村の各条例がございます、この条例を基本とした犯罪被害者支援窓口、この窓口が、ただ単に次のところに支援をするというだけではなくて、ここに相談ができますよというだけではなくて、専門家とまではいきませんが、傾聴するという状況をつくれないかというのが私の考えです。
実際に、多くの遺族団体は、私も含めてですけれども、ゼロ円で、ボランティアで支援をしています。はっきり言って、御飯をこうやって作りながら聞くときもあります。本当に、塾の送り迎えが遅れたときも、塾の送り迎えができないときも、御飯を待ってくれというときもたくさんありました。でも、私たちの家族は、命の大切さを十分分かっているから、それぞれどうにかしようと思います。
これは、私の家族だけではなくて、多くの家族がこの現状を知っていただければ、ああ、やはり必要だよね、本当に困ったときに相談ができるというのは必要だよねと思ってくださると思うので、そこは多くの方に知っていただいて、どうかその支援の拡充に対応していただければなと思います。
私からは以上でございます。
○高橋(千)委員 ありがとうございました。
先ほど三か月間で、五千五百分というお話をされていましたけれども、本当に大変なことだと思います。命のダイヤルもつながらない。つまり、かけたいということは、そういうせっぱ詰まった状態になっている方が、何度かけてもつながらないんだというので電話をもらったりしたことがあります。
そういう意味でも、本当に日常の家事をやる中でも応えてくださっている皆さんの活動に、しっかりと行政がそれを理解して応えていくような仕組みを早急につくっていく必要があるのではないか、このように思っております。
貴重な御意見をありがとうございました。
次に、藤田参考人と福田参考人にそれぞれ伺いたいと思います。
平成六年の大臣合意は、平成十二年度までに一般会計から自賠特会に繰り戻す予定でありました。その後、五回の大臣合意によって期限が先送りされてきましたけれども、この繰戻しが予定どおり進まなかったためにできなかった事業というのはあるんでしょうか。
例えば、昨年七月の、今後の自動車事故被害者救済対策のあり方に関する検討会の報告書では、現状課題として、療育施設への入院待ちをしている待機患者の最少化という論点がまずありますよね。
こういう形でもう少し前倒しに進んでいるはずだったのになみたいな問題意識がもしありましたら、伺いたいと思います。
○藤田友敬参考人 現在、足りない施策が幾つかあることは否めないところだと思います。今現在、百数十億円で施策を実施しておりますけれども、我々としては、二百億円規模ぐらいのものでやることが必要だと考えております。
ただ、因果関係として、繰戻しが進まなかったから、積立金の減少を抑えるために非常に節約して、やれるものがやれなかったということなのかどうかということについては、必ずしも因果関係があるというふうには私は認識してはおりませんけれども、ただ、このままの状態ですともう十年でゼロになってしまいますし、そうなると更に削減しなきゃいけないので、今言われた御懸念というのは、このままの状態が続くと本当に実現してしまうということになるかと思います。
したがって、安定的な財源を一刻も早く確保することで、そういうことに至らないようになればというふうには思っております。
現在まで非常にこの繰戻しが進まなかったことによって決定的なダメージをどこまで受けたかということについては、必ずしも決定的に深刻とまでは捉えておりませんけれども、ただ、将来的には、何も手を打たないと大変なことになるというふうには認識しております。
以上です。
○福田弥夫参考人 ありがとうございます。
私も藤田参考人と同じで、繰戻しが遅れたために実施ができなかったという事業は恐らくないのだと思います。
ただ、何がダメージだったかといいますと、どんどんどんどん切り崩していったということです。必要な範囲でこの積立金を取り崩していきましたが、これが返ってきたことによって、一部、繰戻しが成ったことによって切り崩しの額は減っていますが、やはりかなりの額がもう減ってきてしまっている、これが大きな問題だったというふうに考えております。
以上でございます。
○高橋(千)委員 引き続きお二人に伺いたいと思うんですが、本法案の土台となる自動車事故対策勘定のあり方に関する検討会中間とりまとめにおきまして、被害者支援、事故防止対策を更に充実させつつ、維持していくべきということ、財源が厳しいのであれば縮小、廃止しても構わないという発想は、もちろん、委員会の中に誰もなかったというお答えだったと思います。それはそのとおりだと思うんですね。私も全く共有するものであります。
それで、そもそも、この繰戻しの議論が起こったきっかけといいましょうか、出だしは、政府による再保険制度が廃止して、その分配をして、積立金が云々という話だったわけですけれども、これは本体の話だからとおっしゃるかもしれませんけれども、自賠責保険そのものですよね。やはり再保険の考え方というのは、仮に六割政府が保障するということを変えたとしても、何らかの形で、国が義務づけている以上、国が責任を持つという仕組みは残しておいたらよかったのではないか。その中で、今回の別途の被害者対策と事故防止対策というのもきちっと位置づけていくというような制度設計を考えはできないものなのかと思っておりますが、いかがでしょうか。
○藤田友敬参考人 平成十三年の段階にまで遡って、今、その段階でゼロベースで議論すれば、いろいろな議論は可能だったのかもしれません。
ただ、今現在、既にその平成十三年の政策を前提に、再保険の廃止に伴う資金を元に一定の事業を続けてきた実績があって、それを承継させるためどういう方法が適切かという形で議論を立てざるを得ないのではないかと思います。
その結果が今回の中間とりまとめなんですけれども、いろいろ、ゼロベースの議論というのは、思考実験として、また、あるべき制度を考える上では有益ではありますが、今の法案との関係では、やはり対案として議論できるようなものではないというふうに考えております。
以上です。
○福田弥夫参考人 御質問ありがとうございます。
平成十三年当時、私は委員をやっていましたので、今思い出していますけれども、完全な再保険制度の廃止という議論のほかに、六、四を、八、二、もう少し民間の方を増やしたらどうかとか、そういう議論はありました。ただし、規制緩和等の関係から、できるだけ、政府がこういうことを維持していくというのはやはり好ましくないということで、完全な再保険制度の廃止になりました。
それに伴って、新しく、当時は保険金を払うときに運輸省の方で内容のチェックをかけていたんです。そうすると、過少払いとかが出てきます、当然。保険会社が支払ってきたものを全部、再保険の保険金を支払うわけですから、そのときにチェックする。だから、いわゆる事前チェックが行われていました。
ところが、再保険制度がなくなりましたので、事後チェックになりました。それでできたのが自賠責保険紛争処理機構になります。自賠責保険・共済紛争処理機構というんですけれども、これが事後のチェック、保険金をもらった人から、あるいは、こういう形だということを受けた人がそこへ申請して、これで正しいのかどうか、あるいは、いわゆる過失割合の問題はこれでいいのかどうかとか、そういうことを事後にチェックする制度というふうに、それが再保険の制度の廃止とともに設けられておりました。
以上でございます。
○高橋(千)委員 規制緩和の流れの中で、私どもは、この再保険の廃止に対して反対をいたしました。
今、藤田参考人がおっしゃったように、まるで振出しに戻した議論をしようという議論をしているのではないんです。福田参考人がおっしゃってくださったように、事後チェックの仕組みがあるんだからと。ただ、その事後チェックの仕組みなんだけれども、保険会社から払われていないという人をたくさん知っていますので、今の制度そのものに非常に問題がある、自賠責本体が本来の役割を果たしているのかということは議論していく必要があると思っております。今日は、もうそのことはお話ししませんけれども。
ただ、やはり労働保険特会なんかも似たようなところがあって、非常に額が余っているから、もう国の繰入れをしなくていいんじゃないかという議論をずっと重ねてきたんです。だけれども、やはり国の繰入れというのは、安定的に確保するために、何かがあったときのために必要だということで維持をしてきて、今、コロナ禍で猛烈に特会が枯渇するという議論になっていて、やはり国の役割は必要だよねという議論になっている。
なので、そういう形で、私は、繰入れのような何らかの仕組みが必要じゃないかと思っているんです。ただ、それ以前に繰戻しがされていないものだから、そこに議論に至らないということがあって、繰戻しをまず確実にさせていくということが必要なのかなということで思っているということであります。
ちょっと時間がなくなって残念ですけれども、ありがとうございました。